ド近眼な彼女の餌付け
大学の授業が終わり、参考書やノートを片付けていると友人が待っていた。
「ぁ、待たせてごめん。次三階だよね」
「それは会ってるけど、どうしてそんなにカバンが膨れてるの?」
見せたほうが早いと判断し、ロールケーキ全種類が入っているカバンを開けて友人に見せる。友人が半目になった。ため息までついてる。これは誤解が生まれたかもしれない。いや、事情があってね?
「やけ食いもほどほどにしなよ」
ちがーう!!
そんな友人の誤解を思い出して、怒りながら、キャンパスの門を出る。すると、突然目の前にあの金ぴか王子がいた。
「サカイ、会いたかったぞ!」
近眼でどんな顔してるのかよく分からないけれど、雰囲気で笑顔なのだろう。そんな彼の期待に応えるべく、鞄から取り出した。
「ロールケーキ全種類買ってきた。好きなだけ食べて」
王子は嬉しそうに手にとった。しかし、一向に食べない。
「どうしたの?」
「食べ方が分からぬ」
そういや包装されてたな。私はどれでも食べれるように、袋を開けていく。そして沈黙が続いた。
王子を見ると、黙々と食べている。よく見えないが、華やいだ空気だ。……どんな顔をして、食べているんだろう。私は気になって、王子に近づく。
「ち、近くないか?」
「これくらい寄らないと、目が悪いから見えなくて」
やっと、目を細めなくても見える距離になる。その距離、およそ30㎝。私の視線に気まずそうにしていたが、ロールケーキを口に含むと、とろけた笑みを浮かべる。そして私の視線に気付き、視線を床に向けて頬を染めた。
なんて、真っ白な表情をするのだろう。この世は汚いと思っていたけど、彼の表情一つ一つは、ちゃんと見たいと思った。
そんな凝視していた私だから、発見してしまったものがある。私は急いでポケットから、とあるものを取り出した。それを王子の頬を掴み、唇に塗る。乾燥で、彼の唇が切れていたからだ。
「これで、心置きなく食べれ――」
何故か急に話せなくなった。何故か薬用リップの桃の香りが間近にする。……何故か、王子がやたら近い。
この人は目をつぶっていても、綺麗だな。そう現実逃避していると、至近距離で王子と目が合った。
「容易に男に近づくなよ」
そう言って笑う王子に男を感じてしまい、私は赤面する。
彼の表情を目に焼きつけたい。初めて、眼鏡がほしくなった。
次で終わり予定。