表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
たわだん!~タワーディフェンスとダンジョントラベルの懲りない日常~  作者: 大竹雅樹
休憩地点 ダンジョントラベラーはつらいよ
163/177

Rank "D" traveller.s ~同期の中の懲りない面々~

            ウボァー


    【黒木勇斗語録・FINAL FANTASY2 皇帝】

 冒険者という知力・武力・暴力を売り物にする漠然とした存在。

 不定期収入で地に足の着かない職で実質的にはフリーランス。

 花摘みから殺しまでなんでも請け負うとことんヤクザな商売で、

 一見すると底辺職業の極みなんだけど実は意外に芯が通ってる。


 彼らが活躍できるのは全て冒険者ギルドという後ろ盾のおかげ。

 魔物退治・資源採取・未開地探索・遺跡調査などなど。

 それらの仲介媒介、依頼に後始末の九割を冒険者ギルドが担ってる。

 冒険者は国営大企業の人足であり、派遣員であり、アシスタント。

 ギルドという太いパイプのおかげで有象無象の彼らは信用を得ている。

 逆を言えば冒険者ギルドへの所属なしに冒険家業はやっていけない。

 モグリの冒険者の行き着く先はヒャッハーと相場が決まっているから。


 そんな冒険者家業も平和な時代のせいか斜陽産業化が進んでる。

 魔王死して勇者が煮られて、続いて冒険者もリストラと引退ラッシュ。

 そもそも冒険者になるしか生き残る道がなかった戦乱期とは違って、

 戦後の復興事業も進んでようやく産業も戦前の勢いを取り戻した今は

 地に足の着いた一般職のほうが安定した収入を得られるわけで。


 戦士職は土木作業や肉体労働へ。知識階層の魔法職は坊主や学者に。

 戦時の実績を認められて軍属に入る人も多く、そっちの道のが安泰。

 冒険者は実績作りのためのステップとよばれるのはそういうこと。

 生涯冒険者一辺倒の生活でやっていけるケースはまずありえない。


 なんやかんやで実家のビール屋を継いだおにぎりにーちゃんしかり、

 引退後に冒険者ギルド直営酒場のママになったリップルさんしかり、

 全体のほんの一割の成功例といわれる彼らでさえ冒険者を休業して、

 どこにでもいる社会人として暮らしてるのが世の現実なのである。


 とはいえ冒険者ギルドは戦後処理をやりすぎた。

 魔王が去ってクエスト発注数が激減したという名目があったとはいえ、

 戦時中に大量生産した有象無象冒険者を大量リストラしたひずみは、

 ボディブローのごとく三年殺しでじわじわと業界内の衰弱を招いた。


 特にマズかったのは冒険者のイメージダウン。

 うだつのあがらない下層冒険者の排除だけで済めばよかったんだけど、

 同時期にABランク上位層の一挙引退が重なったのがよくなかった。

 仕事を失った冒険者のヒャッハー化という社会問題が最後のトドメ。


 冒険者は儲からない。用済みになれば首を切られて放逐される。

 命懸けで仕事をしても割に合わないし、魔王という一攫千金も消えた。

 そんなブラックなイメージが張り付いて新人が入ってくるわけもなく。

 残っている古参冒険者も八年で高齢化が進んで二次引退ラッシュ危機。


 やっとこ危機感を感じた冒険者ギルドは二年くらい前から新人冒険者の

 発掘のために保険加入やらクエストの優先などのサービス強化を始め、

 新世代冒険者の育成に力を入れるようになったんだけど……


 ただ腕っ節に自身があれば冒険者になれるというわけでなく。

 ただ冒険すれば冒険者というわけでもないのが世間の難しさ。

 冒険者のロマンに夢を見て訓練所の門を叩く少年少女はいるけれど、

 そこからいっぱしの冒険者ルーキーとしてデビューできるのは僅か。


 特にここ最近の王都の冒険者訓練所は騎士団なみに訓練が厳しい。

 鬼教官のおにぎりにーちゃんが新人育成を担当するようになったからね。

 冒険者はいつだって命懸け。半端な実力でデビューして餌食になるよりも、

 訓練生の段階で身の程を教えて一般人に引き戻してやるのが情けの理論。

 おかげでこの数年はデビュー初年度の新人の死亡率が極端に減った。


 ここ最近の第二世代の成功者を挙げるならイカルさんのパーティーかな?

 あの人もおにぎりにーちゃん門下の第一期訓練生だったはず。

 イカルさんたちの成功で昨年から冒険者を目指す若者も急増中らしい。

 んで、私たちが冒険者を目指したときは落ち目の落ち目だった時代。

 訓練場の門を叩いた候補生の数も過去最低だったと記憶してる。

 そのとき無事に試練を乗り越えてデビューした第三期生は12人。


 結果として第三期生で大成功している冒険者はまだいないけど。

 同期のみんなが初年度に死ぬこともなく無難にやっていけているあたり、

 それなりに成果は出しているんじゃないかなって自分は思ってる。 

 私たち『おにぎり門下』の第三期生が冒険者デビューして約二年。

 卒業生12名の半数が、いまここ迷姫王ミルのダンジョンに集まった。


「さっきイカルさん経由でリップルさんからのことづてを聞いたんだけど、

 みんないつからこのフォートリアに来てたの?」


「飛空艇の急行で昨日の朝かな。ラジオの収録クエストがあってさ」


 同期の一人目は私の幼馴染のマウスくん。

 このマウスリバー探検隊のリーダーで最近じゃ珍しい勇者をやっている。

 はずなんだけど、リップルさんの話だと廃業して探検家になったらしい。

 ユートおにいちゃんに憧れて、私以上に勇者キチだった彼がである。

 いったいどんな心境の変化だろう。サラちゃんにでもフラれたのかな?


 でもクラス適正的にいいことだと思うよ。

 こんなこというのもなんだけどマウスくんって勇者ってガラじゃないし。

 実際、向いてもいない勇者やってたときよりオーラが生き生きしている。


「ラジオ収録?」


「フォートリアで新設された新チャンネルがあってね。そこで新米冒険者向け

 番組を放送してるんだけど、そこのゲストにわたしたちが抜擢されたのよ。

 来週のお昼に放送開始されるから気が向いたらもりそばも聞いてね」


 と、隠しもしないダイレクトマーケティングをするのは魔法使いのサラ。

 マウスくんとは同郷でリップルさんとは従姉妹同士の関係。

 さすがはリップルさんの従妹だけあって魔法使いの才能はピカイチ。

 特に火属性魔法の腕前に関しては訓練場時代から飛びぬけてた。

 その影響かカッカしやすい瞬間湯沸し機みたいな気性難が問題だけど。


「アンタの近況はリップルさんから聞いているよ。魔王に遭ったんだって?

 よくもまぁ生還できたもんだよ。命拾いしたその体、ちっとは大事にしな」

 

「あいたたたたたたたっ」


 病み上がりは無理すんなと言いつつ強く背中を叩く女ドワーフのガンナ。

 私たち同期のおっかさん的な存在だった彼女は、二年経ってもオカン気質。

 ドワーフ界隈ではそこそこ知られた鍛冶屋の娘らしくて、その出自からか、

 地元では竈神として強く信仰されている火竜神のプリーストをやっている。


「やっぱ真の勇者様はちげーよなー。おいらだったら逃げ出してるわ。

 つぅか、おいらたちが挑戦したダンジョンにそんなやべーのがいたなんて

 今更ながらにゾッとするぜ。浅い層の探索だけで本当によかったよ」


 五人目は小人族リトルフットのチックピック。盗賊系を担当。

 この子は前からずっとこの調子だね。チキンで臆病ですこぶる現実的。

 だけど冒険者家業ではそういう性格の人間が一人はいないといけない。

 血気盛んなメンツばかりのこのパーティーで彼みたいなのは重要なのだ。

 今後、ダンジョン攻略において彼の重要度はさらに跳ね上がるはず。

 トラップ解除に宝箱の開錠とシーフ職はあそこでやること満載だから。


「おにぎりにーちゃん門下の三期生そろいぶみだね」


 あの鬼教官が叩いて叩いて伸ばして潰して磨いて研いだ精鋭たち。

 若手ではあるけどそんじょそこらの冒険者とはわけがちがう。

 勇者・探検家・僧侶・盗賊・魔法使い。

 この5人構成で私たちは迷姫王ミルのダンジョンに挑む!

 そして攻略に攻略を重ねていつかは……


「それじゃあ今後についてどっかでみんなとおはなししたいんだけど」


「それだったら昨日、いい大衆酒場見つけたんだ」

「ああ、アシスタントの子がバイトやっているっていうあそこね」


 さすがマウスくん。

 ほとんど死に設定になってるけど『はやてのマウス』はダテじゃない。


「アシスタントの子?」

「うん、ミルちゃんていってね。すっごくいい子なんだ」

「もりそばとはウマがあいそうなキャラしてたわよね」


 ふーん。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ