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The Gold Carp"Home Coming" ~その頃の大樹の聖女3~

       『変わる世界と、変わらぬ想い』


 【黒木勇斗語録・ラジアータストーリーズ キャッチコピー】

種子われわれは何処から来たのか 種子われわれは何花か 種子われわれは何処へ行くのか』


 これは民俗学研究者でもあった八代前の大樹の聖女が残した言葉である。

 大陸南方の天を貫くフォートリア最大の観光名所『世界樹』。

 国家のシンボルとなっている彼の大樹のルーツは実は謎に包まれている。


 この大陸から遠く離れた暗黒大陸から種が飛んできたという説もあれば、

 浮遊大陸の天空樹の実がここに落ちて亜種として芽吹いたという説もある。

 もしや異世界からやってきたのではなんてトンデモ説もあるくらいだ。

 ただひとつ言えることは、この世界樹がフォートリアの支柱だということ。


 古代ハイエルフ帝国が崩壊した頃に芽吹いたその世界樹は、人類の新時代の

 幕開けとともに在り続け、この地域がエルフと獣人で漠然と統治されていた

 オーニンの乱以降の戦国期から七央期、そしてフォートリア建国後の現在の

 聖王期に至る現在に渡って、我々の歴史と営みをジッと見届けてきた。


 樹齢千数百年に及び、浮遊大陸の天空樹に継いで世界二位の巨大さを誇り、

 大昔から七大神『森竜神』の御霊が宿る神体として祀られている世界樹は、

 我々南方の民たちにとって国家どころか種族の歴史そのものといってよく、

 大自然の恵みと子孫繁栄の象徴として南方の民に永らく愛され続けている。


 森竜神の御神体になるだけあってサイズだけでなく霊験もあらたか。

 さすがに天空樹のみたいに不老長寿の霊薬の素材になったりはしないし、

 葉っぱに死者蘇生の効果だとか、朝露に体力回復の効能とかもないけど、

 いざというときは国を守護する御神木として大活躍。


 八年前の大戦のときに結界を張るアンテナとして魔王軍の侵攻を止め、、

 国土の森林の三割近くを焼畑にしてくれやがった黒焔王の火計にも耐え、

 なによりも国民の戦意と士気を支える精神的支柱の役割が大きかった。

 もし世界樹がなければフォートリアは鉄機王と黒焔王の挟撃によって、

 滅亡まではいかなくても確実に焼け野原になっていたといわれてる。

 

 八年前に限らず、世界樹は幾度となくフォートリアの危機を救ってきた。

 森竜派の紋章やフォートリアの国旗のデザインに世界樹が使われているのも

 世界樹がそれだけ森竜神信仰とフォートリアの安泰に根を張っている証明。


 繁茂せよ。我らが愛する世界樹のように。

 繁殖せよ。木の実を絶やさぬ世界樹のように。

 繁栄せよ。大いなる新緑を我らに誇示する世界樹のように。 

 

 世界樹は今日も明日もこれからもフォートリアの歴史を見続ける。

 おそらくはその身が枯れ果てるか、南方の民族が滅亡するその日まで。

 なら世界樹は遠い未来でいったいなにを見るのだろう。


 大戦後という焼けた森の跡から新たに芽吹いた新世代の民たち。

 自分を含めて今まさに蕾になろうとしている我々は何を咲かすのか。

 そしてさらなる次代を産むための種をどれだけ大地に落とせるか。


 種を蒔き、種を芽吹かせ、そして次代の種を取り出して新たに蒔く。

 その埋めよ増やせよの繰り返しの果てになにが出来上がる?

 大豊作の国家の繁栄か? それとも連作障害による国家の衰退か。

 それは今現在の我々と、未来の子孫たちが決めること。


 などと──

 最近、子孫繁栄について深く考えさせられる事件がありました。


 ぼちぼち落葉の季節も終わり、あちこちに種が撒かれる闇竜の月。

 【大樹の聖女】タマ(21)。彼氏イナイ歴=実年齢。

 とうとう婚期を逃し行き遅れている件ついて親につっこまれるの巻。


「会って早々に人のキャラについてダメだしとかどういうことかなー」


 その日の親子の語らいは自分のボクキャラ否定から幕を上げた。


「だってミケちゃんも来月で22でしょ? さすがにもういいかげんに

 男の子みたいな格好で外を練り歩くのは無理があるなーって思って」


「んなこといわれたって僕の一人称は幼少期からコレで定着してるし」


 もとは聖女という堅苦しい仕事を押し付けられるのがたまらなくて、

 一般的な清純で清楚なイメージの聖女像からかけ離れたキャラクターを

 求めてボーイッシュな御転婆を気取ったのが現在の僕の始まり。


 幼少期は男の子とよく間違われる外見で、それも一因だったと思う。

 一人旅をするのにも男装していたほうがなにかと便利だったしね。

 あれからかなりの年月が経過して、さすがに体つきも女性のそれになり、

 胸とか骨格とかいろいろな部分で性別を偽るのにも無理がでてきたけど、

 一度定着したキャラ性が剥げ落ちることはなかなかないわけで。


「むしろボクキャラでない女の子らしい自分が想像できないわけで」


 外交や社交界なら一人称を私に切り替えたりで礼節は尊重するけど、

 そこでネコをかぶって淑女な自分を取り繕う気はまったくない。

 世間でも大衆や貴人が抱く自分のイメージはコレで固定されている。

 いまさらキャラ変えたら逆に御乱心めされたのかと心配されるよ。


「それ言いたいためにわざわざ下界に降りてきたわけじゃないよね?」


 母は現在、政治家としては引退して久しい隠居済みの身。

 僕が聖女になったばかりの頃は後見人と補佐官として手伝ってたけど、

 最近はすっかり政治から離れ、世界樹の管理業務に専念している。


 国政を主とする五院とは別で神殿が母体となっている世界樹管理局。

 ここもかなり大変なおしごとで、大樹の健康管理に剪定等の手入れ、

 木を食い荒らす害虫モンスターの討伐や、うろに築いた施設の維持、

 内部ダンジョンや世界樹登りに挑戦する冒険者たちの案内とサポート、

 観光客や露天商の相手、世界樹管理局はやることがいっぱいなのだ。

 ここの長は代々、引退した大樹の聖女が任することになっている。


 普段、世界樹の幹の内部にあるダンジョンに引き篭もって仕事してる

 局長が、わざわざこうして地上に降りて娘の前に顔を出す。

 ぶっちゃけイヤな予感しかしない。そして予感は大的中。


「んとね、お母様、そろそろミケちゃんに結婚してほしいなーって」


 いきなりド直球。


「だってもうミケちゃん22になるでしょ? 聖女になってからずっと

 仕事ばかりにかまけて浮いた話やオスっ気のひとつもないのが心配で」


「あーはいはいはい。そのテの縁談話はノーサンキューだって言ったよ」


 以前、近隣森の有力部族の息子さんとの縁談話を持ち掛けられたとき、

 ちょいとハメはずしすぎて酔っ払ったドサマギに大暴れして破談して、

 それ以降は見合い話のミの字もなかったというのに、ここにきてか。

 火元はもみ消したはずなんだけど、やっぱり山火事って再燃するのね。


「僕だって一応は旦那になる雄を見つけて家庭を持って、二人くらいは

 子供をこさえたいとは思ってるよ。でもさ、家庭を築く前に八年前の

 あの戦で傷ついた祖国を復興させることが最優先事項だと思うんだ。

 それに仮にも聖女が既婚で子持ちって、巫女としてのイメージがさぁ」


「お母様、聖女現役時代にもう二児の母でしたけど?」


「うぐっ」


「他の宗派はともかく、森竜派は巫女に処女性をあまり求めていないの。

 埋めよ増やせよ種を蒔け。むしろ神が子沢山を推奨しているというか。

 どちらかというとミケちゃんみたいな婚期を逃してる聖女のほうが、

 森竜神さま的にも『うわきっつ』だと思うの」


「ぐはぁっ」


 そうだった。

 森竜神さまが子供の守り神である母神なもんだから、うちの宗派って

 べつに貞潔さとか処女性とか神職で重要視してないんだった。


「ミケちゃん、この八年間で男性経験は?」


「怠ってました」


「あの聖竜騎士の子とうまくいくとおもってたのになぁ」


「冗談でもユートくんと結婚とかやめてくれるかな」


「あのね、お母様は本気ですよ。最近、あの聖竜騎士の子が異世界から

 帰還してフォートリアに来てるというじゃない。だったらご挨拶を」


「ほんっっっっっっっっっとにやめて!!!!」


 ユートくんはない。絶対にない。

 相棒とか悪友としてならともかく、恋愛関係とかカンベンしてにゃ。

 八年前も二人の関係は下町の悪童コンビという仲だったし。


 思えばエスティも似たようなこといってたなー。

 アレはダメな弟みたいなもんで異性として見るのはムリだって。

 わかる。すごいわかる。ユートくんって弟みたいな存在なんだよね。

 おにぎりくんにいたっては地元にもう許婚の幼馴染がいたしね。

 女三人に男二人の構成でパーティー恋愛がひとつもなかった不具合。


「お母様もね、なんとなく責任を感じているの。娘を大樹の聖女にして

 魔王に焼き払われた祖国の再生に奔走させて、ようやく森林の再生と

 都市部の復興事業が軌道に乗って、多少手がすいてきたと思ったら、

 もう長女は結婚適齢期をすぎた22歳。妹たちはとっくに他の部族に

 もらわれていって子持ちの母親になっているのにミケちゃんだけが」


「そこは仕事一筋のキャリアウーマンの悲しいところですにゃー」


 僕には一人の弟と三人の妹がいる。

 弟は二年前に草原の民の冒険者にゾッコンになって駆け落ち。

 いまは二児のパパになって嫁さんと一緒に遊牧民生活らしい。

 上二人の妹たちは森の有力部族のイケメンたちにもらわれていった。

 一番下の妹はまだ13歳で未婚だけど、あと二年もすれば立派な雌。

 そろそろ聖女の座を末っ子におしつけたいので現在裏工作中である。


「レンジャー訓練校の同期の子たちも全員結婚したっていうじゃない?

 お母様としてはね、もういいかげんに身を固めてもらいたいなって。

 このまま男を知らないで初体験の相手が鰹節なんてことになったら」


「ストップ! なんで芋や根野菜を飛び越えて、いきなり鰹節なの!?

 発情期のオトモにしたって鰹節は上級者向けすぎるでしょ!」


 つまるところ──


 お母様がわざわざ下界へ降りてきたのは、局内でのつたない世間話で

 自分の娘よりも年下の職員たちが妊娠報告や婚約報告をしてたのを

 聞いて、行かず後家な僕の状況が急に心配になったかららしい。

 

 僕には縁遠いけど、フォートリアの秋の終わり頃は結婚報告のピーク。

 夏から秋にかけては発情期のシーズンなので冬場に妊娠報告は定番。

 旅の男冒険者がフォートリアで行きずりの女に狩られるのも御約束。

 そんで男が責任とって事後承諾のデキ婚をするのもまた冬の風物詩だ。


「どこかにウチのミケちゃんを娶ってくれる男が転がってないかしら」


「さすがに道端に転がってるような男は御勘弁ねがいたいにゃー」


 このときまだ自分は察しきれていなかった。

 縁談ならこれまで何度もあったから、また見合い話かと甘く見てた。

 それだったらいつものように逃げるなり破談にすればいいだけ。


 ところがだ──


「そういえばミケちゃん、地竜騎士の人とのおつきあいは進展した?」


「ぶべしっっっっっ!」


 今回のお母様はシャレにならないくらい本気だった。


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