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Monster surprised you ~運命の邂逅~

笑わば、笑うがいい!

姫を救うためであれば、たとえパンツ一丁にされようが、最後まで戦い続ける。

それが、俺の信じる騎士道だ!


【黒木勇斗語録・魔界村 アーサー】

 そんなわけで──


「聖竜爆裂波ッッッツ!!!」


「「「ギャーーーーーーース」」」


 あっ!


 という間に、『迷いの森』のイベントバトルはボクの快勝で幕を閉じた。


「つ……つええ……」「俺たちがワンターンキルとか……ありえねぇ……」「本当にこいつ種もみかよ……」


 穿たれたクレーターの中央でビクンビクンしているヒャッハーども。

 それぞれがそれぞれ、かつてはそれなりにレベルのあった勇者だったんだろうけど、魔王退治を果たしたホンモノの勇者と中級モンスターを相手取るのがせいぜいの雑魚勇者では、御覧のとおり格が違う。


 最下級クラスの『たねもみ勇者』っつっても、降格前はいっぱしの最上級クラス。

 クラス専門スキルは剥奪されたけど、それ以外のドラゴンスレイヤーとしての固有スキルはちゃんと残ってるし、ステータス補正は変化してもスキル熟練度は現役引退当時そのまま。本気になればこんなもんです。


 聖竜騎士時代に会得した我流『神竜の剣技』。大した弱体化もなくまだまだ現役で安心した。


 聖竜爆裂波──

 凝縮した竜気ドラグオーラを剣の切っ先から放って爆発させる、神竜の剣としては初級の必殺技である。

 技術をそれほど必要としない力任せの初歩の技ながら、その威力はドラゴンの咆哮に等しく、初級爆裂魔法と同等の効果範囲と爆発力を誇っている。


 向かってくる複数敵には範囲技による【ヘクス】攻撃に限ります。

 ソロ活動ではダラダラせず一瞬でしとめるのが礼儀と心得る。


「あいにくとボクの剣は人を斬るように出来てない。これに懲りたら盗賊家業なんてやめて真面目に働くんだな」


 完全KO状態の三人に向けて、ボクは女の子を抱きかかえた状態で振り向きもせずクールに勝ち台詞。


 フッ、決まった。

 『故郷に帰るんだな。お前にも家族はいるだろう』的なセリフはこういうときに使わなくちゃ。


「や~、いいハマリっぷりでしたにゃ~。っと、そっちは終わった?」


「久々に強制転移魔法で千切っては投げて千切っては投げてを楽しみました」


 すべてが終わってからツヤツヤした顔のタマとエストが合流してきた。


「はぐれどもはどうなった?」


「なんか毒キノコの胞子に当てられて身動きとれなくなってビリビリしてるよ。あと七日もすれば餓死して鬼シビレタケのいい苗床になるんじゃないかな。さすがにさすがに可哀想だから、明日までにレンジャー部隊に連絡して回収してあげるけど」


「こっちはまとめてポーイって感じで、神都にある神聖大監獄の説教部屋に強制転送してきました。いまごろ看守さんに『何故ここに転送されたかおわかりになりますでしょうか。』って尋問されてる頃じゃないかな? あそこに放り込んだらキミも来月には驚きの白さ。これからは敬虔な聖竜神信徒として真面目に暮らすでしょ」


 おっそろしいこと言ってくるでしょ? うちのパーティーの女子って皆こういうやつなんです。

 特にこの二人、敵の口上中や変身中に平然と毒攻撃とか最大火力攻撃を放ったりするんで油断ならない。


 八年前、邪竜王配下の中ボスが「面白い、ならば見せねばなるまい。我が竜戦士の真の姿を!」と二段階変身の準備中にこの御転婆山猫がありったけの火炎瓶を投げつけて爆殺しちゃった、あのいたたまれない空気をボクは忘れない。


 なお、そのシナリオの中盤で最も佳境に当たるバトルでムードをぶち壊した案件についてタマは──


 「だって隙だらけだったし」


 と述べており、現在も反省していない。


 いや、合理的なのはいいんですよ。

 でもね、世の中には非合理といわれてもロマンシングなドラマ重視の場面というものがありましてね……

 そういう暗黙の了解を尊重してこその勇者ではないかと。


 こういうとき現実主義の女子ってのは扱いに困る。今回も速攻で現場に駆けつけなかったら危なかったよ。


「って、ユートくん、その子は?」


 ボクにお姫様抱っこされる女の子を見て、タマが問いかける。


「そこのヒャッハーどもに襲われていたんで助けてみた。ヒロイン救出は勇者道の嗜みだからね」


「んもうっ、あぶなっかしいなぁ~」


 警戒心を解かないままタマは鼻をクンクンさせる。

 この場合、あぶなっかしいという言葉の対象は背後のヒャッハーどものことじゃない。

 ボクがいまこうして抱きかかえている正体不明の女の子。彼女に対する強い警戒心の表れだ。


「人助けは勇者の習性みたいなものだから強くはいえないけどさ、この森はミミックやシェイプチェンジャーみたいな擬態能力持ちモンスターも生息してるんだから、少しは危機感を持たないと」


 そこんところはボクも分かってる。

 こんな迷いの森の奥深くで女の子が一人で花摘みなんて怪しいなんてものじゃない。

 ヒャッハーたちはそんなことおかまいなしだったようだけど、普通は警戒してしかるべきものだ。


 こういった魔境には少女や愛玩動物に擬態して人を喰らう勇者様キラーのモンスターも生息していると聞く。

 もちろん美人局つつもたせ危険リスクは承知のうえ。

 女を助けるのに理由がいるかい? そこが勇者様の辛いところよ。 


「あ、あのっ、もう大丈夫ですから、下ろしてくれませんか? その、この状態は少し……恥ずかしいので……」


「ああ、ごめん」


 ずっとお姫様だっこの状態だった女の子が恥ずかしげに言ってきたので慌てて解放する。

 いけないいけない。つい長くだっこしてしまった。なんせお姫様だっこは男のロマンだからなぁ。


 リザードマンのプリンセスを邪竜王配下の魔の手から救い出したときはさ、抱きかかえたときにギックリ腰になって逆に姫に抱きかかえられて帰国という酷いアリサマだったもんで、ええ。


「えっと、その、危ないところを助けていただきありがとうございました」


 言って女の子はボクにペコリと頭を下げる。

 敵意もないし殺気もない。いたって普通の女の子だ。


 それだけに怪しいといわれればとことん怪しい。

 そんな普通の女の子がなんでこんな森にいるのかと。

 森の奥深くで修行するドルイド僧とか、人里離れた秘境で隠遁暮らしをしている魔女や隠者でもなさそうだが……


 心当たりがないわけじゃない。あまりそうとは考えたくはないんだけど。

 もしそうだとしたら、この人畜無害そうな女の子の正体は恐らく──


「あれ? あなたもしかして、この前、天空城に使者としてやってきた迷魔王の……」


 その予感を確定付けたのは女の子の顔をまじまじと覗き込んだエストの一言だった。


「えっ?」


 ここではじめて女の子のほうもボクたちが何者か察したようだった。


「あっ、ハイ。先日はお忙しい中、聖竜神様との謁見を許していただき、ありがとうございました。つい先ほど森竜神様から『ウチの聖女モンがそっちに向かってるから出迎え夜露死苦』と私宛に伝達がありまして、それでみなさんを迷魔城に案内するために転送機前まで迎えにきたんですが、その、とてもお恥ずかしいところをお見せしてしまいましてすみませんでした」


 ペコペコと平身低頭て頭を下げる女の子。気弱で低姿勢で傍目にはとても危険な存在には思えない。


「んと、つまりだ、話の流れからすると、この少女がエストの話に出てきた迷宮王の……」


「ああっ、ごめんなさいっ。助けていただいた身なのに自己紹介が遅れてしまいました」


 女の子は慌てて目深にかぶっていたローブのフードを下げ、その素顔の全体をあらわにする。

 見た目の年頃は中学生くらいか。背も小柄で普通に見る限りはどこにでもいる村娘Aに見える。


「私の名前はミルス・ミノス・ラブリュトス……えっと、名前が長いのでミルと愛称で呼んでくれると嬉しいです」


 見えるんだが、ちゃんと観察すると、やっぱりこの子は普通じゃなかった。

 銀糸のような綺麗な髪の毛から飛び出した一対の牝牛状のツノとエルフ族に似たとんがった両耳。

 亜人族ではない。まして人間でもない。

 この特徴を有しているのは魔族──それもかなりの高位種族のみのはず。


「祖父の魔界大公爵、『迷魔王ミヌス』の名代として、みなさんを迷魔城までお迎えにあがりました」


「祖父が迷魔王って、じゃあつまりキミは……?」


「はい、その孫娘にあたります。よろしければ『迷姫王ミル』とお呼びください。まだおじいさまに代わって魔王になりたての不束者ではありますが、よろしくおねがいします」


 運命の邂逅っていうのはなにが切っ掛けで起きるのか分からない。

 勇者と女魔王がいろいろあってカップリングなんて話は最近のラノベでは定番だ。

 しかし実際のファンタジー世界の旅でンなうまい話があるわけない。ボクはそう思っていた。


 思っていたんだけど、どうやらソレはコテコテのファンタジー全盛だった七年前までの話だったらしい。


 世の中には流行という時勢のムーブメントがある。ヒーローのあり方は特にそれが顕著だ。

 光と闇の善悪二言論はもう旧い。時代は既にイデオロギーの相違からのゆる~い闘争論が主流だ。


 ラスボスも倒すべき絶対悪から、もしかしたら分かり合えるかもしれない存在へと変わりつつある。

 故に「この我のものとなれ、勇者よ!」と、勇者と魔王が種や理念の壁を越えて和解に到り、にゃんにゃんする流れが新たな時代の波と共にこの世界に起こったって不思議じゃないのだ。


 これが──

 迷魔城の主にして魔界の公爵令嬢ミルと、のちに彼女に付き従う暗黒騎士となる勇者の最初の出逢いだった。 


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