To Be Continued" Maze Power " ~胎動4~
You're a feisty little one, but you’ll soon learn some respect.
生意気なチビ助め、お前に礼儀を教えてやる。
【黒木勇斗語録・スターウォーズEP6 9D9】
ラビリンスパワー。通称LPと呼ばれているこの謎のポイント。
なんでも古来から続くミノス式ダンジョン作成ツールの根源的な力らしい。
らしいというのはシステムの基本が完全にブラックボックスだからだ。
ぶっちゃけシステムを組んだ大魔王ミノスが既に故人でプログラム原理やら
なにやらの理論を墓まで持っていってしまったためシステム解析は不可能。
この千年でシステムのバージョンはそれなりに上がっているとのことだけど、
せいぜいが拡張ツールの範囲で組める設備やユニットが増えたことぐらい。
原理は不明だけどシステムの理屈は簡単。
当該ダンジョンの全支配権をもつダンジョンマスターが、手持ちのLPを
消費して命令コマンドを実行すれば、ダンジョンのフィールド内に限りだが
命令に対応したものが創造されたり、逆に消滅させたり様々なことが可能。
ようはボクらの世界で言うとこの経営シミュレーションゲームそのまんま。
そいつをリアルでやれちゃうというのが21世紀の未来道具なみの神性能。
LPさえあればなんにもないところにダンジョンを具現化させられるし、
カタログにあるモンスターやオブジェクトを好き勝手に召喚し放題。
オタカラのカテゴリーには素材アイテムの生成なんてのも存在する。
規模は限定的だけど、ちょっとした創造神の気分を味わえるわけだ。
こんなトンデモシステムを組んだ大魔王ミノスって何者だよと問いたい。
一説には魔族の祖である邪竜神よりも上位の古代神が関わってるとか。
もっとも自分らは世界の根源を探求する魔術師でも賢人でもないので、
これこれこういう便利なツールがあるから便利ねーという認識程度。
こういうのは難しく考えずにゲーム感覚でやってるほうが手に馴染む。
ミノスシステムに一番慣れているミルちゃんですら驚嘆する速度で、
ゲーマーのエストとボクがシステム使いこなしたのもそういうこと。
好きこそものの上手なれ。
これまでコンビニ経営、学校づくり、遊園地経営、バーガーショップ、
神様に市長などなど、さんざんっぱらこのテの物をやってきたからね。
操作方法さえわかればダンジョンの設計も手馴れたものです。
高校時代、部のTRPG活動でGMやった経歴はダテじゃあない。
そういえばゲーム部の先輩だった『あの二人』元気にしてっかなぁ。
卒業後もたまに行きつけの飯屋で仲良く喧嘩してるの見かけるけど。
……そろそろほとぼり冷めてるころだしコッチに出戻りしてもいいのに。
閑話休題。
つまりLPはダンジョンを生み出すために必要不可欠なリソース。
魔王軍結成同時、ミルちゃんは低い初期LPでやりくりしていた。
なるべくだけ元からあるミノスの遺跡の遺産を使い回してコストを抑え、
様々な消費コスト減の不利な制約を付け加えながらダンジョンを生成。
そんな低コストの安普請の成果がチュートリアルダンジョンと集会場。
特に集会場はダンジョンだけど新規ユニット配置の不可という条件と、
あそこでのLP獲得は不可という条件を制約に事前に組み込むことで、
本来のコストの十分の一まで使用LPを削減して生成してある。
だからあそこはフィールドの地ならしだけ他はみんな手作りなのだ。
維持コストも無きに等しい。
チュートリアルダンジョンも単純に平坦に広いだけの構成にしてある。
坂道と雛壇の起伏を作ることで擬似階層式っぽくするのがポイント。
1階層しかないフィールドダンジョン型は安く抑えられるようだ。
その分だけ攻略もされやすいが、もともとが練習用なのでそこはいい。
さて、作成部分に関しては三ヶ月の運営でボクらもたいぶこなれた。
そもそも資産を消費するだけなら誰にでもできること。
重要なのは今後は消費したLPを上回る収益を出さねばならないこと。
土台は作った。こっからは冒険者相手に儲けを出しにいくターン。
そこんところが運営側の経営手腕の問われるところなんだけど……
「獲得LPの計算方式ってイマイチどーも分かりにくいよね」
「あー、LP計算のめんどくささはわたしも同感」
商売を続けていくのに原価に勝る収入が不可欠なのが当然なように、
維持費や拡張リソースを得るにはLPを増やさなくちゃいけない。
ダンジョンマスターが減った分のLPを取り戻すために必要なことは。
「侵入者を排除すれば自然と増える……という理屈だけではダメですか?」
LPを生産してくれるダンジョンに挑戦する冒険者を相手にすること。
「これまでの経験で加算の大まかなルールは理解したけど」
「状況が状況だけに、もうちょっと詳しく知りたいのが本音かな」
LPの経理関係はダンジョンマスターが管理するもの。
ミルちゃんもそこだけは譲らなかったのでボクらはサポート役。
なんでLP増減の詳細な管理はミルちゃんに一任してきた。
冒険者がダンジョンに侵入すると自動的にLPポイントが溜まる。
ここまではボクとエストも認識している最低限のルール。
普通にやっていれば課題をクリアできる範囲のノーマル難易度なら
のんびりやりながら実験経験で学んでいく方針でよかったんだけど、
ワンシーズン以内に50万ものLPを獲得しないといけないとなると、
加算ルールをしっかり熟知して諸々の計算をしていかないとマズい。
「そっ、それではLP経歴のメニューを視覚化しますのでこちらに」
ミルちゃんがメニュー画面を展開して、ボクらは背後から内容を覗く。
「現在の手持ちの総合LP。これはみなさんでも閲覧できる内容です。
これから第三者閲覧権限を付与して増減履歴とその詳細を開きます」
ピッピッピッとコマンドを入力すると、ボクたちにはモザイクにしか
見えなかった一部のメニュー画面の内容がクッキリと表示された。
メニュー画面に現れたのは本日の収支。その詳しい内訳の項だった。
「うわ、総計がなんかすっごいプラスになってる」
「さすがに高ランクの冒険者を撃退すると加算LPも違うな」
本日の収支を見るとラスボス部屋の設備修復で減算されているものの、
それを差し引いても有り余る大幅収益のLPが表示されていた。
雑魚パーティーを招いていたこれまでとは桁違いの大幅黒字である。
これだけでも『高レベル冒険者は美味しい客』ということがわかる。
「えっと、まず最初に第一次テストプレイの履歴を開きますね」
第一次テストプレイというと一ヵ月半前の第一次探索隊か。
「御覧になってほしいのは一番上の基本獲得ポイントのところです」
ミルちゃんが第一次テストプレイ日の内訳の一番上の項目を指差す。
「これは俗に『入場料』と呼ばれている項目で、ダンジョンに侵入した者の
戦闘力に沿った基本獲得LPをあらわしています。いま個別化しますね」
更に細かくデーターを分類すると、マウスリバー探検隊とか名乗っていた
あのときの探索隊メンバーとおぼしき面子の各自LPが表示された。
『勇者+240LP』『魔法使い+150LP』『盗賊+130LP』『僧侶+150LP』。
個別名でなくクラス名でリストアップされ、各々の加算LPが明確に。
Dランクパーティーだと加算される基本値はだいたいこんなものなのか。
「だいたい1レベルあたり+10LPという目安なのね」
「勇者は高く倍率補正かかってるのな」
「あのときの冒険者の皆さんは基本職で10レベルちょっとのメンバーなので
だいたいこれくらいの算出になります。レベル=驚異度でLP計算される
らしいのですが、そこから種族やクラスによる補正倍率もかかってきます。
特に勇者職は基本値の2倍から3倍で計算されることが多いようですね。
あと上級職になるほどクラス倍率補正も大きくなっていく傾向にあります」
思い出すなぁ。最初のテストプレイだったから緊張したよほんと。
たしか第一次テストプレイのときは大赤字だったんだよなぁ。
「まず入場料で+670LPの収入がありました。入場料はダンジョン侵入から
24時間が経過するたびに滞在費という形で追加LPが加算されますが、
うちは日帰りで楽しめるダンジョンがコンセプトにありますので、
冒険者の長期拘束や連泊によるLP獲得は計算から外しています」
「つまり人を人とも思わない外道なダンジョンプレイなら、冒険者たちを
生かさず殺さずにダンジョンに拘束して、銀行利子をツマツマするように
日ごとのLP養殖とかやれるわけね。さすがに鬼畜だからやらないけど」
「そういうのは『人間牧場』というテクとして昔から知られてますね。
四肢を切断した冒険者を生きたまま調度品にして回廊に飾ったりとか、
労働奴隷として動力機をグルグル回させて省エネの補助にしたりとか、
あと脳をいじくって廃人状態にして幽閉したりとかいろいろ種類が……」
「こわいこわいこわい」
「名前からしてもうアカンやつだそれ。もしやったら王国軍や正義の味方が
マジギレして襲い掛かってくるから攻略法としてはノーサンキューで」
しかし入場料ねぇ。言い得て妙だなぁ。
「このプレイ日は第一次探索隊のみなさんに無事に帰還してもらったので、
得られた加算LPのほうは入場料と一部ボーナスのみとなっています。
1000LPもいかなかったのでモンスターなどのユニット代を支出として、
およそ+200LPの収益になります。設備投資を考えると大赤字ですね」
「ミルちゃん、いま言った一部ボーナスってなに?」
「1000LPくらいというと300LPの追加要素があったってことよね?」
「はい、その件については後々に説明します」
次にミルちゃんが開いたのは第二次探索隊を飛ばして第三次探索隊の項。
「次に御説明したいのは侵入者撃退によるLP加算のケースです」