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Battle Royale "Change 2nd forml" ~第二形態~

  「御託はいらねえ…始めようぜ!!」


【黒木勇斗語録・GUILTY GEAR XX/-SLASH- キャッチコピー】

「あいてててててて……爆風で観客席のかなり上まで吹っ飛んだ……」


 ほどなくして姿が見えなくなっていたイカルどのが戻ってきた。

 どうやら聖竜騎士の一撃の余波でかなり遠くまで飛ばされたらしい。

 この二人、ほとんど入れ替わりで交差してたでござるからな~。


「かなり距離とったのに、あやうくこっちまで浄化されるとこだったよ」

「イカルさんは下心が酷いから、浄化されたほうがいいと思うんです」


「こんなんまともに喰らったら浄化されたついでに肉片になるっての」

「それはそれで『とーといぎせー』で問題ナッシングです!」


「……問題ありまくりだろ……」

「そこはほら、正義せーぎには弁当の梅干くらい犠牲がつきものだから!」


「捨てちまえ、そんな縁起の悪いつきもの。あと一緒にされた梅干に謝れ」

「えー!?」


 冗談めかしてはいるが、あの威力の衝撃波を近距離で受けてよく無事で。

 パーティーへの巻き込み防止で同胞対象への自動防護結界機能が自動で

 ついてくる魔法と異なり、こういう物理的な範囲攻撃は基本無差別。


 回避行動が間に合わなければ爆発の衝撃波で骨折はしていたはず。

 そこはやはり卓越した戦闘能力を持つBランク冒険者のイカルどの。

 ギリギリのところで大怪我にならないよう見切っていたと思われる。


「でもまぁ、そんくらいの威力でもないとしとめられないのも事実か」


 やれやれと肩をすくめ、イカルどのは爆煙渦巻く大穴を眺めた。


「ガキんころに地竜騎士ガッサーが鋼鉄のゴーレムを殲滅する雄姿を見て、

 神竜騎士のとんでもない力は予備知識で分かっていたつもりなんだが、

 こうして間近で体験すると、やっぱ改めて桁違いなんだなって痛感するわ」


 計り知れない闘気オーラの爆発で、すり鉢状に穿たれた闘技場の武舞台中央部。

 イカルどのが大量に放った焙烙玉ですら武舞台の石畳を破砕するのみで、

 ここまでの圧倒的破壊には及ばなかったことを考えても尋常ならざる威力。


「先生、紹介します。こいつの名前はもりそば。リップルの酒場の推薦で、

 臨時のゲストとして今回うちのパーティーに加わることになった新米です」


「改めまして、もりそばです」


 ペコリと普通におじぎをする『もりそば』なるトンチキな名前の少女。

 あー、その名前の特徴からして『ああああ』の村の出身でござるか。

 あそこ名産の麦酒が懐かしいでござるな。数年ごぶさたにござるよ。


「とんでもない話なんですがね、なんとこいつ伝説に謳われるあの……」

「神竜騎士、それも神界第二位の聖竜神の加護を受けた勇者でござろう?」


「あら、もう御存知で?」

「かの大戦を生き延びた古参は伊達ではござらんよ」


 ユートどのという先代の聖竜騎士を知っているのも大きい。

 あと、さっき無駄にオーバーアクションな名乗りも聞かされたし。


 問題なのは、その聖竜騎士の新人が世に産まれ出でた理由なのでござるが。

 八年前に顕現した四人の神竜騎士は、三人が名誉の戦死あるいは故郷への

 帰還を果たし、残るガッサーどのも名目上行方不明という体で姿を消した。

 生存したもの、死亡したもの、全員が神竜騎士の力の大半を返上している。

 平和な世の中に対魔王の決戦存在は誰にも必要とされないのは自明の理。

 

 ならば天下泰平の現在、何故に彼女が次世代の神竜騎士となりえたのか?

 かの大戦の終戦からまだ八年。スパンを考えてもあまりにも早すぎる。

 いや、いまは口にはすまい。理由のおおよその検討はついているが…… 


「んで、ナイト様の様子は?」

「いまのところ土砂に埋まったままピクリともしてないでござるよ」

「えっへん。私の【セイクリッド・エクスプロージョン】を喰らったら当然」


 むふんと鼻息を漏らしながら自信満々に胸を張る少女。


「そこらへんのうぞーむぞーの魔族なら、聖竜神様の牙から鍛え上げられた

 この聖剣『エクスカリビャー』の一撃で、海のもずく&剣のサビですよ!」


「ヴァーいえてねーぞ」


 つっこむところはそこなのでござるかイカルどの。


「それはともかく御二方、お美事な連携でござった」


 言葉を交わさず、打ち合わせもなしに、よくぞここまで呼吸を合わした。


「なに、もりそばが遅刻して合流してきたときから策は考えてたからさ」

「闇の衣を剥ぎ取るには聖属性の一発が有効。古事記にも書いてあります」


 どこの古事記でござるかそれ?


「それよりも先生が観客席の物陰に潜んでる彼女にすぐ気付たのがすげぇ」

「気を練りながらジッと隠れてたのに、あの距離で気付いてたんですか?」

「コボルトは鼻と耳の良さには自信があるでござるからな」


 イカルどのが音の激しい大筒や焙烙玉を駆使して戦ったのにはワケがある。

 動きの取れない拙者から注意を逸らす目的もあったでござろうが。

 本来の目的は物陰に潜んでいる伏兵を闇騎士に悟らせないため。


 焙烙玉の効果はなにも榴弾による破壊だけが主ではない。

 爆音の聴覚撹乱、爆風の移動制御、爆煙の視覚遮断などの効果もある。

 これらによって闇騎士の意はイカルどのに集中し、伏兵の感知を逃した。

 拙者というどのタイミングで攻撃に移るか分からない楔もあっただろう。


 イカルどのは拙者の回復以上に不意打ちの機を待っていたのだ。

 自身を囮にして、聖属性の一撃必殺という最大級の罠に嵌め込む為に。

 逃げ切れねば串刺しにされる一か八かの賭けであったろうに。

 そうなったらそうなったで自分もろともの覚悟もあったでござろう。

 いやはや、お前が言うなもはなはだしきことなれど、狂っとる喃。


「ところで聖竜騎士どの」

「あっ、もりそばでいいです。まだ騎士見習いになってホヤホヤなんで」


 照れくさそうにポリポリと頬をかく少女。


「ああ、こいつ、まだ聖竜騎士の試練をクリアしてない仮免許だそうで」

「仮免許?」


 そういえばユートどのも正式な聖竜騎士になるための試練を受けていた。

 そのときはたしかドラゴン百匹斬りという難行を強いられていた記憶が。


「はい、この迷宮王のダンジョンのどこかにいる魔王を見事討ち果たしたら、

 晴れて正式に聖竜騎士にランクアップだって聖竜神様はおっしゃりました!

 最初はそんなムリゲーとか思いましたけど、こうして試練も無事完了です」


「完了のわけねーだろ。まだまだこれからだ。やっとこさ中ボス到達だよ。

 ラスボスなら自分のことをきっちりラスボスだって名乗るモノだしな。

 まだあと三人ぐらい残ってんじゃねーの? 中ボスは四人が基本だぞ」


「うぇぇぇぇぇぇっっっっっ!?」


 ハッハッハッ、若い。

 伝説の勇者にもレベルの低い初心者の時期はある。

 このもりそばどのも、救世主の頂を目指して一合目に達したばかりか。

 願わくば、無邪気で笑顔の絶えぬ無垢な少女のままであらんことを。


「ところでもりそばどの、何ゆえに今になって合流を?」

「ふっふっふっ、勇者というものはいつだって遅れてやってくるんです」


 ユートどのと同じようなことを言ってるでござるなぁ。


「なに言ってんだよ。キノコ鍋の喰い過ぎで食あたりで遅れたんだろ」

「わーっ! わーっ! わーっ!」


「いてっ。いてててっ。顔を真っ赤にして叩くな。お前はかわいくポカポカと

 叩いているつもりでも、神竜騎士のパワーでやられると結構キツイんだよ」


 小童ならではの愛らしさ。

 こういうところはまだまだ幼子。イカルどのの苦労が忍ばれる。

 でも、いささか軟派ながら、いい大人に出会えたではござらぬか。

 指標となる大人なしに冒険者になると道を誤りやすいでござるからな。


 魔族の天敵として大衆に認知され、なかなか認識されないことではあるが、

 神竜騎士の異能は創造神の神通力。これすなわち自然災害と同義語。

 例えばガッサーどのの異能は土砂災害や鉱山爆発と同じ破壊規模を生む。


 もし彼らの神通力が魔族でなく人間に向いたらどうする?。

 神々が人類に失望し、神の尖兵たる彼らが敵対者となったらどうなる?

 力の方向性を間違えば、たちまちにして人類に仇なす災厄になりうる暴。

 年端もゆかぬ小娘に『それ』が宿る。心強いがちと危ういでござるな。

 大穴の中に沈んだ闇騎士。あの者の末路は決して他人事ではないのだ。


「さて、もりそばどの。呼吸と気は整ったでござるか?」

「え? あっ、はい。消耗した竜気はだいぶ回復しましたけど」


 拙者の言葉にキョトンとなるもりそばどの。

 

「ぼちぼちか。もりそば、もういっかいさっきの必殺技はいけそうか?」

「あ、うっ、うん。もうちょっと待てばスキルのリチャージ完了だけど」


 続いてイカルどのの急な真剣味のある質問。


「二人とも魔王との対戦経験は?」

「まだないです」

「だったら勉強していこうか。自分も見るのはこれで二度目だ」


「はい?」


 若い。甘い。初々しい。雄を知らぬ生娘おぼこのように。


「先生、そちらのほうは?」

「まぁ、なんとか最後の切り札を出す程度には回復したでござるよ」


 もりそばどのは敵を倒してすっかり安心しきっていたようだが。

 ここにきても拙者もイカルどのは警戒を解く事は一切なかった。

 残心ざんしんは敵意と死が漂う戦場を翔け抜ける冒険者の基本。

 まして相手が魔王の幹部クラスとなれば微塵の楽観も許されない。


「いい機会だ」

「魔王退治を目指すならば、これだけは憶えておくでござるよ」


 拙者らの言葉に呼応するように。

 ドォォォォォォォォォォンッッッッッ!!!!!

 クレーターの中央部から間欠泉の如く邪気の闇柱が吹き出す。

 これが真の戦の始まりを告げる開戦の狼煙だといわんばかりに。


「まぁ、こうなるのは分かってた」

「御約束とはそういうものでござるよ」

「あ? あっ、ああああああああああっ!」


 やっと理解したようでなりよりでござる。

 これまで『こういうの』とは戦ったことがなかったのでござろうな。

 それだけ自分の必殺技に絶対の自信があったのだろう。

 無知にして蒙昧。舌の上でとろけるコンペイトウのように甘い。


「知っとけもりそば。こういう手合いは倒してからが本番なんだよ」

「様子見を終えて本性を表す第二形態。魔王クラスの嗜みにござる」


 ── ミゴトダ ──


 声が聞こえる。

 闘技場全体に響き渡る男の声。

 つづいてパキリパキリと大気が軋む音がする。

 ダンジョンの空間そのものが捩じくれて悲鳴を上げている。

 似ている。鬼城王の体内迷路の亜空間が転換するときの音に。


 ── アソビトハイエ コノワタシヲホフレルモノガイルトハ ── 


「景色が……歪んでいく?」

「こいつは空間転移の予兆か?」

「どうやら竜宮城へ御招待の雰囲気にござるな」


 ここは魔王が生み出した結界内。

 侵入者を別の場所に送り込む転移機構を備えていてもおかしくない。

 戦いの場を変えるつもりか。拙者らを何処かへ転移させようとしている。


 ── ナラバ タワムレハオワリダ クルガヨイ ──


「言われずとも」

「御好意は受けるでござるよ」

「な、なんだかよくわからないけど右に同じっ!」


 逃がさん。貴様だけは。

 空間の湾曲から伝わってくるのは確かな決着を求める意。

 これより先は勝者と敗者が生まれるまで脱出不可能の修羅界。

 もはや尻尾を巻いて逃げられぬ。撤退も回避もできぬ。


 ならば自らの意志でいざ参らん。

 この先、修羅が出るか羅刹が出るか。

 それとも──


 ── ワガ ケッセンノ ブタイヘ ── 


 【  強制転移テレポート  】

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