表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
133/177

La Pucelle"Life Fucking Game" ~その頃の火焔の聖女6~

     『お子様お断り! オトナのMMO RPG』


   【黒木勇斗語録・セブンソウルズ キャッチコピー】

「そういうわけでして異邦人のクロキナナコさんには、このフォートリアに

 現れた魔王の迷宮を攻略するというかたちで契約していただくんですが」


 VIPルームのテーブルで異邦人のあれこれについて説明する自分。

 テーブルの正面にはナナコさんがうんうんと渡された書類を眺めていて。

 自分の隣にはコワモテの兄ちゃんが腕組みしながら黙って座っていて。


 うーん、なんだろう。この荘厳さの欠片もないどっかでみたような光景。

 八年前にカガリさんをこちらに招いたときは火竜大神殿の大聖堂が舞台で、

 オババさまが大神官たちを背後で傅かせて仰々しくお迎えしたというのに。


 そのとき自分も聖女見習いとして召喚の儀に立会いをしていたんですが、

 いまここに烈火の勇士が来たれりと雰囲気ばっちりに語るオババさまと、

 神竜の幻影のみを地上に顕現させた火竜神さまの神々しさもあいまって、

 これぞ選ばれし異邦人の到来という熱いムードがそこにありました。


「まずは手始めに異邦人には召喚特典が与えられる決まりになってまして。

 現竜神さまからは自動的にこちらの世界の言語を理解する翻訳機能を。

 わたしくども火竜神サイドからは伝説の武器を代表とした神器の数々や、

 特別スキルや特殊クラスのどれか一つを選択で進呈させていただきます。

 どんな特典があるのかは、こちらに一覧表がありますので参照のほどを」


 事務的に丁寧に異世界の事情と今後についてのことを説明する自分。

 あれー? 自分でやってて、なんかものっそい違和感をおぼえる。


「最後にこの世界での身分を保証するため、冒険者ギルドの会員登録および

 冒険者カード発行が必須になりますので、手続きの準備ができしだい──」


 異邦人を迎えて使命を伝える重要なオープニングイベントのはずなのに。

 オババさまみたいに勇者に神託を授ける幻想的ムードをまるで感じない。

 自分のいまの姿って、異邦人に使命と導きを与える聖女というよりも……


「なんだか秋葉原で絵画詐欺業者エウリアンに契約迫られてるみたいですね~」


 うああああああああっ!

 これって完全にカモ相手に酒場で契約を交わすキャッチセールスだぁ!

 隣にいる神様が獲物を逃がさない用心棒にしか見えないからなおさらに。


「職業病だな」

「え?」


「オメェ、ギルドの受付嬢の仕事が板につきすぎて聖女の顔を忘れてんだろ」

「ぐはぁっ」


 ううっ、反論不可能っす。

 モロにギルド受付嬢の淡々とした事務的対応で説明をしてたっす。


「異邦人ナナコ、我の声が聞こえますか? 我は火焔の聖女クラテル」

「もう遅ぇよ」


 うああああん! 最初から説明をやりなおしたいぃぃぃぃっっ!


個神的こじんてきにはさっさと最低限の手続きして帰ってもらいたいんだが」

「使命を果たさないまま強制送還される異邦人なんてきいたことないっす」


 早いところ帰ってほしいというのは同感ですけど。


「まぁ~、帰れるのであれば一旦おうちに帰りたいというのはありますね~。

 コンロの火は消しましたけど、エアコンつけっぱなしで出ちゃいましたし、

 お夕飯までに帰らないと夫と娘も心配して警察沙汰になりかねませんし」


「それなら大丈夫だ。帰還の際は現竜神は空気読んで時間を巻き戻し……」


 と、いいかけて神様はコホンと咳払い。


「てくれると思うだろ。実際は向こうとこっちは同じ時間が流れていてよ、

 あんまり長居するとおめぇさんの息子みたいに行方不明騒ぎになるぞ」


 今、還したい一心で言いなおしたっすね。


「火竜神さま、巻き戻しってアレですか? 異世界転移英雄譚でよくある、

 元の世界に帰還をはたすと召喚直前のタイミングまで時間が戻っていて、

 今迄のは夢だったんだって思ったら手元に思い出の品があったとかいう」


 ヒソヒソ。ヒソヒソ。


「ちゃんと現竜神の正規手続きを踏んだ異邦人に限ってのサービスだがな。

 時空のひずみとか糞天使の裏技とかでこっちきたイレギュラーは対象外。

 このことは言うなよ。ホームシックかけさせたほうが還し……ぐっ!」


 いきなり神様が頭を抱えて黙り込んだのでビビリました。


「あのぉ、どうかなされたんですか? 獅子舞のおにいさん」

「獅子舞とな!?」

「あ~言われて見ると……」


 さすが天然。神をも畏れぬ超ド級の罰当たり発言。

 すみません、自分もちょっと似てると思ってました。

 だから荒ぶるクセっ毛なんだからロンゲはやめろと先代があれほど。


「ああ、いや……いきなり頭痛っつうか、直接脳内にメール送りつけられた

 っつうか、現竜神からダメ出しが来て、話があるからって呼び出しが……」


 言って神様は人生に疲れきったような死んだ目で立ち上がり、


「ちょっと席を外すわ。オフクロのとこに行ってナシつけてくる。

 三十分ぐらいで戻ってくるから、あとのことはクラテルに頼まぁ」


 フラフラとした足取りでVIPルームをでていった。


「オフクロって……めっちゃ素の言動だったっすね……」


 八大神の母である現竜神さまからダメ出しされて呼び出しとか。

 やっぱり異邦人システムに変な私情を入れると上から叱られるんだ。

 自分も異邦人の管理には気をつけないと。くわばらくわばら。


「あらあらあら、特典もいろいろあって目移りしちゃいますね~」


 あ。

 ってことは、このあと三十分ぐらい、自分とナナコさんの二人きり?

 あっ、ちょ、タンマ! 二人でもあっぷあっぷだったのにソロとか。

 火竜神さま! 押し付けないで! 見捨てないで! 逃げんなゴルァ!


「エクスカリバーにムラマサブレード。グングニルにレヴアンテイン。

 どれも正統派の伝説武器でいかにも冒険ってかんじでワクワクします。

 まぁまぁ、エレナの聖釘やキリストの聖杯とかの補助枠の神器まで。

 武器もいいですが特殊スキルのほうも便利なのが多くて悩みますね~。

 【超耐性】【超幸運】【超蘇生】【超火属性】とかいかにもですね。

 あらあら~、クラスは最初から最上級職が選択可能なんですかぁ~」


 瞳をキラキラ輝かせながらリストをガン見しているナナコさん。

 あぁ~っ、気付いちゃった。

 この人、悪い意味でユートさんとエスティエル先輩の上位互換だ。

 夢見る乙女という体を繕う、慢性的にこじらせた重篤の中二病。


 ダメだ。こういうタイプに強大なチカラを与えちゃいけない。

 中二病が中二なチート能力を持つとソノ気になって本物以上になる。

 竜殺しの神竜騎士になって神殺し寸前までいったユートさんみたいに、

 英雄ごっこのパチモノが本物を凌駕する英雄以上のナニカに豹変する。

 ここはひとつなるべくだけ被害の少なそうな特典を選んでもらって。


「なんでしたら【超美肌】とかどうっすか? アンチエイジングっすよ」


「ん~っ、悪くはないですね~。でもおかあさん、いまのままでも十分に

 お肌がピチピチだし、菜々子さんはほんと肌年齢が若いですね~って、

 通いのエステの先生にも褒められちゃってますから~いらないかな~。

 もうじき43になりますけど、まだ制服着ればJKで通用しますよ~☆」


 よっ、43……!?


「エルフの血でも混じってるんじゃないかってくらい若作りっすね」


 魔術や神の加護もなしにその若さを維持って。

 さすがにもうそこまでいくと妖怪神仙の類なんじゃ……


「ええ、前に天使ちゃんが送ってきてくれた化粧品の効果なんですよ~。

 こちらには上質な化粧品があるんですね。【天空樹の雫】でしたっけ?

 それを塗ったらシミも小じわも消えて『お肌っゃっゃ』になりまして~」


「…………」


 エスティエル先輩。

 それって浮遊大陸に根を張る天空樹が数百年に一度だけ実らせる黄金の実

 から生成された、一口飲めば十年は寿命が延びるっていう霊薬ですよね。

 古代七央時代、不老不死を求める各国の王が天から落ちた黄金の実を巡り

 大戦争かまして、軍事大国を三つ四つばかり滅亡させる原因を作った件で

 有名になった『天空樹の雫』っすよね? なにあげてんですかもうっ!


 しかもこの人、飲薬なのに肌に塗ってるし。さらに別の効果を見せてるし。

 飲まずに肌に塗ったら肉体が若返るとか文献にも載ってないんですけど。

 天然の暴挙というか異世界人ってこちらの常識の斜め上をいってて怖い。

 あと天空樹の雫を求めて争った古代七央の王様がた、なんかスイマセン。


「特殊勇者クラスに神竜騎士ってありますね。これがユーくんがやってた

 最上級クラスなんですね。それならおかあさんもなってみようかしら~」


 うわぁ、一番選んじゃいけないのに目を向けましたよこの人は!

 止めないと。なんとしてでもナナコさんが神竜騎士になるのは止める。

 理解しろ自分! 彼女の心理を読み取って先回りして誘導するんす!

 彼女の第二の人生ゲームの駒をなるべくだけ波を立てないルートへ。

 賽は投げられた! 異邦人の進路をどう調整するかが聖女の腕の──


「ふむふむ、タンクの重装備型とバランスの軽装備型があるんですか~。

 最近は露出が少なめで重装備のくっコロさんタイプが増えましたけど、

 やっぱり女戦士とかいうとわたしの時代はビキニアーマー主体でした。

 ビキニアーマーを一般層に定着させた鳥山明先生はやはり偉大ですね~。

 小学生時代、夢幻戦士ヴァリスとか幻夢戦記レダが好きだったんですよ。

 ヒロイックファンタジーっていうんですか? プリキュアとまた違って、

 なんかこうエッチなんですけどグッとくる熱いものがあるんですよ~!

 なんでしたらドリームハンター麗夢くらい露出を上げるのもOKですよ。

 あ、でも火属性限定なら魔物ハンター妖子みたいな中華風もいいかも。

 ん~、でもそれならユーくんを影ながら見守る謎の人妻仮面という設定で

 美少女仮面ポワトリンみたいな特撮風で攻めるのもアリなのかしら~?」


 …………


「お色毛路線で勝負するならグラブルのセージみたいにバニーガールっぽい

 ハイレグスーツにするのもいいですよね。おっぱいに自信ありますから☆

 あっ、それだったら『魔法少女』のクラスも選択肢に入るのでしょうか。

 ミンキーモモとかクリーミーマミみたいな路線もアリかもしれませんね♪

 えっと、クラテルちゃんは、どんな装備がわたしに似合うと思います?」


 ナナコさんは次のステップに向けてウキウキしながらサイコロを投げ──


「スキニシタライインジャナイカナー」


 わたしは匙を投げた。

アラフォーディメンション!

それは平成生まれにはワケワカメな昭和臭漂う異次元空間。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ