第二話 初めての口付け
※直接的な表現は無いにしろ、胸糞な要素があります。また、口付けする描写があります苦手な方は併せてお気をつけくださいませ。
「……我、汝を安息の夢見へ誘いし者である。
その使命を全うせんとす、汝の夢見へ干渉する」
潜在意識と意識を繋ぎ合わせ、幾つか存在する道筋の中から夢のルートを通るとその領域へと辿り着く。
この術の使用中は、俺自身も寝ている状態になるのが最大の欠点。
つまり、起きているのは互いの意識、夢の中のみとなるのだ。
無事に、夢の領域に到着。
俺は早速、何処かに居るだろう緋奈菊を探すことにした。
彼女の夢の中は、俺もよく知っている風景や場所が具現化されていた。
近所の公園やコンビニ、スーパー。
緋奈菊の実家や、俺の実家の屋敷。
そして懐かしい、学校の校舎に別棟や体育館にグラウンド。
流れるように場所が変化する中で、どうやら緋奈菊の夢は学校周辺が印象深く残っているようだった。
もしかすると、周辺に緋奈菊がいるかもしれない。
夢は、記憶や現実で強く印象に残った事などが反映されたりする。
学校周辺から場所が切り替わらない事を思うに、それだけ本人が無識に留とどまろうとしている可能性が高い。
つまり、本人である緋夏菊がこの周辺で夢の中の物語を歩んでいる状態なのだ。
「緋奈菊!緋奈菊、どこだ!晴明が助けに来たぞ!」
悪夢の恐ろしさで既に、脳に恐怖が植え付けられている状態。
だから、自分の存在をしっかり告げる事で敵ではないことをハッキリとさせる。
お前の味方が来たと認知させることは、安眠のきっかけにもなるのだから。
けれども、緋奈菊の返事はないーー。
辺りに居る事は間違い無いと思う。
意識化している今の状態だと、殆ほとんどの術を使えない。
あとは、地道に探す以外ないだろう。
ひたすら辺りを探し回った。
屋内も、影が指した細道も。お気に入りだった見晴らしの良い傾斜の階段道も。
「……緋奈菊!」
どのくらい走っただろうか。
ようやく見慣れた後ろ姿を見つけ出す。
しかし、こちらには気づいていない。
「………だれだ、あの男」
緋奈菊は、だいぶ年の離れた男に肩を抱きしめられながら繁華街へ向かっているようだった。
嫌な予感が、胸をざわつかせる。
……落ち着け、これは夢だ。
現実で起きた事だけが、夢に反映されるとは限らない。
大半は、訳のわからない辻褄なんて合わない意味不明な内容が多いのだ。
でも、仮に悪夢の原因があの男なら?
嫌な予感は、的中したーー。
男は、緋奈菊を離さぬまま繁華街にある路地裏を通った。
その先には、レジャーホテルが並ぶ。
俺は、走ってとにかく追いかけた。
杞憂であって欲しいと、これ程望むことになるとは思わなかった。
「いや…!離して!!誰か……、誰か助けて!」
悲痛な助けを叫ぶ緋奈菊の声に、心臓がおかしくなりそうだ。
走って、男を緋奈菊から勢いよく引き離して殴る。
体勢を崩した目前の人のフリした化け物を、ただひたすらに殴った。
怒りが収まらない。
「緋奈菊に触るな。触るな!!!!!!
お前か、原因は。お前は、毎日!!!
………外道!!!クソが!!」
拳には黒い液体がこべりついて、跡形もなく散り散りになっていた。
殴った衝撃で、顔や身体にも液体が付着していて気持ち悪い。
なんとか、手で拭って緋奈菊を見た。
すっかり怯えきった様子で、その場にへたり込んでいる。
理性が戻り、本来の使命を思い出す。
怒りに任せて殴りかかっていて忘れかけていたが、恐らくこれが悪夢の原因だろう。
「………緋奈菊。俺だ、晴明だ。わかるか?」
危うく、ホテルへ連れ込まれそうになっていたのだ。
不安で、どれほどの恐怖を感じたことか。
とにかく緋奈菊を、安心させてやりたかった。
涙を滲ませながら、彼女はぶんぶんと頭を縦に振った。
「俺は、間に合った………んだよな。ごめんな、緋奈菊。俺がもっと早く気づいてやれたら………こんな、怖い思いさせずに済んだのに」
目の前で恐怖に縮こまった大好きな人を、抱きしめずには要られなかった。
強く強く、緋奈菊を抱きしめた。
呑気に再会を喜んだ自分を、責める。
この二、三ヶ月の間、きっと何度も何度も……。
そう思うと、やるせなくて不甲斐なくて。
自分が、許せない。
なのに、緋奈菊はそんな俺の背中に腕を回してしがみついた。
まるで縋るようにーー。
胸板に、額を押し付けて子供みたいに泣きじゃくる。
「………………!」
なんとも言えない恍惚感が、俺を襲ったーー。
心が底から満たされるような感覚と、募った真っ黒な執着心が俺をおかしくする。
その瞬間、何かがプツッと切れたーー。
「……ンッ、んんんん」
気づけば、緋奈菊の唇を奪っていた。
上手く息が継げなくて、鼻にかかったような声をお前は上げる。
両手首を壁に押さえつけ、舌で嬲るように口内を巡回。
苦しげに俺を見つめるその表情は、嬌艶で奥底にある俺の独占欲を見事に煽る。
頭の片隅でよくないと理解できるのに、夢の中なら覚えていないだろうと高を括ってしまう己の欲深さに逆らえない。
優しい彼女に甘えてしまう。
でも、緋奈菊は一向に拒絶してこない。
それを良いことに、唇をひたすらに弄った。
離れ難くも、最後の最後まで緋奈菊の舌先を味わうようにわざと音を立てながら吸い上げれば、緋奈菊を求めること以外考えられなくなる。
「緋奈菊、俺お前のことが……」
好きだ。
そう言おうとした瞬間、視界がブラックアウト。
恐らくは、緋奈菊が目覚めようとしているのだろうと思う。
最悪だ、諦めようとしていたのに。
自制が効かずに逆に幼馴染の一線を超えてしまうなんて。
もしも、緋奈菊が覚えていたらと思うとゾッとする。
どうか頼むから覚えていないで欲しいと、嫌われる覚悟で後を追うように術を解いた。




