その数字は、滅びのカウントダウン
「報告いたします! この『ヤマトの追跡呪印』に記された十二桁の数字……。これを我が軍の極秘暗号表に当てはめたところ、戦慄の事実が浮上しました!」
静まり返った食堂に、カイルの悲痛な叫びが響き渡る。彼は、震える手で一枚の羊皮紙をバンッ! とテーブルに叩きつけた。
「この数字……これは、我が魔王領を幾重にも囲む十二の絶対結界の座標、その**『崩壊する順番』**と完璧に一致するのです!」
(……はぁぁぁぁぁ!? ただの、ただのクロネコヤマトの追跡番号が!?)
私の頭は真っ白になった。
現代日本では、荷物が今どこにあるかを確認するための便利な数字。それがこの世界では、国を滅ぼすための「攻略順序」として認識されている。
「さらに、末尾にある『18時以降』という不気味な記述……。これは来たるべき『終焉の刻』を示しています。18時を過ぎれば、我らは滅びの運命から逃れられないという、神からの無慈悲な宣告に違いありません!」
「……おのれ、聖女どもめ。これほど呪わしい禁忌の魔導書を、あえてこの無垢な小娘に持たせて送り込んだというのか。魔王軍を内部から絶望させるために……!」
四天王の一人、バルカス様が岩のような拳を握りしめ、テーブルがみしりと悲鳴を上げる。その瞳には、かつてないほどの怒りと、隠しきれない動揺が宿っていた。
「ち、違います! それはただの再配達の希望時間で、神の宣告なんてそんな大層なものじゃ……!」
私が必死に否定しようとした、その時だった。
食堂の中央に据えられた、未来を映し出すはずの「真実の水晶玉」が、どす黒い光を放ちながら狂ったように震え出した。
キィィィィィィィィン!!
鼓膜を突き刺すような高周波。次の瞬間、地響きのような重低音の「声」が、空間そのものから響き渡った。
『——告げる。天の門が開いた。光の御子が、今まさに覚醒した——』
「……来たか。ヤマトの予言通り、18時を迎える前に『死』が届きおったか」
ゼノス様が、静かに立ち上がる。その横顔には、死を受け入れたかのような、あまりにも美しく、そして切ない絶望が湛えられていた。
(おかしい。絶対におかしいわ!)
私の脳内のゲーム知識が、激しく警鐘を鳴らし続ける。
ゲーム『ルナティック・サーガ』の正規シナリオなら、勇者が現れるのは今から15年後のはず。なのに、なぜ今この瞬間に覚醒のアナウンスが流れるの!?
混乱する私の意識に、ある「没設定」がフラッシュバックした。
——『もしプレイヤーが、シナリオを大幅にショートカットしようとした場合、世界は強制的に身近な強者を勇者に仕立て上げ、魔王を殺しにかかる』。
「まさか……」
嫌な予感が背筋を駆け抜ける。
私が不在票という「異物」を持ち込み、ゼノス様の死の運命を中途半端に言い当ててしまったせいで、世界という名のシステムが、無理やり帳尻を合わせようとしている!?
身近な強者。それは、ゼノス様を殺せるほどの実力を持った、彼の最も近くにいる存在。
「報告! 城門前に……黄金のオーラを纏った四天王のバルカス様が突進してきます! 結界が、一瞬で溶かされました!!」
「……何だと?」
ゼノス様が絶句する。
つい先ほどまで、私のハンバーグを笑顔で頬張っていたはずのバルカス様が、いつの間にか席を消していた。
窓の外を見れば、そこには夜の帳を切り裂くような、禍々しいまでの黄金の光。
世界のバグが、魔王の右腕にして最大の忠臣であるバルカス様を、「勇者」という名の「殺戮兵器」に無理やり上書きしてしまったのだ。
「ゼノス様、待って! 戦っちゃダメです! あれはバルカス様じゃない! それは世界の修復機能によるバグなんです!」
私は、魔力を帯びて赤白く燃え尽きようとしている「不在票」を、指が白くなるほど強く握りしめた。
この紙切れが全ての元凶なら、この紙切れで全てをひっくり返してやる。
「カイル、座標を計算して! ゼノス様を死なせないための、唯一の『再配達先』を見つけるのよ!」
私はドレスの裾を剥ぎ取るようにして走り出した。
推しの死なんて認めない。こんなクソみたいな「世界の理」なんて、私が今すぐ返品してやる!!




