自転車と通行人A
{小説家になろうラジオ大賞}の1,000字以内の短編に応募するために書いた作品です。
怪我の描写があります。苦手な方はご注意ください。
「一昨日、大丈夫だったか?」
「え、何の話よ?」
まさか、一昨日、自転車で転けた話じゃないだろうな、とムッとする。
コイツとすれ違った後、段差にタイヤを取られて盛大に転けた。
制服の下にジャージを履いていたのだが、膝小僧が見事に穴あきに。
でも、そのおかげで怪我は少しマシだったと思う。
自分のせいだが、そのまま走り去ったので気がついていないと思った。
――いや、思いたかった。
「なんか、転んでるの大丈夫かなと思ったから」
見てたなら、助けに戻りませんかねぇ?
百年の恋も冷めたわ。
ちょっといいかなって思ってただけだから。芽吹く前に枯れた感じ。
少しえぐれてしまったので、病院に行って薬をもらった。
今日も帰りに寄らなきゃいけない。
「なあ、大丈夫だったかって訊いてんの」
なんだか、答えたくないんですけど。
「へーき」
平気、大丈夫、放っといて。あんたには関係ない。
やさぐれて、心の中でそんな言葉をつぶやきまくる。
意味もなくシャーペンをカシャカシャ押して、芯を出す。
昨日は打ち付けた痛みで、歩けなくて休んだんだよ。
大丈夫なわけ、あるか!
化膿止めを処方される程度には、大事だわ。
大体、「大丈夫じゃない」って答えたら、なんかしてくれんの?
口だけだったら、黙ってろ。
小説のヒーローみたいに、カッコよく助けてくれる男子、どこかにいませんかね?
「なんかさ、最近吉田がよそよそしい……」
「あ~、自転車で転けたのを助けなかった後からだろ?」
親友が、興味なさそうな声音で応えた。
「そー。恥ずかしかったのかな。それまでは、ちょっといい雰囲気だったと思うんだけど」
「なんで、助けに戻らなかったん?」
「え、迷って……る内に、結構距離進んじゃって」
「自転車だからな」
「照れくさくなって。今さらかなぁとか」
「で、次の日に休んだから慌てた、と」
ちょっと咎めるような空気を感じた。
「そんなにひどい怪我だと思わなかったし。遠目で、立ち上がったのは確認したし」
「そこで、お前は通行人Aに成り下がったの、わかる?」
「あ……!」
「たとえば、隣のクラスの岡崎っているじゃん。
顔でいったらお前の方がいいけど、奴の方がモテる」
「あ、そうなの?」
別に、モテるとかモテないとか、女子たちの気まぐれじゃん。気にすることなんて……。
「あいつだったら、絶対に戻って保健室に連れてったね」
「あ~、想像できるな」
俺も助けてもらったことある。あれは、いい男だ。
「だから、モテる」
あぁ……!




