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第Ⅰ篇《》 第一章(始まり)2話〔平凡な一日〕

 翌日、康介は結衣と一緒に学校に来ていた。

(千秋のやつめ……、本気で殴りやがって、まだ頬が痛むわ。て言うか、なんでアイツ殴って来やがったんだ……訳がわかんねぇ)

 康介は頬を擦りながら心の中で毒づいた。

 今朝のこと、康介が「俺当分学校行かないから」と、言って部屋に戻ろうとしたとき、千秋に思いっきり殴り飛ばされて、たっぷり説教を受けたのだ。

 隣を歩いていた結衣は、心配そうな表情で康介の顔を覗き込むように見上げていた。

「康介くん、大丈夫?」

「ああ、大丈夫だ」

「本当に?」

 康介はそっぽを向いて、

「ホントに」

 結衣は首を傾げた。

「でも、ほっぺ真っ赤に腫れてるよ?」

「うっ…………」

 康介はどう誤魔化そうか思想を巡らせていたとき、背後から声をかけられた。

「よう田中。今日も来たな」

 康介が振り向くとそこに立っていたのは、

「……………オマエ誰だ?」

 康介は至って真面目である。決して、ふざけてこんなことを言ったのではない。

 事実、話しかけてきた男子生徒ことを康介は“覚えていない”のだ。

 そんなことを知らない男子生徒は康介の背中をバシバシ叩いた。

「おいおい、何変なこと言ってんだ。昨日話したじゃねぇか」

 康介は首を傾げて問い返した。

「昨日?…………本当に昨日会ったのか?俺はオマエに?」

 男子生徒は困惑した表情になったが、何か思い出したのか、ポンと手を叩いた。

「あ~、わりいわりい。名前言ってなかったな。俺は、松本裕二(まつもとゆうじ)だ。よろしくな」


 松本裕二は康介のクラスメイトで、昨日の体育で康介に突っ掛かった人物だ。


 康介は小首を傾げながら、祐二の名前を呟いた。

「松本……裕二?」

「おう、裕二って呼んでくれや」

「ああ、わかった……」

 二人のやり取りを見ていた結衣は何気なく腕時計に目を落とした。

「あっ、康介くん。早くしないと遅刻になっちゃうよ」

「ん?……本当か?」

「うん、あと5分くらいしかないよ」

 結衣が言い終わるや否や予鈴がなった。

「康介くん、急ご」

「ああ。松本、オマエも急いだ方がいいんじゃないか?」

「おう、そうだな」

 三人は走って校舎に入っていった。



        ☆



 放課後になり、康介と結衣は一緒に昇降口まで来ていた。

「んじゃ、帰るか」

「あっ、康介くん」

 康介は振り返り、首を傾げた。

「どうした?」

 結衣はモジモジしながら答えた。

「そ、その……街の方に用事があるから、先に帰ってていいよ」

「ん?そうか……じゃあそうさせてもらうわ」

「うん……」

 二人は靴に履き替え、正門まで行き別れた。

 理由は、街は向日葵園と逆方向にあるのだ。

「あまり遅くなるなよ」

「うん、わかった」

 結衣は手を振りながら街へ向かって行った。

(用事ってなんなんだろうなぁ。わざわざ街に行かなくても千秋に頼めば買ってきてもらえるだろうに……衣服なら土日に行けばいいのになぁ……平日に街へ行く理由か…………俺にはわかんねぇな)

 康介は天を仰ぎながら考えるのだった。



        ☆



 一方、結衣は康介と別れたあと、バスで街へ向かっていた。

(康介くん、何なら喜んでくれるかな)

 結衣は外の風景を見ながらぼんやりと考えていた。

 結衣が街へ向かっている理由は、もうすぐ康介の誕生日なのだ。

 来週の土曜が誕生日のため、それまでにプレゼントを買わなくてはならないのだ。

 プレゼントの候補を考えているとあっという間に街に着いてしまった。

(もう着いちゃった……回りながら考えよ)

 結衣はいろいろ回ったが、なかなか良いのが見つからず遅い時間になってしまった。

(そろそろ帰らないと………)

 結衣は仕方なく諦めて帰ることにした。

(来週の土曜日、康介くんと買いに来ようかな?その方がいいと思うし……)

 結衣はそこで思考をやめて、向日葵園に帰るのだった。



        ☆



 結衣は七時前に向日葵園に帰ってきた

「ただいま~」

 ちょうど、通りかかった美咲が結衣に駆け寄ってきた。

「結衣ちゃんおかえり~。もうすぐご飯だよ」

「うん、わかった。……美咲ちゃん、康介くんどこにいるかわかる?」

 美咲は小首を傾げて答えた。

「多分自分の部屋にいると思うよ?」

「ありがとう、美咲ちゃん」

 そう言うと美咲の頭を撫でて、康介の部屋に向かっていった。



        ☆



 康介はベッドの上で大の字になって寝っ転がっていた。

(…………暇だな。今まではこんなこと思わなかったんだけどなぁ)

 ため息を吐きながら起き上がり、窓の方に近付いた。

 これで何度目のため息だろうか、などと考えながら外を眺めているとドアをノックされた。

(誰だろう?……結衣かな?)

 カーテンを閉めて、ドアノブに手をかけた。

(ん?どうしてアイツのことが頭に浮かんだんだ)

 だが康介は、頭に過った疑問を追い払いドアを開けた。

 そこに立っていたのは、やはり結衣であった。

「康介くん、今大丈夫?」

「ああ。何か話か?」

「うん…………」

「……」

「……」

 康介は結衣がなかなか話し出さないのを不審に思い話しかけた。

「どうしたんだ?」

「え、えっと………」

 結衣は俯いてモジモジしていた。

 康介は困ったように頭をかいた。

「まぁ、部屋にはい――」

「康介クン!」

 自室に招こうと口を開いたが、結衣に遮られた。

 結衣は急に顔を上げて康介を見つめた。

 赤面した結衣を見た康介は、黙って話し出すのを待つことにした。

(何だろうこの間……気まずい……)

 結衣が話し出すのを待っていると、彼女が顔を上げて口を開いた。

「あ、あの……康介くん、昨日の約束なんだけど……来週の土曜日はどう?」

 上目使いで康介を見つめながら問いかけた。

(昨日の約束……ああ、あれか。来週の土曜…………俺の誕生日だよな……)

 康介は少し考えてから答えた。

「ああ、構わないぜ」

 すると結衣は、ぱっと表情を明るくしたかと思うと、耳まで赤くして俯いてしまった。

 少しして顔を上げると、

「ありがとう、康介くん。……約束だよ………」

 不安そうな瞳で康介を見つめた。

「ああ、約束だ」

「うん」

 元気良く頷いた。

 結衣は頬を少し赤らめて走っていった。

「変なやつだな」

 結衣の後ろ姿を見ながら康介は呟いた。

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