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To Be Continued" Labyrinth side " ~胎動2~

  Looking? Found someone you have, I would say.

       人を捜しに? では見つけたわけだ。


   【黒木勇斗語録・スターウォーズEP5 マスターヨーダ】

「こちらがマスタールームです。いま紅茶をお持ちしますね」

「構わん。それよりも本件の設計図や企画書を閲覧したいのだが」


「ふぇっ!? はっ、はいっ! いまお持ちしますっ」

「可能であれば人間の協力者の資料もな。LP増減の履歴も確認したい」


 マスタールームに案内された立会人はさっそく資料漁りを開始した。

 本題に入る前にまずはウチらの現状の把握というところか。

 ある程度のところは向こうさんもちゃんと監察して把握してるだろうけど、

 中枢の詳しい部分となるとマスタールームまで行かないと無理だろう。

 そして数分の沈黙のあとにポツリと口にした一言。


「異質だな」


 たったの一言なのに初老の紳士が冷静に困惑しているのが読み取れる。


 たぶんメインメンバー全員が思い思いで好き勝手に持ち込んだ私物の山で

 グチャグチャになったマスタールーム内の惨状も加味されてるだろうけど、

 やはり立会人がもっとも怪訝にさせたのはダンジョン構成の内容全体。


「私も立会人として過去に様々な魔王のダンジョンを見てきた身だが、

 これほど異様なコンセプトで彩られたシロモノは初めてお目にかかる」


「いやぁ、魔界の審査官にお褒めいただいて光栄ですわー」

「褒めてはおらんぞ」


 エストの気楽な反応に厳しい表情を向ける立会人。

 でしょうねー。まともな価値観で見るならコレはあまりにも異様だもの。


「ミル、お前が造ったこのダンジョンの数々。本拠地を守る気はあるのか?」

「え? あっ……その……えっと……」


「単なる迷路ゲーム気分の企画ならば審査以前の問題になるが?」


 いきなり核心から入ってきた立会人の苦言に恐縮するミルちゃん。


「そのぉ……守るというよりは……冒険者を楽しませることを最優先に……」

「つまり趣味に走って防衛機構としての基本を無視したというわけか」


 身内でも容赦しない立会人。

 審査官としてザクザクと弱いところを突き刺してくるなぁ。

 こういうツッコミを入れられるのは予測してたよ。

 本来こういう迷宮とは本拠地を守るための迷い道。

 王家の墓がそうであるように。城砦の回廊がそうであるように。

 迷宮は侵入者を核に届かせないための防衛機構であるべきなのだ。


 そういう意味ではミルちゃんの作ったダンジョンは失格なのだ。

 たしかに迷路ではある。内装も回廊の基本を守っている。

 だけど残念ながら用意されたダンジョンは根本からして無駄が多い。


 現在、用意されているのはチュートリアル用の訓練用ダンジョン。

 それと随時追加予定の城の東西南北に設置した四つのダンジョン。

 これらは中央から離れすぎて本拠地のこの城を守る気がまるでない。


 本拠地の迷宮王の城の解放予定日は未定。

 当面は用意したミニダンジョンを冒険者に堪能してもらうわけだが。

 この段階でもう立会人には理解しがたいコンセプトなんだと思う。


 魔王のダンジョンは最深部にいる魔王を倒してなんぼのもの。

 冒険者はダンジョンの財宝を強奪してモンスターを殺戮するのが仕事。

 侵略者の魔族視点からしたら「なにやってんの?」と思われるのも当然。

 普通のダンジョンマスターなら本拠地の設備を強化するもの。

 貴重なリソースを本拠地脇の寄り道に割り振るんだもの。頭おかしい。


「ミノスのダンジョンも城砦の基本を覆すような作品ばかりだったが、

 キミの作品はそれ以上だな。もともと突飛な発想をする娘であったが、

 お前に入れ知恵をしたのはそこにいる門外漢たちか?」


 あったり前なのである。

 用意されたこのダンジョンは中央を覆う外郭ではなくアトラクション。

 もとより本拠地のこの城を守るために作らせたわけではない。

 いや、そのダンジョンをクリアしないとラストダンジョン突入フラグが

 立たないという意味で、ちゃんと本拠地を守っているといえなくはない。


 だけどそこんところの真意を立会人は汲めないでいるようだ。


「ええ、なんせウチはテーマパークが基本コンセプトなもんで」


 門外漢いせかいじんのボクは言ってやった。


「冒険者が命懸けで楽しめる遊園地。それが迷姫王ミルのダンジョンです」


「ダンジョンとは中核本陣防衛タワーディフェンスと同義だと知って口にしているのか?」


「モチのロン」


「守る気のない城など容易く陥落するぞ小僧」


「いよいよとなればダークナイトのボクが出るさ」


「自信満々だな」


「これでも昔は魔王を倒した勇者やってましたから」


 火花バチバチ。

 この企画、ボクとしては本気の本気で人生賭けてる。

 理解できない異世界価値観の産物だからと無碍にされると腹が立つ。


「無慈悲に排除するだけのサイツ満載のダンジョンなんてクソ食らえ。

 もちろん簡単にはクリアさせない。冒険者は活かさず殺さず冒険漬け。

 たったひとつの広大なダンジョンじゃあ冒険者も早いうちに飽きがくる。

 変化と刺激。長期プランで愉しませるならこういう形式が一番なんです」


「異邦人はどいつもこいつも無駄に自信家で口だけはよく回るな」


 フッと立会人は不敵に微笑み、手に持っていた資料をテーブルに戻した。


「よかろう。その大口にあえて乗ってやるとしよう。魔界の上層部は企画の

 内容についていけないらしく王道への矯正を施せと求められたのだが」


 まぁ、企画内容の大まかを知ったら頭の固い連中はそうなるよね。 


「たとえこの世界の住人の価値観から飛び抜けた奇抜なモノであろうと、

 勝てば官軍で美味ければ邪道も王道に化ける。つまらぬ叱責をしたな。

 大事なのは結果だ。課題に足りる評価を得られるのならばそれでいい。

 あまりにも奇策が過ぎて、この娘は大丈夫かという心配はぬぐえんが」


「おじさま……」


 やっぱりミルちゃんを心配しての苦言か。

 しょうがないよね。堅実な王道路線に向かわせたいのが本音だろうし。

 海のものとも山のものともつかない異世界知識の企画なんてバクチだ。

 しかも元ネタがネトゲだもの。知れば知るほど心配になるわ。

 それでもダイスは投げられた。もう後戻りは不可。突っ切るしかない。


「お前たちの概ねの理念はわかった。発想は理解の埒外だがそれは問うまい。

 では、このたびの第二次ダンジョンブーム推進企画についての説明を行う。

 迷姫王ミルのダンジョン経営審査は、立会人である狭間の魔王が執り行う」


 いよいよ本題。


「現在までの審査については予定よりも早いオープンということで良とする。

 テストプレイにおいて侵入者の基準であるCランク冒険者を複数撃退し、

 先ほどの最終テストで要注意ラインのBランクパーティーとAランク冒険者、

 さらには神の尖兵を討伐し、自軍の知名度向上に貢献したことも評価する」


 割りと評価高いな。いい人じゃないか。


「しかしだ」


 むむむ?


「それだけに今回出す審査の課題は少々厳しいものになる」


「あー、もしかして序盤から調子に乗ってハードル上げすぎた?」


 エストが眉をしかめる。


「おじさま、どうことですか?」


「未熟とはいえ神竜騎士を返り討ちにするほどのダンジョンともなれば、

 魔界としても当然に高ランク難度のダンジョンに指定しなければならん。

 お前も分かっているだろうが高ランクには相応の成果が求められる。

 課題として出されるノルマも当然に難題になると覚悟してほしい」


「あっ……」


 なにかに思い至ったかハッとした顔で口を手で覆うミルちゃん。


「ただいまから迷姫王ミルのダンジョンはグレードⅢに認定する」


 これは祝福であると同時に試練の始まり。 


「もしかしてボクたち知らずにハードモードでプレイはじめちゃった?」

「もしかしなくてもそれ。神竜騎士撃退の箔付けはやりすぎたかも」


 うわぁ……恨むぞもりそばぁ~っ!


「ミルちゃん、ノルマはなにを基準に裁定されるの?」

「ええっと、普通はダンジョンで得られたLPの総合が基準になります」


「期間内でどれだけダンジョンのポイントを得られるかで決まるわけか」

「はい、ちょっと大きめのダンジョンなら月収2万LPが相場です」


「ちなみにノルマ達成できなかったら?」

「解散です……」


 こうして──


「審査は年四回。三ヵ月ごと四半期で行う。第一四半期の課題は……」


 ボクたちのダンジョン経営は──


「当初の予定では1万LP獲得が第一四半期ノルマ達成条件だったが」


 早くも──


「GⅢダンジョンの規定に則り、三ヶ月間の獲得LPを50万とする」


 ゲームオーバーの危機に陥った……

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