To Be Continued"coffee break END " ~終の章・四~
I'm a Jedi, like my father before me.
僕はジェダイだ、父もそうだ。
【黒木勇斗語録・スターウォーズEP6 ルーク・スカイウォーカー】
ダンジョン攻略で鳴らしたオレたち特攻部隊は、
負けイベを強いられボス部屋で殲滅されたが迷宮を脱出し集会場に潜った。
しかし、集会場でくすぶっているようなオレたちじゃあない。
筋さえ通れば金次第で何でもやってのける命知らず。
不可能を可能にし、巨大な悪を粉砕する、
俺たち、特攻野郎Aチーム!
「と、復帰早々にダンジョン調査リベンジといきたいところだったんだけど」
ここはフォートリアのはずれにある冒険者集会場の冒険者ギルド直営酒場。
「装備もねぇ……レベルもねぇ……たまーにくるのは請求書……」
聖竜騎士見習い『もりそば』。ダンジョン攻略デビュー戦で早くも躓く。
「しかたないでござるよ。こうして生還できたこと自体が幸運でござった」
「敵さんのおなさけの帰還だけどな」
「まったく、まんまと彼らの広告塔に仕立て上げられたものでござるな」
「Aランク冒険者とBランクパーティーに未来のSランクが全滅でしたからね」
私の復帰祝いで一緒にテーブルを囲って談笑するワンコさんとイカルさん。
自分と同様にこの二人もようやく松葉杖が取れて通院を終えた病み上がり。
全員が普通に酒場に立ち寄るようになれるまで、およそ半月の期間を要した。
「攻略にやってきた一流冒険者を見事に返り討ちにして実力を示す」
「しかもあえて半殺しで還す。これほど分かりやすい宣伝もありませんや」
「むーっ」
迷宮王ミノスゆかりの遺跡から発生した謎のダンジョン。
フォートリアは緊急に独自の調査チームを派遣してさらに冒険者にも調査依頼。
そこまでは業界でよくある話で、とりたてて特筆するものはないんだけど。
問題は最初はゆるーい難易度で遊ばせてからーの、中盤からガチの大排除。
第二次調査隊が予定外コースに入って謎のエネミーに壊滅させられたのが転機。
Cランクパーティーが半壊状態で帰還し、ダンジョンの危険度が急激に増して、
そこから始まる冒険者ギルドの本気モード。
八年前の大戦の生き残りにして魔王退治の経験者であるワンコさんを筆頭とし、
ただいま絶賛赤丸急上昇中の若手Bランクパーティーのチーム斑鳩を派遣。
そして補欠として加わった聖竜騎士見習いの私。
普通ならそこらに転がるダンジョン相手にオーバーパワーもはなはだしい編成。
これだけの精鋭を揃えれば八年前の大戦当時でも雑魚魔王くらいなら倒せる。
たぶんAランクとSランクの大半が現役引退している現在の冒険者ギルトで、
緊急で集められるメンツとしては最高峰のものだとみんなが思っていた。
だけど──
「惨敗でござったな」
「ええ、もう強制負けイベントっていうしかないレベルの差でしたわ」
「うん……」
私たちはダンジョンの奥底に潜む異形に圧倒的な実力差を見せ付けられた。
AランクとBランクの一流どころが満身創痍で命からがらの帰還という結末。
それも生殺与奪の権利を持つ魔王が菓子折り付きで生かして還すお情けつき。
「彼らは最初から『その』つもりだったのでござろうな」
「でしょうね。全滅で行方不明にさせず半殺しで還してギルドに報告させる」
「魔王側からすれば広告費無料で知名度は鰻登り」
まったくもぅ。
この営業の手口、たぶん考えたのはイカルさんが言っていた謎の天空人だ。
いったいどこのエスティエルさんなんでしょうねぇ……
ユートお兄ちゃんがいるなら、セットでアレが関わってないほうがおかしい。
おかげでますます今回の件、あっちこっちへ話がこんがらがってしまった。
「わんこさんにイカルさん、例のクエストどんな感じにギルドに報告したの?」
「およそ八割っていったところでござるな」
「ストレートで飲むにゃあキツすぎんだろアレは」
言葉を濁しつつ苦笑する二人。
つまり迷宮王のダンジョンに現れた謎のエネミーについての報告は──
「この時代に新たな魔王軍が現れた。その事実だけで十分でござるよ」
「っても、世界征服を狙っているようには感じられなかったけどな」
なるべくだけユートおにいちゃんの件はボカしたってことだ。
「お客様、ご注文はおきまりですか~?」
「拙者はレバニラ定食大盛りで。あと玄米茶をおかわり」
「自分もレバニラ定食の大盛りで。それと黒ビール」
「二人とも病みあがりなのにガッツリいくね」
「とにもかくにもカネは入ったでござるからな。それにこの店の飯は美味い」
「今は精の付くもんを喰って体力回復させないとね。なにしろ血が足りない」
「私はまだ消化に悪いのダメなんでおかゆで」
「なら、このサムゲタンなんてどうでござるか?」
「鍋は精力つくぞ」
「消化に悪いものはダメって言ったよね!?」
非難しか浴びないオリジナル展開ダメ絶対。
「わんこさんとイカルさんはこれからどうするんですか?」
「拙者はぼちぼち漂泊の旅に戻るでござるよ」
「こっちもいつまでも本業をおろそかにするわけにもいかないからなぁ」
「え? でも……」
「焦らなくてもダンジョンは逃げないでござるよ」
「それにアイツもな」
私はたぶん、再挑戦に急いて慌てていたんだと思う。
理由は簡単。ユートおにいちゃんにまた逢いたいからだ。
結局、なんにも分からずじまいのまま気絶しちゃったし。
二人からクエストの後日談を聞いても憶測以上のものは出てこなかったし。
ダンジョン走破のクエストに失敗したのに事件が迷宮入りとはこれいかに。
「あれから半月、むこうさんもそろそろ動き出す頃だろうさ」
イカルさんはフッと微笑む。
「あなたたちのおかげでマスターアップにこぎつけることができました」
??????
「迷姫王ミルと名乗る女魔王が言い放った言葉さ。あとなんだっけ?」
「意味不明でござるが『でばっく』の協力に感謝しますとも言ってたでござる」
……………
「うん、その台詞でよく分かった」
「ん?」
「なにがでござる?」
「私たちは出来たてダンジョンのテストプレイヤーにされてたってこと」
「薄々は感じ取っていたが、やはりそういうことでござろうな」
「あ~あ、まんまと自分らは魔王の掌でコロコロされてたってことか」
ついでに言うと。
「たぶんリップルさん、というか冒険者ギルドも分かっててやってる」
「それどころかフォートリアそのものまでグルの可能性があるでござるよ」
「ああ、上のほうは総じてグルっぽいんだよなぁ。出来すぎなんだよ」
そう、出来すぎてる。
いくら迷宮王のダンジョンの遺跡があるからって集会場の下準備が早すぎる。
最初から企画があって、前もって冒険者ギルドとタマねーちゃんが話つけなきゃ
こんなに舞台装置の建築と連携が手際よくいくわけがない。
「噂じゃ迷いの森の地殻変動があって謎の遺跡が四つほど発見されたらしい」
「各所の入り口は封印中で解除の調査をしているという話でござるが」
「そういう名目にしているだけで、それ単に正式オープン待ちなだけだと思う」
だろうねぇ~という顔をする一同。
「彼らはいったい何を考えているのでござろうな」
「現状、魔界の遊園地でもオープンさせるノリにしか見えないんだよな」
「実際、ゲーム気分なんだと思う」
私は知ってる。
魔王という存在にとって冒険者との戦いは命懸けのゲームだ。
盤上の駒合戦みたいに愉しむ魔王もいれば、人間狩りを愉しむ魔王もいる。
中にはおじさまのように己を殺してくれる勇者を探すために暴れる魔王もいる。
これまでの話を聞く限り、その迷姫王というのは完全にゲーム感覚でやってる。
たぶん経営シミュレーションゲームの類。もしくはツクールゲームの類。
まるで箱庭のようにダンジョンを作って御披露目する芸術家だ。
そういえばマウスくんから聞いたことがある。
千年前に現れた迷宮王の伝説。ダンジョンブームとよばれた冒険者の一時代。
冒険者という存在が世の中に浸透する切っ掛けとなった黎明期にして黄金期。
「そうでなきゃ、ユートお兄ちゃんたちが魔王と手を組むなんて有り得ない」
この一件は一般冒険者が想像しているよりも遥かに根が深い。
聖竜騎士から魔王の手先になったユートおにいちゃん。
ロクでもない歴史事件の裏には大概いる天空の聖女エストおねーちゃん。
南国フォートリアの大統領をやっいるタマさん。
冒険者ギルドの重鎮の一人になっているリップルさん。
おにぎりにーちゃんも間違いなく裏で糸を引いている。
つまり邪竜王討伐に関わった歴史の立役者たちみんなが陰謀に加担してる。
「やってやろうじゃん」
受け取った。
これは前時代の勇者からの挑戦状と新世代の私は受け取った。
ユートお兄ちゃんやエストおねーちゃんの視点で物を見れば先の予測はつく。
そう遠くないうちに迷姫王のダンジョンとやらは正式オープンを迎える。
彼らがなにを目的にしてこんなことを始めたのかは計り知れないけど。
私たち冒険者がやることはひとつ。
「ダンジョンで待ち構える魔王退治、この私がやってやろうじゃない」
ダンジョンは攻略するもの。魔王はブチのめすもの。
それが私たち冒険野郎のジャスティスなんだから!