友人を捕縛しました
現れたレイトはどこか不機嫌だった。
レイトは長い銀髪を一つにまとめた、どこか病弱そうに見える赤い瞳の美少年である。
姿かたちから本人に間違いないと俺は思う。
とりあえず声をかけて、事情を聞こうと俺が思って近づくのを待つ。
やがて俺達の隠れている細い路地にレイトは近づいて……。
「あの……」
「先手必勝!」
そこで俺が声をかけるよりも早く、フィリアがレイトを捕縛した。
ぬっとその手を伸ばしてレイトの目を手で隠して、首にあいたてで抱きかかえるように捕まえてその細い路地に引きずり込む。
いきなりなんでこんな悪人みたいな事を通れが思っているとそこでフィリアがぐっと自分に引き寄せるようにして、
「それで、お前には聞きたいことがある」
「な、何ですか! もしかして女の子ですか!」
「……気持ち悪いから一回殴るかしら」
「だ、だって背中に……」
そこでフィリアは気付いたらしい。
この男の背に胸がついてしまっていると。
冷たい目でフィリアはレイトを見ながら、拘束していた手でフィリアは俺を手招きする。
なので近づくと、
「こいつを後ろ手で拘束して」
「え? いえ、でも」
「これが貴方の追っ手の仲間かもしれないから尋問しないと」
「尋問て、ええ!」
「つべこべ言わず、やりなさい! 下僕」
そんな無茶なと僕は思ったが、とりあえずはフィリアに言われた通り、レイトを後ろ手に拘束する。と、
「その声はユニだな! くっ、僕はお前のせいで酷い目に遭いかけているというのに……」
「何で俺のせい?」
つい聞き返してしまったのだが、それがレイトの琴線に触れたらしい。
「お前、お前が全部悪いんだ! 俺は、俺は……純正生物の女の子が好きなんだぁあああ」
そう、涙ながらに叫ぶレイトを見ながら、フィリアが更に冷たい目でレイトを見て、
「何? この見かけはいいのに中身が残念な男は」
「えっと、女の子と付き合っても長くは続かない可哀想な“吸血鬼”です」
「おまっ、お前、おーまーえーのせーいーでぇえええ」
呪詛じみた声をレイトがあげる。
だが俺達は確かに女の子にあまりモテないという友情で結ばれた“仲間”であったはずなのだ。
なのにこのような裏切りを受けるとは!
「く、レイト、お前だけは俺の味方だと思っていたのに、理由はわからないがそんな呪うような声を出
すんだな!」
「ふ、いつから僕が君の親友だと錯覚していた。お前など僕にとってただの“エサ”なんだからな!」
「なん……だと……」
「ククク聞いて驚け。この僕のような“吸血鬼”はその相手の血を吸うことによって、その人物のもつ力をほんの少し扱うことが出来るのだ」
「そ、そんな力が……何故親友である俺に今まで黙っていたんだ!」
実際に俺はそんな力がこのレイトにあるとはしらなかった。
幼馴染でもあるこのレイトがまさかそんな力を持っているとは……。
そう驚愕の思いで見ている俺にレイトは晴れやかな笑みを浮かべ、
「知らなかった? 当然さ。なぜなら俺は……お前の“血”がどうしても必要だったからな。親友とはいえ弱みを握られたくなかったのさ」
「な、何が目的で俺の“血”が」
「分からないのか? ユニ。お前の特殊能力が何だったのか、そう考えればすぐに分かるだろう?」
ニヤニヤと笑いながら告げたレイト。
そう、俺の特殊能力が使えるということはつまり、
「まさか俺の“血”を吸って、お肌がつやつやに!」
「そうだ、ようやく気付いたか。僕がどれだけ不健康な生活をしていようとも、見かけは健全なまま。一応見かけだけで女の子にはモテるからな!」
「く、だが俺達は見かけだけはそこそこいいのに何故、何故、彼女が出来なかったんだ!」
驚愕の事実をしりつつ俺は、更にある疑問が浮かんだのだ。
そう、女の子はイケメンが好きである。
そんなイケメンが二人で一緒にいるのに何故、俺達はモテないのかと!
俺の悲痛な叫び声に自嘲じみた笑いを含めた声でレイトは、
「その様子ではまだ気づいていないようだな。そう、僕も含めてユニ、お前は……」
「女心が分かっていなかったんだ、なんてアホみたいな事を言い出したら今すぐ殴るわよ」
フィリアが冷たい声でレイトの目を隠しながら告げた。
それに図星だったらしく、レイトは何も言わなくなった。
そんなレイトを見ながらフィリアが、
「それでそんなくだらない話を私は聞きに来たんじゃないのよ。私の時間を少しでも余分に使ったら、
それなりの対応をさせてもらうわ」
「な、なんかゾクゾクしてきますが、ユニ、そういえばこの女の子と一緒にここまで来たんだったな」
そこでレイトが声のトーンを落として俺に、『怒らないから言ってみなさい』と囁く母親のような声で告げた。
なので俺は、どう言い訳しようとも怒りだすだろうレイトが容易に俺の中で想像できたからだ。
だから俺は何も言わず“沈黙”した。
沈黙は金というのだから。
だが、そんな俺にレイトはわなわなと震えだし、
「僕が、僕が、こんな苦しんでいるのに彼女とのデートなんて……それが親友のすることか!」
「違う」
俺はレイトの言葉を即座に否定した。
何故なら、デートなど俺は断じてしていない。
と、レイトが怒ったように、
「何が違うんだ。言い訳ならもっと上手く……」
「俺が彼女の下僕なんだ」
「……」
レイトが沈黙する。
次に、これはないわというようにレイトは口を引くつかせてから、
「まさかお前にそんな趣味が……優しげで大人しい令嬢が好きだと思っていたが、それは偽装だったん
だな」
「ち、違う、俺は優しくておとなしい女の子が好きなんだ!」
「ふ、そうやって自分を偽ら……いでででで」
そこでフィリアが面倒くさそうにレイトの耳を引っ張った。
「いつまでもくだらない話を私の下僕としていないで、質問に答えなさい」
「な、何でしょう、女王様」
フィリアを女王様と呼び更に耳をひっぱられて許しを請うていたレイトが、耳を話されてからようやく、
「それで僕に何を聞きたいのですか?」
「聞きたいことは一つ。お前はユニとユニの家族、どちらの味方?」
その問いかけにちょっと黙ってからレイトは、
「状況による。もしもユニが女体化したいなら……」
「あ、俺、男のままでいたいです」
「ユニの味方です」
レイトがそこで、即答したのだった。