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同接一万でダンジョンが確定する世界で、炎上した元トップ配信者が観測を操る  作者: 海狼ゆうき
炎上配信者の再始動

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6/24

ルール


 告知は、配信開始の一時間前に出した。

『本日22:00

 新ルール導入』

 それだけ。


 説明はしない。

 余白は、憶測を呼ぶ。

 案の定、SNSは騒いだ。


《統制する気?》 《何様》 《でも気になる》


 零は画面を閉じる。

 部屋は静かだ。

 母からの連絡はない。

 テレビもつけていない。


 今日は、誰も巻き込まない。

 巻き込ませない。


 22:00。

 赤い点が灯る。


「始める」


 低く。

 同接は開始三十秒で五万を超える。


《来た》 《ルールって何》


 零はカメラを真正面に置く。

 目線を逸らさない。


「今日から、揃える単語は俺が指定する」


 ざわめき。


《は?》 《自由じゃないの?》


「指定外の単語で揃えた場合、配信は即終了」


 静かだが、強い断定。


《終わらないだろ》 《どうやって判断》


「判断は俺」


 間。


「理由は説明しない」


 コメント欄が荒れかける。

 だが同接は減らない。

 むしろ増える。


 ルールは摩擦を生む。

 摩擦は熱を生む。


「最初の単語は――」


 零は一拍置く。


「静か」


 数秒の沈黙。


《静か》 《静か》 《静か》


 揃い始める。

 部屋の空気が変わる。

 外の車の音が遠のく。

 冷蔵庫の低い唸りが消える。

 音が、薄くなる。


《おい》 《マジで静かになった》


 零は動かない。


「続けろ」


《静か》 《静寂》 《静か》


 単語が揃うほど、空気が圧縮される。

 耳鳴りが消える。

 自分の鼓動だけがやけに大きい。


 零はゆっくり息を吸う。

 確かに、静かだ。

 外界が遠い。

 観測が、空間を塗り替える。


 零は次を出す。


「明るい」


《明るい》 《明るい》


 蛍光灯がわずかに強まる。

 白が濃くなる。

 影が薄くなる。


《うわ》 《光った》


 零は頷く。


「ここまでは、制御可能」


 低く言う。

 コメント欄が熱を帯びる。


《次は?》 《もっとやばいのやれ》


 零は視線を落とさない。


「“安全”は禁止」


 間。


《何で》 《一番使うだろ》


「重すぎる」


 短く言う。


 数秒、コメントが止まる。

 “重さ”。

 視聴者も、何となく理解している。


 母の件。

 崩落。

 逆流。

 安全は強すぎる。


「次」


 零は言う。


「広い」


《広い》 《広い》 《広い》


 部屋が、広がる。

 錯覚。

 壁までの距離が伸びる。

 天井が高くなる。


《え》 《奥行き伸びた》


 零の声が、少しだけ反響する。

 空間が拡張する。


 同接は七万を超える。

 コメントが早い。

 だが揃っている。

 秩序の中の熱。


 そのとき。


《寒い》


 ひとつ。

 流れる。


 零の目が止まる。

 指定外。

 だが単発。

 まだ揃っていない。


「指定外は無効」


 静かに言う。


《広い》 《広い》


 揃いが戻る。

 空間は安定。


 だがまた。


《寒い》 《寒い》


 増える。


 零の背中に、冷たい気配。

 同時にDMが震える。


『アンチが動いた。』


 偏差。


『ルール破壊を狙っている。』


 零はコメント欄を見る。


《寒い》 《寒い》 《寒い》


 数が増える。

 方向が生まれる。

 冷気が足元を這う。


「指定外だ」


 強く言う。


「広いで揃えろ」


《寒い》 《寒い》


 拮抗。

 部屋が歪む。

 拡張と収縮。

 暖と冷。

 ぶつかる。


 零の呼吸が荒くなる。


 ここで切れば安全。

 だが――


「静か」


 突然、零が言う。


《静か》 《静か》


 一瞬、流れが変わる。

 音が落ちる。

 “寒い”の流れが鈍る。


「明るい」


《明るい》 《明るい》


 光が強まる。

 冷気が後退する。


 零は続ける。


「広い」


《広い》 《広い》


 三単語を循環。

 リズムを作る。

 観測の流れを制御する。


 “寒い”は埋もれる。

 数はある。

 だが方向が弱い。


 零は低く言う。


「ルールを守れ」


 断定。


《守る》 《広い》 《静か》


 揃う。

 空間は安定する。

 冷気が消える。


 零はゆっくり息を吐く。


 同接八万。

 熱狂。


《今のやば》 《寒い消えた》


 零はカメラを見る。


「分かっただろ」


 静かに。


「揃いは衝突する」

「だから制御がいる」


 コメント欄が一瞬、静まる。


 そのとき。

 画面の端に、新しいアカウント名。


 《偏差》


《寒い》


 一言。


 同時に、部屋の温度が落ちる。

 はっきりと。

 零の息が白くなる。


 コメントが爆発する。


《え》 《何で》 《指定外だろ》


 零の心臓が跳ねる。


 偏差は、ルールを破っていない。

 指定外単語で“揃えていない”。

 一人だ。


 だが――重い。

 方向が鋭い。


 零は低く言う。


「静か」


《静か》 《静か》


 揃う。

 冷気は残る。

 消えない。


 偏差の“寒い”が、刺さっている。


 零は初めて理解する。


 数だけではない。

 重さ。

 関係性。

 意図。


 偏差は、観測を知っている。


 零はカメラに近づく。


「次の単語」


 間。


「均衡」


 一瞬、コメントが止まる。


《均衡》 《均衡》


 広がりは遅い。

 難しい単語。

 だが揃い始める。


 冷気と光が拮抗する。

 空間が安定点を探す。


 偏差の《寒い》は、流れに飲まれる。

 温度が戻る。


 零は静かに言う。


「ルールは破れない」


 視線は画面の向こう。


「破れるのは、秩序だけだ」


 同接は九万を超える。

 熱狂は制御下にある。


 だが零は知っている。

 今の一撃は、テストだ。


 偏差は示した。

 一人でも、揃いを刺せる。


 配信終了。

 赤い点が消える。


 部屋は元の広さに戻る。


 零は椅子に座り込む。


 DMが届く。


『合格。』


 短い。


『あなたは制御できる。』


 零は返信しない。

 画面を見つめる。


 コメントの余韻。

 揃えたい衝動。

 ルールの中の快感。


 制度は作られた。

 だが制度は、必ず挑戦される。


 そして零は気づく。

 自分もまた、揃える側の快感に触れ始めていることに。


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