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第Ⅰ篇《》 第三章(其々の道)1話〔訪問〕

 翌日――。

「全然眠れなかった……」

 ベッドに座っている康介が呟いた。

[考えすぎなんじゃねえか?]

「考え、すぎ?」

 康介の眉毛がピクッと動いて、ダークを睨んだ。

「オマエがあんなこと言うからだろ」

 怒気を含んだ声音で言い放った。

[結衣と結婚したくないのか?]

 ダークは気にも留めず、首を傾げて問いかけた。

「そ、それは……」

 康介は急な問いかけに戸惑った。

[結婚したいんだろ?]

「そうだけどよ、……まだ早いって言うか、何て言うか……」

[日本の法律じゃ、来年結婚できるじゃねえかよ]

「そう言うことじゃなくて、…………俺はまだ、自分のこと以外に気を向けれるほど、大人じゃないって言うか……」

[…………ぼやぼやしてたら、他の男に取られるぜ]

 ダークが呟いた瞬間、康介の顔から血の気が引いていった。

[取られたくなければ、……何が言いたいか分かるよな?]

「あ、ああ……」

 康介は、虚ろな目で下を向いた。

(結衣が……他の男と、結婚する…………。いやだ、そんなの見たくねえ……)

 康介が顔を上げた。

「アイツは、ずっと……俺の傍に、居て欲しい…………。自分勝手かも知れないが……俺は……アイツが近くに居て、欲しいんだ…………」

 途切れ途切れの言葉だったが、その言葉を聞いたダークはニカッと、笑った。

[やっと本心を言ったな……。決心ついたか?]

「ああ」

[そうか……よかったぜ]

「ありがと、ダーク」

 康介の目には、強い意思が宿っていた。

 ――何があろうと結衣を悲しませない。

 と。

[そろそろ食堂に行ったらどうだ?]

「そうだな」

 康介は立ち上がり、部屋を出ていった。



        ☆



 康介が食堂に入ると、結衣と美咲と由梨と明日香が朝食の配膳をしているところだった。

「おはよ」

 康介が挨拶すると、美咲と明日香がお辞儀をしながら『おはようございます』と言ってきた。

 由梨は、お辞儀をしただけだった。

「康介くん……おはよう」

 結衣は、少し頬を赤らめながら言った。

 康介は、4人(?)の挨拶を聞くと、厨房に入っていった。

「よう、千秋」

「康介……今日も早起きなのね」

「まぁな」

「…………」

「…………」

 沈黙が流れる中、先に口を開いたのは康介だった。

「なあ、会長って人のところに行く日にちって決まったか?」

「ええ、今日の午後行くことになったわ」

「急だな……」

「一度会ってみたいってことらしくてね、今日から部下ってわけじゃないわ」

「そうか……わかった」

「ごめんね、康介」

 千秋が俯き加減に呟いた。

「別にいいさ。ところで、朝食の準備で、何か手伝うことないか?」

「…………。ふふふ、そうね……平皿を用意して貰える?」

「おう」

 平皿を用意しながら康介は、会長って人の話をしていると、悲しい目をするよな。何かあったのかな、と考えていた。



        ☆



 朝食後、康介はいつも通り食堂で、コーヒーを飲んでいた。

[呑気なもんだな]

 正面に座っているダークがボソッ、と呟いた。

(文句あるか)

[いや、ねえよ]

 康介がため息をついて、カップに口をつけたとき、うしろから声をかけられた。

「康介くん、ちょっといい?」

 振り返ると、小首を傾げている結衣が立っていた。

「ん?どうした」

「えっとね……その……」

 結衣は頬を赤くして、モジモジしている。

「とりあえず、座ったらどうだ?」

「あの、その……康介くんとふた……っき…………」

 結衣の顔はみるみる赤くなっていく。

(そう言うことか……)

 察した康介は、立ち上がった。

「康介くん?」

 結衣は不思議そうな顔をして康介を見上げた。

「俺の部屋行こうぜ」

「うん!」

 結衣は嬉しそうな表情で頷いた。

 康介はカップを厨房に置きに行ってから、結衣と一緒に自室に向かった。



        ☆



 康介はベッドに、結衣は椅子に、向かい合ういつもの形で無言で座っている。

 先に口を開いたのは、康介だった。

「結衣……隣こいよ」

「……えっ。何康介くん?」

「いや、その…………」

 康介は頬を赤くして、下を向いた。

 そんな姿を見ていた結衣は、どうしたんだろう、と言う風に首を傾げた。

「…………お、俺の隣に座れよ……」

 顔を真っ赤にして言った。

 康介の言葉を理解するのに時間がかかったのだろうか、数秒してからみるみる赤くなり、耳まで真っ赤になった。

「えっ……そ、それって、その……あの…………」

「イヤか?」

 結衣は、首を横にブンブン振った。

 そして、立ち上がり康介の隣に腰を下ろした。

 一昨日までは、部屋に二人っきりでも、普段通りに話していたが、今はお互い相手の顔色を伺うように視線を向けるだけで、無言である。

 今度は、先に口を開いたのは結衣だった。

「康介くん……」

「ん?」

「寄っかかっていい?」

「ああ」

 結衣はコテッと、康介の肩に頭を傾けた。

 数分して、結衣が頭を起こした。

 どうしたんだ?、と首を傾げていると、結衣が潤んだ瞳で康介を見上げた。

「康介くん……。康介くんは、どこにも行かない?」

「それって……どういうことだ?」

「わたしから離れたりしない?」

「ああ、もちろんだ」

「本当に?卒業するま……ううん、卒業したあとも、ずっとわたしと居てくれる?」

「そ、それは……」

 康介が口ごもると、結衣は不安そうな顔をした。

「いや……だよね」

 視線を落として呟いた。

「イヤじゃない。……俺は、その……オマエとけ、結婚したいと思ってる」

 えっ、と結衣が顔を上げると、顔を真っ赤にした康介が彼女を見つめていた。

 だが、次の瞬間、康介は俯いてしまった。

「けど、俺は近いうちにここを去ると思う……」

「それって、どういうこと?」

「今日の午後、俺を引き取りたいって人に会うんだ。それで、気に入られればその人のところに……」

「今まで通り、同じ学校に通えるんだよね?」

 結衣は不安そうな表情を康介に向けて問いかけた。

「それは……分かんない」

 康介は未だに下を向いている。

「じゃあ、もうすぐ康介くんと……会えなくなっちゃうかもしれないの?」

「……ああ」

 結衣は、ポロポロ涙を流した。

 ようやく顔を上げた康介は、結衣の肩を掴んで顔を見つめた。

「結衣……」

 結衣はゆっくり目を閉じた。

 そして、康介も目を閉じて、唇を重ねた。


 唇を離して、お互いにゆっくり瞳を開いて、見つめあった。

 康介は結衣の肩から手を下ろした。

「結衣……」

「なに?」

「会えなくなっても、俺はオマエのことが好きなのことは変わりない」

「うん……」

「だから、少しの間待って貰えるか?」

「うん……」

「ありがと」

「うん……」

 結衣は、一度顔を伏せたが、再び顔を上げると、康介を見つめて口を開いた。

「康介くん……。またキス、しよ?」

 康介は驚いた顔になったが、すぐに微笑んだ顔になった。

「ああ」

 目を閉じた結衣の肩を掴んで、康介も目を閉じて唇を重ねた――。



        ☆



 昼食を食べたあと、康介と千秋は会長の元に来ていた。

 二人は今、いつも千秋が通されている部屋に会長といた。

「よく来たの。康介」

「ああ……」

 どこか見覚えがあるな、と思いながら答えた。

「ご苦労じゃったな。千秋よ」

 会長は、千秋に笑顔を向けて言った。

「命令だったからよ」

 何か言いたげな顔をしていた会長だったが、『まぁよいわ』と言って、康介に再び顔を向けた。

「千秋から話しは聞いておるか?」

「ああ」

「そうかそうか」

 会長がにこり、と微笑んで続けた。

「彼女から言われた通り、お前さんはワシの部下になるわけじゃが……、色々と準備があると思うからの、そうじゃな」

 会長は考える素振りを見せてから、口を開いた。

「今週の土曜日からと言うことにするかの」

「金曜にまた来ればいいのか?」

 康介が首を傾げながら問いかけた。

「来るのは、土曜日で大丈夫じゃぞ」

「そうか……」

 康介はチラッと、千秋の顔を見た。

「もう帰っていいよな?」

「よいぞ」

 頭を下げて、康介は千秋と共に部屋を出た。

「……大丈夫か?」

 康介が振り返らず問いかけた。

「ええ、大丈夫よ」

 千秋は、一度顔を伏せて続けた。

「康介、ありがとう」

「すぐに帰りたかっただけさ。お礼を言われるようなことはしてない」

 康介は頬を掻きながらこたえた。

「そう言うことにしといてあげるわ」

 ふふふ、と笑いながら千秋は言った。



        ☆



 会長の元から帰ってきた康介は、何故か美咲と二人っきりで自室にいた。

 康介はベッドに、美咲は椅子に座っている。

「話しがあるって言ってたけど、なんだ?」

 康介は首を傾げて問いかけた。

「えっと……その…………」

 美咲はいろんなところに視線を向けている。

「わたし、来年中学生になるので、……少しは男の人に馴れた方がいいかなって思って……」

 康介は手をポン、と打った。

「そう言うことか。で、何をすればいいんだ?」

 美咲はモジモジしながら下を向いて答えた。

「さ、最初はその……くっついて、座るところ……から」

「ああ、いいぞ」

 美咲が、「失礼します」と言って康介の隣に座った。

(結衣とは、違うな……)

 康介はゴクリと、唾を飲んだ。

[ロリコン]

(ちげぇよ!!)

 ジト目で、見下ろしているダークを睨んで心の中で怒鳴った。

「田中さん……」

「ん?なんだ?」

 康介は平静を装い、聞き返した。

「肩をくっつけてもいいですか」

「いいけど、無理するなよ」

「はい」

 美咲は答えるとピタッと、肩をくっつけた。

(小さい肩だな……)

 康介は落ち着かない様子であちこちに視線を向けている。

「田中さん……」

「なんだ?」

「その、頭を撫でてみてください」

 えっ、と声をあげて康介は、美咲のことを見た。

「ホントにいいのか?」

「その……は、はうぅ……」

 美咲は少し頬を赤くしている。

「ホントにいいんだな?」

 康介は確認するように問いかけた。

 それに美咲は頷くだけだった。

「それじゃあ、撫でるぞ」

 再び頷いた。

 康介はそーっと美咲の頭に手を置くと、彼女の様子を確かめながらゆっくり撫でた。

 最初は身体を強張らせていたが、少しすると安心したような顔になっていた。

 少しして、また美咲が口を開いた。

「田中さん、最後にいいですか?」

「ああ」

 美咲が顔を上げた。

「キスしてください」

「なっ!?……」

「ダメですか?」

 美咲が首を傾げて問いかけた。

「ああ……俺は結衣と付き合ってるし、ファーストキスは好きなやつのためにとっといた方がいいぞ」

「そうですよね……。わかりました」

 美咲は一瞬しょんぼりした顔をしたが、すぐにもとの表情に戻った。

「田中さん、ありがとうございました。またお願いできますか?」

「ああ、いいぞ」

「ありがとうございます」

 美咲は、ペコリと、頭を下げてから部屋を出ていった。

[不憫だな]

「なにがだ?」

[さあな]

 康介は、疑問符を浮かべながら首を傾げていた。



        ☆



 夕食のときに千秋から康介が今週の土曜日に向日葵園を出ることが伝えられた。もちろん、会長のことや能力のことは伏せてだが。


夕食後の食堂で、康介、結衣、美咲、明日香、由梨の5人でテーブルにについていた。

 康介の隣に結衣が座り、反対側に康介から見て右から美咲、明日香、由梨と座っている。

 もちろんダークも座っている。

「あと6日しかいられないんだね……」

 結衣が寂しげな顔をして呟いた。

「やっと話せるようになったのに……」

 美咲も寂しげな表情をしている。

「しんみりするには早くないか?」

 康介は呆れた顔で呟いた。

 美咲と結衣は、彼の言葉を聞くと俯いてしまった。

「田中さん、無神経だと思います」

 明日香が康介の目を真っ直ぐ見て言った。

「どういう、ことだよ」

 戸惑いながら聞き返した。

「それはですね……。美咲も結衣ちゃんも田中さんとずっと一緒に居たいのに『しんみりするには早くないか?』なんて酷いと思います」

 その言葉を聞いた結衣は、カァーと、顔が赤くなった。

 一方美咲は、『わ、わたし、そんなこと言ってないよ』と言ってあたふたしている。

(結衣はわかるけど……どうして美咲まで?)

 康介は結衣と美咲の顔を交互に見ていた。

「田中さん、二人の気持ち分かりましたか?」

 明日香が乗り出して言った。

「あ、ああ、わかったよ」

 すると、康介は結衣と美咲の顔を一度ずつ見て、頭を下げて謝った。

「その……悪かった。ごめん」

「べ、別にいいよ」

 結衣が手を振りながら言うと、美咲が、うんうんと、首を縦に振った。

「それじゃあ、お邪魔ものは退散しますね」

 と言うと、明日香は由梨と一緒に食堂を出ていった。

 取り残された3人は口を開かず座っているだけだった。

 沈黙が流れる中、最初に口を開いたのは、康介だった。

「俺らも部屋に戻らないか?」

「そ、そうだね」

「うん……」

 三人は頷き会うと、一緒に食堂を出ていった。



        ☆



 康介はベッドに寝っ転がっていた。

「なぁ、ダーク」

[なんだ?]

 すると、ダークが康介の傍らに現れた。

 康介は身体を起こして口を開いた。

「美咲ってどうして俺のところに来るんだろうな」

[……はぁ]

「なんでため息つくんだよ」

[いや、なんでもない]

 ダークは呆れたようにそっぽを向いた。

「なんでもねぇことないだろ」

[…………鈍感だなって思ってよ]

 康介が首を傾げて口を開く。

「鈍感?俺が?」

[そうそう]

「そこまで鈍感じゃないって思ってたんだけどな」

[もっと周りに目を向けろ]

「あ、ああ……」

 ダークの言いたいことが全く理解できない康介だった。

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