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Past and Present " New journey" ~異邦知識~

 この混沌の時代に 無力であることは許されなかった。


【黒木勇斗語録・タクティクスオウガ キャッチコピー】

 キミじゃ駄目だ。話のわかる人と会話がしたい。

 そう懇願するユートおにいちゃんと最初と会話したオトナが──


「つまりお前はチーキューのニホンという国から来た異世界人だと」


 のちに聖竜騎士のパートナーとして活躍することになる少年おにぎり。

 同年代の友達がいなくて、一人っ子の私にとって兄貴的存在だった人。

 そして村で唯一、私が抱いている冒険の夢を理解してくれる人だった。


「ぶっちゃけ半信半疑なんだよなぁ」


 おにぎり兄ちゃんはいつも口にしていた。

 いつか俺はこんな村を飛び出してビッグな男になってやる。

 自分は同世代で村一番の怪力を誇る体力自慢。

 こんな寂れた村で酒屋の息子なんてやってられるか。

 冒険者になって魔王を倒して、大金持ちか貴族になるんだって。


 だからいつも息子を立派なビール工房の跡取りにしようとしていた両親と

 おにぎり兄ちゃんはケンカが耐えなくて、おにぎり兄ちゃんもなんとなく

 家業を継ぐほうが安定しているのが分かっているから家出もできなくて、

 よく私に『空からプリンセスが降ってきて人生大逆転おきねーかな』って

 夢見がちな私でもちょっと引くような真顔で頭の悪い妄想を口にしてた。


「半信半疑って……信じてよ。だってほら、どうみてもボクは異世界人だろ。

 この服装とか、身に着けてるものとか、髪の色とか目の色とか顔立ちとか、

 ああでも言葉が普通に通じてるんだよね。これがよくある翻訳補正なのか」


「つっても、お前の特徴ってさ、ひんがしの国の民族で見られる特徴だしさ。

 その異世界の衣装だって魔法布で再現しようと思えばできなくはねーしよ。

 一目見て異世界からの救世主だバンザーイって迎えるわけにいかねーのよ。

 ここんところ大陸各地で頻繁に『オレオレ勇者詐欺』が頻発してるからさ、

 王都も『ニセ勇者に御注意』って各地の掲示板におふれがきだしてんだわ」


「うんうん。わたしもしってる。てぶくろとまふらーがきいろいんだよね!」


「えええぇぇぇえぇえ~~~~~~~~~~っ」


「この世界はいまさ、七人の魔王の侵攻が激しくてとにかくヤバイ時代でさ、

 いまでこそ勇者ディーンの帰還で戦況は盛り返してきてはいるんだがよ、

 やっぱあちこち戦火の影響は酷くて、一人でも多くの勇者が欲しいわけ。

 そうなると美味い汁を吸うために経歴詐称して貴族に取り入ろうとする奴も

 いるわけだ。私は勇者の末裔でございとか、異世界人でございとかな」


「おーさまもつかれたから、ぐんしきんちょっとあげておいかえすんだって」


「まぁ、そんなわけで偽者があんまり多いんで世間はピリピリしてるわけよ。

 とりあえず見込みがありそうなら松明と初期装備が買える軍資金くらいは

 王様に謁見すればもらえるかもしれないけど、嘘だったら縛り首だぞ」


「嘘じゃないって。本当だよ。こっちも変な女の子にいきなり連れられて」


「それってせーじょさまのことかな?」


「本物の異邦人なら聖女様が連れてこられるって話だけど、それなら事前に

 兆候があったりするもんだぞ。光の柱が伸びたり、神竜の神託があったり。

 空から降ってくるってのも異常だけど、転移魔法の失敗のセンもあるしな。

 でも、俺は信じるぜ。よかったな異世界人、お前を見つけたのがコイツで」


「えっへん! わたしはあたまのかたいオトナたちとはちがうのだ!」


「ありがとう。ボクの名前は黒木勇斗。どこにでもいる普通の中学生だ」


 私は忘れない。


「どこにでもいる普通の学生は空から降ってこねーよ。俺はおにぎりだ」


「わたしはもりそばー!」


「…………………」


 ほんとに忘れない。


「ちなみに、この村の名前は?」

「ああああの村だが?」

「ようこそ! ここは ああああの むらだよ!」


 あのときユートおにいちゃんの見せたビミョーな顔を、私は忘れない。


「おい、異世界人」

「わたしたちのむらのネーミングにもんくがあるならきこうじゃないか」

「いてっ! いてててっ! アイアンクローと足四の字固めマジ痛い!」


 最初は自分がおかれている状況も分からなくてアタフタしていたけど、

 わたしたちの説明でユートおにいちゃんもだんだん理解を深めていって。


「そうか……そうなんだ……」


 自分がいままでいた世界とは本当に違う世界に渡ってしまったこと。

 このままでは故郷に帰れないこと。女の人が魔王を倒せと言ったこと。

 自分は異邦人と呼ばれる存在で、世界を救うため使わされた存在だと。


 ほんの少し前まで普通の生活を送っていたのに、運命の悪戯に翻弄され、

 魔王と戦う宿命を背負わされ、望んでもいないのに勇者候補に抜擢され、

 魔王が大暴れする戦争の真っ只中に落とされたユートおにいちゃんは……


「いやっほぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっ!」


 めっちゃウキウキだった。


「異世界転移だよ! 夢にまで見た異世界生活! なんのうだつもあがらない

 中学生がチート能力もらって異世界でヒーローになってハーレム生活っ!

 これだよ。このラノベ展開っ。これこそボクが夢にまで見た日常の崩壊っ!

 ボクはいま、モーレツに、熱血しているッッッ! やってやるぜっ!」


 一昔前は孤独と宿命に押し潰されて暗い展開が御約束だったらしいけど、

 最近の異邦人の男の子ってだいたいみんなこんな前向き思考だとか。

 どんだけ未来ないの? ユートおにいちゃんたちのいるニホンの国って。


 もっとも──

 異世界に召喚されて自分の住むところよりちょっと文明レベルが低い世界に

 降り立ったとして、簡単にチート能力無双して英雄になれるかというと……


「で、お前が異邦人だとして、神様からもらったチート能力は?」

「え?」


「ふつーはせいじょさまがいっしょになっておしえてくれるんだよ」

「そのボクを召喚した聖女が行方不明なんだけど」


「異邦人がだいたい初期装備してるっていう伝説の武具や魔法は?」

「ない」


「ちょっとあたまをなでただけでベタぼれしてくれるチョロインは?」

「小さい子がそんなこといっちゃいけません! どこ知識よそれ!?」


「付き添いの聖女様もいねぇ。神様の事前説明もねぇ。伝説装備もねぇ」

「たまにくるのはかいらんばん!」

「……なんで異世界に吉●三のネタがあんの……?」


「やばいな……俺の知ってる異邦人の設定とぜんぜん違うぞおまえ」

「じぶんをいせかいじんとおもいこんでいるせいしんいじょーしゃー」

「やめてマジで!!!」


「具体的にお前、この先どうやって魔王と戦うつもりなんだ?」

「ぶきや ぼうぐは そうびしないと いみがないぞ!」

「ふっ、そこはもう、この日に備えていくつかのプランが整っている」


 異邦人にあるある【そのいち】。


「ボクを軍師として国王様に紹介して欲しい。知恵こそ最大の武器なり。

 ボクの世界の戦術や戦略を駆使して見事魔王軍を壊滅させてみせよう!

 なんなら内政にも関わって未知なる政策を披露し、この国をさらに──」


「悪いけど、ソンシとかハンニバルとかナポレオンとかは間に合ってるぞ」

「かるたごのらいこーとかおうこくのぐんじがっこーのきそちしきだよね」

「げふぅっ!」


 軍師を目指す最近の異邦人はコッチの兵法の発展ぶりに愕然とする。

 というか、向こうの世界の有名な軍師って、わりとこっちきてんだよね。


「な、なら、プランBに変更っ!」


 異邦人にあるある【そのに】。


「剣と魔法の中世コテコテファンタジー世界に住むきみたちには分かりにくい

 ことかもしれないけど、ボクたちの世界は科学という錬金術が発展してて、

 なんとボクはこの世界の軍事バランスを崩壊させるほどの発明が出来る!

 例えば火をつけると爆発する粉を利用した、弓を超える兵器とかね」


「あー、鉄砲なら四百年前にオダ・ノブナガって異邦人が発明してんだわ」

「あーちちー♪ あーち♪ もえてるんだろうかー♪ ほんのうじなう!」

「ちょっと待って! 織田信長どんだけフリー素材なんだよ!」


 とっくに存在する鉄砲技術とかポンプ式井戸の技術知識を披露してドヤ顔。

 もはや織田信長はフリー素材。こっちでも創作本界隈でいわれてます。

 向こうでもこっちでも女体化したり魔王になったり大変だよねあの人。


「ならしかたない。これはあまり自信ないけどプランC」


 異邦人にあるある【そのさん】。


「ボクの世界の食文化知識で、この世界に料理の大革命をもたらそう!

 ボクの故郷はすごいぞ。こっちの世界にはないものがたくさんある。

 このテのファンタジーは芋と豆と肉で似るか焼くしかないのが御約束。

 ときにジャガイモ警察なんて言葉あるくらい素材も少なく料理は貧相!

 そうでなくてもボクたちが普段食べているものすら文化レベルの違いで

 王侯貴族にしか食べることが許されない高級料理になっていたりする。

 ならば伝えよう。蒸し物・焼き物・揚げ物などの未知なる料理たちを」


「そういやあ昼飯の時間だな。うちらのメシの参考にカレーでも喰う?」

「サラダにかけるのはドレッシングとマヨネーズのどっちがいい?」

「ひぎぃぃぃぃぃぃぃぃっっっ!」


 なぜ最近の異邦人はバターとマヨネーズの自作程度でドヤ顔できるのか。

 いまさらだけどね、ドヤ顔のところごめんね昔のユートおにいちゃん。

 この世界って定期的に異世界料理人が召喚されるから食文化豊富なんだ。

 カレーパン大好き。今も昔もうちのパン屋の殿堂入りメニューです。


 異邦人にあるある【そのた】。


「なら迅速に硬貨の数を数えられる方法を」

「百枚を十枚束にして数えると早いネタか。両替屋の有名な笑い話だな」

「けいさんむそーしたいならせめてすうがくれべるをひろうしよー」


「ちなみに肉ってな、両面で焼くと美味しいんだぜ」

「お前、異世界料理人がときたま召喚されるって昼飯中に言ったよな?」

「ようこそわがきっちんすたじあむへ!」


「粉塵爆破って知ってるか?」

「鉱山でふつうに知られてるうえに錬金術的に発生原因が解明されてる」

「こむぎこをむだにするとおてんとさまのばちがあたるよー」


「内政チート、算数チート、鉄砲チート、料理チートが無理となると……」

「知識系で活躍したいなら戦場で引く手あまたの医学薬学とかあるが?」

「じゅうよんさいのわかものにそんなむりをいってはいけない」


「ああああああああっ! いきなりもうヤダこの異世界っっっ!!!!」

「つーか、こっちの世界の文化レベルなめんな異世界人」

「おまえのしってるネタはこれまできたいせかいじんがつうかしている!」


 こっちの世界でも寺子屋レベルの知識で大出世を狙う異邦人が多い。

 気持ちは分かるけど、算数を伝えただけで革命になる文明ってどうなの?

 この半世紀くらい、召喚されてる異邦人に年齢制限がついているのって、

 やっぱり先人が知識無双で無茶苦茶やって神様を困らせたせいだと思う。

 異世界知識チートで王国陥落寸前までいけた織田信長ってやっぱすごい。


「……とりあえずもうちょっと情報集めたら冒険者ギルドに行ってみる」

「なんだ、おまえ……異世界人なのに冒険者とかギルドとか知ってんのか?」


「え? このテの世界の基礎知識だろ?」

「いや、この時代で発見された異邦人ハカナは知識サッパリだったらしいぞ」


「そうか……ならファンタジー御約束知識でなんとかなるかも……」

「言ってる意味はよくわからねーが、冒険者になるのなら俺もつれてけ」


「え?」

「俺も冒険者志望でよ。この世界を詳しく知る相棒は必要だろ?」

「わたしもいくー!」


「駄目だ。冒険者は年齢13歳から。七年早え!」

「ごめんね。いくらヒロイン枠でも6歳の幼児はちょっと倫理的に」

「ぶーっ!」


 これが私たちの物語のはじまり。

 そのあと何ヶ月かして、ユートおにいちゃんは無事に聖竜神様に拝謁して。

 聖竜騎士として邪竜王の軍勢と戦い、天空の聖女を救出する使命を帯び。

 旅立ちから四ヵ月後に、おにいちゃんは立派な勇者として村に帰ってきた。

 旅の仲間を集めて、装備も整えて、たくさんのクエストもクリアして。

 さらに数ヵ月後、ついに念願の聖女奪還もはたして。

 そのときの報酬でウチの隣の空き地に全財産はたいてマイホームを建てて。


「あー、きらくだー、自分の家があるってほんときらくだわー」

「このまま村に住み着いてもいいにゃー。クニに帰りたくないにゃー」

「ねぇ、いっそのこと村にカジノおったてない? 王都いくのめんどいし」

「俺は工房の修行にいってくるわ。やっぱマイスター資格は欲しいからよ」

「ねー、ユートさん、ごはんまだー? おなかすいたんですけどー!」


 魔王にとらわれていた天空の聖女さまを奪還したとたん、自堕落生活。

 メインクエストは終わった。財産もある。最強の力もある。住む家もある。

 ならいいや。魔王はまだ数人残ってるけど他の勇者がやってくれるだろ。

 どうせマイナーパーティーだし。べつに前線にいなくてもいいよね。


 あるある。貧乏生活から出世した冒険者あるある。

 冒険者ってマイホーム建てるとダメになるってジンクスあるよね。

 もう魔王討伐は、勇者ディーン一行だけでいいんじゃないかな。

 見事な禁句をユートおにいちゃんが言い出したもんだからもう末期……


 だめだこいつ……はやくなんとかしないと。

 幼心に私は、どんどんダメになっていく聖竜騎士に危機感を感じて。

 ニート化した勇者をなんとかできないものかと思案していたとき……


「あー、おじょうちゃん。ああああの村ってここかな?」

「うん ようこそ! ここは ああああの むらだよ!」


 その人(?)はやってきた。

 ふらりと村にやってきた黒鎧とマントというイカス装備のおぢさま。

 その姿はこの村に似つかわしくない、ものすごい違和感だった。


 ユートおにいちゃんを除き、新米冒険者しか訪れないはずの私の村は、

 宿屋と酒場で提供するビールとパンが美味しいだけで、観光名所もなく、

 売っている装備も初心者向けばかりでDランクから見向きもされない。


「聖竜騎士ユートのパーティーがここに滞在していると聞いたのだが」

「そうだよ。てんくーのせーじょさまもいる。まいにちどんちゃんだよ」


 とんとパッとしない、冒険者が王都を離れて最初に見つける村。

 周辺の遺跡や森も初心者向けのモンスターしかいなくて平和な地区。

 目の前には誰がどう見たって高レベル高ランクの黒騎士さま。

 こんな立派な身なりの人がやってくるなんて普通はありえない。

 最初は王都の貴族か神都の聖竜神殿関係者がやってきたと思っていた。


「どんちゃん?」

「うん。うぇるかむとぅまいはうす。どったんばったんおおさわぎ」


「こんな僻地に拠点を作ったのか。どうも西方に姿が見えぬと思ったら」

「ううん。きょてんじゃないよ。もうはたらいたらまけだとおもってる」


「働いたら負け? 冒険はどうした? 討伐クエストくらいしてるだろ」

「せいじょさまをたすけたから、もうはたらきたくないでござるだって」


 これが、のちにユートおにいちゃんの次に私の憧れになる……


「あ、あいつは……」

「ほぇ?」


「ラスダン前になると急にクリアする気をなくすゲーマーかあいつは!」

「わりとよくある」


 人間に化けてお忍び中の七大魔王の一人。

 業界で『やつは我々の中では一番の小物』のフレーズで有名な。

 聖竜騎士ユートの宿敵、邪竜王グランなんとかさんとの出逢いだった。


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