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俺がドS魔女の下僕になるまでの出来事

 女体化させられるのは嫌だったので逃げ出した俺だけれど、


「逃げる時に、使用人の執事やメイドまで追ってきた時にはこれはないと思ったよな。

まあ、どうにか今の所は逃げ切れたから、後は……恋人探しだな」


 まさかこんな理由で家を出て恋人探しに向かうことになるなんて。

 女顔だと言われているから、もう少し男らしく見せようと“僕”ではなく“俺”と言っていたのだ。

 それも全部理想の彼女を手に入れるため。


 なの、だが。

 そこまで考えて気落ちしながら、とぼとぼと真昼の山道を歩く。

 この時期はまだそれほど暑くもなく寒くはないのはよかったなと、周りの森の木着を見ながら思う。


 鮮やかで輝くような新緑が広がっている。

 その明るい世界に、一瞬、魅入られてしまった俺は、すぐにはっとして足をすすめる。

 少しでも離れないと……女体化だ。


 もしくは、別の方法があるとするならば、


「恋人というか彼女探しだけれど。でも今まで、全然上手くいかなかったんだよな……」


 周りで見かけた華やかなモテモテ男の真似をしてみたが、離れた場所でくすくすと女の子達に笑われただけだったし、好みの子を見つけても彼氏持ちだったりした。

 しかも、女顔だったせいか、逆にナンパされた……いやよそう、悲しくなるだけなのでその暗黒の記憶は封じるべきだ。

 そこで俺は一度ため息を付いた。


 一体、何がいけないのだろう。

 確か何度目かの失敗の時に、友達のレイトに客観的な意見を聞きたかったので聞いてみたのだが、


「それはそうだろう。ユニは美形なのに“地味”だからな」

「美形なのに地味て……」

「存在感がないのだよ」


 容赦のない残酷な事実を告げられて、酷い友人だ、もっとオブラートに包むように真オイルドに言ってくれてもいいじゃないかと俺は思いながら、悔しいので反論した。


「た、確かに俺は大人しいけれどさ……それを言ったら、レイトだってどうなんだ」

「ふ、いざという時は魅了の魔法を使って惑わすからいいんだ!」


 レイトは吸血鬼なので、魅了な魔法を使えるのだ。

 そしてそれを使い、いざとなれば女の子を惑わして『抱いて!』と言わせるつもりらしいのだが、


「そ、それって犯罪じゃないか!」

「偽物の恋が本物の恋に変わるように頑張ればいいんだ! 恋愛物にはよくあるシチュエーションではないか!」

「いや……ひょっとして、レイトも追い詰められている?」

「……」

「まあ、お互い頑張ろう」

「……ふん、そうだな」


 といった会話をした記憶がある。

 それからも、それなりに人とは上手く接してきた。

 そして結局、女友達もいたにはいたが、それ以上の関係にはならず、一緒にいたレイト以外の男友達の彼女になったりしていた。


 どうしてなのだろうと思う。

 俺の何がいけないんだろう。

 今更ながらこんな状況になり、自分の何が悪かったのだろうかと俺は考える。


「運命の出会い、運命の女性」


 そんな人が何処にいるのだろうと思う。

 好きになった相手は居て、ふられ続きだったけれど……恋愛小説のようなそんな想うような相手は今まで出会った事すら無い。

 でも確か、


「昔会ったあの女の子は、可愛かったよな」


 ふと思い出した少女。

 七歳になったばかりの頃に出会った、少しお転婆な金髪に青い瞳の少女。

 でもちょっと活発なだけで、大人しくて優しい感じの子だった気がする。


 舞踏会では柱の陰からよく僕を見ていたけれど、話しかけるとすぐに逃げてしまった。


「でもある時から見かけなくなっちゃったんだ」


 風の噂では事業が傾きかけて家が潰れそうで舞踏会に来ているどころではなくなったと聞いた。

 でもそれもどうにか持ち直したと聞いている。

 その後はもう俺も会う機会はなかったので分からないし話も聞かなかった。


 年は同じ頃だったから、きっと今は綺麗でお淑やかな美少女になっていることだろう。


「でもあの時以来、社交場も含めて一度も顔を合わせていないのだから、もしかしたなら会えることはもう二度と無いのかもしれないな」


 そう呟きながら思い出す。

 さらさらに金髪は、風になびきながら陽の光を浴びて輝いていて。

 青い瞳は宝石のように輝きながら俺を映していた。


 揃い肌にピンク色のドレスがとても似合っていて、そういえば白い花の髪飾りをしていた。

 ……ずい分昔のことなのによく覚えているな、俺、と思いつつ、


「名前はフィリアと言っていた気がする」


 一度どうにか追いついて、俺は彼女に名前を聞いたことが会ったのだ。

 彼女はペロッと舌を少し出してから笑い、


「名前は、フィリア、皆にはリアと呼ばれているわ」


 そう言って微笑んだあの子の笑顔がまだ俺の脳裏に焼き付いている。

 もしかしたなら、俺はずっとあの子に恋をしていたのだろうか。

 ふと浮かび上がった疑問はすぐに、それどころではない事態にかき消されてしまったのだった。







 気づけば、木々の葉は新緑といえども生い茂る、暗い道に差し掛かっていた。

 なので俺の左右には深く昼でも薄暗い、永代のしれないいきものの鳴き声が微かにする森に囲まれていた。

 そして見通しの聞かない場所であるためか、その下に広がる草むらから男達が現れる。


 どうやら、山賊であるらしい。

 そういえばこの山道の入り口には山賊注意の木の看板がかけられていた。

 注意の看板があっても、ここを通らないと他の町に行けない……というかあえてマイナーな道を選択することで追ってをまこうと思ったのでこちらの、裏街道と呼ばれる場所を歩いていた。もっとも、


「この道を通らないと、スクレーンの町にいけないんだよな。とりあえずレイトにかくまってもらおうと思ったけれど……まさかこんな所でこんなのにあうとは。俺ってついてない」

「何を一人でごちゃごちゃいってやがる!」


 そこで俺は山賊の頭らしき男が叫ぶ。

 目の前にいる山賊達は両手に鎌やら剣やら槍やらを持っていて、服も破けたものを着ていて、全員が俺を侮るかのように見ている。

 人数は五人ほどのようだ。


「貴族のお坊ちゃんが、こんな所に一人でふらふらしていたら危ないぜ」


 そう言いつつ山賊の頭が笑う。

 俺の服装から総判断したのだろうか?

 もう少し、格好には気を使ったほうが良かったのかもしれない。


 でも彼らの明らかに俺を侮っている表情はなんだろう?

 確かに俺は一人で相手は五人。

 そして俺は女顔で細身で……どう考えても弱そうだ。


 しかも最近は魔力などが強いと言われていた武勲を上げて“貴族”となっていた時代は今は昔のこと。

 現在、貴族の地位は金で買える。

 それが今の時代なのでどうでもいいのだが、貴族といっても強い魔力等の力を持たない者が多い。


 だからこそ彼らも余裕でいられるのかもしれない。

 だが俺の場合はユニコーンという幻獣の末裔でもあるので、魔力もある。

 それはもう沢山。


 とはいえ、いきなり魔法で攻撃するのもどうかと思うので、とりあえず護身用の剣も持っているからこれであしらうかと思う。

 こう見えて剣の扱いには慣れているのだ。

 それに魔法だって使えるから大丈夫、そう思っていた所でで俺の顔に何かが投げつけられた。


 それは袋であり、口が開いていて、中から灰色の粉のようなものが俺の直ぐ側の宙に舞う。


「何だ、これ……」


 吸ったらまずいんじゃないかなと俺が思った時には、もう遅かった。

 体の力が抜けるのを感じて、俺はがくんと地面に膝をつく。

 俺は急いで、魔法を、ユニコーンの血にまつわる特殊な魔法を使おうとして……そこで声が聞こえた。


「見~つけたっ♪」


 楽しそうな少女のその声。

 嫌な予感がして、俺の背筋にゾクリと悪寒が走ったのだった。


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