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Battle Royale " SAMURAI of being wild" ~血風舞台~

「久しぶりだな、決着ケリを着けようぜ」


【黒木勇斗語録・GUILTY GEAR XX Λ CORE -PS2版-】

 闇騎士を覆う漆黒の濃霧はいまなおも濃く──

 闇騎士が担ぐ大剣は雄々しく厚く太く重く──

 闇騎士が発散する竜が如き圧力は衰えを知らず──


 人ナレド、人ナラザル──

 人デアリ、人ニアラズ──

 人ニシテ、人デナシ──


 全身が細かく震えているのが分かる。

 それは紛れもなく戦慄を基とした武者震い。

 強者を前にした肉の歓喜であり。猛者と相対できた骨の狂喜。


 背筋がムズ痒い。

 心の奥底で獣性が猛り狂っている。

 闘争本能が爪を立てて理性の壁をかきむしっている。


 意識せず口元が歪む。

 口角が吊り上り、獣面が浮かび、犬牙が剥き出しになる。

 まるで獲物を見つけた肉食獣のように、笑みをそのままに凶貌を晒す。


 これでいい。

 剣客は剣客らしく、獣人は獣人らしく、狩猟者は狩猟者らしく。

 腹の底から怒涛のように押し寄せてくる己の獣性に素直に従えばいい。


 拙者はまだまだ未熟者なれば。

 明鏡止水の心などという崇高な武の理念の到達には程遠く。

 むしろ真逆に野生を解放し、純粋無垢な殺意にて、お相手いたす所存。


 自身の真っ向、闘技場の対角線上、およそ十メートル先に闇騎士はいる。

 奇妙にも、意図せず、武舞台の中央部を挟んで拙者らは対峙している。

 刃渡りに倍近い差はあれど、互いに得物は近距離武器。

 この距離では飛び道具あるいは中距離射程を持つ技能がなければ攻撃不可。

 剣で斬り合うにはあまりにも遠く、やれることはただ見合うのみ。


 睨み合いや探り合いをするつもりは毛頭ない。

 この境目は、この道のりは、この間合いはほどなく縮まる。

 瞬きのうちに、いとも容易く、互いに殺傷の一撃を繰り出す距離へと──


 ゆらり……


 空気が揺れた。

 闇騎士の身体がかすかに右側に傾いたように見えた。

 そう見えたことを認識したときにはもう……


「────!?」


 黒の殺意が自分の間合いに捻じ込まれていた。

 この重装備で、この巨大武器で、なんという速度か。

 疾風迅雷の瞬発力。怪物的な突進力。そこからくる一直線の突撃。


 完全には避けられない。これは必中の流し切り。

 速度重視のスキル故にダメージは低くなるが出されればまず当たる。

 火力が落ちるとはいえ闇騎士の膂力と武器ならば軽装戦士には致命傷。


 ならば被弾のダメージは最小限に。

 大剣の刃が胸に触れた寸前に上着一枚と獣皮を薄く切らせて回転する。

 流水となり、斬撃にあわせて肉体を滑らせ、辛うじて致命打を回避する。


 ぞわっ。

 ぞわっ。

 ぞわっ。


 全身の獣毛が逆立つほどの震え。死に触れかけた恐怖と生還の歓喜。

 自身が闇騎士の一撃をしのいだことを認識するよりも速く身体は動く。

 突撃の勢いを止められず背中を見せた闇騎士の頚椎へ向けて──!


 振り返りの遠心力の勢いに乗せて繰り出す迎撃の横薙ぎ──『松風』


 百の鍛を千とし、千の錬を万とする。

 日々の鍛錬で染み付き、肉と骨にまで重なった術理は反射運動で放たれる。

 敵の攻撃を半身でかわしきり、その回避運動の速度を殺さず回転。

 そのまま敵の背後に回り込みガラ空きの背面に反撃の一閃を打ち込む!


 峰の部分が闇騎士の頚椎箇所を叩き潰すたしかな手ごたえ。

 並みの冒険者ならば首の骨を粉砕されて再起不能。悪ければ即死する。

 防御力に優れた重装備のディフェンダーでも脳震盪は免れない衝撃。


 しかし──


(浅いッッッ!!!)


 手ごたえはあったが大ダメージにまで達するほどの実感がない。

 なんだこの硬さは! それでいて粘度のある泥を叩いたような違和感!

 肉や皮はおろか装甲すら削れぬ鎧の上の堅固な膜。魔法による防護壁。

 おそらくは全身を覆う漆黒の霧の効果だろう。これは厄介にござるな。


「…………!」


 多少は延髄に衝撃が通ったらしく、闇騎士がグラリと前に揺れる。

 しかし吹き飛ばすには威力が足らず、おたがいにまだ死の間合い。

 闇騎士は軽微なダメージを負いながら振り向きザマの二打目を放つ。

 それを拙者は大きく跳躍して繰り出された横薙ぎを飛び越える。


 幾度も目にしたが、やはり恐るべき剛剣。

 革鎧程度ならば厚紙が如く容易く裂き、金属鎧さえも断ち割る威力。

 単なる薙ぎ払いでさえ風圧だけで小兵を吹き飛ばす力を秘めている。

 多数の雑兵を相手にした戦場ならば、この技だけで血風が吹くだろう。

 ただの一振りで数人の兵が鮮血と糞便と臓物を撒き散らす屍雨と化す。

 剣の竜巻が過ぎ去った後には無数の屍が残るのみ。そんな戦場の剣だ。


 大振り。大雑把。大破壊。

 こうして身に触れてみれば、よく分かる。

 この剣術は巨大生物を相手にすることを想定して磨かれたものだと。


 すなわち──

 ドラゴンという最強の巨大生物を屠るためだけに培われたモノ。


 ならば──

 この真剣勝負の行方はまだ分からない──

 闇騎士の大剣が驚異であることに変わりはないが──

 巨大生物を倒すことに特化しすぎた剣技は、言い換えるなら──

 拙者のような俊敏を活かす単体の敵を相手にするのに向いていない!


 いかに強大な一撃を持つ剛剣とて、当たらねば意味はない!

 対巨大生物戦や対集団戦の攻撃が一対一の戦いにも有効とは限らない。

 無論のこと、この軽装では一度でもまともに当たれば即死は必至。

 薄氷の上を渡るように慎重に冷静に、それでいて大胆にいかねば終わる。


 跳躍による緊急回避を果たし、拙者は降下しつつ再び反撃する。

 闇騎士の反応速度がやや鈍くなっている。

 狼狽、あるいは延髄を叩かれた衝撃からくる軽微な朦朧状態。

 先ほどの『松風』の一撃は多少なりとも効いていたようだ。


 絶好の好機にござる。

 初手の挙動の読みが的中したおかげで生まれた一隅の機会。

 確信があったわけではない。

 錯覚では、勘違いでは、そう考えながらも行った一つの先読み。


 あれは野生の勘というよりは過去の経験と分析からくる予測だった。

 もしあの闇騎士が、自分の知っている一人の少年の成れの果てならば。

 かすかではあるが初手で大きな踏み込みからの斬撃を選択したとき。

 あの少年は攻撃の所作の前段階に身体を横に傾かせるクセがある!


 予感は──的中した。


 となればやはり、この闇騎士の正体は……


 感謝。

 このような邂逅を招いた我が運命の旅路に感謝。

 盟友がこれほどの強者として帰還してくれたことに感謝。


 我、修羅道を歩む侍なれば。

 悪と相対すれば悪を斬り。

 友と刃を合わせれば友を斬る。

 汝が無情の鬼と成るならば、我もまた無情の獣と化し。

 善も悪も正も義も問うことなく真剣のみで語り合い。

 弱肉強食の理の赴くまま敵を残酷無惨に檄にて断つ!!!


 故に──


 心置きなく、全身全霊で、手加減無用で、斬り捨て御免!

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