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Go to grove of the village shrine ~魔界の裏事情~

「おい ○○! ガルガルやろうと いいおんなと どっちがすきだ?」

「きくまでも なかろうよ!」


【黒木勇斗語録・魔界塔士SAGA 主人公】

 タマから『迷いの森』を含む森林部の立ち入り禁止区域すべての通行許可証を貰って一刻後、ボクたちは彼女の案内でてくてくと安全路に指定されている林道を歩いていた。


 この『迷いの森』付近は八年前に一度だけ、旅に必要になる回復薬の素材集めで立ち寄ったことがあるが、とにかくここは迷う。ひたすら迷う。

 ボクもたかがラフレシア採取で予定二日のところ一週間も迷うとは思わなかった。


 正直、ここは地元の森の構造を熟知している高レベルの【森林猟兵レンジャー】か、マップ作りに卓越している専門クラス【地図師マッパー】なしに近寄るトコじゃない。


 なんでこれほどまでに迷いまくるのかというと、旧迷宮王支配地区であるこの大森林は、魔王の張っていた結界の残滓によるものか、今も尚『迷いの森』の名に違わぬ強力な迷いの魔法が森全土に張られているからである。


 時間間隔と方向感覚は惑わされ、密林で太陽や星の位置を確認しにくく、方位磁石なんてもちろん役に立たない。

 おまけに遺跡がある重要地点にはダークゾーンやらワープゾーン、ダメージ床やターンテーブルなどが配備され、そのどれもが現役で稼働中だというのだからたまらない。これだけでも匠のこだわりが窺い知れる。


 これまで数多くの冒険者や調査隊が、新しい鉱物植物資源や魔王の残した財宝を求めてこの森の開発調査に乗り出し、幾度となく魔王の居城があったとされている中枢部目指して挑戦してきたが、千年の時間をかけて結局その三分の一も走破出来なかったそうだ。


 さすがは魔王の施した結界。もうこの森全体そのものがダンジョンだといっていいかもしれない

 特にこの『蝕みの森』と呼ばれる地帯は、毒の沼地や毒性の強い瘴気が噴き出す場所もある危険地帯。

 まだ昼だというのに霧も濃く、結界の迷いの力も他より強く、ちょいと安全路を外れれば即沼地か食人植物の巣。


 あちこちから得体の知れない動物たちの鳴き声も聞こえるし、猛獣や魔物の出現も常に警戒しなくてはいけない。

 この人の侵入を頑なに拒む超自然の障害もまた魔王の設計によるものなんだろう。


 そんな千年後も依然として力の存在を魅せる強力な魔王のところへ、ボクたちは向かうとしている。

 ただし討伐が目的ではなく、その魔王が募集している迷宮の管理人の面接を受けるという目的で。


「魔王の作った迷宮管理人のお仕事ぉ?」


「はい、その名の通り迷宮を管理するお仕事です」


 ボクの質問に対し、あっけらかんとした顔でエストは言い切った。


「今から千年前にですね、この世界では空前のダンジョンブームってのが起きてたんですよ。まだわたしが生まれる前のことなので聖竜神さまから聞いた程度の話なんですが、その頃はまだ魔王も侵略一辺倒でなく人類や天界との知恵比べを平和的に愉しむ穏健派が多かった時代で、世界のあっちこっちで『ぼくのかんがえたさいきょうのだんじょん』を攻略できるものなら攻略してみろって魔王たちが自前の迷宮を考案してた……んーっ、いまと比較すると魔王も神々もお遊び感覚だった平和な時代だったんだそうです」


「ようはWIZとかD&Dとかそういう往年のダンジョンものみたいなのが主流だった時代?」


「ですね。そのときの戦乱の内容が、のちのちに次元を超えて地球の創作ものに影響を与えたなんて説もあるくらいです。迷宮にモンスターに謎解きにトラップの数々。あの時点で世のRPGダンジョンものに使われていたネタはほぼ網羅されていたと思います。特に迷魔王の創造したダンジョンは冒険者の間で大人気だったそうで」


「その迷魔王が復活した。ってのは分かった。でもなんでボクをその迷宮の管理人に推挙なんて話になったの? いや、まずそれ以前に魔族と敵対関係にある天界と人類が魔王と交渉に行くってのがまずおかしい……」


「そこなんだけどねユートくん。なんか魔界のほうでもこの数年で変革の時期があったらしいよ」


 パーティーの先頭に立って道を塞ぐツタや枝を切り分けていたタマが話に入ってきた。


「七人もの魔王が同時に人間界に侵攻するという、かつてない世界最大の危機。これが魔界の過激派筆頭だった『蝕星王』が提案した国取り競走によるものなのはユートくんも知ってるよね?」


「うん、有名な話だからね」


 今から八年ほど前に始まった魔王たちによる大規模な人間界侵略活動。

 ボクが邪竜王とその配下たちから聞いた証言、またはほかの勇者たちが他の魔王の口から聞いた話から、彼らの侵略活動の目的は、人類の絶滅だとか、世界征服だとか、古代戦争で彼らを貶めた天界への復讐だとか、そういうファンタジー作品によくある月並みなものではなかったことが判明している。


 ならば何故に魔王たちは天界と地上を完全に敵に回す規模の全面戦争を仕掛けてきたのか?

 その答えは──なんともくだらなく、そしてハタ迷惑もはなはだしい魔界の内部抗争によるものだった。


 この六百年間ずっと空位になっている『魔皇帝カイザー』の椅子を賭けてみんなでゲームしようぜ。


 これがボクたちが死に物狂いで戦った大戦の真実、七大魔王が地上侵攻を決めた動機である。

 ようするにあの魔王たちは、国を滅ぼしまくって一番得点稼いだヤツがトップになる競走をやっていたのだ。


 意外な話だけど、魔界にもこの世界と同じようなちゃんとした階級制度が確立されているらしい。

 大公 公爵 侯爵 伯爵 子爵 男爵、俗に人類から魔王と呼ばれてる存在はすべて高い爵位持ちの魔族だ。

 その中でも最高位の『魔皇帝』。この存在は六百年前に聖王が討伐を果たしたことで空席となった。


 力こそ正義と言って憚らない下克上大好きな魔族。

 皇帝の座を狙って一悶着あるのも人類とて同じなのだから、魔界でも権力闘争が起きるのはしかたない。

 で、当時もっとも有力視されていた七人の魔王が『地上侵略を最も進めたヤツが皇帝』というルールで魔界を飛び出し、あのような大災厄を招いたというわけだ。


 まったく迷惑千万な話である。


「まー、魔界で一大勢力を誇っていた魔王たちが返り討ちで全滅したんだから、そりゃ魔界も混乱するよね」


「というよりは過激派の大半が退治されて失脚したことで、穏健派が千年ぶりに復権をなしたらしいよ」


「穏健派っていうと?」


「つまりですね、ぶっちゃけてしまいますと、人類を暇潰しの良き遊び相手として見ている魔界の派閥から、ちょっくらウチらと協賛で第二次ダンジョンブームを流行らせてみないかってお話が天界にきちゃたんです」


 なんだそりゃ。


「それはエストがさっき言っていた人間との知恵比べを愉しんでいた派閥のこと?」


「あたりです」


 えっと、ちょっと待て。話がだんだんこんがらがってきた。


「つまり、その魔王復活関連の話って、協賛プロジェクトってことは、天界は魔王とグルってこと?」


「ありていにいってしまえばそうですね。聖竜神さまがノリノリで向こうからの提案を受け入れましたし、ある種の魔界と天界の平和協定みたいな感じです」


「リップルに話を持ちかけたってことは冒険者ギルドも巻き込む予定?」


「もちろんその予定です。ダンジョンブームの立役者はダンジョンに挑戦する冒険者なんですから」


「天界と魔界が繋がってるの伏せて、何も知らない冒険者にダンジョン攻略させる自作自演マッチポンプで?」


「はい」


 うわぁ、まだ半分くらいしか話は読めないけど汚いオトナの世界の臭いがする。


「あたしはいい案だと思うんだけどな。魔王がいなくなって仕事にあぶれた冒険者が野盗化する面倒な時代だし。彼らに冒険という仕事先を与えれば犯罪率も抑えられるし、うちも収益で潤うし、いいことづくめな企画だよ」


「そこは魔界側も似たようなものらしいですよ。冒険者と戦ってレベルを上げたい魔族の方とか、ストレス発散の場の提供とか、迷宮造りの腕試しとか、そこのところの事情は魔界も地上もそんなに変わらないみたいですね」


「いや、実際問題、エストリアがこの話もってこなかったら国の財政難ヤバかったから。ヒャッハーどもが南部地方への街路を塞いだせいで観光収入がダダ下げだったし、数少ない収入源だった回復薬素材のキノコや薬草が冒険者の需要激減で在庫の山になってこまってたもん。この企画の持込みには大いに感謝してるよ」


「いえいえー。冒険者たちが集まりだした折には、露天商の配置や酒場の建築許可をよろしくおねがいしますね」


「敷地の使用料はもちろん取るよ」


「タマさんもワルですねー」


「ぬっふっふっ。そんくらいワルでなきゃ、【大樹の聖女】なんてやってらんないからね」


 うーん、どうつっこむべきか悩む……

 少年期にはなかったオトナの事情てんこもりなこの冒険。

 この先いったいなにが待っているのやら。


「で、タマー、目的地はまだかな?」


「んとね、枝の院が使者の人から貰った案内地図によると、このあたりに中枢部に飛べる転移施設があるらしいんだけど」


 地図を片手に周囲を見回すタマ。

 なんのけない会話中もボクたちは中央部の『蝕みの森』の深部を目指して進んでいる。

 開発がそれなりに進んで舗装されていた最初の道と違い、このあたりまでくるともう未開地に等しい。

 ツタを切り分け、生い茂る草を跨ぎ、獣道を渡り、気分はもうどこぞの藤岡なんたら探検隊だ。


「どんどん不気味になってくなー。こんな見るからに危険なところ、夜になる前に脱出したいもんだ」


「同感。この地区周辺って毒薬に使える毒性生物を狙って侵入する野盗の拠点があるらしくて、あんまりキャンプするにはよくない場所なんだよね。抜けられるならさっさと抜け──」


 そう彼女がボクたちに注意を促したと同時だった。


「きゃあああああああああああっ!」


 およそ迷いの森という陰鬱な場には相応しくない、かよわい少女の悲鳴が、この『蝕月の森』の深奥で轟いた。

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