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He is what is called a champion of justice ~ヒューッ~

このドレイたちは ちょうど

君と 同い年くらいだよね。

おぼえておくんだな。

世界には 同い年でも こういう

生活をしてる人が いるってことを。


自分が彼らの立場になったらと思うと ぞっとするよ。

でも今のオレは人の気持ちを考えるより 自分が生きることでせいいっぱいなんだ。


【黒木勇斗語録・ガイア幻想紀 奴隷市場フリージア】

 英雄ヒーローには黄金パターンと言って差し支えない王道がある。

 弱きを助けて強気を挫く! 旧き時代より続くこのお題目は、紛れもなく古から綿々と受け継がれる伝統の道。


 外道勇者や極道勇者などの亜流が稀に流行ることもあるけど、それらもまた王道があってのもの。

 だから正義の味方は勧善懲悪であらねばならない。スーパーヒーローは心に愛がなければならない。

 救わねばならない弱きモノ。倒さなければならない邪悪な敵。正義を貫徹するための大いなる力。

 これらがあって英雄ヒーローは初めて輝く。


 力なき正義は駑馬にも劣り、敵のいない英雄は無用の長物。世の中なんてそんなもの。

 だからボクたちヒーローは倒すべき敵の存在に餓えている。悪という試金石を存在意義として求めている。

 世界が平和であることを望みながら、力をふるえる獲物わるものの登場を望んでいるというこの矛盾。

 その矛盾に潜む真意ははたして善か悪か。正義なのか悪なのか。あるいはもっと単純な利権問題なのか。

 鶏が先か卵が先か。さぁ、丁か半か張った張った。願いましては──


 とまぁ、八年前の冒険の最中にボクはあるダークヒーローと正義とはなんぞやという問答をしたことがあって、先ほどのように小難しく王道に基づく正義の善悪論についていろいろ思考した時期があったんだけど……

 結局、たかが中坊のボクが哲学的な結論に到れるわけがなく、行き着いた結論はしごく単純なものだった。


 自身が夢見るヒーローのシチュエーションが満たせるイベントがあればそれでよし!


 バカでしょ? しかしコレこそヒロイズムの真理だ。


 悪漢からヒロインを救い出してお近づきになりたい。魔王を倒して有名になりたい。金銀財宝を掘り当てたい。

 愛とか正義とか二の次で、とにかくヒーローとして人々に拍手喝采を受ける偉業を成し遂げたい。

 なんだかんだと正義だの愛だのと口当たりのよい言葉を並べても、最終的にはコレに尽きるのである!


 ちなみに大人になった現在でも、このヒーロー的喝采願望の持論は変わってない。

 だからこうやって遠くから女の子の悲鳴が聞こえてきようものなら、それこそ一足飛びで現場へ駆けつける!


 匂うぞ匂うぞ。コテコテの人助けイベントの匂いが。

 かぐわしいヒロインの香りと三流悪役の臭いが。

 

「ちょっとニートさん! わたしたちを置いて勝手に奥に行かないでください~っ!」


「つうかユートくん足早すぎ! なんでこういうときだけレンジャーの僕より森の中を走るの速いの!?」


 おいてけぼりをくった二人の声が繁茂したツタの先から聞こえてくる。


「ボクが来るのがちぃと速すぎたかい? 自慢じゃあないがボクは100メートルを5秒フラットで走れるんだ」


 悪いね。ヒーロー魂に火がついたときのボクは、謎の熱血パワーで身体能力に割り増しのブーストが入るんだ。

 ましてこんな美味しい場面、あの二人に横取りされてはたまらない。あいつら空気を読まないし。

 草を掻き分け、木々を抜け、本能の赴くままに向かったその先には──


「へっへっへっ、御嬢ちゃん。こんなところで花摘みかい?」

「いけねぇなぁ。このあたりはこわーいおじさんたちがいるあぶないところだってのによぉ」

「フヒッ、お兄さんたちがこれから安全なところにつれていってあげるよぉ~」


 案の定、これ見よがしに「オレたちは野盗でござい」と全身全霊でアピールするゴロツキが三人。

 さらに彼らの下卑た視線の先には腰を抜かしてへたりこむローブ姿の女の子。

 うーん、どこに出しても恥ずかしくない、英雄譚を絵に描いたような暴漢イベントだ。


 もちろん、こんな美味そうなモノを目の前にして「そっとしておこう」とか「このまま見ているのも悪くないな」なんていう18歳未満お断り向けの選択肢はボクの辞書に存在しない。


 こういうときは【たすけますか?】の質問に⇒『はい』にカーソルを動かして、即選択・即行動・即実戦。


「はい、そこまでー!」


 こっそりゴロツキたちの背後に忍び寄り、真ん中のゴロツキの後頭部に蹴り一発。


「えばらっ!」


 不意打ちからのバックスタブをまともに喰らい、哀れゴロツキAは顔面からぬかるみに突っ伏した。

 野盗Aの装備はミスリルの軽金属鎧に大鎌となかなかの良品質。たぶんこいつがリーダー格だろう。

 このテの連中は司令塔から真っ先に倒しておくに限る。泥パックを存分にお楽しみください。


「て、てめぇっ!」「なにをしやがるっ!」


 とりまきのゴロツキBとCがようやくボクの存在に気が付き、その視線を女の子から自分に向けた。


「そのへんでやめときなオッサン。そっから先は成人向けコースだ。ボウヤ向けの冒険小説には刺激が強すぎる」


 この業界は女に厳しい【暴】の世界だ。少年向けライトファンタジー作品にはフィルターがかかってるけど、野盗や亜人による強姦殺人は中世ファンタジー世界では別段珍しいものじゃない。


 行きずりに村を襲って奪い・犯し・殺す野盗の群れ。亜人モンスターに屈して慰み者にされる女冒険者。

 冒険やいくさの場には必ずこういうモノがついて回る。暴力が道徳を凌駕する弱肉強食の世界の一面だ。


 とはいえだ、それが世界の現実だからって、こうして目の前で暴漢に少女が襲われようとしているのを指をくわえて黙って見ているのは気分のいいものじゃない。

 だったらどうするね勇者様? もちろん言うまでもなかろうが。


「オークよし、触手よし、丸呑みよしと、ゲテモノは割とイケるクチだけど、どうにも汚いオッサンの強姦モノは昔から拒否反応強くていかんね」


 力こそ正義理論で、か弱い女の子を暴力でどうにかしようっていうのなら、当然、お前らよりも暴力に長ける存在に行きずりでどうにかされても文句はないよね?

 因果応報といいまして、そうやって悪意のブーメランは巡り巡って自分の眉間に帰ってくるんだ。


「ナニモンだテメェ!? 正義の味方を気取って、かっこつけてんじゃねぇぞ兄ちゃん」

「オレたちが誰だか知って喧嘩売ってんのかオルァ!?」


 うわー、見かけも月並みなヒャッハーなら反応まで月並みだ。

 ある意味、やられ役の定番セリフで安心します。これもまた王道。


「知らないな。中年聖歌隊か? もっともおあいこだな。ボクもこの世界に戻ってあまりの知名度の低さに、最近自分が誰だか分からないんだ」


 ボクはニヒルにシリカルに斜に構えた態度で軽口を返す。

 中坊のときはやたら高いところに昇って口上を述べるのが好きだったけど、さすがにこのトシになってそういうオーバーアクションは気恥ずかしくて気が引ける。


 オトナになったらクールとスタイリッシュで攻めるべし。

 サイコガンの宇宙海賊とデビルでメイクライのダンテさんはやはり偉大だった。


「もちろんタダで女の子から手を引けとは言わないさ。ここに品質Aの『たねもみ』がある。コレもって真面目にクニで田畑でも耕しな。今日より明日なんじゃってミスミの爺さんも言ってるよ」


 たねもみ勇者の固有スキル『たねもみ』。

 ギルドから支給される良質の種籾を交渉に使う能力。特にヒャッハーに効果大……らしい。


「アニキ、こいつ最下級クラスの『たねもみ勇者』ですぜ。うわダッサ!」

「いまどきそんなもんケツ拭く種もみにもなりゃしねぇってのによぉー」


 あの……あなたたちは種籾でケツを拭くんですか?

 ほんともういやだこの最下級クラス。固有スキルのどれもちっとも役に立たないじゃない。


「あぁ、やっぱりそういう反応になるのか。勇者クラスにしがみついて嫌々で選んだ最下級クラスだしなぁ」


 だからといって──


「冒険者を辞めて野盗に落ちぶれて、それ以下の『はぐれ勇者』になるのはもっと御免だけど」


 ボクの言葉にピクンと野盗の眉がいかつく震えた。たぶん図星を突かれてカチンときたんだろう。

 こいつらの妙に整った装備とかを見れば一目瞭然。一目で三人とも勇者崩れのヒャッハーだと分かった。


 とかく勇者装備ってのはオンリーワンの特注品が多い。

 精霊の祝福や神様の加護を受けた特殊仕様のため、だいたいが非売品。


 そのため一般店舗では買取が効かず、煮られた勇者が生活に困窮して装備を下取りしようとしても『それを売るなんてとんでもない!』なんて店主に言われて突っ返される始末。


 なまじ品質がいいから捨てるのも惜しい。

 で、結局はぐれ勇者に堕ちた現状と装備の豪華さがミスマッチでも使い続けるハメになるのである。


「ててててっ……いきなり背後から蹴り飛ばしやがって。安っぽい正義感でお楽しみの邪魔しやがって、覚悟は出来てるんだろうな兄ちゃん?」


 最初に蹴っ飛ばした野盗Aが後頭部をさすりながら起き上がってきた。

 さすがに一発でKOとはいかなかったか。昔なら不意打ちクリティカルで昏倒させるくらいワケなかったのに、ここんところは七年も戦いから離れたブランクだなー。もうちょいリハビリして実戦のカンを取り戻さないと。


「俺はな、この御時勢になっても正義の勇者様を気取っているヤツを見ると無性にブッた斬りたくなるんだ。てめぇもこの魔鎌メメントモリの錆びにしてやるぜえ~!」


 得物らしい巨大な鎌を振りかざし、ペロリと刃先を舐める野盗A。


「へへへ、ついに親分が首狩りスプーンを抜いちまった」

「こいつはもう生首が飛ばなきゃおさまらないぜぇ~」


 うわぁ……奈落。

 もうね、鎌っていうのがね、アレね、中二病をこじらせた勇者装備ってカンジでいたたまれない。


 野盗BとCもそこそこイイ武器を持っている。

 蒼く光るダガーに漆黒のショートソード。これらもなんらかの魔法付与や加護を受けた逸品に違いない。

 おにぎりがボヤくのも納得だ。こんなレベルの高い盗賊が街の外に徘徊されちゃ行商人も商売あがったりだろう。


 まったく、こいつらの良質装備のふしぶしに勇者として活躍してきた過去の栄光がチラつくだけに、つくづく『こうはなりたくないなぁ~』という気分にさせられるよ。

 落ちぶれに落ちぶれた彼らは間違いなく、就職活動が失敗してやさぐれた自分のIFの姿だ。


 見るに耐えないとはこのことだ。

 腹の底から正義感が沸き立つこの感覚は、近い将来に訪れたかもしれない自分の末路に対する拒絶感か。


 彼らは社会に見捨てられ大鍋で煮られた一山いくらの弱小勇者の行き着く先の典型だ。

 笑えない。他人事じゃない。このままいくと明日は我が身。

 あってはならない自分の未来を否定するそのためにも、ここで一発、ヒロインにいいところを魅せなくちゃな。


「『たねもみ』交渉は見事に決裂か」


 こうなってはもうチャンチャンバラバラのバトル展開にはいらなきゃ収まりはつかない。

 もとよりボクもそのつもりだったから、既にその足は女の子を身を挺して守れるヘクスに入っている。


「お嬢さん、こんな危険な場所までお花を摘みに行く気概は買うがね、そんなところでボサっとヘタってたら、下着まではがされるぜ。とりあえず、ここにいるとあぶないからもうちょっと下がってな」


「あ、はっ、はいっ」


 ボクの言葉に良く分からないといった顔のまま、コクコクと頷いて安全なところまで下がる女の子。

 ひとまず敵ではないと分かってくれたようでなによりだ。


「んじゃま、【宴もたけなわ】というところで」


 野盗ABCが得物を抜いたのにあわせ、ボクもまた背中に担いでいる愛剣を抜き、勇者王のポーズで構えをとる。

 こいつらごときに見せるのも勿体無いけど、ヒロインの前だ。ちぃっとばかしハデにいかせてもらう。

 気分は好きな子の前でイキがる小学生。ここまでやらかしたからにはカッコ悪いところは見せられないな。


「この剣に斬れぬ竜鱗無し! 有象無象悪鬼羅刹の種を問わず、我が牙『斬竜剣グラム』は狙った敵を逃しはしない。いざ、推して参る!」


 弱きものを守るヒーロー。主人公に守られるヒロイン。襲い来る悪漢たち。 

 嗚呼、やっぱり勇者の王道ってのははこうでなくっちゃ。


「イキがりやがってクソが。おい、野郎ども! 出会え出会え!」


 【はぐれゆうしゃ】A は なかまをよんだ。


 ぞろぞろぞろぞろ。


「やっぱり仲間を呼ぶか。でも、たかが三人や四人増えたところで」


 【はぐれゆうしゃ】B は なかまをよんだ。


 ぞろぞろぞろぞろぞろぞろぞろぞろ。


「えと、あの、いや、雑魚が十人やそこらなら、これくらい……」


 【はぐれゆうしゃ】C は なかまをよんだ。


 ぞろぞろぞろぞろぞろぞろぞろぞろぞろぞろぞろぞろぞろぞろ。


「……………………」


 メジャーはぐれゆうしゃ(3)

 LV9・はぐれゆうしゃ(9)

 LV7・はぐれゆうしゃ(9)

 LV5・はぐれゆうしゃ(9)


 こまんど?


「さぁて、兄ちゃんよぉ。謝るなら今のうちだぜ」


 弱いやつらほど徒党を組む。はぐれ勇者は一匹見かけたら三十匹。

 スキル『なかまをよぶ』で集めに集めたゴロツキ3パーティー。

 その数、合計でなんと30匹以上!!!


「フッ」


 それでもボクは怯まない。小隊に等しい数の敵を前にクールに微笑み──


「ごめんなさ~い♪」


 土下座して素直に謝ったのだった。

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