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Battle Royale "Holy Knight" ~聖竜騎士~

  「待たせたな。ついに来たぜ! 」


【黒木勇斗語録・GUILTY GEAR Xrd -SIGN- キャッチコピー】

 神竜の騎士──

 曰く、それは神の宣託を受けた真なる勇者。

 曰く、それは対魔王の決戦兵器として使わされた神の尖兵。

 曰く、それは災厄と巨悪がはこびるとき天より降りたる救世主。


 現在、世に跋扈している雑魚勇者など足元にも及ばぬ神通力を備え、

 神の座の隣に立つことを許される聖女に比肩する寵愛と加護を受け、

 彼らがひとたび剣を振れば地を割り、海を断ち、天を裂いたという。


 勇者の中の勇者。末世に降り立った救世主メサイヤ。神竜の寵児。

 様々な伝説に登場し、吟遊詩人に語り継がれ、絵物語に記されし存在。

 彼らは世界が魔王軍によって挽回困難な危機的状態に陥ったときのみ、

 神々の厳選に次ぐ厳選の末に誕生し、決戦存在としての顕現を許される。


 いずこともなく現れ、また、いずこともなく去っていく神話の騎士。

 男子として生まれたならば、必ずや一生に一度は誰もが夢見る英雄像。

 勇者を目指す冒険者は多かれ少なかれ飽くなき憧憬を彼らに抱いている。


 だが偉大すぎるほどに偉大な彼ら神竜の騎士は、滅多にこの世に現れない。

 神竜騎士は伝説上の存在で実在するかも怪しい神殿の広告塔プロパガンダ

 一時期そう語られるほど、神竜の騎士の活躍は歴史書での記載が少ない。


 神竜の騎士が顕現したり降誕するほどの絶望の世はそう滅多に訪れない。

 複数の国家が消滅するほどの大規模災害、あるいは大陸全土の侵略の危機、

 それくらいのでないと神々も世界にこの劇薬を投与したくないのだろう。


 この六百年で大陸内に神竜の騎士が出現した事例は四時代のみ。

 最初の事例はハイエルフの魔法帝国崩壊後の戦国時代末期に一度。

 次に後の聖王ベリアとなる光竜騎士が邪竜神の使途を滅したとき。

 三度目は第六天魔王の乱のとき反存在として呼ばれた異邦人ミツヒデ。

 最後に八年前の大戦。前代未聞の四騎士同時降誕の事例である。


 数百年に一度しか現れない救世主が一気に四人もやってくる。

 それだけで八年前の大戦が本気で世界の危機であったことを物語る。

 圧倒的な戦闘力を誇る七大魔王に立ち向かった四人の神竜の騎士。

 千年後の世になっても寝物語として語られ続けるであろうあの聖戦に、

 神竜の騎士の朋友として共に魔王と戦えたことを今も誇りに思う。

 

 拙者は聖竜の騎士ユートと地竜の騎士ガッサーとは懇意であった。

 ガッサーどのとは鬼城王シダテルとの戦いで共に死線を歩んだ友として。

 ユートどのとは一時的ではあるが西方連邦諸国を旅する仲間として。

 それぞれがそれぞれ、年若くして救世主の名に相応しい剛の者であった。


 特にユートどのには不思議な華があった。

 ガッサーどのが泥臭く地味に活動する徹底した現実主義であった分だけ、

 伝説に登場する勇者の理想をそのまま体現するユートどのは眩しかった。

 英雄ヒーローに憧れ、ひたすらに理想像に拘り、勇者らしさを求道する。

 夢見がちというか、純粋すぎるというか、些か危うい少年でござった。

 だからこそ邪竜退治という英雄譚の一説を見事成し遂げられたのだろう。


 聖王ベリアの再来と言われる光竜騎士ディーンも素晴らしい英雄だったが、

 ガッサーどのいわく、ユートどのほど酷くこじらせてはいなかったそうで。

 あそこまで重篤の領域に浸れた勇者様は後にも先にもユートどの一人。

 今後、神竜騎士が現れたとしても、彼を超える中二病は現れぬであろう。


 そう拙者は──

 常々思っていたのでござるが──

 やはり世界というものは奇妙奇天烈で摩訶不思議なもので──


「おぬしは……」


 拙者は短く言葉を漏らす。

 突如、絶望の暗雲を断ち割り、希望の光を照らした聖なる光芒。

 天空から闇騎士に渾身の一撃を叩き込んだのは年端もゆかぬ少女。

 蒼白い輝きを放つ長剣に、聖光の輝きを纏う軽鎧に身を包んだ姿は。


「なにものでござるか」


 紛れもなく神竜の騎士、それもユートどのと同じ聖竜騎士の様相!

 彼女の眼前にはブスブスと煙を上げる穿たれた闘技場の舞台。

 同胞の危機に颯爽と登場し、大正義にて仇なす敵を爽快に叩き切る!

 大地にクレーターを穿つ恐るべき剣圧。まるで怒れる竜のブレスのよう。

 これほど巨大な聖属性の破壊を生み出せる者は聖竜騎士の他にいない。


 久方にお目にかかる。神竜騎士の尋常ならざる竜の闘技を。

 型はだいぶ雑であったが、あれはユートどのが得意としていた剣技、

 竜の闘気を剣の切っ先に溜めて爆発させる奥義【聖竜爆裂波】だ。

 

 なんということか。

 稀代の存在が、不世出の存在が、あの大戦からわずか八年で再び!?

 よもやユートどのと同じ暴を魅せる勇者が同じ時代に現れようとは。

 この光輝、この純正、この神聖、纏う気は八年前のユートどのそのもの。


「何者?」


 拙者の問いにくるりと振り返る少女。

 若い。年のころは14かそこら。あのときのユートどのと同じくらいか。

 大陸中央部のヒュームに多い金髪碧眼の少女で、体格のほうは非常に小柄。

 まだまだ色気には乏しく、長い髪を簡単に後ろに束ねただけで装飾もない。

 あまりオシャレには気を使わない性分なのだろう。風貌は快活にして奔放。


 女騎士というと高貴な身分を連想しがちだが、彼女にはそれを感じない。

 神竜騎士に選ばれやすい王族や僧の出身ならば彼ら特有の臭いがある。

 異邦人ならばなおさら独特の臭いがあるのだが、彼女にはそれがない。


 垢抜けないワンパクな田舎娘が無理して整った装備の勇者を気取っている。

 拙者の少女に対する率直な感想は、そんな感じであろうか。

 本格的な勇者ではわりと珍しい、血統至上主義抜きで神に選ばれた系統だ。


「ふふん、何処の誰かと聞かれれば、こう応えるのが誉れ高き騎士の務め!」


 ついでに言うと。


「私の名は『もりそば』っ! この末法の世に降り立った聖なる神竜の騎士!

 おはようからおやすみまで悪即斬! 夜も寝ないで昼寝はするけど悪即斬!

 迷宮王再臨の噂を聞きつけ、魔王に正義の鉄槌を下すべく、ここに推参!」


 無駄に意味不明な口上と、ババンと右掌を突き出す無意味なポージング。

 一行一行のたびにバッとババッと格好良いポーズに変えるのも忘れない。

 最後に『どうだまいったか』といわんばかりに自信満々にウインク。

 しかもいま、自分で『きらりん☆』と効果音まで入れてきた。

 たぶん場所が場所ならば高いところから現れてやっていたと思う。


「……………………」


 傾向は違えど、この痛い言い回しとか無駄なかぶきっぷりは──

 英雄願望と見栄っ張りをこじらせた中二病の典型的症状。

 彼女は自分のことを聖竜騎士と名乗った。つまりユートどの後継者。


 嗚呼──

 ……先代が先代なら次代も次代で見事なアレでござるなぁ~……

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