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To Be Continued" Dark side " ~胎動1~

            Are you an angel?

               天使なの?


   【黒木勇斗語録・スターウォーズEP1 アナキン・スカイウォーカー】

 漢ダークナイト、無事に勇者の魔の手からダンジョンを守りきる。


 てなわけで──


 祝・迷姫王のダンジョンβテスト完了で念願のマスターアップ到達!


 今日のテストプレイを以って、ダンジョンシステム中枢はほぼ完成。

 モンスター召喚配置、宝箱のPOP、エリアの動作環境みんな良好。

 冒険者たちがかなり大暴れしてもフィールドが耐えられるのも分った。


 いやー、ここまでくるのはタイヘンだった。

 想定されたあらゆる状況を冒険者を使って試行しては手直しの連続。

 第一次探索隊から始まったデバック作業もこれで一段落着いた。


 あとは最終チェックと今回出た課題の修正を終わらせれば全工程完了。

 企画開始からおよそ二ヶ月かかった迷姫王ダンジョンもついに完成。

 あとは大々的に冒険者ギルドを介してオープンの告知をするだけ。


 ……なんだけど。

 βテストの内容が予想外の遥かナナメ向こう側にもほどがある!


「……もりそばが探索隊に参加してたのワザと黙ってただろ?」

「さーて、なんのことかしらねー」


 城への帰路の中、終始繰り広げられるボクとエストの問い詰め漫才。


「危なかったんだからな! ほんとに危なかったんだからな!」

「うん、あの不意打ちのときはニートさんマジでやられたかと思った」


「あやうく様子見で死ぬところだったわ」

「やられたフリして途中退場しとけばよかったのに」


「……あの状況だったら『あいあむゆあふぁーざー』やりたくなるだろ」

「あー、気持ちは分るわ」


 あんなチャンス一生に一度だよ。シチュ重視のロマン派なら見逃せない。

 予定では第一形態で終わらせるハズだったのに、もりそばの乱入で瓦解。

 あのまま終わってはカッコつかないので緊急でラスボス部屋へ強制転送。

 おかげさまで出す予定のない本気モードを出して手の内バラしまくり。

 勢いで神威とか序盤に出したらいけない切り札を見せたのはさすがに反省。


 チュートリアルなんかで最終形態を出すオバカなラスボスがいるそうです。

 はい、自分です。さすがにたわけすぎる。


 我ながらやってしまった。

 あそこで最終奥義を披露してしまったからには対策されるぞ。

 元ネタに聡いもりそばなら絶対に対策練り上げてリベンジしかけてくる。


 他の現地冒険者なら簡単に破れる技でないから恐れるに足らずだけど、

 相手がエストの英才教育で異世界サブカルに詳しいもりそばだもんなぁ。

 第三形態とかまったく構想に入れてないよどうしよう。


「メリハリの効いた予行演習チュートリアルになってよかったじゃない」

「……やっぱり知ってて黙ってたろ?」


「文句はあの子をスカウトした聖竜神様ジジイと派遣したリップルにどうぞ」

「言われなくてもリップルにはあとで文句言うよ」


 風の噂でミルちゃんのデビューにあてつけるかのように新しい神竜騎士が

 歴史上稀な短期スパンでデビューしたらしいってのは耳にしてたけど。


「あんのクソジジイ……よりにもよって僕の後継者にもりそばかよ」

「もともと神竜騎士の才能があったものあの子。あと十年早く生まれていれば、

 間違いなく光竜騎士ディーンと組んで魔王どもを根こそぎにしてたと思う。

 正直、あそこまでニートさんに食い下がったのはさすがのわたしも予想外」


「予定じゃあ第一形態で軽く流して茶を濁すつもりだったのに」

「披露できる手の内をだいたい披露しちゃったわね」


「まさか素顔さらして隠し玉の必殺技まで出す大盤振る舞いになるなんて」

「でも予定していた獲得LPが桁違いになったし結果オーライ」


 ドラマチックといえば聞こえはいいけど、ひっどいテストプレイだった。

 昔に世話になったコクロウ先生と最近アゲアゲの若手Bランクパーティー。

 彼らは現在の冒険者ギルドが派遣できるフリーの中でもトップクラス。

 ギルドの一流どこが半壊して帰還となればダンジョン宣伝効果もバツグン。

 そこまでは構想どおりにいったのである。


 すでに謎の闇騎士の存在という布石は第二次探索隊のときに撒いた。

 迷宮王ゆかりの地に雑魚魔王級のなんかヤベーやつがいる。

 今回のテストプレイは、これぐらいの情報を掲示すれば十分だった。


 まずは彼らを闘技場までおびき寄せ、ちょいとした演出でボク参上。

 ハーレム構成で微妙にムカつくBランクパーティーをなんなく排除し、

 冒険者業界屈指の実力者であるAランクのコクロウ先生を苦戦させて、

 あとは活かさず殺さず適度なところで謎を多く残したまま撤収。


 これが当初予定されていたプランだったんだ。


「さすがに情報を掲示しすぎたなぁ」

「どーせ、あのコボルト侍にはバレバレだったんだからいいでしょ」


「やっぱり僕のこと知ってるコクロウ先生を派遣したのは人選ミスだろ」

「ほかに自由にできる現役Aランクがいないんだからしゃーないわ」


「当時のトップクラスのほとんどが現役引退という悲しい現実」

「それなりの地位と財産が手に入ったのに冒険者やってる方が異端よ」


 夢と希望の異世界ファンタジー世界なのに現実的な話なのが切ない。


「あ、あのぉ」


 ボクとエストの独特の空気についていけず無言だったミルちゃんが、

 おずおずときまずそうに割って入ってくる。


「ゆ、ユートさま、その、左手は大丈夫なんですか?」


「ああ、これ? ハハッ」


 負傷した左手を気遣うミルちゃんへ向けてボクは不敵に微笑む。


「女の子の前じゃなかったら阿鼻叫喚だよ」


 精一杯の強がり。

 ついさっきまではアドレナリンバンバンで痛みを感じてなかったけど、

 バトルが終わってテンション下がり始めたとたん痛いこと痛いこと。

 内心、すっげぇ泣きそうです。


「赤チンでも塗っとく?」

「ンなもので治るか」


 聖剣の衝撃で手甲が砕け、剥き出しままになっているボクの左手。

 エストのヘタクソな回復魔法で出血は止めたけど所詮は応急処置。

 いまは竜スキルのリジェネとか竜闘気のガードで誤魔化してるけど、

 指はヘンな向きに曲がっているし、手首から先の感覚がまるでないし、

 たぶん骨がボッキボキに折れてる。骨飛び出さなかったのは幸運レベル。


「ラーニング技能の特性で本家に比べて弱体補正かかっているとはいえ、

 まさか聖属性の衝撃が邪竜王の不破の鱗を貫通してくるとはなぁ」


「控えめに言っても禁呪の類よねアレ。メギドアークの剣とかありえない。

 あんなもん放った受けたでよく生き残れたわね二人とも」


「もりそばの神竜騎士としてのレベルが低かったのがよかったんだろうな。

 もしも基本地の高い熟練者だったら威力の乗算でえらいことになってたよ」


 もりそばが最後に放ってきたアレ。

 自爆覚悟の超大技だけあってシャレにならない威力だった。

 幸いにして練りが不完全で技を放ったときの衝撃の指向性もバラバラ、

 目標に届く頃には溜め込んでいたエネルギーがかなり分散していた。

 もりそば自身の竜闘気がこれまでダメージで目減りしていたのも大きい。

 暴走によるエネルギー増幅の乗算も元値が低ければそこまでにはならない。


 といっても、レッサードラゴンなら軽く消滅させられる威力はあった。

 ボクの必殺技『聖竜核撃斬』に匹敵、あるいはそれを上回る絶技。

 理論上は絶対防御に等しい邪竜王の鱗を貫通してくる威力とかなんなの?

 見よう見まねで上位互換を編み出す主人公補正ここに極まれり。

 運がよかった。未熟なうちに手の内を知っておいて本当によかった。

 

「まぁ、もりそばもこれでしばらくは大人しくしてるだろ」

「楽しそうに言うんですね」


「久しぶりに妹分と語り合えたからね」

「命懸けだったのに……ですか?」


「勇者ってのはそういうもんさ。語るなら百の言葉より一撃の剣ってね」

「それ、すごく魔界的な考え方です」


 そうなんだ。個人的にはスケールのデカい兄妹喧嘩の気分だったけど。


「ミルちゃんもミルちゃんだよ。なにも勝ち判定を下すことなかったのに」

「え? でも、みなさんあそこまでかんばられたんですから」


 今回のテストプレイ、ダンジョンは守りきったけどボクらは負けた。

 理由はダンジョンマスターのミルちゃんが敗北宣言をしたからだ。

 特にそれでダンジョンがとうにかなるってわけではないんだけど。

 防衛ゲームで敵に勝ちを譲るってのはあまり良い気分じゃない。


「実質、負けでしょアレは。次元刀で空間ブッたぎられた時点で」

「エスティエルさんがいなかったらダンジョンが崩壊してました」

「そうツッコミ入れられるとグゥの音もでない」


 ほぼ九割がた勝ち確定のところでコクロウ先生の卓袱台返し。

 昔からトンデモな必殺技の得意な人だったけど次元刀までやるとは。

 もしエストが駆けつけてくれなかったら今頃は森で大の字だったよ。


「むこうも譲ってもらった勝ちだとわかってるからいいんじゃない?」

「そこは気分の問題かな」

「気分……ですか」


 なにせゲームに関してはとことん負けず嫌いなもので。


「さて、城に戻って治療したらシステムの総仕上げだな」

「ミルちゃん、四つのダンジョンは完成のメドついているのよね?」

「は、はいっ。もうそろそろ自動生成も最終調整まで完了している頃かと」


 なら正式オープンは間近だな。ワクワクするね。


「いよいよだな」

「いよいよね」

「はい、いよいよです」


 二ヶ月弱くらい前に始まったダンジョン企画。

 ちょっとした出逢いから始まったボクのダークサイド生活。

 このボクが魔王の手先として働くなんてつい前まで考えもしてなかった。

 日本での生活よりも、八年前のときよりも、ずっとずっと充実してる。

 だからってここで満足はしていられない。本番はこれからだ。


 ミルちゃんのダンジョン経営は正式オープンからが正念場。

 ダンジョンの維持、メンテナンス、バージョンアップ、やることは山盛り。

 ボクらは頼りない彼女のダンジョン経営を全力でサポートする。

 屈強な冒険者ども相手に繰り広げられるタワーディフェンスゲーム。

 第二次ダンジョンブームの火付け役としてボクらは最高のダンジョンを──


「ん?」


 城の転送装置部屋から回廊に出てマスタールームに向かう途中。


「…………」


 一人の初老の紳士が腕を組みながら壁によりかかっているのが見えた。


「戻ったか」


 あ、やばい。

 一目でボクとエストは紳士がタダモノじゃないことを悟った。


「CVが大塚明夫かよ」

「絶対最強キャラだわ」


 いや、そっち方面の話ではなくてね。

 たたずまいが大物感というか、もう腰の双剣が強キャラ確定というか。

 声もふまえてコレで魔王級の実力者でなかったらなんなのってカンジ。

 そもそもセキュリティー完備の魔王城に平然と侵入してる次点でやばい。


「おじさま!」


 「どちらさま?」と訊ねるよりも早く満面の笑で駆け出すミルちゃん。


「お久しぶりです。事前に御連絡していただければ迎えに来ましたのに」

「すまんが査定は事前連絡なしにやるのが基本なのでな」


 査定?


「ミルちゃん、この人は?」

「あっ、はい、失礼しました。この方は本企画の審査を担当されている

 狭間の魔王様です。魔界では立会人と呼ばれている業界屈指の……」


 珍しくテンション高めなミルちゃん。

 まるで大好きな親戚のおじさんが遊びに来たようなはしゃぎっぷり。


「立会人?」


「そういえば聞いたことがあるわね。魔界には魔王の地上侵略活動を

 中立の立場で採点する特殊な立場の魔王が存在するって」


 そうなると必ずしもボクたちの味方ってわけでもないな。

 恐らく彼はシミュレーションゲームで課題を押し付けてくる役割。

 課されたノルマを随時達成していかないと即ゲームオーバー。

 ようはボクらがテキトーこかないようにするための監視者だ。


「ああ。魔王協会からお前たちの地上での活動の審査を一任されている。

 今後、キミらの活動内容は私を通して魔界に伝わると認識してほしい。

 これまでの経過を見るにキミたちの本気度は伺えるが魔界側の目標は

 現状よりも上にある。もし今後、企画成功の芽がないようならば」


「強制送還……ですか?」


「ミルには残念なことだがそうなるな」


 これは厳しいな。

 ミルちゃんだけでなく審査官まで地上に派遣されてきたのか。

 当然かな。ミルちゃんじゃとてもじゃないけど仕事を丸投げできないもの。

 おまけに人間側の協力者が勇者と聖女だもん。そりゃあ上だって楔を打つ。

 たぶんこの人、とんでもなく強い。いざというときボクらを一掃するほどには。

 魔界も魔界でこの件、かなりマジだってことか。


「んー……」


 ボクが真面目に立会人のことを考えている間、


「ねぇ、ヒゲのとっつあん」

「む?」


 わりかし無礼千万な物言いでエストが立会人の顔をマジマジ見つめ、


「むかーし、どーっかで見たか逢ったような記憶があるんだけど」

「記憶にないな」


 エストの質問を軽くいなす立会人。


「ただいま休養で行方不明中のグローリアの王様にクリソツなのよねぇ」


 おいおいおい。

 いくらなんでも水戸黄門じゃないんだから王様がこんなところにいるわけ、

 『ないよな』って確定で言えないのがこの業界。

 いや、半隠居の王様まで魔王軍に参加はいくらなんでもねぇ。


「…………」


 エストの核心を突いたような自信満々の一言に立会人は数秒黙り込み、


「残念だが人違いだ」


 と、言った。


 真偽はどうあれ、そういうことにしたいらしい。


「おじさま、あなたがこられたということは審査はもうそろそろと」


「まずはその説明にやってきた。疲れているところすまんが時間はあるか?」


「いえ、そんな。打ち合わせでしたらすぐにでもお茶を。あっ、でも……」


 チラリと手負いのボクのほうを見るミルちゃん。


「ああ、ボクのほうは大丈夫。同席可能ならぜひ参加したいし」


「ありがとうございます……」


 そんな申し訳ない顔しなくていいのに。好きでやってることなんだから。


「ならば話は早いほうがいいだろう。マスタールームに案内してほしい」


 ここにきて審査官『立会人』の登場。

 魔界側の使者はボクたちにどんな難題をふっかけてくるのだろう。

 それだけ彼らも第二次ダンジョンブームの火付けに本気だ。

 これは遊びじゃない。れっきとしたテーマパーク経営のオトナの世界。

 魔界側の威信もかかっているだろうし無様な結果は許されないのだ。


 ダンジョンの本格オープンは目と鼻の先まで迫っている。

 うまくいけば明日にもチュートリアルダンジョンの解放。

 順調に行けば半月後には正式オープンにこぎつけるだろう。


「そこで本シーズンの課題を伝える」


 さぁて、いよいよ経営シミュレーションゲームらしくなってきたぞ。

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