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The Gold Carp"Cat Predator" ~その頃の大樹の聖女2~

    「見つからないものを、見つけるために」


【黒木勇斗語録・ファイナルファンタジー9 キャッチコピー】

 大樹の聖女が神竜騎士とふたりきりで異世界観光。

 年頃の男女同士、異世界、二泊三日の旅、何も起きないはずもなく。

 フォートリアの国家元首が地元の政治ほったらかしてなにやっとんねん!

 と、自国民から総ツッコミされてもおかしくないこの現状。


 大樹の聖女のスケジュールは内政から外交に到るまで常にパンパン。

 八年前の大戦の後始末に、森林の復興事業に、王都とのおつきあい。

 やることは盛り沢山で補佐役である五院の仕事もとっくにパンク状態。

 おまけに『迷姫王ミルのダンジョン』という新規事業まで追加されて、

 この一ヶ月あまりの各部署はてんやわんやの大騒ぎ。


 当然、最高指導者ともなると下からの突き上げやら最終決断の圧力などで、

 ストレスも溜まるわけですわ。印鑑をポンと押すだけと思ったら大間違い。

 ある程度のお役所仕事は五院の院長たちに押し付けてなんとかできるけど、

 大樹の聖女である自分にしかやれない公務ってのがこれまた多くてね……


 酒、飲まずにはいられない! いや、特に忙しくなくても飲むんだけどね。

 そんな多忙な日々にブチ切れてボイゴットでもやらかそうかと思った矢先、

 『そういやあ地竜騎士ガッサーが司法取引で保釈されるのって明日だった』

 と、例の一件でうちらと手を組む交換条件で、故郷の異世界へ帰還できる

 特別釈放の約束を取り付けたことをふと思い出したのである。

 

 しっかしエスティのくれた魔法の札は効果覿面だったね。

 あのカタブツの鉄人くんが簡単に司法取引に応じてくれたんだもの。

 諸々の事情で元の世界に戻れなくなった異邦人が故郷に戻れる。

 魔法の札の内容は読み取れず不明のままだけど、とにかくあの魔法の札は

 彼に望郷の念を抱かせて取引に応じさせるのに十分な効果があった。

 彼の言っていた『ニホンシリーズ』とはいったいなんだったのだろう。


 でも、とんとん拍子に話が進んだとはいえ彼の釈放は問題だらけ。

 彼はまがりなりにも森竜神のライバルにあたる地竜神の尖兵。

 これまで彼は隣のドワーフ国家の地竜大神殿の工作員として所属しており、

 エージェントとして数々の公にできない諜報工作を行ってきた疑いがある。

 それをいきなりこちらが客分というカタチで囲いだしたとなると国交問題。


 ここでも政治のきったないきったないオトナのやりとりがございまして。

 国境侵犯と保護区破壊で逮捕した鉄人くんを外交カードに使ってみれば、

 向こうはトカゲのシッポ切りで知らぬ存ぜぬ煮るなり焼くなりドーゾとか

 言いだしてきて、こっちも『いらないならもらうわ』と快く承諾したけど、

 向こうは向こうで神殿の暗部を知る自分の手駒が掴まったことに恐々だし、

 こっちもこっちで捕まえた大モグラの飼育をどうしたものかと悩み中。


 なんせ鉄人くんは活躍こそ目立たなかったけど魔王退治の立役者の一人。

 神竜騎士の肩書きに偽りなしで、迂闊に躾けようとすれば手を咬まれる。

 なんたって彼はあの聖竜騎士ユートと互角の戦闘力を持つチート野郎。

 その気になれば国を揺るがす魔王よりタチの悪い敵に早変わりするので、

 院も彼を尋問して地竜派の弱みを聞き出そうとする手段にでられない。


 だけどこのまま釈放して野放しにもできない。

 大モグラの飼い殺しが最も最善策だが、それには彼の監視役が必要だ。

 地竜騎士に首輪をつけて、暴れる大モグラの手綱を握れる人材というと……

 とーぜん、消去法で僕に保護観察官のオハチが回ってくるわけで。

 最初、五院にこの話を押し付けられたときはふざけんなと思ったけど。


「じゃ、彼の保護者として引率に回るから明日一緒に異世界いってくるにゃ」


 と、彼の帰郷に合わせて公務ボイゴット発言したら、それ通っちゃって。

 発言した自分がキョトンとしているうちに二泊三日の里帰り異世界ツアーの

 手続きがつつがなく行われ、現在こうして久々のリフレッシュ休暇中。

 いや、僕もこの無茶ぶりが通っちゃったことにビックリしてるんですわ。


 地竜騎士ガッサーのブレーキとして僕を傍につけるのは理にかなってる。

 スパイ容疑で監視対象である鉄人くんを一人にさせるわけにはいかないし、

 そのまま不意に逃げられて帰ってこなかったなんてことになっても困る。

 実際、暴走した彼をなんとかできるのは僕かユートくんくらいしかいない。


 逆に僕を抑えられる人間としてクールな鉄人くんが適任という声もあって、

 聖女の護衛役も兼ねた相互監視の意味合いで組まされたフシもある。

 ただね、そういった外交的な一面とはまた別の意志も感じるんだにゃあ。


「ねぇねぇねぇねぇ、あれコンビニでしょ? 異世界の万屋でしょ?」

「あんまりキョロキョロすんな。田舎モンの馬鹿外人だと思われるぞ」


「ばっ、バカガイジンとはなにごとにゃ!」

「その『鰹節』とかプリントしてあるクソダサシャツを着たお前のことだよ」


「国民食を異世界言語にしてプリントしたハイセンスを馬鹿にされたー!」

「誰だよ……こいつに日本こっちの服装のコーディネートを指南したヤツは……」


「なんなら普段着にしてるソフトレザーアーマーに戻してもいいけど」

「こっちであの格好はやめろ。ハロウィンはとっくに終わってるんだ」


 これは裏になにかがある。

 歴戦の猫獣人の嗅覚を嘗めてはいけない。

 このシチュエーションにはうっすらと陰謀の臭いがする。

 名目上は脱走防止のお目付け役としてだけど……絶対になにかある!


 心当たりはあるのだ。

 ここ最近、鉄人くんとは仕事の愚痴を語り合う酒飲み仲間状態だったし。

 監視役として彼と行動をともにする僕を見る世間の目が生温かったし。

 昨日、半月ぶりに顔を見せた母親の発言があからさまに怪しかったし。


 そうだ──

 あのとき母親が吐いたあの発言だ。

 この状況、あの日のあの母親のあの会話が発端だとしか思えない。


「ねぇ、ミケちゃん」


 先代【大樹の聖女】にして我が母ブリティッシュ・ショートヘアが自分の

 仕事場にやってきたのは先日のこと、まだ抜けない二日酔いにグッタリと

 しながら無糖コーヒーを啜っていたコーヒーブレイクタイムのときだった。


 聖女を現役引退して隠遁中の母親が姿を見せるのは非常に珍しい。

 八年前に僕に聖女の座と女王の冠を渡してからは悠々自適な隠居生活で、

 普段は本職であるドルイド僧として世界樹の中で暮らしているんだけど、

 たまにネコの気まぐれで娘の様子を見に下界へ降りてくることがある。

 なお、この母親が娘の仕事場に訪れるときは大抵ロクなことがない。


「あのね、さすがに21歳にもなってボクキャラはイタいと思うの」

「ぶっっっっ!」


 およそ二週間ぶりの母と子の会話。

 ひっさびさに公の場に姿を見せた母親の開口一番がコレであった。

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