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The Gold Carp"Wild Couger" ~その頃の大樹の聖女5~

         『命懸けで獲りにきて』


【黒木勇斗語録・閃乱カグラ -少女達の真影- キャッチコピー】

 とまぁ、なんやかんやはなんやかんやで、そのような一悶着があって。


「ミケちゃん、これが最後のチャンスと思いなさい。次はないわよ」


 お母様の『こんな優良物件を逃すアホがいるか』という剣幕に押し切られ、


「いちおう前向きに検討しとく……」


 なんて政治家にありがちな曖昧な表現で受け答えしちゃったんだけど。

 思えばハッキリと母親にNOといえなかったのは失敗だったかもしれない。


 言えなかったのはきっと自分でも内心で婚期に焦っていたからだと思う。

 この国の結婚適齢期は16歳。速ければ14歳で交尾する子もいる。

 ボクたち猫獣人が旅を好むのは男探しも目的のひとつにあるからだ。


 八年前、自分も未来の旦那様との出逢いを求めて旅をしてきたんだけど。

 結果を言えばロクすっぽチャンスに恵まれず、ズルズルといまに到る。

 この八年間、聖女としての仕事が忙しすぎて男どころじゃなかったし。

 んで異性の気配もないまま21歳にもなれば見事な行き遅れ。

 さすがにお母様がマジになって男を狩ってこいというのもいたしかたなし。


 鉄人くんかぁ……

 いささか無骨すぎるところはあるけどモノは悪くない。

 つきあいもいいし、ボクとタメはれる貴重な人材だし、出自も文句なし。


 異邦人で元神竜騎士となれば種としてもエリート中のエリート。

 ユートくんがあまりにもアレなので忘れがちだけど彼らは超良血なのだ。

 宿敵の地竜派という立場は少しネックではあるけど取り込む価値は十分。

 ボク自身も彼のことは嫌いじゃないし、気も合うし、ふむぅ……

 

「どうした。さっきから上の空だが、異世界の景色に急に不安になったか?」

「え? あ、そういうんじゃなくて、向こうに置いてきた仕事のことを少々」


「仕事のことは忘れろ。先代聖女からリフレッシュ休暇もらったんだろ?」

「なにそれ? 初耳なんだけど」


「お前の母親から娘に休暇与えたんでフォローしてあげてと頼まれたんだが」

「にゃにぃ!?」


 まさかの母親の過干渉! もう鉄人くんと直に接触してるのかい!

 なんという迂闊。そこまで鉄人くんに興味を抱いているとは誤算だった。

 自分の知らないところで親が外堀を埋めにかかってるとは。

 どうりでいともあっさり異世界旅行の許可が下りたわけだよ。


「あっ……あのね、鉄人くん。お母様がキミになにを言ったかは聞かないけど、

 妙なこと吹き込まれても本気にしないように。なにせボクの母親だから」


「どちらかというと、なんであんなに聖女らしい御屋敷ネコみたいな母親から、

 お前みたいな男勝りのドラネコが生まれたのか不思議でならんのだがな。

 公務でヘトヘトの娘のことを心配して気遣ってくれる立派な母親じゃないか」


 あー、ソウデスネー。

 うちの母親って外面だけはいいんだよねー。

 中身のほうは自分とどっこいどっこいな山猫ですけどねー。

 御屋敷で飼われてる御嬢様ネコは行きずりの冒険者を喰ったりしません。


「実際の話、おまえ連日の激務で疲れきってただろ。酒の量も増えてたしな。

 傍目にも心身がまずいところまでキテるのは分かってたし丁度いい機会だ。

 公務のことは忘れて異世界探訪を満喫しとけ。そのための案内人の俺だ」


「なーんか、どっちが保護観察官なのかわかりませんにゃー」


 鉄人くんにまで気遣われるなんて、そうとうストレスたまってたんだなぁ。

 やっぱりもうちょいサポートの下部組織の人員を増やすべきだと思う。

 これからは復興事業だけでなくダンジョン経営のほうにも力入れるんだし。


「また仕事のこと考えてるだろ」

「どうしてもね。こればっかりは職業病だからしょうがないよ」


「おまえってチャランポランに見えて意外と生真面目なところあるよな」

「腐ってもヒトクセもフタクセもある弟や妹を束ねる長女ですからにゃー」


 根っからのトラブルメイカーだけと公務はしっかりこなす性分なので。

 下の子たちへの面目もあるから聖女の仕事は真面目に取り組まないとね。

 大樹の聖女になってみて初めて分かる先代の母親の偉大さよ。

 当時といまじゃ情勢が違うとはいえ、四人の子供かかえてよくやるわ。


「鉄人くん」

「なんだ?」


 気遣われるのは悪い気はしないけど、ボクは女尊男卑のフォートリア人。

 男子に立場的アドバンテージを奪われるのは女傑として許されざる事態。

 あくまでコレは彼の監視のための同行であって慰安旅行などではない。

 このまま保護者面されても面白くないし、ここはひとつ篭絡の一手!


「ボクのこと、けっこうよくみてるんだね」

「おまえのお目付け役を院の連中と先代聖女に頼まれているからな」


 ここでちょっと一呼吸の間をおいて──


「えっち♪」 


 と、笑顔でペロリと舌を出し、ちょっとからかってみる。


「……………」


 鉄人くんはしばしの沈黙の後、


「くだらんこと言ってないで目的地に向かうぞ」


 冷淡に言い捨てて、くるりと身を翻してスタスタと歩いていった。


「むぅ」


 手ごわい。

 自分的に悪戯猫的な魅力で攻めてみたつもりなんだけど……

 ここまでバッサリやられるとなんか傷つくなぁ~っ。

 けっ、けっこう勇気出してガラにもない茶目っ気だしたんだよ!


 ユートくんなら分かりやすいくらいうろたえて顔真っ赤にするよ!

 せめて年頃の男子らしい健全なリアクションしようよ! ねぇ!

 あざとく胸の谷間がチラリと見えるポーズまでしたボクの立場は!

 ここでノーリアクションとか草食系男子を突き抜けて草か貴様は!


「キミには失望したよ……」

「なにがだ?」


 素の反応なのがまた辛い。


「なんでもない」


 ぷいっ。


「ったく、これだからネコってのは気まぐれで気難しくて苦手なんだ」


 無関心で不感症なキミも大概だとボクは思うよ。


「ボサっとしてるとおいていくぞ」

「あっ、ちょっと」


 このまま鉄人くんとはぐれるとシャレにならないのでボクは追いかける。

 ムスっとした顔で不機嫌オーラをビンビンにしても振り返りやしない。

 もうちょっとレディに対して紳士的な態度に出るべきだと思うよボクは。


「これからどうするの?」

「まずは最寄の駅だな。電車に乗って新横浜まで行き、新幹線に乗り換える。

 そっから四時間ほど揺られて広島駅へ。んでマツダスタジアムへ直行だ」


「デンシャって雷の力で動くトロッコだよね」

「ああ、向こうだと鉄道はまだ試作段階だからイメージわかねぇか」


 わきませんね。

 隣のドワーフ国では蒸気機関という魔法力を必要としない最新鋭の技術が

 流行中で、蒸気機関車なる超大型トロッコを建造中と耳にはしてるけど。

 それが具体的にどんなものなのかというとパッと絵が思い浮かばない。 


「シンカンセンって?」

「この国で一番速度の出るデンシャと思えばいい」


「どんくらい速いの?」

「おおよそ馬車の40倍。飛空艇の5倍ってところか」


「なにそれニホンこわい」

「世界に誇る日本の最新鋭技術の結晶だからな」


 多くの異邦人の出身地であるニホン。一度はいってみたかった。

 自分もエスティ経由でニホンの国の知識はそれなりに身に着けてる。

 でも本で知るのとナマで見るのでは大違いなのはどこでも同じ。

 見るもの感じるものすべてが新鮮で、情報量が多すぎてまとめきれない。

 いまの会話にしたって『なんか速い車』というイメージしかわかない。


 やっぱり異世界だここは。

 鉄人くんがいないと、まずなにをしていいのかも分からない。


「ふにゅぅ~」


 ボリボリ。


「落ち着かないのは分かるが、あんま帽子をいじくるな。正体がバレるぞ」

「そうはいってもにゃー」


 現在、自分はシャッにズボンに帽子というラフなカッコをしている。

 エスティに異世界でも違和感のない服を見立ててもらってきたんだけど、

 とにかくなにがなんでもネコミミとシッポだけは隠せと厳命されまして。


 ようはヒュームに化けて行動しろということなんだけど。

 こいつがまた頭と尻に違和感バリバリで落ち着かないのである。

 でも変身魔法なんて器用なマネは生粋の狩人の自分にはできないし。

 せいぜい帽子とズボンで強引にネコミミとシッポを隠す変装が精一杯。

 こういうとき長耳以外ヒュームと見た目が変わらないエルフが羨ましい。


「あと、幻想世界のセーヌリアスと違って現代の地球は極端に魔素が薄い。

 こっちでは魔法の大半がまともに使えず、スキルの概念もなきに等しい。

 素の身体能力と知識系以外のものは役に立たないと思って行動しろ」


「ユートくんも言ってた。聖竜騎士も日本に戻ったらただの人だって」


「あいつはこっちで役に立たない特殊スキルに特化しすぎなんだよ」


「それはいえてる」


 そのことを差し引いても……

 スキルや魔法がまともに使えない世界とかチーキューは不便だにゃー。

 それだけ神の庇護から独立した世界だって証明でもあるんだろうけど。

 世界そのものがスキル封じの結界に覆われているとかゾッとする。


 ソレ系のダンジョンに一度挑戦したことあるけど酷いもんだったなぁ。

 セーヌリアスの冒険者がいかにスキルにおんぶにだっこなのか実感した。

 自分も注意しないと。いつものつもりで無茶をしたら大怪我しそう。


「ドラネコ、日本語のほうはどうなんだ?」

「読み書きのほうはワ国の言語をベースにそれなりに」


 もともとひんがしのワ国はニホンジンが作った国だから言語も同じ。

 ただ四百年以上前のニホンジンが建国したんで似て非なるものなんだよね。

 そこはやはり持つべきものはエスティ。アニメと漫画でばっちり勉強した。


「会話のほうは? 俺は自動翻訳の力がこっちでも影響してるんで判別つかん」

「さすがに流暢とはいかないね。でもいざとなったらホンヤクコニャックで」


「数ある翻訳マジックアイテムの中で、なぜそれを選択するんだよ……」

「おさけだからという理由以外になにがある?」


 愚問である。


「目的地ことはちゃんと予習してあるんだろうな?」

「ふふん、ヒロシマっていう日本の領地のことでしょ? ぬかりはないよ」


 いきあたりばったりで出たとこ勝負の旅行もいいけど最低限の知識は必須。

 まして今回の旅の行き先は未知の塊である異世界ニホンなのだ。

 五里霧中の魔境の旅。例えるならストレンジディープジャーニー!

 いくら旅慣れているボクでもそれなりの準備をしておかないとね。


「でかける前日に『仁義なき戦い(翻訳版)』を全巻見てきたから!」


「……偏ってるな……」


 そうなの?

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