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To Be Continued" LP Norma " ~胎動3~

      Well, he is under a lot of stress,

          ストレスのせいだよ。


     【黒木勇斗語録・スターウォーズEP3 C-3PO】

 やらかした


 嗚呼 やらかした やらかした


 黒木勇斗、心の俳句。


「まいったなぁ~~~~~~~~~~~~っ」


 立会人が用件だけを伝えて城を立ち去って十数分。

 それまで取り残されたボクらは悩んだり落ち込んだり焦ったり。

 なにしろ立会人の出した課題がいきなりベリーハードモード。

 本来なら1万LPのはずが50万LPにノルマ格上げですよ奥様。

 初速から50べぇ界王拳とか身体が持ちませんがな。


「オレたちがチャンピオンだ、永遠のな!」

「1+1は2じゃないぞ。オレたちは1+1で200だ!10倍だぞ10倍」


 こんくらいノリと勢いに任せた頭の悪い倍率ドンっぷりである。

 これは由々しき事態。

 立ち上げ前の難易度設定を誤ったボクらのミスでもあるんだけど。

 いきなり上位ダンジョンなみの成果を求められるとはまいった。


 言い換えれば準備段階でそれだけ地力があると認められたということ。

 あの口ぶりからして最初の出来が悪ければ今日の段階で失格だった。

 だからってダンジョン運営の素人集団に初回からコレは手厳しい。


 二週目プレイでノウハウを学んで手馴れた状態から開始ならともかく、

 ようやくチュートリアル終わったばかりの初回プレイでこの鬼ノルマ。

 マスタールーム内の空気が重力場の結界が張られたみたいに重いわ。


 魔界の上ほうでボクらを敵視してる派閥があるんじゃないか?

 そんな風に邪推してしまうほど、現在のボクらは危機的状況にある。

 マゾ難易度の縛りプレイは嫌いじゃないけどリアルのほうではねぇ……


「はぅ~~~~~~~~~~~~~……」


 一番ショックを受けているのはダンジョンマスターのミルちゃんで。


「ああもう、口から魂が漏れてる漏れてる」


 課題のショックでさっきから頭からテーブルに突っ伏して放心状態。

 油断すると放心どころか幽体離脱までするし、これはかなりの重症。

 ボクらより業界に詳しい分、無茶ぶりされた実感が顕著なんだろう。


「ほんはおひほんはっへはひはらはいはほ」


 その一方で──

 こんなときでも日本昔話みたいな山盛り御飯を喰ってる脳天気が一名。

 ホカホカ御飯に焼き鮭のっけて美味そうだなオイ。

 ただいま北方は鮭の産卵シーズン真っ只中だもんね。旬に勝る名物なし。


「せめて食べるか喋るかどっちかにしようよ」

「(こくり)」


「もぐもぐもぐもぐ」

「………………」


「もぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐ」

「………………………………」


「ぱくぱくぱくもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐ」

「………………………………………………」


 一分経過。


「そろそろ喋れよ!」

「二択迫られて食べるのに集中したのに怒られるこの理不尽の極み」


 いや、うん、御飯はシッカリ噛まないとだめよね。ごめん。


「ん? ちょっと待て、その焼き鮭どこからもってきた!?」

「聖都の大聖堂からの御歳暮。アホほどもらったからあとで食べる?」


 あー、聖都の大聖堂というとアソコのはっちゃけ教皇様(100歳)か。

 いいのかなー、聖竜神派の代表が魔王軍幹部と懇意の関係で。


「久しぶりに死ぬほど運動してハラがすいたし、自分も夕飯にするわ」

「そうそう。腹いっぱいにすれば気分転換になるわよ」


 おめーはいつも気分転換だな。

 とはいえ艱難辛苦のシリアスムードの中でもハラは減る。悔しいが。


「飯まだ残ってる?」

「炊飯器に残り半分くらい? まだまだあるかな」


「珍しいな。エストが三升炊き炊飯器を一気に平らげないなんて」

「この状況だと、さすがわたしでも食欲落ちるわよ」


 食欲なくして余裕で一升半ってのが恐ろしい。


「しかし炊飯器と食器とレトルトが常備の悪の組織の本陣ってどうなのか」

「なにをいまさら」


「ありゃ、南方米か。秋に持ち込んだ日本米の蓄え尽きた?」

「先週に備蓄尽きたわ。次の補給は正月あたりね」


「いますぐ日本に行って買えるだけ買ってくるの無理?」

「術式の充填期間中だからムリ」


「このまえタマと鉄人を日本に転送するのに転移ストック使ったからなぁ~」


「転送術式の使用制限が往復分で三ヶ月に一回ペースなのも面倒だけど、

 重量制限100kgちょいってのもキツイのよね。買い溜めができない」


 さすがのエストでも世界転移にはそれなりの準備期間と制限を強いられる。

 ワンシーズンおきに異世界転移できるだけでも神がかり的にすごいけどね。

 出来たら出来たでこういう贅沢言ってしまうのが人間の悲しいサガよ。


「自分の種籾スキルで召喚できる米が大陸の長粒種だけという無力」

「レベル上げてマスタークラスになれば日本米の召喚できそうだけどね」


 ちなみに自分、冒険者としての顔のほうはいまだに種籾勇者のままです。


「マスタークラスの種籾勇者ってどうなのよ」

「間違いなくオンリーワンね」


 神話の時代から麦文化のセーヌリアスは米好きの日本人に厳しい。


「大陸はもっと真剣に東方のジパング米を普及させるべきだと思う」

「蝕星王ノヴァは味噌と納豆と東方米の土着化に尽力してたのにねぇ」


「支配地域に田園作って短粒米を自給自足してたノヴァってすげーわ」

「日本米に一番似通ってた東方米の生産ラインを破壊した王国軍許すまじ」


「イクラある?」

「そりゃもちろん。右がわのほうの冷蔵庫の中段にタッパーごとあるわよ」


 ワンルームマンションの一室なみに生活観パないことになってるけど。

 ダンジョンの中枢部であるマスタールームなんだよねここ。


「美味い」

「そりゃ転送魔法で産地直送だもの。そこらのとは鮮度が違うわよ」


「これで長粒米でなくモチモチした日本米なら最高なんだけどなー」

「贅沢言わない」


 それから十数分ほど遅めの夕食を楽しんで。

 たらふく美味いものを食べて、やっとこさ曇り空な気分も晴れてきた。


「これからどうしようか。初動プランをかなり練り直しになるけど」


「実際問題、課題がハードモードになっちゃったもんはしょうがないわ。

 知名度ゼロから始めたら集客数は見込めないし、難易度抑えることに

 躍起になってランクの低い冒険者向けにシフトしたらカスしかこない。

 広報担当として言わせてもらえばランク抑えたほうが悪手になってたわ。

 調整ミスは明らかだけど、わたしたちの選択は間違ってなかったわ」


「それは分かってる。ある程度の驚異は見せないと見向きもされないもの。

 冒険者の食指がこっちに向かずに細々と内輪で回してジリ貧はマズイ。

 初動の勢いが命なのはソシャゲやMMOの世界でさんざん見てきた」


 過去に宣伝が甘くて埋もれて終わった新作がどれだけあったことか。

 同じく大々的に宣伝して中身ショボくて失敗した新作も枚挙い暇なし。

 有象無象と問わず初手で躓いたらオワリ。娯楽作品は初速がすべてだ。

 あれだけやってしまった以上、出始めからそれなりのものにしないと。


「最初は期間をおいてひとつひとつダンジョン解放の予定だったけど」

「これは一気に四箇所を展開しないとハッタリ効かない流れよね」


「仮作成は終わってるみたいだけど、実装するためのコストの面は?」

「それはミルちゃんに聞かないと」


 エストとボクは魂抜けかけてグッタリしてるミルちゃんに寄り添い。


「はいはい、いつまでも落ち込まないで起きた起きた」


 古典的表現でエストがミルちゃんの魂を口の中に押し込んで起こす。


「あぅぅぅ……こんなことになってしまって申し訳ありません……」


 茫然自失から正気になってもミルちゃんはボクらに平謝り。


「もうっ~……もぉうぅぅっ~っ……立会人のおじさまはいぢわるですっ!」


 さすがのミルちゃんも今回ばかりはおかんむりらしい。怖くないけど。


「ミルちゃん、今後の展開についてだけど」

「はい、当初のプランでは様子見もかねて無難なAダンジョンの解放を

 予定していたんですけれども……Aのみの運営では厳しくなりました」


 Aタイプというのはミルちゃんの設計した初心者向け王道タイプだ。

 最初は様子見と運営に慣れる意味で全10階のコレから始める予定で、

 そこからシーズンごとに新規ダンジョンを解放してくはずだった。


「ひとつだけの解放だと課題クリアは怪しいよね」

「たぶん最高益を上げたとしても半分に満たないと思います」


「ギリギリ解放できるLP予算は?」

「幸いなことに既に作成している四つのダンジョンは雛形のみなので──」


 うーんとミルちゃんは腕を組んで考え込んで。


「階層サイズを現在の半分まで削ればBタイプも地上に実装できるかと」

「完成版の半分か。それならあとあとでメンテ拡張で済むな」


 Bタイプはボクの考えた中級者相手を想定したダンジョンだ。

 こちらはAと違ってギミックは多いものの前半のコストは抑え目。

 後半になると急激にコストと難易度がハネ上がる設計になってるけど、

 ミルちゃんの進言に従って半分をカットすれば手軽なダンジョンになる。


「それでいけるならそれでいこう。AタイプとBタイプ同時実装で」


 最初は既に実装しているチュートリアルダンジョンとAとBで行く。

 余裕が出来たら残るCとDを一部分のみでも追加実装といきたい。

 こういう娯楽は目新しさと刺激が必要だ。

 顧客を飽きさせないためにはバリエーションが多いほうがいい。

 ガワさえ用意してしまえば、あとは階層拡張でどうにでもなる。 


「えっと、あくまで可能というだけで大変な問題があります」

「問題?」


「そこまでコストを削っても所持LPのすべてを注ぎ込むことに……」

「あー、やっぱり自転車操業になるのかぁ」


 ダンジョンマスターがダンジョンを運営するには特殊なリソースが必要だ。

 リソースとはラビリンスパワー(通称をLP)と呼ばれる摩訶不思議な力。

 ダンジョンマスターはLPを用いてダンジョン設備を整えていくわけだが。

 このLPは当然に有限で、いわばボクたちの運営予算そのものなのだ。


 ダンジョンを作り、内装を充実させ、モンスターやトラップを配置する。

 そのすべてにLPは必要とされ、ダンジョンを拡張するほど消耗する。

 当然、倒されたモンスターの補充や設備維持にもLPは不可欠だ。

 これが尽きれば実質御破産。審査を待たずに魔王軍の敗北は確定する。


「そうなると出だしてハデに客引きしてLPを荒稼ぎするしかないわね」

「そういうバクチは好きじゃないけど、それしか手がないか」


「探索隊の派遣で冒険者界隈にソレっぽい宣伝やっておいて正解だったわ」

「それのやりすぎで難易度アゲアゲなの考えると複雑な気分だけとね」


 ならば消費し続けるLPをどう補充すれば良いのか。

 それこそがダンジョンマスターの経営手腕の問われるポイントなのだ。


「ミルちゃん」

「あっ、はいっ」


 せっかくのいい機会だ。

 ここでLPというダンジョンの要になる存在についておさらいをしたい。


「LP獲得の条件について、もうちょっと詳しく教えてくれる?」

「よっ、喜んでっ」

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