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同接一万でダンジョンが確定する世界で、炎上した元トップ配信者が観測を操る  作者: 海狼ゆうき
炎上配信者の再始動

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8/21

落下


 事故は、深夜二時に起きた。

 零の配信が終わって三時間後。

 トレンドはまだ“重い”と“禁止”で埋まっていた。


 だが、地下の流れは止まっていなかった。


 クローズド配信。

 招待制。

 同接三百。


 配信者名:unknown_zero。

 顔出しなし。

 カメラはビルの屋上。

 夜景が広がっている。

 風が強い。


『零は嘘つきだ』


 男の声。

 若い。


『軽いが危険? 違うな』


 コメント欄が速い。


《やるの?》 《本物か?》


『単語は、“飛ぶ”』


 零がその存在を知ったのは、通知からだった。


《やばい配信ある》


 リンクを踏む。

 嫌な予感。


 画面には夜の街。

 フェンスを越えた先。

 十階はある。


 零の血が冷える。


『飛ぶで揃えろ』


《飛ぶ》 《飛ぶ》 《飛ぶ》


 揃い始める。

 数は三百。

 少ない。

 だが集中している。


 零は即座に自分の配信を立ち上げる。


「止まれ」


 同接が一気に増える。


《何があった?》 《例のやつ?》


「“止まる”で揃えろ」


《止まる》 《止まる》


 だが二つの流れが分断されている。

 向こうの配信は閉じている。

 零の声は届かない。


 unknown_zeroの画面で、男が笑う。


『零は重いって言ったな』


 フェンスに立つ。

 夜風にシャツがはためく。


『重力は、信仰だ』


《飛ぶ》 《飛ぶ》


 加速。

 揃いが鋭い。


 男の体が、わずかに浮く。


 零の背筋に電流が走る。


「やめろ……」


 画面越しに呟く。


 unknown_zeroの体が、屋上から一歩出る。

 落ちない。

 宙にいる。


《本物》 《すげえ》


 男は笑う。


『ほらな』


 その瞬間。

 コメント欄に混じる別の流れ。


《落ちろ》 《落ちろ》


 最初は数人。

 だが増える。


《落ちろ》 《落ちろ》


 “飛ぶ”と“落ちろ”が混線する。

 方向が揺らぐ。


 男の表情が変わる。


『待て』


 体が、急に下へ引かれる。


『おい』


《落ちろ》 《落ちろ》


 悪意が揃う。


 零は叫ぶ。


「止まれ!!」


 自分の配信で。


《止まる》 《止まる》


 だが分断。

 届かない。


 unknown_zeroの体が、急降下する。


 一瞬。

 画面が回転。

 街灯が流れる。


 鈍い音。


 映像が横倒しになる。

 夜空だけが映る。


 コメント欄が凍る。


《え》 《嘘だろ》


 無音。


 数秒後、悲鳴。

 誰かが駆け寄る足音。


 画面に赤が広がる。


 配信が切れる。


 零の部屋は静まり返る。


 自分の配信。

 同接六万。

 誰もコメントしない。


 数秒の空白。


 やがて流れる。


《今の本物?》 《死んだ?》


 零は喉が動かない。


 DM。

 偏差。


『即死。』


 たった二文字。


 零の視界が歪む。


『映像は拡散する。』

『止められるか』

『無理だ。』


 トレンドが一気に書き換わる。


飛ぶ


落ちろ


観測殺人


 観測殺人。

 誰かが作った単語。


 零はそれを見つめる。


 自分が可視化した世界。

 揃えれば形になる。

 悪意も。

 殺意も。

 形になる。


 コメント欄に流れる。


《俺らが殺した?》 《違うだろ》 《でも揃った》


 零はカメラを見つめる。


 初めて、視聴者を怖いと思う。

 数万人の無責任な指先。

 揃うだけで、死ぬ。


 零はゆっくり言う。


「……これは、ゲームじゃない」


 声が掠れる。


「一人死んだ」


 コメントが止まる。


「揃えたら、殺せる」


 沈黙。


「俺も、お前らも」


 零の胸が痛む。


「責任は、分散しない」


 強く言う。


「揃った時点で、全員だ」


 炎上する。


《脅すな》 《責任転嫁?》


 零は続ける。


「だから、今から」


 間。


「単語を制限する」


 コメントが荒れる。


「俺の配信で禁止する単語を出す」


《独裁?》


「そうだ」


 初めての断定。


「独裁にする」


 部屋の空気が重くなる。


 零は理解する。

 中心でい続けなければ、もっと死ぬ。


 偏差からDM。


『覚悟は決まったか。』


 零は短く返す。


『ああ』


『なら、次だ。』


『何だ』


 既読。


『三人目が出る。』


 零の心臓が跳ねる。


『今度は、あなたの近くで。』


 背筋が凍る。


 画面の向こう。

 視聴者六万。

 街のどこか。

 まだ知らない共鳴点。


 零は悟る。


 これはもう事故ではない。

 現象は、進化した。


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