La Pucelle"Letter of Invitation" ~その頃の火焔の聖女3~
はじめてなのになつかしい、そんな旅に出会えるの
【黒木勇斗語録・ポケットモンスター金銀 キャッチコピー】
文明的にも思想的にも我々より優れた異世界人をセーヌリアスに招聘して、
勇者様だの救世主様だのと煽てて祭り上げて対魔王軍の決戦兵器にする。
この他力本願丸出しシステムが確立されたのはおよそ二千年前くらい前。
どこぞのヤンキー火竜神が、占領した支配区域に闘技場をおったてて市民を
剣闘奴隷にしていた当時の魔王の永年王者ヅラが気に入らなかったらしく。
そんならイキのいいヤツを送りつけてやんよ! と、ほとんど言いがかりの
レベルでスパルタカスとかいう異世界のヤベー戦闘民族の勇者を派遣して、
見事に魔王の首を討ち取らせちゃったというのが事のおこりだったらしい。
ほんとになにやらかしてくれてんすかねー。うちのチンピラゴボウは。
といっても、古代の地上の民は情けないくらい弱かったからしかたない。
原初の人類から派生した地上の民が、突然変異的に誕生したハイエルフに
蹂躙されて三等市民の奴隷種族として支配されること四千年あまり。
おおよそ二千年前にハイエルフの古代帝国が崩壊して一種族として独立し、
戦国時代に入ってやっと奴隷階級の原始人から比較的マシな水準になって、
それでもまだ雑魚魔王クラスでも容易に地上支配できちゃう戦闘レベル。
ハイエルフの超魔術文明がロストテクノロジーになったのも大きい。
魔術があればなんでもできていた時代だから、文明の利器を軽視していて、
当時の人間は魔術がなければ鉄器文明すら知らないクソザコナメクジ。
ドワーフたちが永く秘匿していた魔術を使用しない鉄器武器の製造法が、
戦乱期の最中に流布されたことを皮切りに、やっとこさ剣の時代の到来。
この時点でもう異世界とは文明レベルが四千年以上も遅れていたらしい。
しかもこのドワーフの秘伝自体、大昔に次元のひずみから迷い込んできた
『ひったいと』とかいう異世界人が彼らに伝授したという説があって……
まぁ、こっちもこっちで時空のひずみに巻き込まれて異世界に渡った人が、
向こうに魔術や錬金術の理論を伝えて伝説化してるんでおあいこですが。
異世界の文献にこっちのモンスターの伝承があると地味にビックリします。
なので貧弱な地上の民だけに地上を守らせるのは不安でしょうがないと、
神々は厳正な協議の結果、魔王軍の地上侵攻が本気で超ヤバイときに限り、
異世界人を派遣するという現在の異邦人召喚システムが出来上がりました。
厳正というわりには召喚基準がガバガバで問題だらけだったんすけどね。
うちのバカが織田信長とかいう武将を召喚して世を大混乱させたりとかね。
そこは神様のおおらかさというかおおざっぱさゆえの過ちというか……
「にぃ~ん~げぇ~ん~♪ ごぉ・じゅぅ・うぅ・ねぇ・ん~っ♪」
「召喚陣のセッティングしながらヘンな歌を口ずさまないでください」
「ンだよ。アツモリぐらい歌わせろよ。オレのオキニの歌なんだからよ」
「ええ、それ歌ってた織田信長は火竜神さまオキニの異邦人でしたもんね」
いやほんとスミマセン。真面目に他七大神の皆様にはもうしわけなく。
このバカのせいで、危うく大陸全土が異世界人に支配されるとこでした。
明智光秀という異世界の武将を召喚して火消しさせた風竜神マジパナイ。
そういうわけで異世界人の召喚は特効薬であると同時にかなりの劇薬。
取り扱いを間違うと魔王退治を突き抜けて地上のバランスをおかしくする。
「あーちーちー♪ あーちーっ♪ 燃えてるんだぁー廊下ぁー♪」
「おめぇだってウキウキしながら信長の歌を口ずさんでんじゃねーか」
「光秀に拠点を焼かれたとき歌った『火炎属性付与』は傑作っすよ」
「五百年近く経過してもネタ枠で吟遊詩人に愛され続ける名曲だわな」
そのため最近は状況ごとに縛りを設けて召喚の儀を行うのが通例。
理想的なのは15歳~18歳くらいで社会に出ていない異世界人。
これくらいが肉体的に成熟してて、精神も未熟で操縦しやすいそうで。
しかも大人じゃないから下手な異世界知識を使って余計なことをしない。
ほんとにヤバいんですよ。大人の異世界人をこっちに召喚するのは。
七十年ぐらい前でしたっけ、うちのバカが当時の魔王軍の対抗策として
ハンス・ウルリッヒ・ルーデルとかいう異世界の軍人をつれてきたの。
その軍人さん、三日で魔王軍を壊滅させて召喚した先々代も顔真っ青。
だってその魔王ご自慢の戦車部隊一師団をたった一騎で壊滅なんだもの。
戦車だって異邦人の知恵で生み出された最新鋭のチート兵器だったのに、
一騎ですよ一騎。ツスーカとかいう空を飛ぶ鉄の小船で一方的な大虐殺。
いまだに魔界で『魔王ルーデル』といわれてますもんね。チートすぎる。
その人、後に飛空艇の規範となる戦闘機知識までドワーフに残してくれて、
またもや地上の軍事バランスをしっちゃかにしてくれやがりましたよもう。
祖国が心配だってことで早々に異世界に帰還してくれたからよかったけど、
つくづくうちの火竜神はロクでもないのばっかり召喚してくれる……
前回の大戦のときは複数人の同時召喚をしなきゃいけない事態だったので、
異邦人の召喚には15歳以上厳禁のかなり厳しい年齢制限を決めてたとか。
そこまで縛っても、そこそこに文化的な猛毒が蔓延してくれましたけどね。
だいたい深淵の聖女が呼んだ異邦人と、エスト先輩が呼んだアレのせい。
そういうわけで、異世界人の召喚を執り行う聖女の責任は重い。
召喚される異邦人はランダム。条件の設定は可能でもそこからは無作為。
性別の云々、人格面のあれこれ、有能か無能かは、聖女の運が試される。
先代のオババさまは豪運でした。無難で安定した人材を引きましたから。
自分の引きはどうだろうか。正直、自分はあまり籤運がいいほうではない。
地上の秩序を掻き乱すトンデモな人材を引いたらどうしようという恐怖。
いや、さすがに織田信長はチートすぎた。あんなのはそうそうないはず。
うん、安心しろ自分。むしろハズレを引きやすい不運体質を信じて祈れ。
うちのチンピラが悪い顔して火種を撒くつもりなら無能枠のほうがいい。
ミルちゃんのダンジョンはまだ未完成。大火事にはしたくないのが本音。
ここはよわっちいハズレ異邦人を召喚して、お茶を濁すオチにしたい。
「うーし、召喚陣のセット完了。ややテキトーだがこんなんでいいだろう」
パンパンと手のホコリをたたきながら火竜神さまが言う。
「ほんと床にチョークで式記号を描いただけのテキトーな召喚陣っすね」
「いいんだよテキトーで。大神殿の厳かな召喚儀式はやりすぎなんだよ」
通常、異邦人の召喚は大神官たちも立ち会う大掛かりな儀式が通例。
設備をちゃんと儀礼にのっとった手順で用意し、立ち会う神官たちも
三日三晩の禊の修練を執り行い、そこからさらに面倒な手続きを経て、
だいたい一週間かけて下準備が行われるとオババさまから聞いてます。
異世界の戦士を招聘する儀式なんだから、そこは厳かムードでないと。
「んじゃ、準備もできたし、ぼちぼちはじめっか」
「自分、こんな即席の陣でも異邦人召喚できるって初めて知ったっす……」
なのに今回の召喚の儀ときたら、椅子とテーブルを端っこに寄せて、
部屋の中央にチョークで召喚陣を描いて神の石をポンとおいただけの、
子供のゴッコあそびか何かかと言われても反論できないお手軽な仕様。
いいんすか? 悪魔召喚儀式だって、もうちょっとマシな出来っすよ。
「検索条件の縛りは入れたか?」
「通例の15~18歳。日本人を優先に。ってセットをしたっすよ」
「無難だな。とはいえ神の石が古いからな。もしかしたら事故るかもな」
「召喚事故とか怖いこといわないでほしいっす」
向こうの世界の歴史的英雄とか呼び出されても扱いきれませんよ。
「異世界人の召喚のやりかたくらいは知ってんだろ?」
「オババさまからいちおうは」
「んじゃ、いくぞ。召喚陣中央にある神の石に意識を集中しろ」
「はいっす」
儀式の手順は簡単。
聖女が担当の神と一緒に召喚の間に立って神の石に祝詞を唱えるだけ。
あとは自動的に世界の境界を司る『時の大神』が人材をよこしてくる。
自分たちは運命に導かれてこの地に流れ着く異邦人の到来を待つのみ。
召喚される異世界人はアタリかハズレか。それは神にすらわからない。
「…………」
「…………」
召喚の祝詞を唱え終えて一分ほど。
「なんもおきないっすね」
「多少のタイムラグはしゃあねぇやな。時の大神にも都合ってのがある」
ああ、召喚対象が人前で急に消失したりして大騒ぎにならないように、
わりと空気を読んだタイミングで異邦人を召喚するみたいっすね。
ふと裏路地に入り込んだときとか、馬なしの車にひかれる寸前だとか。
向こうからしたら神隠しっすからね。自然な行方不明を演出しないと。
「ちゃんと召喚陣から現れてくれるといいんすけどね」
「たまに座標ミスでヘンなとこに落ちる場合があるらしいな」
光竜神が召喚した異邦人ハカナはそうだったみたいっすね。
たまたま偶然ディーンと出会えたおかげで事なきだったらしいっすけど。
一歩間違えば野盗や獣に襲われて神の石の使い損になるところでした。
ユートさんも頭から地面に突き刺さっていたのを村人に発見されたとか。
それって、彼独自のギャグ補正がなかったら死んでる案件っすよね……
「お、召喚陣が反応をはじめたな。そろそろくんぞ。迎えの準備しろ」
「ういっす」
三分くらいして鈍く輝きだす召喚陣。
召喚の儀は無事に行われたらしい。劣化した触媒だったけど動作は正常。
あとは、なにがでるかな、なにがでるかな、鬼が出るか蛇がでるか。
「「うぉっ、まぶしっ」」
数回の明滅を経て、一気に召喚陣から立ち上るまばゆいばかりの光の柱。
自分と火竜神さまは、手で目を覆いながら事の成り行きを見守り続ける。
いよいよ時空を超えて異世界の勇者候補がやってくる!
「???」
光の柱が消え、時空転移の暴風が止み、VIPルームに静寂が訪れる。
召喚陣の中央には、呆けた顔で座り込む異世界装束に身を包んだ女性が。
年のころは二十歳そこそこ? その右手には野菜いっぱいの買い物カゴ。
たぶん夕飯の材料の買出しの帰り道で召喚されたのだろう。
「あらあらあら?」
その姿は──
「まぁまぁまぁ☆」
誰がどう見ても主婦でした。
「クラテル、再挑戦よろしく」
「できませんよ」
おもいっきり召喚事故だこれーーーーーーーー!!!
なろうのアンケートに参加してみました。
作品の評価項目が最終話にしか出てこない長期連載に不利な仕様、
改善の要望を送りましたが、ほんとになんとかならないものか。