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Maize of Doom"Teacher & Student" ~迷宮血風録・弐~

   Amazing. Every word of what you just said was wrong.


    素晴らしい。お前が今言った全ての言葉が間違っている。


  【黒木勇斗語録・スターウォーズEP8 ルーク・スカイウォーカー】

 のちの救世主となる勇者には戦争とは無縁の一般人の出自のものが多い。

 かの光竜騎士ディーンのように最初から大勇者の直系の王子として生まれ、

 本人の意思と関係なく宿命として救世主に育つ場合もあるが稀なケースだ。


 往々にして彼らは本来なら戦とは疎遠な民間人として人生を終えるはずが、

 なんらかの運命の悪戯や神託を受けて勇者の道に導かれ救世の英雄となる。

 これまで剣など振るったこともなく、魔法のマの字も知らぬ身というのに、

 神々の都合によって力を与えられ、魔族との戦争の渦中に蹴り落とされる。


 そんないいかげんな選抜でもなぜかうまくいくのが勇者の不思議なところ。

 正直、勇者という存在は神輿に担がれる素人出身のほうが都合がいい。

 多少の無知は専門知識をもつ仲間たちが穴埋めでサポートしてくれる。


 大事なのは勇者という金看板で人類の旗印になれる魅力カリスマがあるかどうか。

 神の尖兵として魔王と戦い世界を救う自己犠牲の信念があるかどうか。

 ゆえに戦闘者としての資質や経験は意外と救世主に求められない。

 そのあたりはチートと呼ばれる神の加護を与えることで埋め合わせる。


 昨今の異邦人の出自を見ればその説が真実であることは明らか。

 ユートどのもガッサーどのもこちらに来る前は一介の学生であった。

 おそらくはハカナもカガリもアハトスも同じように民間人の出身。


 彼らの故郷ニホンは70年以上も戦を経験していない平和ボケの国と聞く。

 なぜそのようなところから救世主となる異邦人を選び出す?

 かつては軍人や無法者など戦闘経験豊富な者を選んで召喚していたのに。

 なにゆえに神々は戦を知らぬ幼い素人を対魔王の決戦存在として招くのか。


 理由はわからなくもない。

 下手に戦の知恵に卓越している達者を救世主にすると面倒事になりやすい。

 かつてニホンの領主だった信長が魔王討伐後に大陸支配を目論んだように。

 迂闊に戦の知恵に秀でた者を招き寄せると後に余計な野心を抱かせる。


 英雄譚に出てくる勇者に憧れるだけだった無垢な小童を勇者に仕立てる。

 白馬の王子との出逢いと玉の輿に憧れる夢見る少女を地元勇者にあてがう。

 極論ではあるが、何も知らぬ子供ほど勇者に祀り上げて操作がしやすい。

 だから異邦人の救世主は無知蒙昧な純粋無垢であるほうが都合がいい。


 単純に戦に勝つだけならば武人や軍人の出身者を招くが合理的だが……

 いざ神々の都合に合わせて操作するとなると知恵者ほど扱いづらい。

 この地に骨を埋められて、いらぬ戦争の火種になられるのも困る。

 救世主というものは使命を果たせば消え去るものでなくてはならぬ。


 幼子ならば魔王討伐後に親が待っている故郷へ戻りたがるもの。

 セーヌリアスで猛威を振るうチートの加護も異世界には及ばない。

 幼く無知であるがため、こちらの世界で妙な野心を抱くことも少ない。


 元の世界に帰れば神の加護を失った救世主はただの一般人に逆戻り。

 これまでの冒険の旅は夢幻。魔王を滅するほどの力など夢のまた夢。

 これなら後腐れもなく向こうで問題を起こす懸念もない。

 使い捨ての駒として、これほど都合のよいものがあるだろうか。


 そのため──

 救世主となる勇者には我流の素人剣法のまま強くなるケースが最多だ。

 神から授かったスキルに頼りきり、伝説の武器の性能におんぶに抱っこ。

 芯や中身はまったくの戦争童貞のまま魔王の喉元にたどり着ける現実。

 こんなんでもやっていけるのだから神々の加護という補正は凄まじい。


 技巧派の面が強いユートどのやガッサーどのも例外ではなく。

 彼らもまた戦闘方法は神竜騎士スキルに頼った大雑把で荒削りな武人。

 神竜騎士スキルを剥奪されれば成立しない攻撃手段ばかり。


 生まれつきの強者は策や術など弄しない。単純な暴だけで強いから。

 近年の異邦人の大多数がそうだ。即席で強くなれるから努力など要らぬ。

 チートの力があればそれでいい。あとは普通にやっていくだけで勝てる。

 歩いているだけで人々が拍手喝采し、稚拙な民間知識でも大衆は驚愕し、

 異邦人で勇者という肩書きだけで勝手にメスどもが惚れて近寄ってくる。

 それは羨ましくもあり、哀れで悲劇だとも思える挫折なき無明の一本道。


 異邦人ほどではないにしろ、現地で誕生する勇者にもその傾向が強い。

 信仰心が強い分、神々に選ばれしものという託宣だけでその気になる。

 ならばこちらも軍人や武人からよりも民間人から選抜したほうが得策。

 なぜなら特別な身分でなくとも救世主になれるという民の希望になるから。


 聖竜騎士であったころのユートどのと旅をともにしていた頃──

 彼はよく王都に程近い村に住むパン屋の娘のことを拙者に話していた。

 異世界に来て初めて出来た友人。妹のような存在になった少女のことを。

 そのパン屋の娘というのが、このもりそばどののことであろう。


「はぁっ……はぁっ……」


 兄のように慕った聖竜騎士に憧れ、同じ聖竜騎士の道を歩んだ少女。

 彼女にとってユートどのはあらゆる意味で模範であったのであろう。

 これまで放った技のほとんどがユートどのの戦闘技術に酷似していた。

 見よう見まねだけでよくぞここまでと賞賛したいところではあるが。


 悲しいかな。

 先人の背中を追って模倣するだけではホンモノには勝てぬ。

 同じ技術ならば経験量も熟練度も桁違いの先人のほうが圧倒的有利。

 恵まれたチート能力を得て素人剣法のまま駆け上がった分、始末が悪い。

 良き師に出会い、異なる道から技法を磨けば違っただろうに。


 申し訳ないが彼女は道を誤った。

 ユートどのの剣法はユートどのだけに許されたオリジナル。

 あらゆる意味において、単純な模倣で彼を超える可能性は無に等しい。

 なぜなら……


「非力だな」


 そのとき防御に徹していたユートどのが口を開いた。


「お前の攻撃は軽い。振り回す剣も軽ければ刃に込められた信念も軽い。

 これまで戦ってきた雑魚ども相手なら、聖竜騎士スキルのゴリ押しでも

 なんとかなったのだろうが、同じ条件の格上が相手だとボロが出る」


 ブンッ──!


 もりそばどのの唐竹割りに合わせ、ユートどのが大剣を振るった。

 無造作で殺意の欠片も感じない薙ぎ払い。

 まるで寄ってきた羽虫を軽く払うかのようだった。


「あっ!?」


 そんなものでも常ならぬ豪腕をもってすれば竜の暴風と化す。

 キンと刃と刃が激突し、大剣の勢いに負けた聖剣が儚く宙を舞う。

 やろうとおもえばいつでも出来たこと。それだけ腕力の差は歴然。


「竜闘気の流れから見るに、お前は正統派のバランス型ルートを選んだな。

 そこまではいい。三つある神竜騎士の戦闘タイプの中で、バランス型は

 もっとも汎用性に富み攻防魔の面で扱いやすいスタンダードスタイルだ」


 もりそばどのの過ちは……


「しかし竜喰らいのスタイルを選択し、それに特化した上で磨き上げた俺の

 ドラゴン殺しの剣法を、基礎腕力で劣るバランス型で模倣したのは愚策だ。

 これは斬竜剣の重量と竜の力を取り込んだ超膂力があって初めて成せる技。

 小柄で非力な女のお前が真似できるようなモノではない」


 基礎条件が違いすぎるのにもかかわらず彼と同じ道を歩んだこと。


「聖剣と聖竜騎士のチートスキルに頼ったゴリ押しでは俺には勝てんぞ。

 せいぜいが闇の衣を剥ぎ取り、第一形態の試練を超えるのがやっとだ。

 お前はダークナイトと同じ舞台に立つ最低条件を満たしたというだけで、

 本気の俺とまともに戦うという点においては、まるで不合格だ」


 ユートどのはクイっと床に落ちた聖剣をアゴで指す。

 拾えと示唆しているのであろう。


「小技はそれなりに堪能した。次は全身全霊の大技を打ち込んで来い」


 その姿はまるで……


「勇者という人種は通常必殺技とは別に超必殺技を会得しているものだ。

 お前が使える神竜の剣は『聖竜爆裂波』の模倣だけではないのだろう?

 ならばお前の持つ最大の技で来い。これが最後のチャンスかもしれんぞ」


 出来の悪い弟子を厳しくも熱心に指導する良き師匠のようであった。

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