Good luck with your new job ~新装備の試着中~
「これは、おまえの物語だ」
【黒木勇斗語録・FF10 アーロン】
闇勇者。
それは勧善懲悪の道に生きる光の勇者たちの対抗者として存在する反英雄的存在。
作品によってはアンチヒーロー。ダーティーヒーロー・バッドヒーローなどと呼称される場合もあるが、
その存在意義に大きな違いはなく、概ね正道から外れた独特の価値観を以って義に生きるヒーローを指す。
彼らは我を優先する邪道の反英雄ではあるが決して邪悪な存在ではない。
だけど愛と正義と勇気の名のもとに生きる光の勇者たちのように御人好しの善人でもない。
ダークヒーローの定義は旧く、フィクションの世界でも三百年前にはもう彼らの規範は出来上がっていたし、古書を遡ればスサノオやヤマトタケルなど神話の時代からその存在は大きく扱われている。
彼らは少年誌の主人公特有の綺麗ごとだけの正義感だけではやっていけない世界から生まれた存在。
悪を知らぬものに正義は貫けぬ。力なき正義など無能。無法者だからこそ出来る正義がある。
王道ヒーローのライバル的な存在。辿る道や手段は違えども志は主人公と同じヒール役。
そんな闇の勇者にこのたびボクは転職いたしました。それも勇者職で聖竜騎士と同等のレアクラスです!
クラス名は『闇騎士』。とてもとても素薔薇しい響きでございます。
なので、本日ボクはダークヒーローの嗜みのひとつである『三段笑い』のスキルを獲得してみようと思う。
○手順その1=クックックッ……と、まずは俯き加減に小さく笑いましょう。
○手順その2=ハハハハッ……と、次に利き手で顔を覆いながら堪えきれずに笑い出しましょう。
○手順その3=ハァーッハッハッハッ!!と、ラストはのけぞり気味に狂ったように高笑いをしましょう。
この三段活用をマスターすれば、あなたも今日から立派なダークヒーロー!
間違っても最後の最後でムセてはいけません。それをやると一気にヨゴレのギャクギャラに転落です。
三段笑いの御利用は計画的に。
なお、このスキルを習得したことで得られるステータス恩恵とかは、特に無い。
「てなわけで、どうよ?」
ここはボクにあてがわれた楽屋。
大鏡の前で一人でひとしきり八神庵ばりのクールな馬鹿笑いをこなしたあと、ボクは新調した装備を身に着けた状態でエストにドャアと自慢げに新クラスのお披露目をしてみせた。
クラスを一新したなら装備も一新。さすが魔王の城だけあってソレ系統の用意も万全だった。
魔法金属の装備って便利だよね。ある程度のサイズ調整は自動でやってくれるから採寸の手間もない。
《 装備 》
E 斬竜剣グラム
E 魔黒鋼の兜
E 魔黒鋼の鎧
E 魔黒鋼の小手
E 魔黒鋼の具足
やはりダークヒーローたるもの防具のカラーリングは黒一色に限る。
魔界の鉄鉱石で造られたこの鎧は全身鎧にしては軽く動きやすく物理防御力も相当だ。魔王の加護による魔法防御もなかなかのもの。
魔界の金属を用いた鎧は、一般の勇者職が装備すると呪い確定の危険な装備なんだけど、魔王を守る闇の騎士にクラスチェンジした今、そんな心配は御無用で着心地はサイコーです。
いちおう剣と盾の支給もあったんだけど、こちらは愛剣グラムを優先したいので蔵に置いてきた。
あとマントも装備するかしないかさんざん悩んだ末、機動性と利便性を重視してやめておいた。
……さんざんカッコつけたあとにマントふんずけて転倒したりしたらシャレんならんのでね。
「どうって言われても、うーん」
無意味にスタイリッシュなポーズを取るボクを見ながら、エストはしばらく考え込んだ後、
「なんというか、タッパが足りてないのに無理してベルセルクの主人公のコスプレしてるヒョロいレイヤーみたいな」
「暗黒モンゴリアンチョップッ!」
ズビシッ!
「なんでも頭に暗黒付けりゃあいいってもんじゃないし、手甲の上からのチョップが地味にいたいっ!」
はい、具体的な感想ありがとう。
おのれ、自分でもなんとなーく試着中にそう思ってたことを堂々と。
「で、エストはエストでそのいでたちはどうなのよ?」
「どうなのよって、我ながらナイスなデザインと思ってるんだけどなー。この堕天使の装束」
言ってくるりと一回転するエスト。その姿は露出度やや高めのパンク風味の小悪魔衣装だ。
丸出しの背中から生えた一対の黒い光の翼がとてもソレっぽい。
彼女が普段、天空の聖女として働いているときの仕事着と少し似て、イメージを正反対に対比させている感じかな。
惜しいな。これでバストがもうちょいあればセクシーさも出せるのに、飛空挺の甲板みたいな胸が台無しにしてる。
「堕天使っていうよりも駄天使?」
「誰がダメ天使ですかゴルァ!」
ちっ、悟られないようにイントネーションに気を使ったけど気付かれたか。
「エストはナビゲーターの役目だっけ?」
「さすがに天空の聖女が実戦の場にでるのは体裁悪いですから。基本は事務職でいきますよ」
「いや、実戦の場に出てこられても構いませんのよ。素の性格考えると魔族より魔族っぽいし」
「はったおしますね♪」
「やれるものならやってみるといい。闇落ちして性能が(気分だけ)三倍になった我が力をみせてやろう」
「上等」
はい、いつものように手四つからの喧嘩開始。
ちなみに聖竜騎士時代から二人の関係はこんな感じでした。
「あの、闇騎士装備の着心地のほうはどうでしょうか? 蔵にあるサイズの合いそうなものを見繕ってみたんですが」
ボクとエストがいつもの調子で足四の字固めの掛け合いをしているところ、おそるおそるミルちゃんが様子見で楽屋の中に入ってきた。
「すみません。お二人ともナニをなされているんでしょうか?」
「ナニって言われても」
「プロレスごっこですが」
隠語とかそういうのでなく文字通りの意味で。
「支給された装備の具合でしたらこの通り良好です。前に使っていた聖竜騎士の鎧と比べると全体的な防御力は落ちるみたいですけど、その分だけ軽量で機動性が重視されているようなんで問題なさそうです」
「あいたたたた! ちょっとその捻り方まじ痛い! 足四の字が本気で極まってて超痛いっ!」
サブミッションを極められるくらいに関節の稼動領域の広さは良好。さすが魔界の金属鎧。
身バレが怖くて顔を隠せる全身鎧をチョイスしてみたけど、これは最適解だったな。
「それはなによりです。それではのちほど今後の迷宮経営のプランについて会議を行いたいと思いますので、準備が完了しましたら会議室のほうにお越しください」
そう言ってミルちゃんはペコリと頭を下げて楽屋を出て行った。
「いい子だなぁ。どこぞのウンコ姫と違ってででででででででッッ!」
「ほほう、あの牛乳魔王とこの天空の聖女様と何処がどう違うのか三行以内で答えていただきましょうか!」
しまった。気が緩んでたところに足四の字返しされた。ぎぶぎぶぎふ。これマジでギブっ!
「おっぱいよ! ああ、おっぱいよ! おっぱいよ!」
「よし、その三行は辞世の句として受け取っておくから安心して死ねィ!」
グキッ♪
「んほぉぉぉぉぉぉぉっ!」
──闇騎士ユート・冒険者と戦う開業前から全治三日の負傷──
『迷姫王』のダンジョンオープンまであと一ヶ月。