俺が彼女の下僕になる、少し前の出来事
俺の前に仁王立ちで現れた彼女は、不敵な笑みを浮かべて俺に告げた。
「1、私のペットになる。
2、私の下僕になる。
3、私の恋人になる。好きな物を選びなさい?」
突き付けられた三つの選択肢。
そして俺は……迷わず、二番目の選択肢を選んだ。
こうして俺は彼女の“下僕”になりました
「どうしてこんな事になったんだろう」
とぼとぼと土のむき出しの道を歩きながら俺は呟いた。
俺の名前は、ユニ・リライト。16歳、男。
ちなみに以前容姿に関して、友人のレイトについて聞いたことがあったが、
「俺の見た目は普通よりちょっと上くらいかな……」
「つまりお前は僕に喧嘩を売っているのか」
「え? いや、え?」
「美形なのに自覚がない……許せん」
「ちょ、待って、何をする、わぁああああ」
以下略。
と、こんな風に以前友人に話した所、こんな話になって猫耳をつけられてしまったので、多分顔はいい方だと思う。
しかし、こんな風に俺が思っていたのには理由があって、
「親戚全員が光を放つような美形ぞろいだったからな。俺の美的感覚はおかしいのかもしれないな。」
「はあ、本当にどうしてこんな事になったんだろう」
「一応は貴族の生まれだし、あの伝説の幻獣、ユニコーンの末裔なんだよな。まあ、それが俺が逃げ出す全ての原因だったんだけれどな」
俺はそこで幸せがが走って逃げていきそうなため息を付いた。
全ての原因はそう、俺がユニコーンの末裔に生まれつてしまったことに起因しているのである。
ユニコーンとは幻獣の一種で、特殊な力が使えたりする。
「ユニコーンは、既に絶滅してしまっているから、その末裔である僕達が絶滅しないようにって言うけれどさ……
流石にあれはないと思うんだよな」
そう俺は一人呟く。
確かにユニコーンの末裔は絶滅危惧種で、特殊な力が使えるので保護しようというのも十分理解できる。
だが、その能力は男女の性別が関係ない。
しかも俺には弟や妹もいるから、いいと思うのだ。
「なのに、まさかあんな風に言われるなんて。はあ、そもそもユニコーン自体が絶滅したのだってユニコーンが相手の好みにうるさいからなんだよな」
ちなみにマニアック、というわけではない。
普通にちょっと、こだわりがあるくらいなのだ。
それでも、それが俺の場合どうしてこんなに問題視されるのかというと、と思いながら散々聞かされて耳にタコが出来るくらい聞かされた話を頭に浮かべながら、ぶつぶつと俺は愚痴る。
「多くの幻獣と呼ばれる特別な種族は、大抵人型がとれて……だから人間と恋に落ちて純血種が絶滅するのはこう、仕方がないかもな。そのうちの一つがユニコーンだったというだけで」
他でもよくある話なのだ。それに、
「幻獣は個体が増えにくいしな。他にも理由があるけれど、混血とはいえ絶滅危惧種。なのに何で俺がこんな少ない荷物で家出をしないといけないんだろう」
そこまで考えて俺は、つくづく運が悪いと泣きたくなった。。
そう、人気のない山道を歩きながら、こんなほぼ着の身着のままに俺が家出したのには理由がある。
それは今から数時間前の事だった。
「彼女、ですか?」
「ええ、貴方も年頃ですもの、彼女の一人や二人は居ますね?」
突然、母親に呼ばれてやってきた俺。
にこやかに微笑む母親に、俺はいつになく嫌な予感を覚えていた。
しかもこの御茶会には、そこには祖父母、父や弟、妹達も揃っていて……。
何が目的化は分からなかったが、後になって気付いたが俺はこの時油断していたのだと思う。
そしてすぐに俺はその嫌な予感が正しいと俺は気付かされた。
聞かれた答えるのがきついその問いかけに俺は、
「それは、その……」
口ごもる俺に母親は優しげな微笑を浮かべ、
「ユニ、もう貴方も16歳だし、そろそろお嫁さん……」
「あ、俺、まだ好きになれる人がいなくて……」
そう正直に答えてしまったのだ。
今考えれば適当に誤魔化せばよかったのである。
だが俺もまだ16歳だし、子供だしと思っていたのだ。
そこで母親が深々と溜息をつく。
「私達の一族が好みが激しいのは知っているわね?」
「それはまあ……俺もそうですし」
そう、はっきり言って俺の一族は好みが厳しい。
但し俺の場合、それはユニコーンの血筋なので処女しか嫌だ、とか、誇りが、とかそういったものではない。
そんな俺を見ながら母親が、
「やはりユニも女性の好みが凄く偏っているのね」
「そ、そこまでは偏っていないと思います」
「でも貴方も、運命のたった一人の素敵な女性しか嫌だというのでしょう?」
「い、今は恋愛結婚の時代です」
即座に俺は言い返す。
現在の貴族社会は恋愛結婚が主流になっているので、自分で選び、口説かないといけないのである。
なので政略結婚などは時代遅れ。
だからユニコーンの末裔である俺が、運命の恋人と結ばれるのにはそれほど障害がないはずなのだ。
だがそんな俺を見て母親は、
「どんな子が、ユニは好みなのかしら」
「清楚で大人しく可憐で優しくて……」
俺の理想のお嫁さんを語っていく。
実はユニコーンの末裔であるリライト家は、そのユニコーンの性質、歴史書に語られている処女だの何だののつまり好みがうるさい性格を引き継いでいる。
但し俺といったユニコーンの末裔が、好みが煩いと言われる所以はその……ほんの少し女の子への理想が高いからだ。
そう、処女じゃないと嫌だとかそういったものではなく。
なので伴侶に対しての好みが厳しいがために、なかなか伴侶を手に入れられなかったりするのだ。
そこで理想の女の子像を語る俺の言葉を母親が遮り、
「やはり貴方もそうなのね」
「え、えっと、お母様?」
「そうやって手にはいらないような理想の女の子ばかり追いかけて」
「で、でもそんな子はどこかにいるわけで……」
「いるかもしれませんが、そんな子を探すのも、捕まえるのも難しいでしょう」
「や、やってみないことには分からな……」
「それで彼女はどうしましたか?」
暗に、彼女が居ないんでしょうと言われた俺は、それ以上は言い返せなかった。
だが、今日は話はそれで終わらなかったのだ。
そんな俺を見て母親が、深々と嘆息した。
「……そう、こうなったら、女になるより他ないわね」
ぽつりと呟いた母の言葉に俺は、不穏な気配を察した。
このユニコーンの好みの煩い習性は特に男性に強く現れる。
なので、そのせいで中々結婚できない場合、最終手段として性別を変更する魔法を使うという物があるのだが……(女性になると何故か好みがそこまでうるさくなくなる)。
俺は即座にその場から逃走した。
同時に、俺のいた場所に捕縛系の魔法の光が渦巻くのを見る。
「こ、このままだと女にされてしまう。絶対にそんなのは嫌だぁぁあああああ」
俺はそう叫んで、このままでは女にさせられてしまう、そんな危機感から着の身着のまま、今までためたお小遣いを手に逃走した。
そして今に至るのである。