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下僕のくせに生意気ね

 温泉はそれほど混んでいなかった。

 途中で出会った客の話を聞いた限りでは、たまたまであるらしい。

 それに関しては運が良かったと思う。


 泊まる部屋まで確保できたのだから。

 とはいえ、それほど俺達はゆっくりしている時間はない。

 なのでとりあえずは温泉に浸かりに行く。


 そして身奇麗にして可愛い女の子の彼女を作るのだと俺は決心した。

 やがて、温泉の入り口に俺達はたどり着く。

 二つの木製のドアには、男性、女性のマークがついている。


 ここは男女別になっているらしい。

 つまり隣が女湯。


「ユニ」

「何だ?」


 レイトが真剣味を帯びた声で俺の名前を呼ぶ。

 まるで何かの決戦へと向かうような声だ。

 それにどうしたのだろうと思って返すと、レイトは、


「女湯をのぞくべきか迷うんだが」

「ただでさえ追われているのに追ってくる人数を増やす気は俺にはない」

「そうだよな。

はあ、隣では女の子達がキャキャうふふなんだろうな」

「さっきの入浴帳を見たらフィリアしかいないようだったけれど」

「良かった、見に行かなくて」


 安堵するように呟くレイトが、そこで俺に近づいてきて、


「それでこれからどうするんだ?」

「え? なにが?」

「……」

「?」

「“神殿”に忍び込むって話」

「ああ……忍びこむ前に追い出されそうだよな」


 服を脱ぎながらそう俺が伝えるとレイトがなるほどと頷く。

 相手に追い出されるので入り込めず、フィリアの目論見は失敗するだろうと俺は暗に行ったのだ。

 そこで頷いたレイトが俺に、


「……となるとこれからはゆっくり彼女を探していく、ということかな?」

「それもできるだけ早く。俺だって女になるのは嫌だし」


 そんな話をしながら、体を綺麗に洗ってから温泉に向かう。

 ここ周辺にあった大きな石を、魔法の爆発で穴を開けて作ったここの名物露天風呂であるらしい。

 かけ流しのままの温泉は、俺が温度を確かめるために手を入れると程よい暖かさだった。 


 素晴らしい。

 そう思いながらも俺はその温泉に入り込み、すぐに久しぶりの温泉の心地よさにぼんやりしてくる。

 追われている立場だといって逃げてきたので、こんな心地よい思いができる時間はなかった。

 生きている感じがする。


 俺がそう温泉を楽しんでいるとそこで、


「でもユニコーンの血筋なユニも、“神殿”は求めているようだったんだよな」

「……何で俺が?」


 レイトの言葉に俺の霞んだ頭が一気に覚醒する。

 また別の方向から攻め立てるような嫌な予感を覚えつつも俺は、


「というかそれもあって、急いでいたんじゃないのか? ユニの彼女探し」

「……」

「ユニコーンの血筋は若くて彼女や伴侶がいる時に最大な力が出るはずだ」

「……俺が女体化したのって飲み会のノリだったよな?」


 俺がレイトに聞くと頷くレイト。

 けれど俺の問いかけにすぐに沈黙してから、


「本当にそれだけでこんなことを決めるのかなと僕も思ってね」

「……いや、母さんだし」

「……」


 自分の母親の性格くらい俺は知っている。

 だから即座にそう答えたのだが……納得できてしまったのかレイトは沈黙した。

 それに長い付き合いというか、親同士が仲がいいのでその性格をとても良く知っている俺は、レイトに話を振る。


「レイトはどう思う? 自分の母親の性格は分かっているだろう?」

「……僕の母だからな」


 そこで俺とレイトは再び重く沈黙した。

 それからお互いため息を付いて俺は、


「その辺りは考えないようにしよう。とりあえずはナンパを頑張ってみよう」

「そうだ、きっとそれが建設的だ」


 これらの結論に達した俺達だが、結局はナンパは失敗に終わったのだった。












 温泉に入った後はその温泉宿に泊まることになっていた。

 一度部屋に戻った俺達は即座に見出しのみを整え行動を開始した。

 ここは、そこそこ大きな温泉宿なので人がいる。


 だからナンパもうまくいくと俺達は思っていた。

 ようは確率の問題であり、俺達が本気を出せば出来ると思った。

 否、今まで上手く行かなかったが今こそ上手くいくようなそんな錯覚に陥っていたのである。


 そして“惨敗”という名の結果だけが残った。


「……」

「……」


 部屋の隅で俺とレイトは膝を抱えて暗く俯いていた。

 だが、理由はナンパに失敗しただけではなかった。


「……男は嫌だ。俺は女の子が好きなんだ」

「ああ……そうだな」


 何人もの女性に失敗した俺達は、その女性の筋肉隆々の兄達に、あら、可愛いわねと言われてしまったのだ。

 その後の展開は思い出したくないので語らないが、やはり女の子が大好きだと俺達は再確認して、その女の子達に相手にされなかった絶望と先ほどの悪夢に憔悴しきっていた。と、


「あー、気持ちが良かったわ。と言うかのぞきにもこなかったのね。残念」


 何が残念なのかと俺は思った。

 というかのぞいたらそれ自体が罠だった可能性もあるんだなと俺は気づいた。

 やはり真面目が大切であると俺は思っているとそこで、


「そういえば二人共どうしたの?」

「実は……」


 俺は正直にナンパを失敗したあたりの話をした。

 だが話して俺はとても後悔した。


「ぷっ、あはははははは」


 フィリアに物凄く笑われてしまった。

 それはもう話すんじゃなかったと思うくらい。

 お腹を抱えて笑うという状態なフィリア。


 それにレイトも更に落ち込んでいる。

 そこで笑いが少し収まったらしいフィリアが俺に、


「もう諦めたら?」

「諦めたらそこで女体化決定じゃないですか!」

「……他にも選択肢はあるでしょう? んっ?」


 俺はフィリアからさっと顔をそむけた。

 だが、そんな俺にフィリアがそんな俺に冷たさを含んだ声で、


「ふーん、下僕のくせに生意気ね。どうしてくれようかしら」

「ぷるぷるぷるぷる」


 俺は何かを踏んでしまったような不安を覚えて震えた。

 そこで鍵がかかっていたはずの部屋の入口のドアが勢い良く開いた。


「やっほー、ここに泊まっているのってバレバレなんだからねー♪ ちなみに巨乳って、胸に栄養がいっているから頭に行っていないと思わない? フィリアちゃん♪」


 現れた人物に俺達は固まった。

 けれど立ち直ったのはフィリアが一番早く、そこでフィリアは嘆息して、


「ここって前払いのお宿だったのよね。残念だわ」

「とりあえず話くらいは聞いてくれればいいのに。一応、包囲網はなしでお願いしているし」

「あら、逃げやすくていいわね」

「だからちょっとは話を聞いてよ」


 彼女、マリーはそう嘆息するように言う。

 そんなマリーに、フィリアは、


「いいわ、少しは聞いてやるわ」

「ありがとー。でね、話っていうのは……」


 そこで、窓を破って何かが現れたのだった。


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