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To Be Continued" Next Fantasia " ~胎動6~

   Sometimes there are things no one can fix.

         救えない。そういうこともあるのよ。


     【黒木勇斗語録・スターウォーズEP2 パドメ】

「第三次探索隊を対象としたテストは全滅後の救済措置の稼動確認でした」


「予定じゃあボス戦の次の部屋で負けイベやるつもりだったんだよね」


「あいつらがまったく想定外ルート選んでニートさんが出張ったけど」


 相手は平均25レベルでグラップラー・プリーストの基本職に、

 ソードマスターとハイウイザードの上級職を連れた4人パーティー。

 彼らはCランクの一人前冒険者。さすがに探索もこなれていた。

 ボス戦までも順調で、ボス部屋でもそこそこの敵を用意したのに快勝。


 そこで油断したところで大枚はたいて用意した真のボスを派遣する予定

 だったんだけど、まさかこいつらマップ埋め切ってないから戻ろうとか

 言い出して探索続行するとは、このリハクの目をもってしても以下略。


 気持ちは分かるよ気持ちは。

 マップに空白マスや未踏破ルートあると埋めたくなるもの。

 なるべく詳細な地図を作ったほうが探索クエストの報酬も増えるし。

 ルートを埋めないままゴールしたら強制イベントで強制排出も厄介。

 それでアイテム取りこぼし再突入不可とかになると目も当てられない。

 

 それでただ単にマップ埋めるだけならよかったんだけど。

 さすがβ版のテストプレイだけあってダンジョンのバグも多いこと。

 まさか停止させていたワープ装置が誤作動するとは予想外。

 そこに新たな道があれば、ついつい探索しちゃうのが冒険者。


 ただし好奇心はネコを殺す。

 まだ開発途中のフロアを掻き回されてはこちらも困る。

 そんで急遽、ボクが謎のエネミーとして駆除に乗り出すことになった。

 実際は最終テストの第四次探索隊でやるつもりだったのにもう。


「おかげで予定よりも良いデーターが取れました」


「個人的には真の敵のチラ見せ演出はラストにしたかったなぁ」


「もりそばちゃんの件も加えて前倒ししまくりね。結果オーライだけど」


 それはそれで宣伝になったけどこちらの情報を無闇に出しすぎだよ。

 もうちょい底の知れなさを演出したほうがワクワク感あるのになぁ。

 気分の問題と言われればそれまでだけど。


 かくして開かずの間に迷い込んだ哀れな冒険者は謎の闇騎士の餌食に。

 Bランクパーティーを軽くひねるボクがCランクに手こずるわけもなく、

 ちょいちょいと御退場願いました。


「あれ、ちょっとしたパニックホラー映画の冒頭だったわよね」

「ステキな演出だったろ?」


 最初の犠牲者は木の陰で立ちションしていた格闘家のオッサン。

 背後の森のむこうから闇の霧に覆われた騎士みたいななにがが現れ、

 無防備なズボンズリおろしイチモツ丸出し状態のオッサンを不意打ち。

 振り返りザマに「えっ?」という顔芸させてからヤるのがポイント。


 続いて休憩時間中に湖畔でイャコラしていたバカップル二名を撃滅。

 完全にどこぞのホッケーマスクの怪人のノリでしたよハイ。

 ダンジョン内の男女のにゃんにゃんは死亡フラグです。戒めよう。

 敵陣の中という吊橋効果でイチャつくバカップルは滅ぶべし。

 慈悲はない。


 最後に休憩時間が終わっても帰ってこない三人の様子を見に行くリーダ。

 見張りでキャンプを動かなかったのは正解だけど別行動させたのは失態。

 上層が雑魚ばかりで下層もモンスターのユニット配置していなかったので

 完全に楽勝ムードと油断していたのが運の尽き。


 轟くバカップルの悲鳴。慌てて湖畔に駆けつけるリーダー。

 無惨な二人を見て「な、なにがおこったんだー!」と悲痛な叫び。

 そんな彼に真正面からズルズルとオッサンを引きずりながら迫る黒い影。

 あとの展開はもう語るまでもなく。


 パニック映画の序盤の犠牲者よろしくになんにもできずに全滅でした。

 我ながらコントローラー投げ捨てたくなる酷い負けイベントですわ。

 真っ向から相手しても負ける気しないけど、演出重視だったので。


「この全滅ですが、演出の妙というか冒険者の絶望が大きかったらしくて、

 獲得LPにドラマチックボーナスが加算されています」


「ドラマチックボーナス?」

「なにそれ?」


 その単語は初めて聞いた。


「ドラマチックボーナスについては細かく説明すると長くなるのですが、

 えっと、私たち魔族が人間の感情を糧にしているのは御存知ですよね?」


「知ってる。神族の信仰心と同じで上位魔族ほどそういう傾向あるのよね」

「人間の絶望や恐怖を喰らうために悪事を働く悪魔の話はよくあるよな」


「正確には人間の持つ魂の律動や躍動、感情の爆発から発生するプラナを

 栄養としているんですが、ダンジョンにも同じ法則が存在するんです。

 良かれ悪しかれ侵入者に大きな感動を与えると獲得LPに補正がかかる。

 そんな感じで憶えていただけると助かります」


 高位の魔族は人間の感情を餌にする。有名な話だ。

 喜怒哀楽を軸に、恐怖や絶望、信仰心から発生する精神のエネルギー。

 ネガティブ・ポジティブを問わす、やつらは人の心を糧に存在する。


 ただ人間に味覚があるように、魔族にも感情の好き嫌いがあるようで、

 固体によって欲する感情は様々だけどネガティブ系を好む者が多い。

 人類に敵対する魔王は比較的生産しやすい恐怖や絶望を収穫するため、

 目を背けるような残虐な侵略行為を行って非道の限りを尽くす。

 そのあたりは感情論を捨てると人が狩りや釣りをするのと大差ない。


 邪竜王も美味しい餌のためにドワーフ王国や西部諸国の面々を相手に、

 滅びない程度に数百年規模で略奪と破壊行為を繰り返してきたという。

 彼は人類の敵対者だったが紳士だった。ほどほどをよく見極めてた。

 狩猟場の獲物を獲り尽くすまで乱獲する馬鹿はいない。

 近隣諸国に恐怖と絶望と畏怖を適度に植えつけつつ、ちゃんと襲撃後に

 復興できるよう加減している。定期的な討伐隊の襲撃もおやつ扱い。

 脳味噌筋肉の多い七大魔王の中では頭脳派だったよな、あのオッサン。


 そういやあミルちゃんも高位魔族なんだよなぁ。忘れかけてたけど。

 普段から人間的な食事ばかりなので『そういうの』を好まないのかな?

 性格的に人類に恐怖と絶望を与える悪魔ってガラじゃないしね。


「この計算式で第四次探索隊でもかなり大きなボーナスが発生してました。

 あのときにいた聖竜神の尖兵さん、もりそばさんという名前でしたっけ? 

 彼女とのバトルでは獲得LPがテスト全体から見ても倍率が最大値でした。

 壊されたエリアやボス部屋の修理やらなにやらで総合LPは並でしたが」


「ニートさんはノリと勢いで場を盛り上げるの上手いから」

「ファンタジーの黄金パターンと王道を理解してるからね」


 幼少からさんざんっぱらRPGをやりこんできた経歴はダテじゃない。

 これぞ異世界知識チート無双ものの得意手よ。

 異世界物の中世っていわゆる中世じゃなくて中世風のRPGゲームの世界。

 ここ重要要素。

 実際、コアなゲーマーでなかったら最初の召喚のときに詰んでたよ。

 中学生が再現できる現代知識無双が通じない異世界はハードモードっす。


 異世界で料理無双・軍事無双・内政無双・算数無双(数学でないのがミソ)。

 これらを見ると異世界で知識無双って早い者勝ちなんだなぁと実感したわ。

 しかも召喚されたのが大人の専門家じゃあネット知識しかないガキは白旗。

 なんもかんもこれらの知識を普及させた織田信長が悪い(言いがかり)。

 つくづく、このテの世界の御約束を熟知しているゲーマーでよかった。


「長々と説明してしまいましたが、かいつまんで説明しますと」

「レベルを上げて物理で殴れ?」

「なぜそうなる……」


 実はあながち間違いでもないんだけどね。


「とにかくレベルの高い冒険者を引き込んで壊滅させれば高収入のLPになる。

 加えて定期収入化リピーターにすればなお美味しい。つまりはそういうことよね?」


「あっ、はい。そういうことになります」

 

 結局、集客がそのまま収益に繋がるってわけか。

 わかりやすく、現実的で、経営学の基本中の基本で、それだけに難問だ。

 こればっかりは戦闘力チートだけでなんとかできる問題じゃない。


「海のものとも山のものとも知れない新規ダンジョンに冒険者を招く」

「宣伝はやるだけやったし、冒険者ギルドも率先して派遣してくるけど」

「どれだけ冒険者さんを繋ぎとめられるかが焦点ですよね……」


 LP計算式が複雑だから皮算用も平均値から割り出すしかないしな。


「今回くらいの連中が週2で挑戦すればわりとイケるんだろうけど」

「いまは冒険者業界も斜陽だからBランク以上は絶対数が少ないわよ」

「見積もりとしては新人冒険者を多く招くほうが効率的ですね」


 むっずかしいなぁ。


「仮にE~Dランクが一ヶ月に5回くらいのローテで挑戦したとして」

「壊滅させないなら期待値は月あたり3000LPがいいところね」

「四半期中に50パーティー以上の招待ですか……」


 現実的な数値じゃないな。

 一ヶ月に5回の挑戦は週当たり一回以上のクエスト挑戦になる。

 怪我の回復や準備期間などを考慮するとハイペースなほうだ。

 初期のここのダンジョンはあまり金目のものは設定されていない。

 冒険者を繋ぎとめる鎖と楔は挑戦で得られるわかりやすい報酬だ。

 こっちのLP予算の都合もあるけど一攫千金の餌が足りないのは厄介。


 企画ではダンジョン攻略をすると冒険者ギルドのポイントが増えて、

 宿泊や食事などでサービスを受けられるようになってるらしいけど。

 目に見える路銀がたまらないとなると他国へ出稼ぎする者もいるはず。

 ちゃんと現金になる通常クエストのほうが堅実な実入りになるからね。

 リアリストな冒険者が常にこのテーマパークに挑戦してくれる。

 そんな風に考えるのはさすがに甘ちゃんだろう。

 だから彼らが四ヶ月間ずっとここに入り浸ってくれる保証はない。


「ミルちゃん、50万LP獲得課題の発生次期は正月から?」

「あ、いえ、オープンから起算して集計でもいいらしいです」

「さすがに立会人も無茶ぶりしたと思ってるんでじょ。温情ね」


 なら四ヶ月に追加半月のオマケ期間をもらえたってことか。


「よし、なら明日にでもダンジョンオープンを開始しよう」

「冒険者を煽りつつ入場料だけでも稼ぎたいならそのほうがいいわね」

「えっ!? でもまだ二つのダンジョンの組み直しか……」


「最初は顔見世でチュートリアルダンジョンのみの解放にする」

「体験版の無料配布ね」

「???」


 それなりに知名度を稼いで情報をそこそこに掲示したところで。

 冒険者の好奇心をくすぐる宣伝を行って本格的なオープンとする。

 情報の小出しからの絶大なインパクト。

 初速でLP荒稼ぎして大陸中にこのダンジョンを宣伝するならコレ。


「エスト、リップルとクラテルちゃんにオープンの報告よろしく」

「あいあいさー」


「ミルちゃんは実装予定の二つのダンジョンの組み直しをおねがい。

 あ、できたら入り口だけちょいと地上に顕現させてくれると助かる」


「入り口、だけですか? 可能ですけど全階層でなくていいのですか?」


「うん。第一階層のガワだけでOK。冒険者にはこのほうが効く」


 謎のエリアの追加。中身は未実装でも入り口が出来た。

 これだけでユーザーはいろなんことを妄想して盛り上がるもんだ。

 大型アップデートまでは追加エリアの情報は小出しで期待させる。

 これMMOの王道。


「さぁて、一難が去ってまた一難だけど、面白くなってきたぞ」


 迷姫王のダンジョン。ついにマスターアップを終えて明日オープン!

 まずは体験版としてチュートリアルダンジョンを前倒しで解放。

 あそこの難易度はCランク冒険者には物足りないかもしれないけれど。

 現実は冒険者の大量引退で絶対数としてDランク以下が多い氷河期時代。

 未来ある新規参入冒険者のための訓練場は必要だ。


 まずはダンジョン初心者に迷宮の冒険というものを慣れてもらって、

 そこから大々的に本格的なダンジョンを追加して挑戦してもらう。


「ボクはまだ歩み始めたばかりだかなら」

「この果てしなく長いダンジョン道をね」

「……打ち切ってどうするんですか」


 隙あらばボケ。

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