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Past and Present "Death Drive" ~自滅因子~

  100年に渡る、世界でもっともせつない戦い。


【黒木勇斗語録・ビーナスブレイブス キャッチコピー】

 私が邪竜王の褥にごやっかいになって六日目。


「さすがに我に挑む雑魚勇者の数も減ってきたか」


 目に見えて減っている本日の挑戦者のみなさんを見ておじさまが言う。


「かてないてきにはいどまない これにんげんのちえ」

「悪くない傾向だ。我としてもいちいち雑魚には構ってられんからな」


 魔王討つべしの熱が最高潮に達していたこの時期。

 ユートおにいちゃんを待つおじさまは毎日が露払いで大忙しでした。

 現在、大陸で活動している大物魔王はおじさまと蝕星王ノヴァの二人だけ。


 蝕星王ノヴァの相手は大昔から光竜騎士ディーンが受け持ちになっていて、

 冒険者界隈では二人の間に介入するのは無粋だと空気を読むくらいに有名。

 それ以前に蝕星王ノヴァの拠点である魔星はこことは別次元に存在してて、

 光竜神の加護とキーアイテムを持っているディーンたちしか辿りつけない。

 となると雑魚勇者が狙うべき獲物は、あまりもののおじさまになるわけで。


 邪竜王グランスタークの評判は今も当時もあまりよろしくない。

 それは悪逆非道を働いた外道という意味でなく、見下された意味での評価。

 一番の原因は、七人の魔王がこぞっておじさまを小物よばわりしてたこと。

 加えておじさまの活動範囲が大陸辺境の西方諸国でどうにも地味なのと、

 色物パーティーとして有名な聖竜騎士ユートが宿敵認定した魔王という、

 パッとしないイメージも風評被害と過小評価に拍車をかけました。


 でもですよ。キャラが小物だからって弱いとは限らない。

 うちのお店で「俺の悪友は本当に真竜とは思えない俗物の小物でな」と、

 おじさまとおもわれる友人のことを苦笑まじりに語っていたノヴァさんも、

 決してその悪友のことを弱いなんて言わなかったし、あれは賞賛だった。


 この悪竜の牙城に訪れる三文勇者パーティーはなにもわかっていない。

 『我々の中で一番の小物=我々の中で最弱』という理論は極めて短絡的。

 当然、そういう思考になると「奴なら俺たちでも倒せるんじゃね?」という

 蜂蜜より甘い考えに到ってしまい、功に焦って俺も俺もとなるわけで。


 あと、本来ならドレイクラインの各関所で門番として冒険者に立ち塞がり、

 おじさまに挑む資格のない勇者をふるいおとす役目の四天王がいなくなり、

 選定がゆるゆるになってしまったのも、ここ連日の無駄な大盛況の原因。


 最後に──


 入稿寸前の原稿を灰にされたはらいせに。


『勇者よ。いまこそ聖戦のときです。悪しき竜を斃すため立ち上がりなさい』


 と、エストおねーちゃんが大天使モードで無作為に天啓を与えまくって、

 そういう煽りに弱い勇者たちがその気になっちゃったってのもある。

 完全におじさまへのいやがらせです。本当にありがとうございました。


 それでも勢いがあったのは最初の三日間だけで、それ以降になると。


「ただいままおーとうばつけいじばんはだいえんじょうちゅうー」

「で、あろうな」


 おじさまにボロクソにされた勇者たちが、冒険者ギルドの魔王討伐掲示板に

 『なにが邪竜王は比較的やりやすい相手だ。嘘ばっか!』という書き込みを

 するようになって、ネットでのおじさまの評価もかなり改まった模様。


 当然だよね。

 これまでおじさまに挑んできた三文勇者たちは最低でもBランク以上。

 彼らだって決して弱くない。中級悪魔くらいなら普通に渡り合える実力だ。

 あの列の中には雑魚魔王をも討伐できるAランク上位の冒険者もいた。

 そんな彼らですらおじさまを倒すことは不可能だった。

 彼らほどの手だれでも歯がたたないとなればみんなも尻込みする。

 堅実に残党狩りや雑魚魔王を狙っていたほうがずっとマシだもの。


 そもそもおじさまが真の姿を晒すほどの大勇者自体が滅多にいない。

 緒戦イベントでわりとあっさり舐めプ御用達のオーバーボディを剥がして、

 人間形態では勝てぬとおじさまを本気にさせたユートおにいちゃんが異常。

 だからおじさまもユートおにいちゃんに異様な執着を見せるんだと思う。


「ほうほう、掲示板での我の評判も変わってきたな。これは重畳」

「うわぁ、まおーがねっとでえごさーちしてる!」


「この評価なら、あえて殺し切らずに還してやったかいがあるというものよ」

「ねっとのひょーばんをみょうにきにするまおーがいるときいて」


 ここにきて、私もおじさまに対する評価がだいぶ変わっていた。


「おじさまはやさしいね」

「やさしい? 悪竜である我がか?」


「だってみどころのあるゆーしゃはきゅうわりきゅうぶごろしでかえしてる」

「勇者が相手のときは緒戦は殺さずにおいてやるのが我の美学だからな」


 財宝めあてに忍び込んだ盗賊は容赦なく駆除する残忍なおじさまだけど、

 こと勇者との戦いに限ってはものすごく紳士的で慈悲深いところがあった。

 これまで何十戦と勇者とおじさまの戦いを見てきたけど。

 おじさまは皆殺しにせず帰還魔法で命からがら撤退するのを許している。

 大魔王からは逃げられないなんて言葉があるように、ボス戦は撤退不可。

 その業界の常識を、緒戦に限りあえておじさまはルールから撤廃してた。


 はっきり言って高ランク冒険者を全滅させず逃がすのは悪手。

 Bランク冒険者にもなると教会支援の蘇生サービスというものがあって、

 かなり高額な資金は必要になるけど死者蘇生魔法で復活の機会が貰える。

 つまりおじさまにやられた勇者たちは高確率で戦線復帰可能になるわけで、

 二度目はないと念押ししてるとはいえ、あまり褒められたものじゃない。


「よーしきび?」

「どちらかというと形式美だな」


 強者の余裕というべきか、魔王にはそういうワンチャン派が多いらしい。

 本気のおじさまと戦ってアッサリやられたユートおにいちゃん曰く。

 負けイベントは通過儀礼のノーカンだから。見逃されるのは恥じゃない。

 もし見逃してもらったのを恩に感じたり屈辱と感じるなら。

 何もできず負けた悔しさをバネに修行をやり直してパワーアップを遂げて、

 魔王と互角に渡り合える力をつけて再戦することが礼儀になると思う。

 だからボクは強くなる。この斬竜剣に磨きをかけて、もっともっと高みへ。

 このまま負けっぱなしはゴメンだからね。


 なお、四天王最後の一人を倒したところで飽きてニートに戻った模様。

 さすがにここまで言っといてオチがそれでは私もおじさまも苦笑い。

 おにいちゃんは常にケツ叩かないとダメな人だってわかりました。まる。


「おじさまにしつもん」

「やぶからぼうになんだ?」


「なんでまおーってゆーしゃをれべるいちのときにしまつしないのか。

 さらにあいてなりのせんりょくのちくじとーにゅーというあくしゅ。

 せーちょーしたゆーしゃがやってくるまでひきこもるのもふしぎ?」


 これはかなり昔から冒険者の間で言われている魔王へのツッコミ。

 魔王はとてもサービス精神が強い。自分の天敵を自分で育成するという、

 トンデモなことを平然とやってのける。それも自軍の犠牲を厭わずに。

 

 これまで様々な勇者や賢者が魔王にこの質問をしてきたという。

 帰ってくる答えは往々にして「お前たちは麦を種のうちに食うのか?」

 といったカンジの、限界まで成長させたところで殺すという魔王理論。

 魔族だって箔や成果が欲しい。人間代表の強者である勇者に勝つことで、

 自身の存在をアピールするなら、しっかり育てて返り討ちにしてこそ華。

 勇者だって魔王に品格や強大さを求めるんだから、逆もあってしかりだ。


 放置したら将来とんでもない敵になって殺しにくると分かったとしても、

 無力な赤子のうちに勇者を殺すなんて無粋の極み。自慢になりゃしない。

 敵は常に強者であれ。強さを絶対の価値とする魔族らしい倫理観だった。


「道理よな。我のこの美学は他者からはとても奇異に見えるものよ。

 これは戦争だ。敵を生かす理由などない。後顧の憂いを絶つのは基本。

 殺す価値もないからと見逃してやった未熟者の勇者が後年に急成長し、

 後一歩でというところで勇者に野望を断たれた魔王は星の数ほどいる。

 ならばなぜ全滅したパーティーをあえて見逃して家に帰してやるのか。

 その気になれば蘇生魔法も効かなくなるくらい死体を破壊することも

 可能であるのに、なぜ綺麗な死体のまま帰還魔法の発動を許すのか。

 なぜあえて勇者に死の淵から蘇りパワーアップする機会を与えるのか。

 それには我なりの理由があるのだよ。他の魔王に理解はされんがな」


 だけど、おじさまの理論は他の魔王たちとはちょっとだけ違っていた。


「娘よ」

「んー?」


 これから語られるのは、同じ魔王にも理解されなかった悪竜の美学。


「お前は【破滅衝動トーデストリープ】というものを知っているかね?」 

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