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たわだん!~タワーディフェンスとダンジョントラベルの懲りない日常~  作者: 大竹雅樹
休憩地点 ダンジョントラベラーはつらいよ
162/177

Rank "D" traveller.s ~集会場の中の懲りない面々~

      俺、クラウドにはなりきれませんでした


    【黒木勇斗語録・FINAL FANTASY7 クラウド】

 私、聖竜騎士見習い『もりそば』は想う。

 冒険者の一年なんて、乙女の青春なんて「あっ」という間だ──と。


 ときは終竜の月。師匠が走るくらい忙しい師走の月。つまり年度末。

 冬もいよいよ本格化。火精霊の恩恵が強い南方は比較的おだやかだけど、

 それでも露出過多の女性冒険者が肌寒さに震える程度には冷え込む季節。


 北方にある聖竜神派の聖地『ホーリーレイク』は早々に雪化粧に彩られ、

 大陸中央部の王都も先週に初雪が観測。冒険者も市民も冬支度に奔走中。

 気の早いとこだと年末に行われる各宗派の『降誕祭』『聖誕祭』『聖夜』

 といった年末に神々に一年の加護を感謝する祝祭の準備が始まっていて、

 それが終われば翌週には始竜の月。正月の五が日がやってくる。


 ここフォートリアは八大神の一柱を国教にする獣人とエルフの独立都市。

 神様への感謝を忘れず、こちらもこの時期には森竜神を祝う祭り開催中。

 遠くから見えるシンボルの聖天樹にはイルミネーションが飾り付けられ、

 とりあえず酒が飲めるなら理由なんて後付けOKな某のんだくれ大統領の

 政策で、年末感謝祭は今年も大々的に国威発揚の大スケールで大賑わい。


 あたりはテンションの高い獣人たちが飲めや唄えの大騒ぎ。

 中央通りにならぶ御当地名産の屋台群。朝から騒がしい酒場に料理屋。

 どこでもそうだけど、この時期は一年の締めくくりのために全力で遊ぶ。

 といっても、ここまで賑やかになったのはこの数年の話。

 終戦直後はどこも戦乱の後始末と復興でお祭りどころじゃなかったし。

 やっても慎ましやかなもので、ここまで国を挙げての祭りは最近から。

 七大魔王との対戦から八年が経過して、やっと世界は癒え始めた。


「あー、しまった」


 平和を取り戻した時代にジンワリと訪れる世界の転換期。


「教皇様からコミック・ハーヴェスト冬の陣の売り子頼まれてたんだ」


 ダンジョンに想うところは山とあるけど来週には里帰りを考えないと。

 真冬がマンボのものよの気合で異世界マンガのコスプレやりたいし。

 カタログチェックはすでに済ませて大手の狙いも絞ってある。

 ここまでやっておいて行けないは許されない。正義の心に反します!

 うん、やっぱりお祭りはいい。浮世を忘れて無性に元気になれる。


 つい十年前まで誰が想像しただろう。

 七大魔王に対抗して異世界から招かれた四人の異邦人がもたらした知恵で、

 むこうの文化がこちらでもそれなりに楽しめるようになるなんて。

 お堅い神都で同人誌が普通に読めるようになるなんて、時代は変わったね。

 もちろん『えっちなほん』は摘発対称なので御法度だけど。

 これまでマンガとか小説なんて文化人は嫌悪して見向きもしなかったのに。


 あと中流階級や冒険者の間で何故かリューチューブが流行りだしました。

 ほんと最近リューチューバー増えたなー。通信技術革新のたまものだよ。

 これまでは貴族か魔術師のためのコンテンツっていわれてたのにね。


 食べ物に関してもそう、きわものゲテモノ扱いだった異世界飯も大流行。

 大陸文化向けにローカライズされすぎて原型止めてない異世界飯ではなく、

 きわめて向こうの食文化に近いオリジナルの異世界飯が妙に大ヒット。

 これまで一部のマニアの異世界飯が普通に屋台にならぶようになった。

 そんだけ戦乱に疲れた大陸人は新しい娯楽に飢えていたわけだ。


 まぁ、だいたいどれもこれもエストおねーちゃんのせいなんだけど。

 時代は変わり始めた。娯楽を中心に文化レベルが急激に伸びつつある。

 国が復興のために新しい技術や文化を積極的に取り入れる姿勢もあり、

 これまでよりも異世界とセーヌリアスの境目が緩くなった感じがする。

 それだけ戦争の傷が癒えて平和になったということなのかもしれない。


「…………平和かぁ」


 じゃあ今のコレはなんなのか。


 フォートリアの市街地から『迷いの森行き』の馬車で揺られて少し、

 大昔からフォートリアの観光名所のひとつとして知られているここ、

 【月食の森】のド真ん中に『テーセウスの集会場』が存在している。

 冒険者の冒険準備拠点として設けられたこの小規模な市街地。

 大きさこそウチの村と同じくらいだけど施設の充実ぶりは桁違い。

 武器屋に防具屋に道具屋とよりどりみどり。ないのは宿泊施設だけ。

 冒険者ギルド直営酒場を中心に冒険に不可欠な施設が全て揃ってる。


 すごく昔、この月食の森には迷宮王ミノスの大迷宮があったらしい。

 七つの国を相手取って一人の大魔王が知恵比べ腕比べをした戦場の地。

 大魔王が用意した大迷宮を攻略するために大陸全土から集まる冒険者。

 その戦いは勇者テーセウスが登場するまで半世紀近く行われたという。

 この話は視力が少なくて私はあまり詳しくないから細かくは省くけど。

 ダンジョンという概念と冒険者のシステムはこのときに完成した。


 そんな伝説に語られるだけの千年前の戦いが再燃しようとしている。

 迷宮王ミノスの系譜を受け継ぐ迷姫王ミルの登場。

 つい数日前に魔王軍から大々的な宣戦布告が冒険者ギルドに通達。

 同時期、迷いの森の各地に未発見の遺跡が登場し関係者を驚かせた。


 いまはまだ攻略可能なのはギルドから【初心者の森】と名づけられた、 

 私たち第一次~第四次探索隊が潜入した最初のダンジョンのみだけど、

 これから少しずつ新しいダンジョンが解放されて冒険者を招き入れ、

 徐々に攻略難度を上げていくだろうということは簡単に予想が付く。


 ラストダンジョンにいるのは新しい魔王とその側近たち。

 特に問題なのは魔王よりも側近のほう。


 迷姫王ミルの守る闇の騎士。

 その名もダークナイト。←(だせぇ)

 正体は七大魔王の一角【邪竜王】としとめた異世界人の聖竜騎士。

 八年の歳月を経て伝説の勇者は魔王の手のものとなって牙をむいた。

 そして私は何も知らずに彼に挑みかかって。

 ボロクソに負けた。 


 このへんのおはなしを──


「それにしたってひっどいツラだなぁ」

「年頃の女の子が青タンと生傷と火傷で台無しね」

「つーか、その身体でよく普通に歩けるなオイ」

「あいかわらずのバケモノで安心したよ」

「………………」


「えへへ♪」


 私は王都の冒険者訓練場で出会った同期のみんなと語り合おうと思う。

第一部完結からの新章開始です。

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