La Pucelle"Second Life Online" ~その頃の火焔の聖女5~
『本物の人生、始まる!』
【黒木勇斗語録・リネージュⅡ キャッチコピー】
【何故ここに転送されたかおわかりになりますでしょうか?】
聖女のおしごとには召喚した異邦人のケアも含まれています。
わけもわからず異世界に飛ばされた漂流者に知恵を与える役目。
右も左も分からない異世界の道しるべとして使命を授ける役目。
異邦人が前向きに魔王討伐に励んでくれるよう煽てて乗せる役目。
とりあえず自分の最初の仕事は、異邦人に現状の詳細を伝えること。
──だったんですが。
「母親のわたしがこう言うのも子煩悩みたいで恥ずかしいんですけど~、
ユーくんはやればちゃんとできる子だっておかあさんは信じてました。
だってあの子、14歳で魔王を倒して世界を平和にしたんですよね?
あの家でゲームばかりして友達もほとんどいなかったあのユーくんが、
女の子の友人を三人も作って、しかもすぐ怠けるあの子が勇者として
ちゃんと一年も頑張って冒険の旅を続けていたなんてビックリですよ。
思えばユーくんには悪いことをしました。一年近く行方不明になって、
ひょっこり帰ってきたと思えばファンタジーな異世界でドラゴン退治を
してきたなんて自慢するものだから、とうとうゲームとリアルの区別が
つかなくなって、あっぱらぱーになっちゃったと思い込んでしまって。
精神科医の先生も神隠し事件に巻き込まれた恐怖を誤魔化す自己防衛で
息子さんは勇者ごっこの非現実的な妄想に囚われたと診断されまして、
世間体もあって夫ともども息子の言葉を信じきれず……ヨヨヨヨヨ……」
この人、こっちの話をちっとも聞きやしない。
「その翌年に天使ちゃんが空から降って来ましてね、驚きましたよ。
夫婦で『親方ァ、空から女の子が!』ってリアルで言ってしまいました。
そのときになってようやく、わたしも夫も『あ~っ』って察したんですが、
もうときすでに御寿司で、ユーくんもすっかり人間不信になっちゃってて。
でもでも、ユーくんはそれでも頑張ったんです! リアルのオトモダチこそ
あまり作れませんでしたけど、ネットゲームではギルドマスターやったりで
潜在的なコミュ能力は高いと思うんです。ユーくんのトモダチも猛者揃いで
サーバー最大のハイパーノートリアスモンスター討伐隊のリーダーに幹部、
業界では有名な、サービス開始以来一度もログアウトしたことがない勇者、
フレンド200人いる人望の持ち主、仕事辞めて全ジョブカンストした人、
他に挙げたらきりが無いんですけれど~、そうそうたるいかれたメンバーで
総勢30人を超えていたそうなんです。狩れないモンスターはもはやいない
だろうといわれた最強集団ですよ。ソロで神クラスを狩った方もいるとか。
ギルメンたちも皇帝、四天王、10傑(わたし含む)、3本柱など超一流。
なによりも凄いのは、全員ゲーム内の活動をぶっ通しで何日も可能なこと。
リアル予定があって……なんて不届きものは一人もいなかったそうですよ☆
はっきり言って、ユーくんが声を掛ければサーバーの日本プレイヤーたちの
半数以上が動くのではないかと言われてたんです。影響力パないですよね。
四天王のみなさんは中華や北米にも顔が利いて、ユーくん自身も……」
口を開けば息子自慢。
「ああ、ごめんなさいね。ユーくんのことばかりおはなししてしまって……
わたしが抽選でファンタジー世界に召喚されたというおはなしでしたよね。
本当にありがとうございます。こういう世界を体験するの夢だったんです。
こう見えてもわたし、主婦の傍らゲーマーも嗜んでまして、小学生時代に
ファミコンにハマってから30年、様々なRPGを経験してきたんですよ。
古典のウィザードリィ系から最近のテイルズ系までなんでもござれです。
ユーくんにはナイショにしてましたがネトゲもいくつもやってたんですよ。
ウルティマオンラインに始まり、ラグナロクにFF11にPSOと幅広く。
ライトノベルにも造詣が深いですよ。ロードス島戦記で人生を踏み外して、
スレイヤーズとかフォーチュンクエストとかオーフェンとかいろいろと。
そうそう知ってますか? わたしが中学に入学するまえに読み始めた名作
アルスラーン戦記が連載開始31年目にして最終回を迎えたんですよ~!
こち亀もそうでしたけど、まさか作者が存命のうちに終わるとはビックリ。
青春とともにあった長編作品が終わりを迎えると、一時代の終焉というか、
あ~わたしもトシとっちゃったな~って、ふと思ってしまうわけでして~。
ああ、天使ちゃんのこと御存知でしたら『ドージンシ』ってわかりますか?
実はわたし、中高時代は晴海のコミケで同人作家をやっていたんですよ~!
あの頃は若かったわ~。聖闘士☆矢とかサムライトルーパーにドハマリで、
美少年同士のくんずほぐれつな『やおい本』を稚拙な絵で描いたものです。
ファンロードに投稿して新婚さんシリーズの常連になったのも思い出です。
思えば夫と出会ったのも、晴海C館でやってた3DOの御披露目ブースで」
テンションあがれば自分語り。
「もういっそのことウチの夫もこちらの異世界に召喚してはどうでしょうか。
夫婦二人で中世ファンタジー風の世界を冒険とかロマンが溢れますよね~。
最近はおっさんスローライフものが流行してますし、夫も一見すると堅物の
サラリーマンに見えますが実は生粋の軍オタにしてサバゲーマニアでして、
ゴルフとかマージャンなどの一般的な社会人の嗜みなんてそっちのけで、
若い子といっしょに社会人サバゲー大会にも積極的に参加してるんです。
夫の部屋はもうグレネードランチャーやらガトリグガンやらの重火器から、
十数万するトレポンからウッドストックの骨董にいたるまで武器庫状態で、
ユーくんが行方不明になったあと警察に自宅を捜索されたときの夫ったら、
なんか警察のみなさんにテロリストと勘違いをされたらしくてウフフ……
刑事さんが夫の部屋を見たときの凍りついた顔、今でも忘れられません☆」
んでもって油断すると旦那自慢に派生する。
「……ゲンナリ……」
「すいません……ちょっと休憩させてくださいっす」
ナナコさんの連続魔ばりのトークにゲッソリする自分と神様。
「あらあら、ごめんなさいね。ついつい一人で話し込んでしまって~」
ほんとですわ。
なんでこういう趣味人は自分の得意分野になると饒舌になるのか。
おまけに固有名詞ばかりでなにをいっているのかサッパリでした。
エスティエル先輩ならわかるのかなー。今の謎言語だらけの会話。
「アンタが聖竜騎士ユートの母親だってことだけはよくわかったわ」
「両親からしてコレっすからね。まさに混ぜるな危険っすよ」
親も親なら子も子というか、血統書付きのハイブリッドって怖い。
危険な配合で爆発力狙い特化にもほどがあるんじゃないんすかね。
「もう娘のハルちゃんも呼ぼうかしら。家族で大冒険してみたいし」
おい、いまなんつった?
「ユーくんほどではないですけど、娘もなかなかの逸材なんですよ。
来年で14歳になるので精神的にも香ばしい時期に入ってまして☆
いままさに中二病真っ盛りな灼熱のとき。黒歴史大量生産の思春期。
きっとこちらに来たら素薔薇しい勇者になれると思うんです」
「ちょっ、まっっっっっ」
「アンタんとこ娘もいんのかよ!???」
こわい! この血族マジでこわい!
ユートさんと十歳近く年下の妹というのがまた闇が深い。
間違っても召喚しないようにしよう。破滅が目に見えてるっす。
「それにしても不思議なこともあるものですね。まだ現実感ないです。
夕飯の支度中に材料が足りないのに気がついて、近くのスーパーまで
野菜を買いに行って、帰り道に近道をしようと思って裏道を使ったら
知らない通路に入って、本棚だらけの図書室みたいな場所に着いて、
そこで『通常攻撃が全体攻撃で二回攻撃のお母さんは好きですか』を
読んでいる不思議な三つ編みメガネの文学少女に出会いまして~☆
いきなり『あなたは異世界を救う戦士に選ばれました』って言われて
ヒューンってボッシュートされて~。気がついたらここにいて~。
まさか四十路をすぎて異世界転移とか人生って面白いものですね~☆」
「火竜神さま、その三つ編みメガネの女の人って」
「ああ、時の大神『現竜神』のことだろうよ」
「前回の異邦人のカガリさんは焼け落ちそうな城の中で姫に逢ったって」
「現竜神は現と夢の神だ。その人間の心象によって姿形を変えんだよ」
うわー、それじゃあやっぱり正規ルートで来たんだこの人。
「あー、じゃあ、ぼちぼち本題にはいりましょうか」
「つーか気が滅入ってきてるんで冷たい飲み物くれや」
ちなみにまだ話の一割も終わっていない。
1980年代というオタク産業の黄金期。晴海埠頭というオタクの聖地。
ジャンプ・ファミコン・富士見ファンタジアと角川スニーカーの流行。
バブル時代も重なり、サブカルチャーが急成長した時代でありました。
なお、その青春時代を謳歌した世代は就職氷河期で地獄を見た模様……