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To Be Continued" Dissolution END " ~終の章・伍~

         Death is a natural part of life.

            死は生きることの一部だ。


    【黒木勇斗語録・スターウォーズEP3 マスター・ヨーダ】


 出逢いがあれば別れもある。冒険者の世界はいつだってそう。

 復帰祝いもつつがなく終了して、次にやってくるのはパーティー解散の儀。

 もともとまったく別のチーム同士が同盟を組んで参加したアライアンス。

 手を組んだクエストが終われば、当然それぞれがそれぞれの道を歩みだす。


 冒険者ギルドにクエスト達成の報告と手続きを済ませて報酬を受け取れば、

 そこでパーティー間の同盟契約は満了する。


 コボルト侍のわんこさん、イカルさんたちとも今日でお別れ。

 リップルさんの紹介で受けたこの仕事、いろいろと勉強になりました。

 ほんとにね、いろいろとありすぎましたよ……いろいろと……

 ぶっちゃけハメられた。どうしてくれよう。


「さて、成す事も成し、拙者たちもここいらで解散でござるな」

「なんとも名残惜しいですね」

「また遭えますよ。ここにのんびり居座っていれば」


 おにぎりにーちゃんいわく、冒険者家業は一期一会。

 クエスト毎に起こる愛別離苦を乗り越えて、新米は一人前になっていく。

 それまでの道で積み上げてきたコネクションはいつか何処かで役に立つ。

 困ったときに不意に昔の縁が我が身を助けてくれることもある。

 だから冒険者は出逢いと別れを大切にする。次の再会を願いながら。


「わんこさんはこれからどうするんですか?」

「まずはイーストエンドに向かって『ひんがしのワ国』を目指すでござるよ」


 大陸でも唯一無二のコボルト侍は再び風に任せた流浪の旅へ。


「愛刀のにっかり青汁を失った今、それに代わる得物が必要でござるからな。

 大陸で売っているような数打ちでは拙者のスキルに耐えられんでござる。

 幸いにして路銀はあるゆえ、師匠のいる尾張へ挨拶ついでに名刀探しをと」


「遠いですね」


「コクロウ先生はひんがしの国へ武器探しですか。でも大丈夫なんですか?

 あそこって王国とは冷戦状態で渡航免状がないと行けない外国のはず」


「無茶なクエストを任せた侘びかギルドから紹介状を受け取りましてな、

 ワ国との貿易を許されている商船の用心棒として短期護衛クエストを

 受けるならば渡航免状と短期滞在許可証を発行すると話が付き申した。

 その商人はモンスターや倭寇が怖い。拙者は報酬はいいから入国したい。

 互いに都合の良い条件で願ったり叶ったりでござった」


「それはなにより。東海は海獣系モンスターの襲撃がキツイことで有名だ。

 かといって飛空艇だと燃料代がバカにならない。貿易が面倒な国ですよ。

 コクロウ先生が用心棒にいてくれりゃあ、首長竜が出ても心配なしだ」


「ついでに尾張へ赴いて修行のしなおしでござる。Aランクに昇進してから

 目標を見失い、泰平の世に慣れ過ぎ、いささか腕の鈍りを実感し申した。

 下がったレベルの立て直しもせねばならぬし、忙しくなるでござるよ」


 ひとつの道を究めて尚、流浪の犬侍はさらなる境地を目指す。

 たぶん今回の一件がなかったら見つけられなかった小さな穴の先の道。

 それは更なる強敵を見つけたことで踏み入れざる得なくなった修羅の道。


 わんこさんが再びこの地に戻ってくる。

 より強力な武器と技の体得という、さらなるパワーアップを成し遂げて。

 獲物を取り逃がした猟犬はしつこい。負け犬のままでは終われない。


「もりそばどのも焦らぬが吉でござるよ。遠回りが近道なのはままあること。

 件のダンジョン攻略は、立て直しを終えてからからでも遅くないでござる」


 相手は自分たち一流冒険者ですらどうにもならなかったほどの怪物揃い。

 向こうもそうあっさりと攻略させてあげるようなサービス精神はないはず。

 まずは新しい武器とレベルの損失という緩んだ自身の土台の修理。

 それらを終えてから改めて挑戦すると、わんこさんの笑顔が語っていた。


「俺も同意です。先行有利は遺跡探索の基本とはいえ、相手が相手ですしね」


「伝説の名刀ムラマサブレード……とはいかなくとも、にっかり青汁を超える

 それ相応のワザモノを持ち込まねば、おはなしにもならぬでござるからな」


「まっ、先行での初物自慢の権利は気の早い初心者にくれてやりましょう」


 冒険初心者の私にいろいろと冒険者のノウハウを教えてくれたイカルさん。


「あれからインコたちに王国図書館や魔術師ギルドを駆けずり回ってもらって

 迷宮王に関連する資料や文献を可能な限り漁ってもらったんですがね」


 クエストを終え、船の修繕に足りる報酬を得た現在、彼も再び元の生活へ。


「迷宮王ミノスのダンジョンは財宝とモンスターの枯渇しない珍しいタイプの

 支給方ダンジョンだったんだとか。まぁ、ようするに魔王のお遊びですわ。

 それなら後追いのカタチになっても出遅れはそれほどの不利にならないし、

 むしろMAP情報が出揃う中期になってからの途中参加のほうが有利だ。

 小ボスくらいならともかく、そこらの一山いくらの冒険者に中枢に控えてる

 あいつらを先行の特典だけでなんとかできるとはとても思えませんしね」


 ド正論。

 トレジャーハントに代表されるダンジョン攻略は早い者勝ちが基本。

 なぜなら中にある財宝は有限で、先に見つけたものが総取りが当たり前。

 資源の奪い合いは先行有利。あとは初見殺しと未知のリスクとの闘い。


 モンスターを倒したらポンとアイテムが湧いてくるなんてありえない。

 取っても取っても無限に中身が供給され続ける宝箱なんてありえない。

 その『ありえない』を現実のものにしてしまったのが例のダンジョン。

 無限に供給されないのはおそらくラスボスキャラだけ。

 最奥にいる魔王を誰よりも先に到達した冒険者が退治すればジ・エンド。


 しかし──

 有象無象の冒険者では決して魔王の両側に控える守護者には勝てない。

 だからイカルさんは言った。焦って早解きに走ることもないと。

 攻略情報が出揃ってからの途中参加のほうが理論的には有利。

 盗賊系クラスの合理的な考え方だと思う。


「イカルさんはまた運送業?」


「ああ、しばらくはフォートリアと王国間を繋ぐ空輸タクシーに専念するよ。

 これからフォートリアにはその気のある冒険者がわんさかやってくる。

 まずはそいつら相手に荒稼ぎ。情報が出揃って落ち着いてきたら参加かな」


 おにぎりにーちゃんもそうだけど、商人はこういう新規事業の臭いに敏感。

 この一件はのちのちに大陸中の冒険者を一挙に集める大事になる。

 となればヒャッハーだらけの陸路より比較的安全な空路が早いし喜ばれる。


「リップルさんにも人材の輸送と物資の宅配がおいつかないから手伝ってって

 言われてるからさ、ここは儲け時と割り切って最初の一ヶ月は事業に集中。

 ミスリルマラソンで一番儲けたのは山師でなくツルハシ屋の法則ってね」


「あー、わかる」


 さすがはフリーランス。こういう荒稼ぎのチャンスに目ざとく嗅覚が鋭い。

 うちの『そばがきベーカリー』もこっちに店舗拡張しよっかなー。


「それでは」

「また機会があればよろしくな」

「うん」


 またの再会を願って、それぞれはそれぞれの歩むべき道へ。


 わんこ先生もイカルさんも私を気遣ってかおにいちゃんの件は口にしない。

 なぜあんなことになったのか。なせ彼ほどの男が魔王側に寝返ったのか。

 邪竜の血を啜り闇に堕ちた? より強大な存在に洗脳されて操られた?

 人類の愚かさに失望して粛清を始めた? 悪の心と善の心が分離した?

 シリアスな憶測はいくらでも出せるけど、きっとどれも間違いだと思う。


 たぶん真実はもっとシンプルでバカバカしい。

 私にはわかるよ。あんな風にシリアスキャラを気取っててもね。

 ユートおにいちゃんの性分は誰よりも自分が一番よくわかってる。


 百の言葉を交わすよりも一閃の剣で理解できるものがある。

 でも足りない。まだ足りない。謎はまだまだ山と残ってる。

 だから私しは懲りずにまた迷姫王のダンジョンへ挑戦する。


 知ってる分には黙ってるけど、知らずに踊らされるのは気に食わない。

 この一件の謎を暴くために私はもっともっと強くなる。

 聖剣は折れ、聖鎧はコナゴナ、レベルも下がってボロボロだけど。

 今度こそおにいちゃんに冒険者としての自分を認めてもらいたいから。


「おにいちゃん」


 私は集会場の噴水広場から見える一枚岩の上に聳える居城の影を眺めた。

 廃城に灯る明かりは古の魔王復活の証。

 近くにあるのに遠い居城は我はラストダンジョンでございという風格。

 まちがいなくおにいちゃんたちはアソコで冒険者の到来を待っている。


 もちろん簡単にラスボスに挑戦させてもらえるほど業界は甘くない。

 そこに到るまでにはいくつもの試練が待ち受けていることだろう。

 あの人はそういうノリが大好き。御約束を踏襲しないわけがない。


「味噌汁で首洗って待ってててね」


 イカルさんから聞いた新たに発見された四つの封印された遺跡の情報。

 時期が来れば大々的に封印は解かれて挑戦者に向けて門戸を開くだろう。

 すべてはそこから。


 出直しだ。

 初期装備のレベル1から私はまた出直しだ。

 ここまではチュートリアル。お試し期間はこれにて終わり。

 勇者もりそばの戦いはここから本格的に始まるんだ!


「さてと、そろそろ来る頃なんだけど」


 まず本番に向けての準備段階として私はやるべきことは──


「おっ、いたいた。おーい、もりそばー!」


「あっ、マウスくんひさしぶりー!」


 勝手知ったる王立訓練場の同期のみんなと。


「聖竜騎士見習いもりそば! 本日よりマウスリバー探検隊に入隊です!」


 ダンジョン攻略パーティーの再編成。

 

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