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第Ⅰ篇《》 第三章(其々の道)2話〔一時の幸せ〕

 翌朝――。

「残り……5日か」

 康介は窓を見ながら呟いた。

(残り5日で、アイツに何をしてやれるのだろうか……)

 はぁ……、と言うため息が部屋に響く。

[なに情けねぇ顔してんだ]

 声のした方に視線を向けると、ダークが椅子に座っていた。

「どんな顔をしようが、俺の勝手だろ」

[先のことを考えるより、今結衣が喜ぶことをすればいいだろ?]

「はぁ……。オマエはなんでいつも、まともなこと言ってくるかねぇ」

[オマエがガキなだけだ]

 真顔で言い放った。しかし、答えになってない。

 康介は時計を見て立ち上がった。

「アイツが喜びそうなことかぁ。…………何があるんだろうな?」

 首を傾げて、ダークに問いかける。

[自分で考えろ]

 そう言うと、ダークは姿を消した。

「自分で考えろか……う~ん」

 唸りながら着替えて、部屋を出ていった。



        ☆



 朝食を済ませ、学校に行く準備をした康介は、結衣と一緒に向日葵園を出た。

 二人は向日葵園から一言も話さず歩いていた。

 公園を通りすぎたところで康介が口を開いた。

「なあ、結衣……」

「なに?」

「えっと、さ……。手繋がないか?」

 そっぽを向いて、頬を掻きながら問いかけた。

 横目で見ると、結衣は顔を真っ赤にして、口をパクパクさせていた。

 あはは、とぎこちなく康介は笑った。

「恥ずかしいよな、……忘れてくれ」

「うん……」

 二人は再び無言で学校へ向かっていた。



        ☆



 もうすぐ学校に着きそうだなぁとか、結衣が喜ぶことかぁとか、考えていると、急に右手を握られた感触がした。

 手元を見ると、結衣が手を握っていた。

 俯いてて顔は見えないが、髪の間から見える耳が赤くなっている。

 康介はその手を握り返した。

 すると、結衣は顔を上げたが、またすぐに俯いてしまった。

 瞳を潤ませ、顔を真っ赤にした様子を愛おしいと思う康介。

 そのまま手を繋いで学校へ向かう二人だった。



        ☆



 結衣は隣を歩く康介の右手をチラチラ見ていた。

(康介くん、手を繋ぎたいんだよね……。でも、友達とかクラスメイトに見られたら…………)

 カァーと、結衣の顔が赤くなった。

 幸い康介は真っ直ぐ前を見ていて、結衣の変化に気付かなかった。

(だけど……わたしも…………)

 結衣は自身の手を康介に近づけた。

(あと……少しで…………でも)

 手が触れるか触れないかの位置で止まった。

(やっぱりやめとこ)

 結衣が手を引っ込めようとしたとき、彼女は石につまずき、康介の手を握ってしまった。

 あっ……、と言う声が漏れて、顔が暑くなっていくのを感じ、すぐに下を向いた。

(どうしようどうしよう。今離したら変に思われちゃうし……)

 結衣が心の中であたふたしていると、彼女の手が握り返させた。

 顔を上げると、微笑んだ康介が結衣を見下ろしていた。

 彼女はまたすぐに下を向く。

 ふわふわした状態で結衣は歩くのだった。



        ☆



 康介は学校に着いて早々、担任に捕まり、職員室に連れ――否、連行された。

「俺、何もやってないんだが……」

「ああ、分かってる」

 じゃあなんで?、と康介が言うより早く、担任が口を開いた。

「お前が住んでる施設の施設長の……あぁ、何て言ったけか。……まあいい」

 いい加減だな……、と呆れた顔を担任に向ける。

「その人から、転校するって……それはもう知ってるよ」

「はい」

「それでな、ホームルームで、別れの挨拶とかをしてもらおうと思ってだな」

「それで、職員室に連れてきたと……」

「まぁ、そう言うことだ」

 はぁ……、とため息をついて、そんなんで連れてくるなよ、と声に出さずに毒づいた。

「もう行っていいか?」

「いいぞ。時間取らせて悪かったな」

 康介は無言で立ち上がり、そのまま職員室を出ていった。



        ☆



 康介が担任と話していた頃、結衣はクラスメイトの女生徒たちに捕まっていた。

「やっぱり、田中君と付き合ってたんだねえ~」

「いつも登下校一緒だったから、そうじゃないかなぁって思ってたけど……」

「ホントにそうだったなんてね~」

「…………あ、あのね!」

 今まで俯いて黙っていた結衣が顔を上げた。

 真っ赤な顔で真剣な表情をしている彼女を、周りにいる女生徒たちは黙って見つめた。

「あ、あのね……。付き合い始めたのはこの前の土曜日からで……。だから、ずっと前から付き合ってたわけじゃ……ないの」

 その言葉を聞いた女生徒たちは、驚いた表情で結衣を見た。

「それホントなの?」

「うん……」

 女生徒たちは、信じられない、と言った顔でお互いを見つめあっていた。



        ☆



 ホームルーム――。

 担任から康介が転校することが伝えられた。

 康介は今、教卓の前に立っていた。

「えっと、このクラスになってい……」

 いろいろあったが、と言おうとした康介は、ふと思い出した。

 高校二年生の4月下旬。そんな時期にクラスで協力する行事があるわけがない。

 それなのに『このクラスになっていろいろあった』と、言うのはおかしいだろう。

 因みに、何を話せばいいのかと担任に聞いたところ、『適当にそれらしいことを言っておけば大丈夫だろ』と返ってきた。

 ……いい加減にもほどがある。

(さて、何を言ったものか……)

 康介は、数秒考えてから口を開いた。

「このクラスになって1ヶ月も経たないうちに別れることになって、なにか思い出はないかって考えたが、まったくない。名残惜しいとかも思わないんだな、これが」

 肩を竦めてから続けた。

「まあ、短い間だったが楽しかったぜ」

 ニカッと康介は笑った。

 すると、クラスメイトが驚いた顔で彼を見た。

「以上!」

 そう言うと、席に戻った。



        ☆



 康介は相変わらず、授業中居眠りをしていた。

 教師は誰一人咎めようとしない。全員諦めたのだろう。

 康介は今、結衣と一緒に中庭のベンチに座り、彼女の手作り弁当を食べている。

「康介くん、どう?」

「ん?うまいぞ」

「うん……」

 結衣は少し残念そうな表情で弁当をつついた。


 昼食を済ませた二人は会話めせずにベンチに座っていた。

[…………]

 ダークがなにか言いたげな顔で二人を見ている。

 康介はダークに視線を向けて、

(言いたいことがあるならさっさと言えよ)

[……別に]

(別にって……。オマエなんか変だぞ)

[俺は何も変わってない]

 なんで機嫌悪いんだ?、と訝しげに康介は思った。

[オマエがこのままでいいなら口出ししねえよ。……じゃあな]

 ダークはそう言うと、跡形もなく消えた。

 変なやつ、と思いながらダークがいた場所を見ていた。



        ☆



 学校を終えた康介は結衣と一緒に帰路についていた。

 康介は両手に教科書などが入った紙袋を持っている。

「もう一緒に学校行けないんだね……」

「ああ、そうだな……」

 二人は浮かない顔で歩いている。

「そんな顔するな。土曜までは、向日葵園にいるんだからさ」

「うん……」

 康介を天を仰いだ。

(何て言えば、元気だしてくれるんだろう……)

 はぁ……、と息を吐いて結衣を見た。

 彼女は康介の少し後ろをとぼとぼ、と歩いていた。



        ☆



 向日葵園に帰ってきた康介はすぐに自室に入った。

「はぁぁぁぁ……」

 着替えて、長いため息を吐きながらベッドに突っ伏した。

「はぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 何度目のため息だろうか……。もう数えるのがバカらしくなるくらい、ついているのは確かだ。

[さっきからはぁはぁ、うるさいな!]

 ダークが不機嫌そうな表情で現れた。

 康介はダークに顔を向けると、

「はぁ……」

 また、ため息をついた。

[人の顔見て何ため息ついてんだ?]

 青筋をたてて、眉をピクピクさせながら言った。大分御立腹のようだ。

「なんでもねえよ」

[なんでもないことねえだろ]

 康介は顔を背けて、

「ホントになんでもねえよ」

[……どうせ結衣のことだろ?]

「さぁな……」

 康介の返答にダークは首を傾げた。

 康介がため息ついている理由は結衣のことで間違いないだろう。ならば、さっきの彼の反応にダークが不審に思うのは、当たり前だろう。いつもの康介なら動揺を見せているはずだからだ。

[レオ……オマエどうしたんだ?]

「なんのことだ?」

[オマエが動揺しないなんておかしい]

「なんか、失礼だな」

 康介は息を吐き捨ててから続けた。

「オマエの言う通りだ。俺は結衣のことで悩んでる……」

[じゃ――」

 ダークが『じゃあ、なんで?』と言うよりも早く康介が起き上がって口を開いた。

「だけど、オマエに図星をつかれたくらいで、もう一々動揺はしないさ」

[つまんねぇの]

「悪かったな」

 ハハハと笑った。

 ダークもハハハと笑った。

[やっと、しょぼくれた顔以外の顔をしたな]

「ん、ああ……」

 康介は頬を掻いてそっぽを向いた。

[テレてんのか?]

「そ、そんなんじゃねぇよ」

[どうだか]

 含み笑みを浮かべながら言った。

 康介はダークの方に視線を向けて、

「オマエって性格悪いのな」

[嫌みのつもりだろうが、俺は自分が性格いいんな思ってないぞ]

「はあ……」

 ダークは急に真剣な顔になった。

[そんで、結衣はどうすんだ?]

「それは……、何とかするさ」

 ダークはしばらく康介を見つめてから口を開いた。

[まっ、今はその言葉で許してやるよ]

「許すって何をだよ」

[さあな]

 ダークは ハハハと笑って消えた。

「…………。アイツはなにがしたいんだ?」

 静まり返った部屋に康介の声だけが響いた。



        ☆



 翌日――。

「暇だ」

 時刻は正午過ぎ。

 現在康介は、自室のベッドに寝っ転がって『暇だ』と、何度も呟いていた。

「あ~暇だ」

[さっきからうるせぇな!]

 康介は声のした方に視線を向けた。

「ホントのことなんだからしょうがねぇだろ」

[…………]

 ダークは.呆れたような視線を康介に向ける。

「…………。出掛けるか」

 そう言うと起き上がった。

 そして、着替えて、財布を尻ポケットに入れて部屋を出た。

 部屋を出た康介は管理人室にいる千秋に『ちょっと街まで行ってくる』と、言って向日葵園を出た。

「少し暑いな……」

 本日の天気は晴れ。

 雲一つない快晴だ。

 青空の下、康介は歩いている。

「これからどうすっかなぁ」

[街に行くんじゃないのか?]

 隣を歩いているダークが首を傾げて言った。

「ああ言っとけば、帰りが遅くなっても何も言われないんだよ」

 ダークは何も言わずに消えた。

「…………」

 康介は空を見上げて呟いた。

「ホントに街行くかなぁ……」


 康介は学校の近くまで来ていた。

 今は、校門へ続く歩道と反対側の歩道を歩いている。

 立ち止まり、何気なく学校の方へ視線を向けた。

(もう五時限目が始まってる時間だな……。五時限目確か……数学だったな。まあ俺には関係ないことだけどな……)

 康介は視線を前に戻した。

「…………結衣に会いたかったな……」

 はぁ~、と息を吐き歩き出そうとして、自身が発した言葉に首を傾げた。

「ん?…………なっ!?」

 そして、発した言葉を理解した瞬間目を見開いて、みるみる顔が赤くなっていった。

「お、俺は、何考えてんだ……!?」

 口元を手の甲で押さえて、キョロキョロと、視線を動かしている。

 動揺しているのが丸分かりだ。

(落ち着け……落ち着け……)

 康介は深呼吸を数回した。

 顔の赤さが引き始めたとき、

[何動揺してんだ?]

 突然前から声をかけられた。

 康介はビクッと体を強張らせて顔を上げた。

 前にいたのは、ダークだった。

「なんの、ことだよ……」

[…………]

 ダークは黙って、数秒間見つめてから口を開いた。

[好きなやつに会いたいって思うのは普通なんだからよ、自分の気持ちに素直になれよ]

「答えになってねぇよ」

[そうか?」

 ハハハとダークは笑って続けた。

[結衣に会いたいと思うのは結衣のことが好きだからだ。なら、会いたいと思うのは普通のことだ。戸惑う必要なんてないだろ?]

「ああ、そうだな」

 康介はやけくそ気味に言うとため息を吐いた。

「オマエの考えがわかんね」

[どう言うことだ?]

 ダークが首を傾げて問いかける。

「なんて言うかさ……、いつもふざけたことを言ってくるくせに、またに真面目な話してくんじゃん。それがなんの目的で真面目な話しをしてくんのかわかんないってこと」

[目的か……]

 ダークは考える素振りを見せてから口を開いた。

[情けなくて、見てられないから?]

 なんで疑問形?と、康介は思ったが口に出さず、『そうか』と言って歩き出した。



        ☆



 バス停へ向かう康介の背中をダークは見つめていた。

[…………]

 ダークは自身の手を見下ろした。

[俺の目的は……、オマエを守ること。そして……]

 そして、顔を上げて康介を見た。

[ウェンディに会わせないことだ。……レオデルダム]



        ☆



 街までやって来た康介は、崩壊ショッピングモールの近くまで来ていた。

 目の前には、瓦礫の山とその山を崩す重機や作業員、警察官がいる。

 康介は視線を瓦礫の山に向けたまま口を開いた。

「能力でこんなこと出来るのか」

[使い方によっては出来る]

 陽炎のように現れたダークも康介と同じように瓦礫を見ていた。

[まあ、能力の系統にもよるけどな]

「俺の能力でも出来るのか?」

[出来なくもないが、今のオマエじゃ無理だな]

「そうか……」

 康介はダークに視線を向けずに続けた。

「人を殺すことは出来るか?」

[…………あぁ。刃物を作り出せばな]

 『そうか』、と言って康介は瓦礫に背を向けて歩き出した。

[そんなことを聞いて……、何をするつもりだ]

 ダークは瓦礫を見つめたまま呟いた。

「――――」

 康介の声は、重機の音によって誰の耳にも届くことはなかった。

 康介の返答を聞いたダークは姿を消した。



        ☆



「結衣を他の男に取られない方法か……」

 康介は雑踏の中を歩きながら呟いた。

[急にどうしたんだよ]

(前オマエが、婚約指輪渡せばいいだろって言ったじゃん)

[そうだっけ?]

 康介は右隣を歩くダークをジト目で見た。

 康介の右隣を歩いているのは、ダークだけ。誰一人、彼の右隣を通りすぎる者もすれ違う者もいない。ダーク曰く『俺はこの世界に存在してない訳じゃない。どいつもこいつも俺を認識出来ないだけだ。そして、俺に向かってくる者は無意識に避ける。俺を追い越そうとする者も同じく避ける。だが、俺がぶつかればその者は俺を認識するし、声をかけても認識する……が、一時的なものですぐに認識しなくなる』とかなんと、だからダークは普通に康介の横を歩けるのだ。

(とぼけんじゃねぇよ)

[そんなことを言ったかもな]

 ハッハッハッとダークは笑った。

「はぁ~……」

 康介はわざとらしくため息を吐いて、

「いくらくらいすんだろうなぁ……」

 空を見上げて呟いた。



        ☆



 結衣と一緒に行ったアクセサリーショップと違う――主に宝石で装飾のされている指輪やネックレスがショーケースに納められているアクセサリーショップにやって来た康介は……、目を見開いて硬直していた。

(こんなにあるのか……。それに、どれもこれも高い!…………どうしよう)

 康介が狼狽えていると、女性店員が近づいてきた。

「何かお探しですか?」

 『は、はいっ!?』と、上ずった声で返事をした康介は、

「そ、その……、こ、婚約……指輪を……」

「婚約指輪ですね?此方です」

 女性店員は手で示した方へ歩き出した。

 康介はそのあとを落ち着かない様子でついていった。

 一つのショーケースにつくと、

「これらなどはいかがでしょか?お値段もお手頃でデザインもいいと思いますよ?」

 手で示しながら言ってきた。

「そ、その、ありがとう……ございます」

「ごゆっくりどうぞ」

 女性店員は、一礼すると去っていった。

「…………はぁぁぁぁぁ」

 康介は肺の中の空気を一気に吐き出した。

[緊張しすぎだ]

(しょうがねえだろ。こんなとこ来るの初めてなんだからよ)

 康介はそう言いながら、ショーケースの中を見た。

(お手頃とか言ってたけど……、十分高いよ……)

[こんくらいは、覚悟しといた方がいいってことだろ?]

(そんなんだろうか……)

 康介はあまりの高さに、虚ろな眼差しで眺めていると、一つの指輪に目が止まった。

 ダイヤモンドの両脇に小粒のピンクダイヤモンドをあしらってあるシンプルなデザインの指輪。

 康介は見た瞬間、結衣に似合いそうだな、と思った。

(えっと、値段は…………、げっ、23万5000……)

[おお、スゲェ高いなぁ。で、レオ]

 康介は隣に立っているダークを首を傾げて見た。

[隣のショーケースに移動してんぞ]

 ダークが案内されたショーケースを指差して言った。

 康介はダークの指差している方を見た。

(マジだ……。いつの間に……)

 視線を先ほどの指輪に戻す康介。

「ん~…………帰るか」

 そう呟いて、康介はアクセサリーショップを出ていった。



        ☆



 康介は早々に向日葵園に帰ってきていた。

「ナイフか……」

 康介の視線の先には、不格好の黒い物体がいくつかある。

 かろうじて刃物であることはわかる。

[変な形だな]

 ダークが肘を康介の肩に乗せて、黒い物体を見下ろしている。

 数分前から自室で、能力練習でナイフを作り出そうとしていたのだが、初っぱなからつまずいていた。

「なぁ、なんでうまくいかないんだ?」

[想像力の問題だろ]

「想像力?」

 首を傾げて問いかける。

[創作系能力は、使用者の想像力・イメージで、作り出せるものの数が変わる。オマエがナイフをうまく作り出せないのは、オマエの頭の中に明確なナイフのイメージがないからだ]

「そう言うもんなのか……」

 康介は黒い物体――ナイフもどきを手に取った。

「包丁以外の刃物なんて知らないからな……ん?」

 小首を傾げてから数分して口を開いた。

「前にも同じことを言ったような……」

[気のせいだろ]

 ダークが真顔で言い放った。

「……まぁいいか」

[刃物はいいから、別の武器になりそうなもの作ってみろよ]

「武器になりそうなものか……」

 康介は目を閉じ、腕を組んで考え込んだ。

(刃物以外で武器になりそうなもの…………木刀?)

 目を閉じたまま右手を前に出した。

 そして目を開けると、黒光りしている長細い物体が手に現れていた。

「黒い……木刀、か……」

 康介は立ち上がり、黒い木刀を何度か振ってから、

「なぁ、ダーク」

[なんだ?]

「俺の作り出すものが黒いのはどういうことだ?」

[さあ?知らん]

 康介は呆れた顔で、ダークを一瞥した。

「まあいいか。戦うのに支障は出ないだろうし」

 目を閉じて数秒すると、黒い木刀は跡形もなく消えた。ナイフもどきも消えていた。

[なぁ、レオ]

 康介は首を傾げて、ダークを見た。

[オマエは、人を殺すつもりなのか?]

 康介は視線を反らした。

「…………」

[ナイフを作り出そうとしたのもそう言うことじゃないのか?]

「…………」

[黙ってちゃぁわかんねえぞ]

「……心を読めばいいだろ」

 抑揚のない声で言い放った。

 とても冷たい視線がダークに向けられた。

[オマエの口から直接聞きたい]

 ダークは、いつになく真面目表情をしている。

「…………。わかったよ」

 はぁ~、とため息を吐いて続けた。

「俺だって、人を殺したくないさ……」

[じゃあ、……]

「でもよ。大切な人を守らなくちゃいけないときに、何も出来ないなんて……イヤなんだよ。だから、今出来ることをしようって、武器を作り出そうって…………」

[そうか……、安心したよ……]

 康介は不思議そうな顔をして小首を傾げた。

[志がちゃんとあれば、道を踏み外すことがないってことだよ]

「なんか気持ち悪いぞ」

[そうか?]

 ハッハッハッ、とダークは笑った。

 康介はダークの考えがわからず困惑していた。



        ☆



 結衣は走って向日葵園に帰ってきた。

 ――早く康介くんに会いたい。

 その一心で結衣は向日葵園まで走った。

「はぁ……はぁ……」

 結衣は一度玄関の前で立ち止まり、呼吸を整えた。

「ただいま」

「ん……おっ。おかえり、結衣」

 引き戸を開けると、ちょうど康介が通りかかったところだった。

「こ、康介くん!?」

「そんな驚く必要ないだろ。軽く傷つくぜ?」

 康介が不服そうな顔で言った。

「その……ごめんなさい……」

「まあ、いいけどさ。どうしたんだ?」

「えっとね……」

 もじもじしながら、結衣は顔が熱くなっていくのを感じていた。

 結衣は上目遣いで康介を見て、

「早く康介くんに会いたくて……」

 最後の方は口ごもり気味になってしまった。

 言った瞬間、耳まで赤くなった。

「そ、そうなのか……」

 康介も顔を赤くし、そっぽを向いて頬を掻いている。

「ちょっとあんたたち……」

 二人共驚いた表情で、声のした方に視線を向けると、千秋が食堂から顔を出していた。

「そんなところでイチャイチャしてんじゃないわよ」

「そ、そんなんじゃねぇよ!」

「本当かしら」

 ジト目で言って、

「ふふふ、そう言うことにしといてあげるわよ」

 そうクスクス笑いながら言うと、千秋は戻っていった。

 沈黙が流れる。

 先に口を開いたのは結衣だった。

「わたし着替えてくるね」

「あ、ああ……」

 結衣は階段を上がっていった。



        ☆



 夕食後、部屋に戻ろうとした康介に結衣が『康介くんと一緒にいたいな……』と、言ってきた。

 二人は今、康介の部屋のベッドに腰かけていた。

「寄っ掛かっていい?」

「ああ」

 コテッと、康介の肩に頭を乗せた。

「康介くん……」

「なんだ」

「…………やっぱりなんでもない」

「そうか」

 それから二人は、一言も喋らずにいた。

 康介は心地の良い沈黙、だと思っていた。

 だが、その沈黙を破るようにドアがノックされた。

 そして、

「失礼します」

 ドアが開かれて、美咲が入ってきた。

 入ってきた美咲がベッドに腰かけている二人を見て気まずそうな顔をした。

「あ、あの……またあとで――」

「待って、美咲ちゃん!」

 美咲の言葉を遮るように言って立ち上がり、結衣が美咲の元へ駆け寄った。

「康介くんにようがあるんだよね?」

「う、うん」

「わたし、もういいから出ていくね」

 美咲の返事を聞かずに結衣は、部屋を出ていってしまった。

「……美咲、入ったらどうだ?」

「は、はい。失礼します」

 美咲は部屋に入ると、当たり前のように康介の隣に腰かけた。

 康介が不思議そうな顔で声をかけた。

「美咲?」

「はい、なんですか?」

 美咲は小首を傾げて康介を見上げた。

「なんの躊躇もなく隣に座ったけど、大丈夫なのか?」

 康介が頬を掻きながら言うと、美咲はきょとんとした顔をした。

 自分の行動を思い出したのか、急に立ち上がった。

 だが、バランスを崩して康介の胸へ顔から倒れてしまった。

「おい、大丈夫か?」

 康介が心配そうに声をかけると、

「はい、大丈夫です……」

 美咲が倒れた状態で答えた。

「そうか。でも、すぐに離れた方がいいよな」

 そう声をかけたが、美咲から返事はない。

「美咲?」

 康介が首を傾げていると、

「あの、このままで、大丈夫です……」

「ああ……、そうか」

「はい……」

 美咲はぎゅっと、康介の服を掴んでいる。

 服越しにかかる吐息で、康介は悶々となった。

 美咲がどんな考えでこんなことをしているのか……、康介は知る由も無い。

(あぁ……ヤバい…………。こんなときに限って、タイミング良くアイツが出てきそうだな…………)

[それって俺のことか?]

 ダークが仁王立ちで、康介の前に現れた。

(やっぱり出てきたよ……)

[出てきちゃ悪いのか?]

(そんなことはないけどよ……)

 康介は言いながら美咲を見下ろした。

[ロリコンめ]

(ちげぇよ)

 顔を上げてダークを睨み付けた。

[どうだかな]

 ダークはニヤニヤしながら言った。

 康介が不愉快そうな顔をしていると、

「田中さん、どうしたんですか?」

 美咲が見上げていた。

「いや、なんでもないぞ」

 ニヤニヤしているダークを一瞥して言った。

「今日はもう失礼します」

 美咲が立ち上がって言った。

「そうか」

「はい。またお願いできますか?」

「ああ」

「ありがとうございます」

 ペコリと頭を下げて言って、部屋を出るときにまた頭を下げた。

「ありがとうございました」

「…………はぁ~」

 康介は一気に息を吐き捨てた。

[ロリコン]

「うるせぇな」

[事実だろ]

「ちげぇって言っんだろ」

[つまんねぇな]

 ダークは本当につまらなそうな顔をした。

「…………俺もう寝る。電気消しとけよ」

 康介はそう言うと、布団を被った。

[はいはい]

 ダークは部屋の灯りを消して、消えた。



        ☆



 康介の部屋を後にした美咲は自室に戻った。

 ベッドに倒れ込んだ美咲は、康介の部屋での出来事を思い出して、顔が熱くなるのを感じていた。

 枕を抱えてベッドの上でゴロゴロ転がっている。

(田中さんは結衣ちゃんの彼氏さんで、もうすぐ向日葵園を出ていっちゃう……だから、二人を長い時間一緒にいさせるためには我慢しなくちゃ……でも)

 美咲は仰向けの状態で天井を見上げた。

(わたしも……田中さんのことが…………)

 ガバッと、起き上がり首をブンブン横に振った美咲は、

「明日で最後にしよう……明日は午前中で学校終わるし、一緒に町に行って……、それで最後にしよう……」

 美咲は遠い目をして呟いた。



        ☆



 翌日――。

 康介は、二日連続で町に来ていた。

 話は早朝に遡る――。

 美咲に『今日、午前中で学校終わるので、一緒に町に行ってもらえますか?』と聞かれた康介は、『かまわないぞ』と答えた。

 そして現在――、ファストフード店で昼食を取っていた。

 正面には、美咲。

 視線を左隣に向ける。そこには、明日香が座っている。そして、明日香の正面には、由梨がいる…………。

 あんな誘われ方をしたら、二人っきりで出かけるもんだと誰だって思うだろう。ま、男性恐怖症の美咲と二人っきりで出掛けるなんて可能性なんて少ししか……。

「田中さん、ため息を吐いてどうしたんですか?」

 美咲が小首を傾げて問いかけてきた。

「いや、なんでもないぞ」

「そうなんですか?」

「ああ」

 康介は飲み物を飲み干した。

「そろそろ出るか?」

 三人が頷いたのを確認すると、康介は燃えるごみと燃えないごみを別けはじめた。

「田中さん、自分たちのごみは自分たちで――」

 美咲の言葉を遮るように康介が口を開いた。

「気にしなくていいよ」

 ごみを別々のトレイに別けて、康介はごみ箱へ向かった。

 その後ろを美咲、由梨、明日香の順で続いた。

 ごみを捨てた康介は振り返り、『さて、行こうか』と言って歩き出した。



        ☆



 ショッピングセンター、雑貨屋、クレープ屋、ゲームセンターなどなど。その途中で爆破されたショッピングモールの近くを通った。今日は、昨日と比べて作業員より、警察官が多いようだった。

 いろいろと連れ回された康介は疲れた顔をしている。

「あとは……、帰るだけだ……」

 振り返りながら言っていた康介はあることを気がついた。

 周りを見渡したあと、後ろについてきていた、少女二人に問いかけた。

「美咲は……どうした?」

 えっ?、という顔をした二人も周りを見回して美咲がいなくなっていることに気がつき、不安そうな表情を康介に向けた。

「手分けして探そう。オマエらは来た道を戻って、俺は路地裏を探す」

「はい」

 こく――。

 三人は二手に別れて美咲を探しはじめた。


 探しはじめて十数分。

 康介は最後に寄ったゲームセンターの近くに来ていた。

「見つかんねぇな……」

[この辺は、アイツらが探したんだろ]

「ああ」

 康介は横目でダークを見ながら答えた。

[なら、この辺にはいないんじゃないか?]

「…………。はぐれたとしたら、このあたりだと思ったんだけどな……」

 康介は空を見上げた。

 まだ明るいが、一時間もすれば暗くなるだろう……。

「美咲……、どこにいるんだ」

 康介が呟いたとき、少女の叫び声が微かに聞こえた。

 康介は声のした方へ駆け出した。



        ☆



 康介たちとはぐれてしまった美咲は途方に暮れていた。

 下を向いてトボトボ歩いていた彼女は、顔を上げて今自分が知らないところにいることに気がついた。

 美咲が戻ろうと振り返ったとき、なにかにぶつかり転んでしまった。

「いってぇな!」

 ビクッと、身体を強ばらせた美咲は恐る恐る顔を上げた。

 そこに立っていたのは、高校生くらいの男だった。

「ん?小学生か?」

「どう見ても中学生には見えないだろ」

 男の後ろから別の男二人現れて美咲を見下ろした。

「何ボサッとしてんだ!さっさと謝れよ!!」

「ひっ……」

 男の威勢に一瞬気圧されたが、美咲は立ち上がろうと力を入れた。だが、腰が抜けて立ち上がることが出来なかった。

「テメェ、ナメてんのか?」

 男はしゃがみこんで美咲の顔を覗きこんだ。

「……ぁ…………ぁ…………………」

 言葉を発しようと口を動かすが声が上手く出ない……。

「おい!聞いてんのか!!」

「そのくらいにしとけよ、悠」

「黙ってろ!!」

 男――悠は後ろの男を睨んで怒鳴った。

 再び美咲に視線を向けた。

「聞こえねぇのか?」

 美咲は口をぱくぱくするだけで声を発しない。

「 あ~、イライラする……」

 悠は立ち上がり、髪を掻きむしった。

「テメェも立て!」

 美咲の左腕を掴み持ち上げた。

「いやぁぁぁぁぁぁぁ」

 路地裏に美咲の叫び声が響いた。

「うるせぇな!叫ぶな!!」

「いやっ……やめてやめてやめて……」

 美咲は泣き叫んだ。

「なんでも……ひくっ、言うこと、聞くから、ひくっ……ひどいこと、しないで……」

 喘ぎながら言った。顔を涙でぐちゃぐちゃにしながら言った。

 目の前の男たちに向かって…………言わなかった。

「…………なんでも?」

 悠が首を傾げて問いかけた。

「えっ…………」

 美咲は悠の顔を見た。

 悠の表情に美咲は覚えがあった。

 目の前の男の要求は…………。

「さて……」

 美咲の腕から手離す悠。

「悠……お前、まさか……」

「『なんでも言うこと聞く』、つってんだぜ」

 ニヤリと笑い唇を歪めた。

「ひくっ……い、いや……いやいやいや……。やめてやめてやめて……ひくっ……」

「つべこべうるせぇな……。なんでもってつったのはテメェだぞ」

 悠は美咲の服を両手で掴むと。

 思いっきり引きちぎった。

「い、イヤァァァァァァァ!」

 美咲の絶叫が響き渡った。



        ☆



 康介は路地裏を走っていた。

「さっきの声って――」

[美咲だな]

「やっぱり……。早くしないと」

 康介は呼吸を整えながら周りを見渡した。

 何分間走っていたか分からないが……、長い間走っていた気がする。

(美咲……どこだ…………)

 康介が再び走り出そうとしたとき、

「イヤァァァァァァァ」

 今度ははっきりと聞こえた。

(近くにいる!)

 康介は走り出そうとした方と反対方向へ駆け出した。



        ☆



「いや…………い……いや。…………やめて!」

「ちっ…………大人しくしやがれ!」

 康介が曲がり角を曲がると、

「み…………」

 数メートル先で、服を引きちぎられて泣き叫ぶ美咲と、その美咲の腕を掴んで押さえ込もうとする男――悠、その様子を傍観している二人の男がいた。

 康介は言葉を失った。

[おい、レオ!なにやってんだ!]

「えっ?……」

 康介は呆けた顔でダークを見た。

[オマエが行かないなら俺が殺るぞ]

「…………」

 視線を前に向け直した。

 泣き叫ぶ美咲を押さえ込もうとする悠、傍観する男たち。

 …………なんだろうか……この感覚は……。身体の奥底から、何かが湧き上がってくるような…………。

[レオ?]

「ああ、わかってる」

 康介は一度目を閉じて、一秒もせず目を開けた。

 右目が血を垂らしたように赤くなっている。

「オマエら何やってんだ」

 男たちが康介に視線を向けた。

「ん……お前、田中か?」

 悠が美咲の腕を掴んだまま問いかけた。

 どこかで見たことがある顔だな、と思ったが気にせず口を開いた。

「俺は何をやってるかって聞いてんだよ」

「何って……、こいつがなんでも言うこと聞くっつうからヤろうとしてんだ。お前も混ざるか?」

「いや断る」

 康介は呟くと、一歩踏み出して……、悠の顎を殴り上げた。

 傍観している男たちは、目を見開いている。

 顎を殴り上げられた悠は、何が起こったのか理解できていない顔をしている。

 殴り上げて、康介は思い出した。

(あ~。あのときの先輩か……)

 康介は美咲に顔を向けずに口を開いた。

「もう大丈夫だからな」

「ひくっ……田中、さん……」

 康介は目の前の男たちを見据えた。

(他の二人も見覚えがある……。たしか、結衣が体育館裏に行ったときにいた先輩だ)

「さっさと立ち去れ」

 抑揚のない声で言い放った。

「おい、起きろ悠……悠?気絶してる……」

「大人しく去ろうぜ」

「ああ、そうだな」

 傍観していた男たちは悠を連れて去った。

 康介は心を落ち着けるように目を閉じた。

 目を開けると、右目は元に戻っていた。

 康介は美咲の方に視線を向けた。

「美咲大丈夫か?」

「…………」

 返事がないことを疑問に思った康介は、しゃがんで美咲の肩を触ろうとした瞬間、

「い、いや!」

 美咲によって手を払われた。

「あっ……、ごめんなさい……」

 申し訳なさそうに肩を落とす美咲。

「気にしなくていい」

 美咲の様子を見た康介は、『元にいや……、さらに酷くなったんじゃ……』と胸中で呟いた。

 康介は着ていたジャケットを脱いで、美咲の前に置いた。

「それ着とけ」

「ありがとうございます」

 康介はどうやって由梨と明日香に合流するか考えていた。

 あの二人も康介もケータイを持っていない。だから、合流する方法は……。

「美咲を連れて歩いていくしかないか……」

 今の彼女をあまり動かしたくないが、置いて行くのは不安だ。なら、連れて行く方がまだ安心出来る。

「美咲立てるか?」

「……たぶん」

 美咲は言いながら立ち上がった。

 よろよろしているが、歩くのに支障はないだろう。

 康介も立ち上がり、

「ついてきて」

 来た道を戻った。



        ☆



 それから数分後、ようやく大通りに出た。

 空は暗くなり始めている。

 康介がため息を吐くと、

「あ、田中さん!」

 声のした方に視線を向けると、明日香と由梨が走ってきていた。

「田中さん、美咲ちゃ……、あっ、見つかったんですね」

「ああ、一応な」

「一応?」

 明日香が首を傾げた。

「いろいろあって、男性恐怖症が悪化した」

「それじゃあ……」

「二年前より酷くなってると思う」

「そうなんですか……」

 明日香は美咲に近づいて手を握った。

「美咲ちゃん、わたしが絶対守ってあげるからね」

 美咲はこくりと頷くだけだった。

「……帰ろうか」

「はい……」

 重たい足取りで帰路についた。



        ☆



 帰り道の途中誰一人、口を開かなかった。ダークもだ。

 向日葵園に帰ってきて、康介はすぐに美咲のことを千秋に話した。

「そんなことがあったのね……」

「…………すまん。俺がもっとしっかりしていれば…………」

「過ぎたことを悔やんでも仕方ないわ」

「……そうだな。俺は自分の部屋に戻るよ」

「ええ」

 千秋の部屋を出た康介は重たい足を引きずって自室に入った。

 そしてベッドに倒れ込んで、

「俺は、結衣しか見てなかったんだな……」

[急にどうしたんだ]

「結衣と付き合って、残り少ない時間をどう過ごすか、何をしてやれるか……。そんなことばかり考えていた。俺がもっとしっかりしていればこんなことにならなかったんだ」

[……考えすぎなんじゃないか?]

「…………」

 康介は無言でダークを見た。

[なんだ?]

「俺はどうしたらいいんだ……」

[知らねぇよ]

「俺の、やるべき……こと、か…………」

 康介の意識はそこで途絶えた。

[オマエのやるべきことか…………なんだろうな……]

 ダークは窓の外を見ながら呟いてから、部屋の明かりを消して、自身も消えた。

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