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Past and Present "Coffee break time" ~魔王美学~

人は生まれる時代も世界も選ぶ事は出来ない。

しかし、どう生きるかを決める事は出来る。


【黒木勇斗語録・FF零式 キャッチコピー】

 魔王二人がガン首そろえて菓子パン物色中なう。


 カチンカチン♪  カチンカチン♪


「ノヴァ、そもそもお前の姑息なやりかたは古典派として気に食わん。

 あっちでコソコソ、こっちでコソコソ、あちらこちらで暗躍をしては

 裏で糸を引いて表層からは見えぬところで陰湿なカオスを撒き散らす。

 魔王とは豪胆にして豪快。我こそはと名乗りを上げて表に立つべきだ」


「まさに旧き良き古典だな。己の圧倒的な暴を人間どもに知らしめる。

 振り撒く暴虐と殺戮。己の歩んだ後は骸の山と焼け野原が残るのみ。

 力こそ正義と分かりやすく、暴君だと理解しやすく、実に底が浅い」


「ノヴァ、この『かれぇパン』とはなんだ?」


「異世界で天竺と呼ばれる国の料理をパンの中に詰めて揚げたものだ。

 中身は香辛料を配合したスープを餡にしたものだが、独特の香味や

 じんわりとくる辛味が美味くてな、慣れると病みつきになるぞ」


 カチンカチン♪  カチンカチン♪


「物色しながらトングを鳴らして遊ぶな邪竜王。子供かおまえは」


 あるある。あるある。


「底が浅いと来たか。分かっていないな蝕星王。暴こそ竜族の誇りよ。

 原初の種として地上の人間よりも、天空人よりも、精霊どもよりも、

 圧倒的な腕力と魔力を持ちえるにいたった我ら魔族が、なにゆえに

 無理に脳味噌をこねくりまわしてまで絡め手を駆使せねばならん?

 まして我は神竜の直系たる真竜。剣も要らぬ、盾も鎧も兜も要らぬ。

 生まれ持った爪牙と竜鱗、腐滅のブレスになみなみならぬ巨躯。

 十分なのだ。それだけの暴を備えれば策を弄せずとも蹂躙できる。

 むしろ絶対強者が弱者のように技術や策略に走ることこそ惰弱よ」


「お前がそう思うのならそうなのだろう。おまえら竜族の中ではな。

 残念ながら俺は貴様ら純正と異なり生態は地上の人間よりなのだ。

 だからこそ下らぬ旧いプライドに縛られずに得られる強みもある。

 知恵とは神を凌駕するための武器。策略とは天に挑むための武器。

 魔皇帝の座など俺にとっては天の先を掴むための踏み台にすぎん。

 この大戦は俺にとってはまだ種まきよ。表に出るのはまだ先だ」


 カチ……ッ


「おいノヴァ、その『やきそばパン』は我が先に掴んだぞ。離せ。

 そもそもお前はさっきも同じものを食べていたではないか!」


「好物はいくつ食べても飽きん。まして最後の一つならばなおだ。

 さすがは暴食と強欲の権化と恐れられた男は性根がみみっちい」


「生卵を飯にかけて喰らったり、ゴブリンのクソをスープにして

 常食している貴公から暴食だの強欲だの呼ばわりとは心外だな」


「卵かけ御飯を馬鹿にするなよ。それとゴブリンのクソではない。

 味噌だ! 俺の好物の味噌汁の名を二度と蔑称で呼ぶな!」


「フッ……」

「フン!」


 しばしの睨み合いのあと──


「じゃーんッッッ!!!」

「けーんッッッ!!!!!」


 ぽいっ!


「フッ、我の勝ちのようだな。それは私がもらっておこう」

「こずみっくふぉぉぉじぃぃぃぃっっっッッッッ」


 仲いいなぁ。


「クッ、取るだけとったら会計を済ませろ。ドリンクの注文もな」

「小娘、会計を頼む。飲み物は紅茶で」

「あいあいさー しめて200ベリアでござーい」


 差し出される小銀貨二枚。


「釣りはいらん。とっておけ」

「かいけいぴったりだよおじさま」

「寝室に金銀財宝を敷き詰める男が意外と金銭感覚まともな件」


 世間知らずの姫様漫遊記みたいに金銭感覚ガバガバでもいいのよ。


「ふむ、どれも異色な形状と具入りのパンだが実に美味い」

「基本的にこの世界のパンの主流派は素材の味を重視だからな」

「これぞぜんだいみもんのちんむるい!」


 すごい絵面。

 魔王が二人並んで菓子パンを食べるというこのシュールな光景。

 たぶん世界中の童話作家が集まっても、このシーンは想像つかない。


「フン、意外だな」

「なにがだ?」


「神に最も近い真祖の竜にも飯の味を愉しむ概念があったとはな。

 貴様ほどの者ならば大自然の気を喰らい、人間どもの信仰や恐怖の

 感情エネルギーを集めるだけで存在を維持するのは容易かろうに」


「確かにな。単に存在を維持をするだけなら、我ら真祖の上位魔族は

 大自然に漂う精霊力や魔素を定期的に喰らうだけでことたりる。

 味気ないならヒラ魔族どものように人間どもの感情エネルギーを糧に

 すればいいが、それでもやはり栄養をかっこむだけの作業にすぎん」


「金銀財宝を掻き集めるだけに飽き足らず、美食まで追及する魔王か」


「魔王らしからぬ俗物だと蔑むか?」


「いいや。それでいい。貴様はそういう世俗的な小物であるべきだ。

 だから俺は貴様が嫌いではないし、立会人もお前のことを買ってる」


「貴公ら半端者と同類にされるのも真竜としては複雑な気分だがな。

 しかしこの価値観は興味深い。あの天空の聖女は言っていたよ。

 健康の為に食べるのか? 否。 生きる為に食べるのか? 否。

 食べるために生きるのだ。食は生を豊かに彩るモノなのだとな」


 魔王は人間から発せられる感情の力を糧にする。

 それは恐怖であったり怒りであったり畏敬であったりと様々。

 この理屈は神様が信者たちの信仰心で力を得るのとまったく同じ。


 だから魔王は侵略活動で人々を恐怖のドン底に陥れる。

 ある者は畏怖を糧に、ある者は絶望を糧に、ある者は憤怒を糧に。

 それらを集め、取り込むことで、彼らは地上での活動を行える。


「ふむ、この『かれぇぱん』なるものもなかなかのたえなる味だな」

「む? みょうなる味であろう?」

「けものどのはグラスヘイムにおかえりください」


 でも、破壊による人間の感情エネルギーの採取は、魔王にとっては

 侵略活動で得る本命のついでに出る副産物でしかないのかもしれない。

 なぜなら人類を危機に陥れることは、正義の顕現を許すこと。

 この世に悪がはこびるとき、必ずや勇者は生まれ希望となる。


「邪竜王、お前の食の感想はシンプルすぎるきらいがあるな」

「長々と口上を述べるのは勇者の前での過剰演技だけで十分だ」

「うまいぞーときょだいかしてブレスはかれるのはこまります」


「紅茶のおかわりを所望する」

「俺も緑茶のおかわり」

「へーい、おかわりはむりょーでーす」


 まおうが てぃーたいむで まったりしている。


「フッ、このような地味なる享楽に興ずるのもいいものだなノヴァ」

「ああ、どうにも俺は人間をいたぶって楽しむ魔族の娯楽は好かん」


「あれも所詮、人間の負の感情を搾り取る作業にすぎんからな」

「というより、単純にアレは不快で食欲が失せるし逆効果だ」


「このハニーリングも美味い。中央の蜂蜜は上質と聞くが本当だな」

「メイプルリングもイケるぞ。次に皿に盛るときに試してみろ」


「こんな美味い人間の産業を破壊して回るとか雷嵐王最低だな」

「ああ、人間の娯楽文化を軽視する魔王はなにも分かってない」


 おじさまとおにいさんはドーナツをもぐもぐしながら語り合う。

 

「なら、生の末路で美しき死に花を咲かすのも我らの生の彩りか」

「然り。然り。それこそが生の輝きの最大にして最期の見せ場だ」


「星が死ぬときに魅せるという最期の輝き『超新星爆発スーパーノヴァ』。

 願わくばそれほどの輝きを放てる全身全霊の闘いをしたいものよ。

 たしか異世界の言語が元で貴公の名の由来でもあったなノヴァよ」


「フン」


 倒されがいのある勇者がいなくては魔王として面白くないと。

 強き勇者との激闘こそ魔王の喜び。だから悪事はやめられない。

 それが彼ら魔王の抱く独自の死生観。


「もっとも、その介錯人がダメ人間になっては本末転倒だがな」

「それを言うな」


 すみません。うちのおにいちゃんがダメダメで。


「邪竜王、昼飯を楽しんだ後、貴様はこれからどうするつもりだ。

 単に物見遊山で大陸中央まで足を運んだわけでもないのだろう?」


「このまま聖竜騎士にスルーされたまま帰るもの気に食わん。

 かといって貴公の縄張内でウサ晴らしに走るのも気が引ける。

 王都に攻め入ったところで八つ当たりでは虚しいだけだしな」


「それをやるとディーンのヘイトがそっちに向くからやめてくれ。

 通り魔やるなら聖竜騎士のお仲間の母国である南方戦線でやれ。

 帰宅の道すがらに砦のひとつふたつ焼き払うとスカっとするぞ」


「遠回りだが、それで聖竜騎士が奮起するなら考慮しておこう」


 わりとこわいことを言う。


「しかしだ。可能ならこの場で聖竜騎士に宣戦布告しておきたい。

 帰り道でウサ晴らしをしてもあいつらが激昂するとは限らない。

 これでまた来もしない勇者をボス部屋で待ってても悲しいからな」


「聖竜騎士がその気になるまで三顧の礼でもやるか?」


「魔王の威厳を損なうのでそれは最後の手段だ」


 なにをいまさら。


「おじさま、おじさま」


 ああでもない、こうでもないと、煮詰まる魔王様二人に私は──


「ゆーとおにいちゃんをそのきにさせればいいんだよね?」


 我ながらナイスな一計をこのときに投じた。


「もういっそ にーとのおうち やいちゃえば?」


 ポトリと食べかけのドーナツを落とす二人。


「ノヴァよ」

「なんだ?」


「この小娘、邪竜神のアバターとかいうオチではあるまいな?」

「ああ、そう思えるくらい、魔王としての資質は俺ら以上だな」


 失礼な。


祝・PV50000突破! 総合評価も300ptまでもうすこしとあいなりました。

読者のみなさまには心よりの感謝を。

たわだんはブクマ登録・感想・評価をいつでもお待ちしております。

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