表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
同接一万でダンジョンが確定する世界で、炎上した元トップ配信者が観測を操る  作者: 海狼ゆうき
炎上配信者の再始動

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/23

隣の観測者


 それは、学校だった。

 零が配信を始めてからも、表向きは普通の高校生を続けている。


 昼休み。

 教室はざわついていた。


「見た? あれ」

「昨日のやつ?」


 視線が刺さる。

 零は無視する。


 だが一つだけ、視線の質が違った。


 窓際。

 結城 七瀬。

 小学校からの幼なじみ。

 唯一、零が配信をしていることを知っている人間。


 七瀬はスマホを伏せたまま、零を見る。


「……本当に死んだの?」


 小さな声。

 零は答えない。


「零」


 呼び捨て。

 昔から変わらない。


「あなた、止められたんじゃないの」


 責めていない。

 確認だ。


 零は視線を逸らす。


「閉鎖空間だった」


「言い訳だね」


 胸がわずかに痛む。


 七瀬は続ける。


「あなたが始めたんでしょ」


 否定できない。


 零は小さく言う。


「制御してる」


「足りてない」


 即答。


 その瞬間。

 教室の後方で声が上がる。


「なあ」


 男子生徒が立ち上がる。


「今やってみね?」


 ざわつき。

 零の鼓動が早まる。


「単語決めてさ」


 軽いノリ。

 最悪のノリ。


 七瀬が眉をひそめる。


「やめなよ」


「何で?」


 笑い声。


「本物かどうか見たいじゃん」


 スマホが一斉に上がる。

 配信ではない。

 録画。

 だが関係ない。


 揃えば、形になる。


 零は立ち上がる。


「やるな」


 低い声。


「お前に関係ないだろ」


 空気が変わる。

 挑発。


「単語は“立つ”でいいじゃん」


 誰かが笑う。


《立つ》 《立つ》


 冗談半分で打ち始める。

 クラス内グループチャット。


 二十数人。

 少ない。

 だが閉じている。

 集中する。


 零の視界が狭くなる。


「やめろ」


 七瀬が立ち上がる。


「ほんとに危ないから」


「何が?」


 男子が笑う。


「零の信者?」


 揃う。


《立つ》 《立つ》


 空気が張り詰める。

 教室の椅子が、微かに揺れる。


 零の心臓が跳ねる。


「止めろ!!」


 叫ぶ。


 だが。


 七瀬の体が、ゆっくりと持ち上がる。

 椅子から数センチ。


 教室が凍る。


「……え」


 七瀬の目が見開く。

 浮いている。


 零の喉が凍る。


《本物》 《やば》


 “立つ”は曖昧だ。

 立つ=立ち上がる。

 重力に逆らう。

 定義が拡張する。


 七瀬の足が床から離れる。


「零」


 視線がぶつかる。

 恐怖と、どこか確信。


 零は叫ぶ。


「“止まる”!!」


 自分のスマホを開き、クラスチャットに打ち込む。


《止まる》 《止まる》


 数人が追従する。


 だが混線する。


《立つ》 《立つ》


 二つの単語が衝突する。


 七瀬の体が、不自然に揺れる。

 上へ、下へ。


「やだ」


 七瀬の声が震える。

 天井の蛍光灯が近づく。


 零は机を蹴飛ばして前に出る。


「見るな!!」


 クラスメイトに怒鳴る。


「打つな!!」


 だが恐怖は加速剤だ。

 パニックがコメントを増やす。


《立つ》 《立つ》 《立つ》


 数が一気に偏る。


 七瀬の体が、天井に叩きつけられる。

 鈍い音。

 悲鳴。


 血は出ない。

 だが衝撃は強い。


 そのまま重力が反転したように、床へ落ちる。


 零が受け止める。

 衝撃が腕に走る。


 七瀬の呼吸が荒い。


「……生きてる」


 小さく呟く。


 クラスは静まり返る。

 スマホを持つ手が震えている。


 零は七瀬を抱えたまま、教室を睨む。


「二度とやるな」


 低く。

 怒りではない。

 殺気。


 誰も言葉を返せない。


 保健室へ運ぶ。


 廊下。

 七瀬が零の制服を掴む。


「……あなた、止められたよね」


 弱い声。


 零は答えない。


「本気出せば」


 胸が締めつけられる。


「私、死んでた?」


 零は初めて震える。


「分からない」


 七瀬は目を閉じる。


「ねえ」


 小さな声。


「私も、できるかもしれない」


 零の足が止まる。


「何言ってる」


「さっき、浮いたとき」


 息が浅い。


「怖かったけど……」


 間。


「分かったの」


 嫌な予感。


「揃う感覚」


 零の背中に冷たい汗が流れる。


 共鳴。

 近くで観測した者。

 体験した者。

 中心に近い者。


「零」


 七瀬が目を開ける。

 まっすぐ。


「私、あなたの隣にいる」


 それは宣言だった。


 零は理解する。

 守る対象が、媒介になる。

 最悪の形。


 スマホが震える。

 偏差。


『始まったな。』

『止められるか』

『無理だ。』


 短い返答。


『彼女は、強い。』


 零は七瀬を見る。

 強い。

 だから危険。


『二人目は、あなたの隣だ。』


 零は拳を握る。


 中心が二つになれば――

 揃いは倍加する。

 制御はさらに難しくなる。


 七瀬が小さく笑う。


「怖い顔してる」


 零は目を閉じる。


 守りたい。

 だが。


 この現象は、守るほど増幅する。


 零は悟る。


 物語は、二人称になった。


--------------------------------

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ