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お友達から事情を聴きました

 何かが窓を破って現れた。

 黒い球であるそれは、コロコロと部屋転がると共にどろりと溶ける。

 だがすぐに、その球よりも大きい人型を形作る。


 俺とちょうど同じくらいの大きさになったそれは、顔らしきものを俺達の方に向けた。と、


「ちっ、見張りを置かなかったのは失敗したわね。まさかここで……ああもう、少しは話をさせてよ!」


 マリーは怒った様に手を上から下に降りおろす。

 同時に風が吹き荒れてその黒い物体を神の様に切り裂いて……その黒い物体が地面に落ちて黒い液体となって転がり、やがて消えた。

 後には砕けたガラス玉の様な物が転がっている。


 それを見てから溜息をついたマリーは、


「フィリアとユニコーンの末裔の力が今はどしても必要なのよ」


 切実そうな響きのある声で、マリーは俺達に告げる。

 それを聞いたフィリアが、胡散臭そうにマリーを見てから、


「ふーん、それでどの程度譲歩は引き出せるの?」

「料金は相談次第」

「自由に実家に帰れるかどうかは?」

「えーと、実はその件なのだけれどね……」


 マリーがどう説明しようかというかのように口ごもる。

 けれどその間にまた今度は三つほど黒い球が放り込まれて、


「しつこいわね」


 舌打ちをするようにマリーがいうので俺が、


「とりあえずここから移動したほうがいいんじゃないのか? こちらの様子が見えているようだし」

「そうね」


 そうして俺達はその部屋から逃走したのだった。









 逃走中、この温泉宿の廊下でフィリアがマリーに聞く。


「さっきのあれなんなのよ」

「えっと、敵対勢力です」

「名前は?」

「名無しの集団ということで、“ノーネイム・クラスタ”と自分達を呼んでいるらしいです」

「で、どうして私達を?」

「いや、実は“神殿”内で最近厄介な遺物が見つかっちゃったの。ドワーフっていう妖精族が昔いたでしょう?」

「ああ、あの魔法道具づくりが上手い……でもそのドワーフって、職人気質だから結婚とか子供を作るのにあまり興味が無いのもあって、混血もあまり残っていないんだったかしら?」

「そうそう、それでそのちょっと危険な魔道具なんだけれど上手く使うと、私達の生活が画期的に代わるというシロモノがあってね」

「ふーん、それで?」

「解析を進めているけれどちょっと難しい問題にぶち当たって、そこで丁度、フィリアちゃんの能力がバレたのも含めて必要になったんだけれど……フィリアちゃん、逃げちゃったじゃん」

「当たり前でしょう? マリーの話を聞いたら……」

「というわけでここの中で、“神殿”のスカウトについて詳しい方はいらっしゃいませんか?」


 マリーがそんなことを言ってきた。

 そして手を上げて、それに答えたのは、レイトで、


「あれでしょう? ヘッドハンティングみたいなものでしたよね?」

「正解でーす!」


 マリーが明るい声で答えた。

 そして、それとは対象的にフィリアは無表情になる。

 なにか嫌な予感がするなと俺が思っているとそこでフィリアが、


「実は今まで嘘ついてましたー、とか言ったら友人辞めるからね? マリー」

「じょ、冗談のつもりだったの……フィリアが怖がるから面白くて。てへ?」


 笑って誤魔化そうとするマリーに更にフィリアが冷たい視線でマリーを見てそこで俺は聞いてみた。


「フィリアは、マリーにそのスカウトの件をどう聞いていたのですか?」


 それに俺の方をフィリアは見て、次に心の奥底から冷たい目でマリーを見て、


「特殊能力を持つ人間は、“神殿”内で飼い殺し」


 だがそれに答えたのはマリーではなくレイトだった。


「あー、それって、200年位前の話ですよね。僕もそれを聞いた時は、昔はとんでもないことをやっていたんだなって思って……いたたたたた」


 そこでフィリアが無言でレイトの頬を引っ張った。

 それを聞きながらマリーに俺は、


「あの、マリーさんは……」

「マリーでいいわ」

「マリーはフィリアをヘッドハンティングしに来たのか?」

「……はい」


 小さな声で呟くとそれにフィリアが、


「それが本当に冗談なのか、信用出来ないわね」

「フィリアちゃんの力を使えば嘘かどうか一発で分かるんじゃない?」

「……それもそうね」


 そこで俺はまたフィリアから妙な力を感じた。

 変な感じがすると俺が思っているとそこでフィリアが深々と溜息をつく。


「本当らしいというの分かったわ」

「じゃあ話を聞いてくれるかな?」

「いいわ、言いなさい」

「やったー。あ、ついでにそこの下僕なユニコーンさんも一緒で構いませんか?」


 何故か俺も呼ばれてしまった。

 しかも俺の事を下僕なユニコーンて……いや、俺も末裔なので誇りがどうのこうのなんて無いから良いんだけれど。

 そう思いながらマリーに近づくと、マリーは、


「実は、ちょっと変わったドワーフの遺産が見つかったのよ」

「その話は聞いたわね、それで?」

「それがどうも異界に直接繋いで、魔力を固めた魔石を生み出すものらしくて」


 いきなり、異界との接続の話になって俺はぎょっとしてしまう。

 異界は俺達の世界とは違う規則で動いていることも多いので、接触に寄る悪影響が懸念されていた。と、


「異界といっても魔力のもととなる場所からですからね。むしろその方がいいですよ。この世界の幻獣が減ってしまったのも、この世界から魔力が一時的に他の異界が接近した時に持って行かれた説がありますし」

「そうなのですか?」


 初めて聞いた説につい聞き返してしまったのは、やはり自分では気にしていないつもりでも幻獣の末裔だからだろうか。

 その問いかけにマリーは、


「ええ。それでそれを動かそうにも下手に動かして壊すのも、何か暴発してしまうのも困るし、ということで“フィリア”の力が必要なんです。お願い、下僕さん。フィリアを説得するのを手伝って!」


 そこでマリーが俺の手を握った。

 涙を浮かべて、懇願するように見上げる少女。

 ちなみにマリーもフィリアとは別の系統のふわふわした美少女だ、


 そして、そんな女の子に免疫のない俺がすぐに頷いてしまいそうになるのは、当然かと思われるのだけれど。

 俺はそこで悪寒を感じた。

 冷たい凍るような気配を感じる。


 背後にある恐ろしい何かから、今すぐ逃げなければならないような雰囲気。

 俺は恐る恐る振り返ると、冷たい目で俺を見るフィリアと、そんなフィリアの様子に凍りついたようなレイトがいる。

 身の危険を察した俺は、


「お、俺は下僕なのでそれ以上は無理です」

「ふーん、この私に抵抗するか。やっぱりユニコーンの末裔とはいえ、力は侮れないわね」

「え、えっと……」

「心を私に許す力を私は使ったけれど無理か。というか寝取りは趣味じゃないから諦めておこう。力は魅力的なんだけれどね。まあ、もう少し美味しそうな獲物がいるからそれで我慢するわ」


 マリーがそんなことを言い、さらにフィリアの表情が冷たいものに変わる。

 それにマリーは嘆息して、


「冗談よ冗談。まさか初恋の相手に助けを求めに行くなんて思わなかったわ」

「初恋の相手?」


 何の話だろうと俺が思っていると、フィリアが、


「別に、ただ逃げていたら偶然山賊に襲われていたから、捕縛しただけよ」

「えー、というか助けてくれた女の子との“恋”が始まらなかったの?」

「そうみたい。恋人とペットと下僕の三択で選ばせてやったら、下僕を選びやがったのよ」

「……そんな趣味が」


 なんて事と言うかのようにマリーは口に手を当てて俺を見ている。

 気づけば俺にマゾ属性がある話になっている。

 ここで否定をしておかないと、後までマゾとレッテルを貼られてしまう。


 だから俺の名誉のために、


「お、俺はマゾじゃないです! 恋人はきちんとこう、初対面とかそういう出会いではなく、愛を育んでなるものであり、ペットはヒモみたいで嫌だし、だったら下僕しかいないじゃないですか!」

「……」

「……」

「……」


 切実な思いで叫んだ俺の言葉に、他の三人の視線は冷ややかだった。

 そこでフィリアが深々とため息を付き、


「どうでも良くなったわ。それで私の力が必要なんだっけ?」


 俺の真剣な思いは彼女らにはどうでもいいことだったらしい。

 俺は悲しくなっているとそこでマリーがニコリと微笑み、


「あ、ようやく手伝ってくれる気になった」

「とりあえずどんな風な条件で私を扱うのか、聞いても良いかしら」

「そうですね……雇用関係の話は部外者には秘密なので、ちょっとこっちに」


 フィリアがマリーに近づいて何やら話している。

 それから約数分後。


「良いわその契約で」

「本当! 良かった、これでなんとかなるかも~」


 マリーが嬉しそうにフィリアと一緒に戻ってきた。

 けれど俺達としては、


「結局、フィリアの何の能力が必要だったのですか?」

「? ああ、フィリア、話してなかったの?」

「まあね。特殊な力だし」

「ふーん。だったら今話しちゃえば?」


 軽いノリですすめるマリー。

 そこでフィリアが面倒そうに、


「……私が逃げ出した原因の特殊能力。それは“予知能力”よ」


 そうフィリアは答えたのだった。


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