番外編・下僕のデート事情
どうしよう、俺は真剣に考えていた。
「今度のデートコースは、俺にお任せってどうするんだ」
先日は普通にフィリアとのデートを楽しんだはず。
だが、それが終わってから俺はフィリアに言われてしまったのだ。
「今日のデートは下僕にお任せするわ」
「げ、下僕って……恋人に昇格なのでは」
「そうね~、明日私を意外なデートで楽しませたら考えてやるわ」
と、フィリアに言われてしまったのだ。
というか意外なデートって何だと俺は思う。
それこそ、普通に水族館を見に行くとかショッピングみたいなそれでいいのではないだろうか?
やはりそこは個性を求めるべきでないのであって……。
「うう、言い訳してみても全然いい案が思いつかない。どうしよう……」
「……」
実はここで、俺は独り言を言っているように聞こえるかもしれないが、俺の目の前にあるソファの下にレイトが挟まっていたりする。
あれからまだ神殿内に滞在しているので、俺とレイトは相部屋の客室に泊まらせてもらっていた。
そしてレイトは、マリーから逃れるためにこんな場所に隠れていたりする。
マリーはレイトをとても気に入っていて、
「手に入れるために手段は選びませんわ」
「……」
と告げて、レイトを震え上がらせていた。
さて、そのような彼らの事情は置いておいて、俺はレイトに相談していた。
「奇抜なデートについて何か良い案は無いか? レイト」
「……」
「どう考えても俺には、“普通”のデートしか思いつかないんだ」
「……ユニ話しかけるな。あいつに気付かれてしまう」
「言いつけられたくなかったら俺の相談に乗ってくれ」
「く、ユニ、お前は僕と友達ではなかったのか!」
「俺にとっては切実な問題なんだ。く、こうなったらフィリアとのデートに逃げるしか……逃げるしか?」
そこで俺はレイトの言葉にヒントを貰う。
つまり、“逃げる”のだ。
「よし、これでいこう。レイト、手伝ってくれ」
「何をだ?」
「フィリアに手紙を届けてほしいんだ」
それにレイトは、ここにいるよりはマリーに見つかりにくいだろうと、渋々頷いてくれたのだった。
待ち合わせをしているフィリアにレイトが手紙を持ってきた。
「あら? ユニは?」
「今回の意外なデートの一環で、別の場所にいるそうです」
「ふーん、で、その手紙は?」
「フィリアに言伝です」
レイトはそう言って白い封筒をフィリアに渡す。
怪訝そうな顔のフィリアはその封筒を開けて中の文字を読みあげる。
「“本日は、逃げる僕を探すデートです。よろしく”。なるほど、これがあの下僕が出した答えだと。……でも愚かだわ。先読みの出来る私に、そんな逃亡は無意味だと教えてあげるわ」
そう、フィリアが壮絶な笑みを浮かべて笑ったのだった。
「何だか今寒気がした。えっと、そろそろ移動かな」
俺はまた隠れる場所を移動した。
フィリアが見るとのは過程を飛ばした未来である。
なので絶えず移動していれば過程も変化するので未来も変わらないかなと思ったのだ。
だが次に隠れる場所と検討を付けた路地で、俺はフィリアに遭遇した。
「あら、遅かったわね、下僕。この私を待たせるなんていけない子」
「! なんで、常に場所を移動したのに!」
「ふふ、過程を飛ばして結末を見る、その過程は異なる物でも一つの結末に収斂するから、貴方がどうあがいても私に見つかるのよ」
「そうなのか……俺の手では何も未来は変えられないのか」
それはそれで、この能力はフィリアにとってきついのかもしれない。
だって好まない結末も見てしまえばそれが確定された未来になってしまい、どうあがいても無駄だと知るのだろう。
そう思えばフィリアは、
「辛くないのか?」
「ん? 何が?」
「望まない未来が見えたりしないのか?」
「見えれば変えればいいじゃない」
「……収斂するのでは?」
「大きなくくりではね。でも、私が少し早めにここに来てしまったように、ユニと出会う時間がずれるようなことは結構簡単に起こせるのよ」
「そうなのですか?」
「ええ。そしてそもそもそういった時間軸の点となる部分を見るだけの能力だからその前後は、結構好き放題変えられて、ただ単に見間違いでしたというレベルにまで変化はやろうと思えば可能なの」
「そうなのですか?」
「そうよ。とっても大変だけれどね。でも、下僕がいるからこれからは、私の望む未来の為にたっぷりと使ってあげるわ!」
フフンと笑うフィリアを見ながら、俺は俺で下僕と言われてしまっているけれど、フィリアなりの苦労が垣間見えたので、
「うん、これからは俺も、恋人としてフィリアを支えられるように頑張るよ」
「……」
「その、フィリアは大好きな女の子だし」
「……ああもう、本当に下僕は、もう。ああもう……ユニ」
そこでフィリアが顔を赤くして俺の名前を呼ぶ。
だから俺は、黙ってフィリアの言葉を待つ。
「こ、これからは一緒に……手伝ってくれると嬉しいかな」
「もちろん」
俺がそう答えるとさらにフィリアが顔を赤くして、深く息を吐き、
「本当に鈍感だと思っていたのにこう……そういうことをさらっと言いやがるし。もう。嫌になるわ。はあ……この私がユニに弄ばれるのが気に入らないわ。今日のデートコースは私が決める」
「そうなんだ」
「そうよ、そうね……映画館に行きましょう。今日はホラー映画が安い日なはず」
「えっと、俺ホラーはちょっと」
「良いわよ? 怖くなって私に抱きついても」
「! そんなことはしない! フィリアこそ怖くなって俺に抱きついたら……抱きとめるんだからな!」
「……何よそれ」
「うん、いってみて俺も変な気がした」
そう答えるとフィリアがおかしそうに笑う。
それが俺には魅力的に見えて。
こんなふうにフィリアは俺の側で笑顔でいて欲しいと思ってしまう。
そんな俺が、ホラー映画ではなく恋愛映画が安い日だと間違えていて、それを結局は見ることになったのはまた、別の話である。
「おしまい」




