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Battle Royale "swift flight of a pigeon" ~斑鳩航路~

「燃やせ!戦場、極大な闘戦」


【黒木勇斗語録・GUILTY GEAR XX Λ CORE -PS2版-】

 瞬く間の中で流れる時の一粒一粒が尊く、恐ろしく、名残惜しい。

 振りかぶり、放たれる、そんな剣の一閃の中で生まれる束の間が。

 予測し、死に撫でられ、反応し、回避し、反撃する刹那の時間が。

 とてつもなく長い攻防を繰り返したようで、現実はまだ数秒の経過。


 ほんの数呼吸の間に、拙者は何度も死神の気配を感じ恐怖した。

 触れれば死ぬ。あたれば死ぬ。斬られれば死ぬ。

 頭が爆ぜるか、上と下が生き別れになるか、唐竹割りにされるか。

 たかが一振りの攻撃で、とれほどの死に様を脳裏に過ぎらせただろう。


 これまでの真剣勝負の中でも無数に感じてきたこのイメージ。

 将棋や囲碁に興ずるときに鬩ぎあう先読みの交戦とおなじく。

 初段の一撃目が放たれるかすかな間に浮かび上がる勝ち筋の幻視。


 百通りの避け方の選択、千通りの反撃技の選択、万通りの攻防の譜面。

 その中から最適解を抜き出して現実に解き放ち勝利に導くのが強者の条件。

 超一流と呼ばれる剣士ともなれば思考すらせず反射運動だけでそれを成す。


 真剣勝負は究めれば究めるほどに短く儚い。

 互いに決め手を欠きながら長時間にわたる泥沼の攻防など下の下。

 勇者と魔王のように様子見と本気の出し惜しみで消耗戦に陥る戦など下作。

 人と人が刃物を握ってただ殺すだけなら、およそ十の秒で事足りる。

 互いに死の間合いにいるのならばなおさらに。


 だから常々想う──

 この刹那の中で──

 もう沢山だと早期決着を希望する自分と──

 まだ終わってくれるなと続行を希望する自分が──

 早く勝ちたくもあり長く斬り結びたくもある矛盾に溺れている──


 ああ──

 自分はやはり死狂イに酔いしれる狂犬なのだな──

 いつまでも獣性を抑え切れぬ未熟者なのだな──

 我が剣の師、柳生兵庫助殿の偉大な背中を思い浮かべながら──

 なぜ自分が尾張柳生の免許皆伝に到れなかったのかを実感しながら──


 我ハ己ガ獣ヲ解キ放ツ──!!!


 盤面この一手。 

 狂え。狂え。狂え。

 跳躍し、上昇し、滞空し、降下を始める時の中で腹から湧き出す野生。

 猛々しい獣が、凶暴な獣が、跳ね回る獣が、純の殺意になって駆け巡る。


 五体の一挙手一投足を。

 筋繊維の一本一本を。

 細胞のひとつひとつを。 

 この連檄のために千切れんばかりに燃やし尽し極限まで稼動させる!


 相手は一撃必殺を成すにはあまりにも硬き相手。

 漆黒の霧の防護壁の効果で斬撃が思うように通らないのであれば。

 天より無数に滴る雨垂れが岩の一点を穿つが如く。

 刃の斬から峰の打へ攻撃を切り替え、頭部への連撃で痛打を狙うのみ!


 一撃目! 落下重力を利用し、全体重を乗せて叩き割る兜割り『天風』。

 二撃目! 着地と同時に跳躍し、真下の死角から顎を叩き割る『海風』。

 三撃目! 大きく身体をひねりながら左方側頭部への薙ぎ払い『川風』。

 四撃目! 同じく反対方向へ捻り返し右方側頭部への薙ぎ払い『山風』。


 技名を口にする間もなく。

 対象に防御行動をさせる間も与えず。

 一呼吸に同時四連打の峰打ちの慣行!


 どうだ? どうか?

 たとえ斬れずとも打撃の衝撃のみで敵の脳を破壊することは可能。

 容赦なく打ち据えた。小気味よいほどに叩き尽くした。

 技のひとつひとつに確かな手応えがあった。

 これでもまだ倒れぬか?


 グラリ……


 兜を歪めるほどの四方連激を受けて闇騎士の体が大きく揺れる。

 揺れはしたが倒れない。ふんばられた。耐え切られた。


 しかし──

 反撃はやってこない。一時的な能動不能のスタン状態に陥っている。

 さしのも怪物も今の連撃で脳震盪を引き起こしたか。

 だが終わらない、終わらせられない、終われもしない。

 この程度の連撃では仕留め切れぬのことは百も承知。

 倒すには決め手が要る。必殺の決め手が。


 歓喜。感謝。

 これほどまでの奥義の連発は滅多に味わえるものではない。

 魔王相手のときは人型でないが故の使えぬ技が多かった。

 人間相手の立会いでは初見殺しの奥義のひとつふたつで勝負はついた。


 これほどに。

 これほどまでに。

 斬っても斬り裂き切れず、叩き潰しても叩き潰しきれず。

 咬んでも、穿っても、咀嚼しても、牙が致命に行き渡らぬ絶望と快感。


 まだ。

 まだまだ。

 まだまだまだ。

 まだまだまだまだ。

 お主は拙者に必殺の奥義を繰り出させてくれるというのか。


 ゾクッ。

 得体の知れない恍惚が拙者の体毛を撫で回した。

 グルルと喉が鳴る。ヒュッと呼吸が細く鋭利になる。

 これからにござる。これからにござるよ。これからに──!!!


 絶好の好機。

 凡兵ならば一撃で脳挫傷になる威力の頭部四連続打撃。

 それらすべて耐え切り、脳震盪に止めた耐久力は驚嘆に値するが。

 一時的にしろスタン状態で反撃不可能な状態を逃す手はなく。


「御免」


 繰り出すトドメの一撃は。

 最適、最速、最短の、超近距離射程からの奥義『牙風』。

 装甲の薄い喉部分を正確に狙った疾風迅雷の平突き──!!!


「──ッッッ!!!」


 が……


「オオォォォォォォォォォォォォォォォッッッッ!!!!!」


 魔竜の放った怒号に──


「ぐはぁッッッ」


 凌駕された。


「~~~~~~~~~~~~~~ッ」


 後退。後退。後退。

 しまった。ここにきて不覚。なんということか。

 踏み込むために利き足を上げた瞬間に、全方位への衝撃波がやってきた。


 強制後退ノックバック


 竜の咆哮にはそれだけで物理的な衝撃波がある。

 殺傷能力こそ低いが、浮き足立った人間を弾き飛ばすくらいは容易。

 精神にも作用し、心の弱いものならば恐慌状態に陥って竦み上がる。


 ここにきて焦ったか。選択を誤ったか。否、相手の技能が上手だった。

 まさか能動防御不能のスタン状態からでも放てる技があるとは。

 あるいは……ただ叫んだだけで技能ですらないのかもしれない。


 どちらにしてもコレは致命的な失策。

 弾き飛ばされた身を回転させて着地するも体勢は整わず。

 いかん。スタンから回復した闇騎士のほうが行動順が早い。


 この離れた距離から予測される敵の攻撃は幾度か見た突撃技。

 予想通りだった。

 滑走するように踏み込んでくる闇騎士。

 意趣返しとばかりに放たれる大剣の突き。

 避けきれ──


 ドォォォォォォォォォォン!!!


 爆音が轟いた。

 耳をつんざく音、体毛を揺らす風、目の前で吹き飛んでいく闇騎士。

 鼻に入り込んでくる火薬臭。今のは砲撃か!?


「間一髪でしたね」

「…………」


 闘技場に現れる人影。

 不意打ちを仕掛けたのが彼であるのは間違いない。


「とんだ阿呆にござるな」


 まったく。

 拙者は逃げろといったのに。

 これだから冒険者という人種はわがままで困るでござるよ。


「まぁ、あのまま尻尾巻いて逃げてもよかったんですけどね」


 大筒を担いだイカルどのは照れくさそうに頭を掻きながら言う。


「やっぱダメですわ。ここで逃げたら男が廃るっていうか。スタイリッシュじゃないっていうか。先生にぜんぶ押し付けてハイサヨナラじゃ、女性陣クルーにあとでなに言われるか分ったもんじゃないんで」


 気持ちは分かる。

 女の目の前なら見栄のために命を張る。

 なんともはや、そこが益荒男の悲しいところでござるな。


「それに」

「それに?」


「ボスキャラとの戦いで仲間がピンチのときに颯爽と援軍として登場って、最高にスタイリッシュじゃないですか」


 これには拙者も絶句。


「死んでもしらないでござるよ」

「それならそれでカッコつけて死にますよ」


 まったく。

 こういうのは老兵が後進に未来を託して死ぬのが本懐だというのに。

 若いものはすぐにカッコつけて死に急ぎたがる。やれやれでござる。


「騎士野郎のほうはどうですか? 見事に不意打ちが決まりましたけど」

「そこそこ通ったように見えるでござるが、致命打には遠いでござるな」


 しかし十分。

 横槍ならぬ横砲撃で吹き飛ばしでくれたおかげで拙者の体制も整った。

 そろそろ死に時とも思ったが、もう少しばかり、いけそうでござるな。

 イカルどのの参戦で簡単に死ねぬ理由もできた。


「立ち上がるでござるよ」


 闇騎士が起き上がる。

 兜の下の赤い眼光が輝きを増したように見える。

 睨んでいた。こちらを睨んでいた。


 ほう?


 初めておぬしから感情らしい気配が滲み出したでござるな。

 遊びのつもりであったか? 戯れが戯れでなくなって本気になったか?

 いい殺意にござるよ。こうでなくては真剣勝負は面白くない。


 まだ、余力は山と残しているのでござろう?

 まだ、いくらでも手札は残っているのでござろう?

 まだ、真の力を出し惜しみしているのでござろう?


 こちらも遊びで殺されてはたまらぬでござるからな。

 そうだ。たとえ竜と人の力量差があろうと全力を出してもらわねば困る。


 そうだ怒れ。その眼光でいい。

 嘗めるな。甘く見るな。顔を起こして拙者らを見ろ。

 仮も魔のモノなら、冒険者を落胆させてくれるな。


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