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第Ⅰ篇《》 第一章(始まり)3話〔運命の日〕【最終話】

 数日後――。

 康介は厨房で夕食の準備の手伝いをしていた。

(…………なんで俺ここにいるんだっけ?)

 黙々と洗い物をしていて、ふと思い出した。

 かれこれ30分くらい、鍋を綺麗にするために奮闘しているのだ。

 どうしてこんなことになっているのか思い返そうとしたとき、結衣に声をかけられた。

「康介くんお皿用意しといて」

「おう」

 康介はお皿を用意しながら、思い返すのだった。



        ☆



 話しは少し前に遡る。

 学校から帰ってきた康介は自室のベッドで横になっていた。

「ふぅ…………」

 天井を見上げてため息をつく。

「……なんでこんなにムシャクシャするんだ……。アイツが誰に告白されようが、俺には関係ねぇのに…………チクショウ!!」

 康介は思いっきり起き上がった。

 そのとき、机の横にかかっているカレンダーに目が止まった。

「明日か……」

 壁にかけてあるカレンダーを見ながら呟いた。

 カレンダーには木曜日までにバツ印、土曜日にハナマルが書いてある。

 これを書いたのは勿論康介ではない。書いたのは結衣だ。

 数日前から、康介の部屋を訪れて談笑しては、帰る前にカレンダーにバツ印を書いていっていた。

「土曜か……アイツとのデー、ト……そして、俺の誕生日…………」

 天井を見上げながら呟いた。

 ため息を吐いたとき、ドアをノックされた。

(結衣か……今日は随分早いな……)

 ドアを開けるとそこに立っていたのは、結衣でなく美咲、由梨、明日香の三人だった。

 康介は小首を傾げながら問いかけた。

「どうしたんだ?」

 三人が康介の手を握り美咲が、

「田中さん、ちょっと来てください」

 言うや否や、手を引かれ食堂までやって来た。

 康介が唖然としている間に美咲が厨房の方へ向かった。

「結衣ちゃん、田中さん連れてきたよ」

 数秒して結衣が厨房から出てくると三人の頭をそれぞれ撫でたあと、康介の前に立った。

「康介くん?大丈夫?」

 結衣が頬をほのかに染めて、覗き込みながら首を傾げて問う。

「あ…ああ………ん?」

 康介はまだ混乱していた。

 結衣がエプロン姿で厨房から出てきたのはいいとして、どうして俺は連れてこられたんだ?

 それに千秋はどうしたんだ?

 いつもなら「やあ坊や、手伝いに来てくれたの?それは助かるわね」などと茶化しに来るはずだが……今日は出てこない。

 いろいろと聞きたいことはあるがまずは聞かなくてはならないことは、

「なぁ、千秋は何処にいるんだ?」

 問いかけられた結衣はそっぽを向いた。

「えっと……それは…………」

 口ごもる結衣の様子を見た康介は半眼で言った。

「もしかして……ここにいないのか?」

「う、うん」

「じゃあ、夕飯は?」

「えっと……自分達で作る?」

 小首を傾げながら答える。

「全員分だよな?」

「うん……でも、頑張ればきっと出来るよ」

「そうか……。それなら俺は部屋に戻るとするか」

 食堂を出ていこうとしたとき、裾を掴まれた。

 康介は振り向かず、問いかけた。

「なんだ?」

「えっと……手伝って?」

 何故疑問と、思いながら、

「悪いな、他あたってくれや」

 結衣の手を振り解いて、歩き出そうとする康介の行く手を美咲が阻んだ。

「田中さん、待ってください」

 康介は首を傾げた。

「どうしてだ?俺じゃなくても手伝ってくれる奴はいるだろ」

「それはそうなんですけど……駄目なんです」

「駄目?何がだ?」

 無表情で言い放った。

 美咲は身体を震わし、黙ってしまった。

 今にも泣き出しそうな顔で俯いていたが、それでも康介の前から退こうとはしなかった。

 それを見ていた結衣が口を挟んだ。

「あのね、康介くん。中学生組は受験勉強や部活で忙しくて、美咲ちゃんたち以外の小学生組は遊びに行ってていないの。高校生組は……、て言うか、高校生なのは私たちだけだし……だから、夕食を私たち4人で作ろうと思ったんだけど……私たちだけじゃ間に合いそうにないから康介くんにも手伝ってほしいなって思ったの………駄目かな?」

(はぁ、最低だな。俺………)

 康介は頭を下げた。

「美咲、きつい言い方して悪かったな」

 美咲は俯いたまま「はい……」と、答えた。

 康介は結衣の方に向き直り、少し気まずそうに頭を掻いた。

「………何作るんだ?」

「えっ……あ…えっと、鍋にしようとかなって」

「鍋か……何をすればいいだ」

「倉庫から鍋を持ってきてもらいたいんだけど……」

「おう、いいぜ」

 結衣は怪訝そうな表情で問いかけた。

「康介くん、急にどうしたの?」

 少し間をおいて答えた。

「……罪滅ぼしかな?」

 それだけ言うと食堂を出ていった。

 倉庫にあった鍋はホコリをかぶっており、綺麗にするのに大分かかってしまった

 康介は食堂を出てからの記憶が曖昧になっていた。



        ☆



「用意したぞ」

 康介は材料をのせるお皿を用意したあと、鍋洗いに戻った。

「美咲ちゃん、由梨ちゃん、野菜とかのせといて」

「うん、わかった」

 ――コク。

 結衣が野菜を切り、美咲と由梨が野菜やお肉をお皿にのせていた。明日香は取り皿やお箸を用意していた。



        ☆



 準備を始めてから一時間ほどで終わった。

 康介は食堂の椅子に座っていた。

「間に合ったな…………」

「そうだね……」

 結衣も椅子に座って答えた。

 美咲と由梨と明日香も椅子に座っている。

 アイツらにちゃんと謝らないとな、と思い康介は立ち上がった。

 結衣たちは急に立ち上がった康介を見つめている。

「康介くん、どうしたの?」

 首を傾げて問いかけた結衣を無視して、康介は口を開いた。

「美咲、さっきはホントに悪かったな。オマエたちも悪かった」

 頭を下げて謝った康介を驚いた顔で"五人"が見つめた。

「えっ……あっ……?」

 美咲は突然のことに戸惑っていた。

「康介くん、急にどうしたの?」

 康介を見つめて言った結衣に、康介は照れ臭そうな頭を掻いた。

「夕食の準備前にきつく当たっちまったじゃん。だから、ちゃんと謝らないとなって思ってたんだよ」

「そうなん――」

「その話は本当なの?坊や」

 結衣の言葉を遮ったのは、康介が一番聞かれたくなく、見られたくない人物だった。

 康介は振り返りその人物を見た。

「千秋、帰ってたのか……」

「ついさっきね」

 千秋は笑顔だった。目は笑っていないが……。

「それで、さっきの話は本当かい?康介」

 千秋が康介のことを名前で呼ぶときは怒っている――いや、ブチギレ寸前なのだ。

 なんとか言い訳しようと思考を巡らせた……………………が、何も浮かばなかった。

 聞かれたことは全て事実だから、どんな言い訳をしようが言い訳にすらならない…………。

 康介は潔く頷いた。

「ああ、ホントだよ」

「そう…………」

 康介は殴られるのを覚悟した。

「夕食は用意してあるのね……時間になったら呼びに来てもらえる」

 だが、千秋は殴らず、それだけを言うと食堂を出ていった。

 康介は困惑した表情で千秋の後ろ姿を見ていた。

「千秋、どうしたんだ?」

「うん……様子変だったよね」

 結衣も康介同様困惑した表情で千秋を見ていた。

 美咲、由梨、明日香も同様に困惑していた。

 他の子供たちが来るまで五人は一言も喋らず椅子に座っていた。



        ☆



 数時間前――。

 千秋は、ある施設の応接室にいた。

 現在の時刻は16時30分。

(ジジイたち、なにやってんのかしら……)

 千秋は椅子に腰かけて、掛け時計を見ながら苛ついていた。

 理由は、早く帰らなくては夕食の準備が出来ないからだ。

 夕食は19時くらい、と言うのが向日葵園のルールであるため、千秋はそれまでに準備を済ませておかなくてはならないのだ。

 千秋がイライラしながら貧乏揺すりをしていると、応接室のドアが開き、白髪の老人と50代後半くらいの男性四人と若い男性が入ってきた。

 千秋は座ったまま入ってきた白髪の老人を睨み付けた。

「会長、私を呼び出した理由を聞いていいかしら」

「ホッホッホ。そう急かすでないぞ」

 会長と呼ばれた老人は不気味な光を目に宿した。

「そんなの決まっておろう……お前さんとこの"怪物たち"のことじゃよ」

 会長の言葉を聞いた千秋は机を叩き立ち上がった。


 バキッ


「ふざけるんじゃないわよ。あの子たちは怪物なんかじゃないわ。私の大切な子供たちよ!!」

 会長は目を丸くした。

「お前さんからそんな言葉が出てくるとはのう……ホッホッホ、何がお前さんを変えたんじゃろうな」

 千秋はわかってるくせに、と拳に力を込めて会長に殴りかかった。

 だが、それは若い男性によって制された。

 軽々と持ち上げられた千秋は床に思いっきり叩きつけられた。

「がはっ……」

 若い男性はそのまま押さえつけた。

 会長は押さえつけられた千秋を見下ろして口を開いた。

「お前さんの"力"はそんなものじゃよ。……逆らわずわしに下っておればよいのじゃ」

 千秋は押さえつけられても会長を睨み続けた。

 会長は気にする素振りを見せずに続けた。

「呼び出した理由じゃがの……お前さんのところで預かっている……たなか……こうすけとか言ったかの?そやつをわしの部下にしたいと思っとるのじゃよ」

 千秋は絶句した。

 会長は本気だ。本気で康介を部下にしようとしている。

 能力資質が高いと言っても、まだ高校生だ。それなのに"あんな場所"に送り込むなんて出来ない。

 …………だが、会長に逆らうことは出来ない。

 千秋を押さえつけている男性は確実に千秋より強い。他の四人の実力は不明。この男性より強い可能性もある。

「………分かったわ」

 渋々頷いた。

「ホッホッホ、始めからそうしておけばよかったのじゃよ。もう離してよいぞ。“レオ”」

 “レオ”と呼ばれた男性は千秋を離し、会長の後ろに控えた。

(こんなクソジジィなんかに…………ごめんね康介)

 千秋は唇を噛み締めた。

「早めに連れてくるのじゃよ」

 会長は椅子に座り続けた。

「もう帰ってよいぞ」

 千秋は無言で応接室を出ていった──。



        ☆



 食事を終えた康介はコーヒーを飲んでいた。

(はぁ……千秋どうしたんだろうな……夕飯の時もほとんど喋ってなかったしな………)

 物思いにふけりながらコーヒーをすすった。

 飲み終わったカップを厨房に持っていこうとしたとき、

「坊や、ちょっといいかしら?」

 康介は声のした方を向いた。

「まあいいけど……急に改まってどうしたんだ、千秋」

「私にもいろいろあるのよ」

 千秋はそれだけを言うと食堂を出ていってしまった。

「本当にどうしたんだ?」

 康介は千秋の後ろ姿を見ながら呟いた。



        ☆



 康介は千秋の部屋を訪れていた。

 二人はソファーに座り、テーブルを挟んで向かい合っていた。

「で、話ってなんだ?」

 先に話を切り出したのは康介だった。

 千秋は康介の前にコーヒーを置いた。

「急かすんじゃないわよ、坊や。ゆっくり話そうじゃないの」

 康介はコーヒーをすすった。

「何かあったのか?」

「いいえ、そう言う訳じゃないの……」

 歯切れ悪く言い、黙り込んだ。

「何かあったのか?」

 語調を強めて、繰り返した。

「……………はぁ、ええあったわよ……」

 千秋は一呼吸入れて口を開いた。

「坊や……いえ、康介。あなたは能力者よ。そして、私も……」

 康介は怪訝そうな表情になった。

「俺と千秋が能力者?なに言ってんだ」

 千秋は首を横に振った。

「嘘でも冗談でもないわ。今は能力者は少ないけど……これから増える。この施設は――向日葵園は能力資質がある子供を集めるために作られた施設なの」

「そうか…………で、この施設の秘密を話して、何をしてほしいんだ?」

 千秋は少し黙り、口を開いた。

「私の上司からあなたを部下にしたいって言われたの。それで、ここを去る前に真実を伝えておこうと思ったのよ」

「ふ~ん、そうか」

 康介は興味無さそうに答えた。

「責めないの?」

「千秋を責めてどうにかなるのか?」

「どうにもならないけど……何かないの?ここにいたいとか……」

 康介は少し考えてから、

「ないな」

 千秋の目をまっすぐ見て断言した。

 千秋は俯き、

「そうよね……」

 涙を流して言った。

 自分が不甲斐ないから。

 自分に"力"がないから。

 自分がもっとしっかりしていればこんなことにならなかったのに。

  康介は頭を掻きながら言った。

「まあ、千秋と会えてよかったと思ってるよ」

 千秋は顔を上げた。

「フフフ、坊やは優しいな……ありがとうね」

「……それで、俺は明日には行かなくちゃいけないのか?」

 千秋は涙を拭きながら答えた。

「明日は坊やの誕生日よ。誕生日を祝ってからでも大丈夫なはずよ」

「そうか……話しはそれだけか?」

「ええ、戻っていいわよ」

 康介は立ち上がった。

「それじゃ、戻らせてもらうわ」

「本当に悪かったわね」

「別にいいさ」

 康介はそれだけを言うと部屋を出ていった。



        ☆



 千秋と別れた康介はお風呂に入った。

 自室に戻ろうとしたとき、ちょうど結衣が食堂から出てきたところだった。

「康介くんお風呂入ってたんだ」

「ああ」

 二人の間に沈黙が流れる。

 先に口を開いたのは康介だった。

「なあ、オマエさ。学校で告白されてたよな?」

 結衣は目を丸くして、康介を見た。

「康介くん……見てたんだ…………」

 涙目になり俯いてしまった。

「見てた訳じゃない。見かけただけさ」

「そう……なんだ」

「それで……、OKしたのか?」

 結衣は首を横に振っただけだった。

「そうか……よかった」

 えっ、と結衣が顔を上げたときには、康介は彼女に背中を向けていた。

「そんじゃ、部屋に戻るわ」

「え……あ、うん」

 結衣は、康介の「よかった」という、言葉の意味が分からずその場に立ち尽くしていた。



        ☆



 結衣と別れた康介は自室に入り、ドアにもたれかかっていた。

「どうして、ほっとしてんだ……」

 考えても仕様がない、と康介は頭を振ってベッドに腰掛けて掛け時計に視線を向けた。

「8時半か………」

 そのままベッドに横になって、千秋から聞かされた話を考えた。

「ここにいる奴に能力者になる可能性がある奴がいるか……信じられねぇな。でも千秋は嘘をついていない。アイツの泣いてる姿ははじめて見たが、嘘泣きじゃない。心から泣いてた…………」

 康介はそこで思考をやめた。

「眠いな……もう寝るか」

 電気を消して、眠りに落ちた。



        ☆



 郊外の廃墟。

 現在の時刻、23時5分

 青年が椅子に座りもたれかかっていた。

「“    ”が覚醒するまで1時間をきったな………世界は明日を持って終わる。……そして、能力者の世界がやって来る……」

 そこで黙り、周りを見渡した。

 周りには十数人の人が立っている。その中には数人、子供もいる。

 誰も青年の発言を咎める者はいなかった。

 服装はバラバラだが、全員の衣服には、"交差する双剣"が刺繍されていた。

 青年は見渡し終わると立ち上がり両手を広げて、高笑いした。

「ハハハハハ、“   ”に感謝しないとな。……そうは思わないか、お前ら?」

 周りにいる人々に問いかけた。

 少しの沈黙の後、一人の男が青年の前に歩みでた。

「そうですね。カイザー様“   ”に感謝しなくてはなりませんね」

 カイザー、と呼ばれた青年はその男の目をまっすぐに見てから唇を歪めた。

「そうだろ、アベイル。お前、わかってるじゃねぇか」

 そう言うと、青年は部屋の隅へ歩いていった。

 そこには、鎖で縛られた男女がいた。

 青年は笑顔で二人の前に立った。

「もうすぐお前たちの息子の誕生日だぜ。嬉しいだろ?秀二、恵」

 秀二と呼ばれた男は、青年を睨み付けて、

「庚介に……庚介に何をした!!コータを何処にやった!!ゆうじ」

 声を荒げて怒鳴り散らした。

「アイツから"家族"の記憶を消しただけだぜ。コウタは知らんな。どっかでくたばったんじゃねぇか?それと俺は、ユウジじゃない、カイザーだ」

 青年は笑顔を消し、秀二を見下して言い放った。

「記憶を消した?そんなことが――」

 秀二の言葉をカイザーが遮った。

「出来るわけないか?」

 青年は鼻で笑うと続けた。

「俺を誰だと思ってるんだ。アイツの記憶を消すくらいわけない」

 秀二は絶句した。

 いくらなんでも人間の記憶をそう簡単に消せるわけがない。

 カイザーがただ者でないことは秀二も知っていた。

 だが、ここまで異常だとは思っていなかったのだろう。覚醒した"力"がここまでのものだったなんて……。

 ここにいる誰もがカイザーに逆らえないのだと直感し、絶望した。

「まぁ、お前らもアイツももうすぐ用済みだから、家族仲良くあの世に送ってやるよ」

 カイザーは唇を歪め、踵を返し椅子に座り直した。

「俺が欲しいのは“   ”だけなんだよ。アイツは――器は要らない。“  ”さえ取り込めれば、俺は完全体になれる………フフフ、フハハハハ……俺のものとなれ………“レオ”」



        ☆



 康介はふと、目が覚めた。

 時計を見ると23時55分だった。

「…………寝るか」

 …………………………。

(寝つけない。寝つけないなんて初めてだ)

 康介は食堂に向かうために起き上がった。


 ガタッ


(物音?どうしてだ。この部屋には俺しかいないはずなのに……)

 部屋を見回りたが誰もいない。

 気のせいか、と結論付けて時計を見ると、ちょうど0時になったところだった。

「誕生日か……」

 立ち上がろうとしたとき椅子に誰かが座っているのが見えた。

(……誰だ?)

 椅子に座る人物は康介が凝視してることのに気が付いたようだ。

[ん?俺が見えるのか?]

 康介は怪訝そうな表情をした。

「何言ってんだ?」

[何って……そのままだが?]

「変な奴だな……てか、オマエ誰だ」

[俺はダークだぜ。レオ]

 康介は首を傾げて聞き返した。

「レオ?誰だ?」

 男は康介を指差した。

[オマエのことだよ]

「はぁ?俺はレオなんて名前じゃない。俺の名前は田中康介だ」

 今度は男の方が首を傾げた。

[記憶がないのか……困ったな]

 男が腕を組んで唸っていると、

「ていうか、オマエはどうやってこの部屋に入った」

 康介が怪訝な表情で聞いた。

[……オマエがこの施設に来てからずっとこの部屋にいるぜ]

 男は真顔で答えた。

「ずっといた?そんなわけないだろ。この部屋には隠れなれるところなんてない。ずっといたなんて信じられるわけないだろ」

[……オマエに俺は見えてなかったからな]

 康介は眉を吊り上げた。

「見えてなかった?何意味分かんないこと何言ってんだ、オマエは」

[理解出来なくて当たり前だ。ただの人間には見てないからな]

 康介は頭を抱えた。

(コイツの言ってることはおかしすぎる。ずっといた?見えなくて当たり前?なんなんだこれは………)

[レオよ、オマエはおかしいと思ったことないのか?]

「はっ?」

 素っ頓狂な声を上げて、顔を上げた。

[オマエはおかしいと思ったことないのか?10歳の誕生日より前の記憶がなく、誕生日から二年間の記憶が曖昧のはずだぜ?]

 康介は面食らい、戸惑いながら口を開いた。

「なんでそんなこと知ってんだよ」

[俺が原因でもあるからな]

 言葉が出なかった。

[ショックか?]

 数分の沈黙のあと、康介が口を開いた。

「オマエが原因なのか」

[ああ]

「オマエが俺の家族を殺したのか」

[違う]

 即答された。

「違うって言い切れるのか」

[ああ、それにオマエの両親は生きてるぜ……多分な]

 康介は虚ろな目で椅子に座る男を見ていた。

「多分ってどういうことだ」

[オマエの記憶を奪った張本人が生かしてるか分からないんだよ。俺はオマエから離れられなかったから確かめようがないしな]

[…………そうか]

 暗い部屋で黙り込む二人。

 先に口を開いたのは康介だった。

「ダークだったか?」

[ああそうだが、何か聞きたいことあるか?]

「…………そろそろ顔を見せてもらいたいね」

[まあ、いいけどな]

 ダークは立ち上がりドアの横にあるスイッチを押した。

 部屋の明かりがついた瞬間、康介は絶句した。

 ドアの前に立っていたのは“田中康介”だった。

 ダークは椅子に座り直し、唇を歪めた。

[驚いたか?]

「あ……え?…ど、どういうことだ?」

[まあ、驚くのはわかるけど。……驚きすぎだぜ、ハハハハハ]

 腹を抱えながら大笑いする。

 理解出来ない康介はダークを凝視していた。

 どっからどう見ても、田中康介だ。

 似てるなんてもんじゃない。全く同じである。同じなのは見た目だけではない。声も同じで、まるで康介の生き写しのようだ。

「なぁ、ダーク」

[ん?なんだ?]

 笑うのをやめて、康介の方を向いた。

「オマエってなんなんだ?」

[そうだな……俺はオマエ自身だぜ]

「俺……自身?」

[そうだぜ、簡単に言えば、オマエは光、俺は影。俺がオマエを殺せば、オマエの代わりに俺が表に出れるってな、簡単だろ?]

 悪戯っぽい笑顔で康介に問いかける。

「……俺を殺す気なのか?」

[まさか、そんなことするわけないだろ。オマエと話すのをずっと待ってたんだから]

「…………なんで話したいと思ったんだ?」

 ダークは考える素振りを見せてから答えた。

[オマエとは気が合う気がしたからかな?]

 康介は頬を緩めた。

「なんじゃそりゃ。おかしな奴だな」

[そうか?]

「ああ、すごい変だぜ」

 二人は笑いあった。

 一頻り笑ったあと、康介は真剣な顔になった。

「ダーク、オマエに聞きたいことがある」

 首を傾げて聞き返した。

[なんだ、聞きたいことって]

「俺は能力者なのか?」

[そうだろうな]

「曖昧な言い方だな」

 ダークは頭を掻きながら答えた。

[オマエを能力者って呼んでいいのかわからねぇんだよ]

「わかんないってなんなんだ?」

[オマエは異質だから判断つかない]

「そうか……」

[まあ、オマエの能力が創作系なのは確かだな]

「創作系か」

 康介はベッドに寝っ転がった。

「はぁ、なんか眠くなってきたな……」

[寝ればいいじゃねぇか。明日は出掛けるんだろ?]

 ダークは椅子から立ち上がり、康介を見下ろした。

[寝やがったか……あんなに食いついといて]

 ダークは笑いながら呟くとその場から"跡形もなく消えた"。 



        ☆



 郊外の廃墟で、カイザーは高笑いしていた。

「ハッハッハッ、ついに……ついにこの日が来た。レオが覚醒した。これで俺は最強になれる。歴代最強の長になれる。フハハハハハ…………世界の変革はもう起こってる。能力者の世界の始まりだ!!フフフ、世界は終わりを迎えた。これから新世界の始まりだ!!」

 カイザーはまだ高笑いし続けていた。



      第一章END

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