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Battle Royale "Dogdays" ~狂犬乱舞~

「選べ。道を開けるか、くたばるか」


【黒木勇斗語録・GUILTY GEAR XX Λ CORE -アーケード版-】

 八年前──

 冒険者たちによって七人の魔王が滅び、この大陸は平和を取り戻した。

 それは同時に冒険者という存在の意義を揺るがす序章でもあった。


 数年もの間、東西南北で絶えることがなかった戦火は鎮火し。

 数年もの間、あちこちで鳴り響いた人々の嘆きの声は沈静し。

 数年もの間、激しく渦巻き続けた災禍は溶ける様に消え去った。


 人類にとってこれほど喜ばしいことはない。

 戦のない平和な世の中。魔物の驚異がない天下泰平の時代。

 光の時代の到来で陰鬱とした暗黒時代は魔王軍もろともに霧散した。


 もちろん魔王がいなくなってすぐに完全な平和が訪れたわけでなく。

 戦後間もなくは各国も魔王による重く深い傷跡の穴埋めに必死で。

 皆が魔王軍の残党の討伐や被災した地の復興事業などに奔走し続け、

 戦うべき相手がいなくなった後もしばらくは冒険者にも旨味があった。


 ほんの三年前くらいからだろうか。

 魔王死して勇者が煮られるを合言葉に冒険者大不況がやってきたのは。

 切っ掛けは冒険者ギルドが行った勇者職の徹底的な人員整理しゅくせいだった。


 魔族退治に特化した勇者が魔王無き時代に無用の長物となるのは必然。

 こうして思い返せば勇者の首切りが到来するのは当然といえる悲劇。

 冒険者ギルドとて慈善事業で斡旋業を経営しているわけではないのだ。


 使えなくなったもの。時代にそぐわないもの。重荷になっているもの。

 そういうものを淘汰してギルド運営を身軽にするのも仕事のうち。

 需要が減れば以来も減り、その分だけ斡旋可能な人員も絞らねばならない。

 その一方で有能な新人の育成に枠をさかねばならぬジレンマもある。


 となれば余剰人員の削減で最初に切られるのはなにかと問われれば。

 一定の所属期間を経ても成果のない無能と未来のない無用が挙げられる。


 かくして──

 実績の薄い二束三文の雑魚勇者が解雇対象として最初の槍玉に挙げられた。

 無論、人員整理の犠牲にあったのは勇者職のみに留まらなかった。

 評判の悪い冒険者、低ランクのまま長期所属の冒険者も解雇対象にされた。

 解雇までは行かなくとも仕事を干され自然消滅した三流も数え切れず。


 他に仕事をもつ兼業冒険者はまだよかったが、専業となると死活問題。

 そのほとんどは現役引退を余儀なくされ、それでも辞められぬものは

 野盗に身を落とした冒険者を狩って食い扶持を稼ぐ病んだ生活に陥った。

 その野盗狩り依頼も奪い合いなのだから世の中の病みは深刻にござる。

 

 時代は変わってしまった。

 腕っぷしに自信があれば一攫千金の夢が見れた群雄割拠は終局を迎えた。

 魔王の脅威が消えれば軍事縮小も起こり、仕官の門も相対的に狭くなる。

 雑魚魔王などの上級魔族の退治に成功した一部のAクラス冒険者を除き、

 大半の弱小冒険者が路頭に迷い、故郷で畑を耕すか野盗に落ちぶれた。


 いや、Aクラスの冒険者とて団扇を仰いで暢気に暮らせるとは限らない。

 英雄と持て囃されるほどの猛者でさえ落伍者に嵌るそんな時代。


 たしかに魔王を打ち破った功績を讃えられ爵位を得ることに成功したり、

 報奨金で大金持ちになったりで悠々自適な生活を送っている者もいる。

 冒険で得た縁と資金を元に事業を始めて成功した高ランク冒険者もいる。


 冒険者の仕事など一攫千金を得るための一時的な仕事にすぎない。

 そう考えるのが人間で、冒険のための冒険に赴く者は多くはない。

 しかしながら、決して多くはないが、決していないわけでもない。

 拙者のようにいつまでも冒険を引退できぬ者も確かに存在するのだ。


 仕官はしたい。金も欲しい。良き主に出会えれば忠義を尽くしたい。

 されど己の剣がどこまで通じるか、刃をどれだけ磨けるか試し続けたい。

 武者修行の旅を続け、暴の世で己より強い相手と切り結んでみたい。


 これが拙者の偽らざる本音。

 今も昔もこれからもきっと変わらぬであろう。


 そう、世の中にはいるのでござるよ。

 冒険のための冒険に溺れ続けていたい冒険者という業の深い存在が。

 そして、そういった存在は得てして太平の世には居座れず戦の闇に落ちる。

 まるで蠟燭の火に飛び込む蛾のように自滅を求めて危険に身を投じたがる。


 ある戦友は戦を求めて紛争地域へ。ある同門は魔物を求めて未開の地へ。

 拙者も彼らと同じで平和に退屈し、戦乱に焦がれている狂犬にござれば。

 磨きに磨き、研ぎに研ぎ、手入れを欠かさぬこの剣を振るう機会を求め、

 あてもなく強者を求め、修羅道を進み、やがては血の海に朽ち果てよう。


 あの日、ガッサー殿に探索の話を持ちかけられたときに。

 拙者は野生の勘でなんとなく察していたのでござろうな。

 この八年間、乾き、飢え、焦がれ、求めてきた強敵がここにいることを。


 昔なじみの少年の面影を感じる『それ』は、人の形に凝縮した魔竜。

 漆黒の鎧、漆黒の剛剣、漆黒のオーラ、おそらくは下着までもが漆黒。

 Bクラスの冒険者を成す術も与えずに一掃した人ならざる超暴力は、

 かつて拙者が死に物狂いで戦った七大魔王の一角にも負けず劣らず。


 このものが何者かは知らぬ。

 まさか現世にこれほどの魔のモノが潜んでいたとは驚くしかない。

 これほどの者ならばギルドの情報網に引っかかってもおかしくないはず。


 誰にも知られず、噂にものぼらず、彼奴はいままで何処にいたのか。

 いや、それ以前に野心も持たずこのような僻地にいる理由が分からない。

 魔王という存在はえてして喝采願望の塊。支配欲の権化であるはずだ。


 そうでないならば。

 あるいはこやつも拙者らと同類か。

 侵略や支配は二の次で、純粋に強者と戦うことが生きがいの修羅なのか。


 ハハッ。

 もはや笑うしかないでござるな。

 目の前にいるコレは、拙者みたいな未熟者にはあまりにも豪勢に過ぎる。

 相手は少なく見積もっても下級魔王級。一対一で挑むべき相手ではない。


 まるで地平線の果てまで続く宴席料理を並べられたかのような感覚。

 かつ、それらのすべてが美味であり甘美であり、悶絶するほどに猛毒。

 中毒死必至の毒膳料理とわかっていて皿まで平らげたくなるこの魅力。


 故に──

 抑えきれぬほどの獣の性が腹の底から沸き立ち踊る!


「いざ尋常に」


 相手が相手。様子見や小細工を弄する暇もない。

 力比べに饗する余裕は無し。初手から最大級の爪牙にてお応え申す。

 隙を伺う牽制は無粋。繰り出す技は出し惜しみせず全身全霊の奥義。

 それが真剣勝負の礼儀と心得る。


「勝負にござる!」


 異世界の書物『葉隠』いわく。

 武士道と云ふは死ぬ事と見付けたり。

 武士は如何にして正しく生き、如何にして満足する死に到るべきか。


 生き汚く命を長らえることだけに執着する野良犬の道は選ばない。

 だからといって命を軽視し率先して犬死にを選ぶ駄犬にもならない。

 もし死すならば燃え尽きるほどの強敵の待つ戦場にて。

 力及ばず敗北するならば誇り高き名誉ある死の果てで。


 狂犬よ──

 雄々しく牙を剥け──

 前のめりの屍を晒せ──

 戦のための戦のために──


 華々しく死に狂え──!!!

半年ぶりにメインストーリー再開です。

本編は第64話「Beware of the dog ~犬侍・陸~」の続きになっております。

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