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Past and Present "Captive Princess" ~姫君誘拐~

  何を信じたらいいか、分からない? みんな、そうさ


  【黒木勇斗語録・グランディアII  キャッチコピー】

 大陸最西部にあるドラゴンたちの楽園『ドレイクライン』。

 飛行能力を備えた者しか踏破するのは困難といわれるほど厳しい山が続き、

 大陸を東西に二分する大山脈『天下の険』に次ぐ遭難率大陸第二位の難所。


 それでもこの標高数千メートル級の秘境を目指す勇者は後を絶たない。

 なぜならそこには冒険者の浪漫にして最大の敵『ドラゴン』がいるからだ。

 伝承にあるだけでも『魔竜の狩猟場』『真竜の墓場』『竜の宝物殿』など、

 探求と一攫千金の塊としか言いようのない名スポットがここに存在する。


 冒険者なら誰もが一生に一度は倒してみたいと夢見るドラゴンという存在。

 ワイバーンやワームといった竜とも呼べない亜種でも冒険者Cランク推奨、

 本物のドラゴンなら下級ですら討伐推奨Bランク以上に設定されている。

 もしそんな大物を倒せれば、業界に名だたる一流冒険者として認められる。

 聖王の血筋にいたっては、ドラゴン討伐とが王位継承の儀になってるほど。


 それだけドラゴンという存在は、人類が立ち向かうべき『暴』の象徴。

 神々に最も近い種族で、ときに神の使いとして、として災厄の権化として、

 これまでの歴史でどれだけの伝説や神話にその名を連ねてきただろう。


 そんなドラゴンが多く生息する地があるのなら、目指してみるのが冒険者。

 だってそこは金銀財宝と名誉がゴロゴロしているゴールドマイン。

 ドラゴンを退治して素材を剥ぎ取ったり、宝を奪えは、それだけで大儲け。


 だけど、秘境で魔境なドレイクラインまで辿りつけるものはそう多くない。

 これまで何千何百という冒険者がそこを目指し、人知れず散っていった。

 そもそも現地民のリザードマンやコボルトといった森や山の種族ですら、

 あそこは成人の儀式以外ではまず近寄ろうともしないほどの危険地帯。

 君子は危うきに近寄らず。触らぬ竜になんとやら。


 過去、あの地を狩場にできた人間は三人しかいないって言われてる。

 一人は神話時代に邪悪竜ファヴニールを斃した竜殺しジークフリート。

 二人目は大陸人なら誰でも知っている邪神退治の超英雄こと聖王ベリア。

 最後が近代ドラゴン討伐数記録第二位を叩き出したユートおにいちゃん。


 え、あれだけやって近代でドラゴン討伐数が歴代二位?

 聖竜騎士ユートはドラゴン100体斬りという難行を超えた勇者なのに?

 聖王ベリアですら公式記録で討伐数100はいってないのにって?

 ああ、それ、後年にギルド調査で討伐数の水増しがバレて降格しました。


 ユートおにいちゃん、なんか修行の後半からめんどくさくなったらしくて、

 半分くらいドラゴンを殺さずに懲らしめるだけで済ましてたみたいです。

 それでも聖剣グラムの討伐カウントは入ってたみたいだからギリセーフ。


 ボクは人に迷惑をかけるドラゴンだからといって無慈悲に殺戮はしないよ。

 分かり合えるなら分かり合いたい。昨日の敵は明日の友っていうしね。

 まして巣に乗り込んで無差別に狩りまくりとか村を襲う悪竜と同じだし。


 おにいちゃんは前にそんなこと言ってたから、そうだろうなと思ってた。

 改めて思い直しても、そういう優しいところ、やっぱりおにいちゃんだ。

 聖竜神派ってモンスターに対しては殺人鬼みたいになるのが有名なのに、

 なんか聖属性らしくなくて、あの人はそういうところでもイレギュラー。


 なんでも勇者職『聖竜騎士』へのクラスチェンジのための経験値稼ぎで、

 孤島で小型竜のリンドウルム狩りしたら、やりすぎて絶滅危惧種指定され

 冒険者ギルドから【加減しろ莫迦】の称号もらった人がいるらしい。


 戒めよ! はい、わたしのことですごめんなさい。


 と、ちょっと反則気味だけど「ドラゴン退治といえばこの人」と世間で

 百人中25%の確率で名前が出るくらいには知名度のあるおにいちゃん。

 そんな彼ですら到達には特別な飛行船を必要とした場所がここにあります。

 渓谷を抜け、雷雲渦巻く雲海を超えた先、暗黒山脈に聳え立つ邪竜の城。

 その名も邪竜王グランなんとかさんの大陸侵略拠点【邪竜王の褥】。


「へー、ここがエストおねーちゃんがいってたべっそーなんだ」

「娘よ、その言い方はやめてほしい」


 【天空の聖女】エスティエルを一年に渡って幽閉したといわれる城で、

 邪竜の王に攫われ、聖竜騎士の助けを待ち続ける無垢な村娘は……


「部屋のものは好きに使っていい。欲しいものがあれば使用人に頼め」

「はーい」


「早くも馴染んでるな。人質らしく不遇な現状を嘆いたりしてもいいのだぞ」

「なにをいまさら」


 魔王の城の中でも、いつもどおりの自然体フリーダムでした。


「じゃあ りゅーちゅーぶに どうがあげたいから さつえーはじめようか」

「いきなり話が飛んだな!」


「そんなわけで キョン! えーがをとるわよ!」

「なんだそれは」


「まえにエストおねーちゃんがもってきた『ためいき』にえーきょうされて」

「だから……なんなんだそれは……」


 さすがに魔王に異世界ネタは難しすぎた。

 村娘もりそば。齢六歳にして異世界の動く絵本でニホン語をマスターする。

 あれからもう八年以上が経過してるんだよね。時の流れは速い。


「おーどーのじゅーじかはりつけまでだったらおーけー むしろやれ」

「やらんぞ」


「ふくだけとかすスライムぜめはえぬじーで」

「お前の拘束動画を投稿したら、ロリコン呼ばわりされかねんからやらんぞ」


「わたしにひどいことするきでしょ! えっちなほんみたいに!」

「そのネタは以前にあの駄天使がやっている。流行っているのかそれ?」


 一時期、かなり流行ってました。


「だめ?」

「短期決戦の予定だからな。それに動画投稿して数日で死んだら笑い話だ」


「エストおねーちゃんのきんばくどうがはミリオンいっててうらやましい」

「やらせだがな」


 うん、関係者はみんな知ってる。


[わたしのほしをたすけて…わたしは…わくせいセーヌリアス…もり…]

「念波を飛ばすな念波を。セーヌリアスはいつお前の星になったのだ」


 お前の星じゃねーだろ定期。


「おまえたちにはまかせておけぬぅ~ わたしみずからがでるぅ~(棒)」

「あのラスボス王子の棒読みは許してやれ。30年近く前の動画なんだ」


 動画で無意味に剥かれるお姫様より棒読み王子のほうが人気の不具合。


「アポロン わたしはデュポンのしんでんにいるわ はやくたすけて」

「囚われのプリンセスを緊縛して脱衣させる動画の黎明期の作品だな」


「ゆーしゃのしんこうぐあいにあわせて えろくするのがぽいんと」

「動画投稿ごと一枚ずつ脱がすと再生数稼げると駄天使も言っていたな」


 ほんと多くの純粋な少年を性に目覚めさせた罪深い作品だったよね。

 

「こんなこともあろうかと だいほんもよういしてある」

「用意するな」


「ふーいんが なんだってんだよ! わたしを たすけろよ!

 やくにたたない ゆーしゃ どもめ! たすけてください

 おねがい たすけてて だききしめて おにーちゃん

 にくい にくいよ クソやろう こんなせかい ほろびればいい」


「朗読をはじめても、やらんものはやらんからな」


 ケンモホロロ。

 悲劇のヒロインの集大成みたいで自信作だったのに没にされました。

 オッサン声とヒロイン声を使い分けて棒読みでやるのがポイントです。


「ひげのはいかんこーにかまってほしくて かめだいおうとけったくして

 なんどでもぎそーゆうかいをけーかくする ぷりんせすがいるらしい」


「そのネタはアウトだ」


 魔王の城は今日も平和です。

ブックマーク92件・総合評価298pt到達!

もうちょっとぢゃ…もうちょっとで底辺作家を卒業できる…

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