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第一話 俺だけがお前にしてやれる事

俺は緋奈菊(ひなぎく)のことが、ずっと大好きだったんだ…。

幼馴染として押し込めてきた恋心は、行く宛もなく心に降り積もっていく。

それは、純粋さを無くしていつしか独占欲と執着の黒い塊に育ってしまった。


自覚はあるさ、生まれてから二十二年間も一緒だったんだからーー。


そりゃだって、ずっと優しくてさ。

動物や、草木すら労わっちゃうくらい繊細なんだ。

家系が特殊で、学校でも浮いてた時、気にせず俺の側に居てくれたのはお前だけだった。


困ってる近所のお婆ちゃんを助けて遅刻するし、繁華街で迷子の子供と親探し。

俺だけじゃなくて、誰にでも優しいんだお前は。


ちょっかいかけすぎて、俺が怒らせた時もさ。

お前は、優しいから消しゴム貸してくれんの。顔そっぽ向いてんのに、照れながら渡してくれるその姿が愛おしかった。


まあ上げればキリがないくらいに、緋奈菊にゾッコンだ。


その優しさも怒りも、羞恥心も全ての感情を俺だけに向けて欲しい。  

俺だけを見ていて欲しい。そう望んでも、それは叶わない。そんなこと、分かりきっている。


しかし、大好きなお前からとある悩みが打ち明けられた。

かなり深刻そうな顔をしていたもんだから、正直知るまではかなり焦った。


だって、仮にお前に彼氏が出来ていたらとか。

実は、不治の病とか。

職場で虐められてるとか。


そういう事だったら、俺絶対に何としてでも

緋奈菊の事を俺に縛り付けて呪ってた。

不死にしてたかもしんないし、仕事辞めさせて無理矢理にでも嫁入りさせてたよ。


お前が、他の男となんて、それは一々考えたくも無い。虫唾が走る。

……なーんてな。こんな事言える訳ないだろう。


まっ、でも嘘偽りないんだ。

本当にこれらを真剣に考えたくらいには、ずっと好きなんだよお前を。

まあ、片想い拗らせてるって言われたらそこまでだけど。


午後15時を時計の針が指す。

待ち合わせしていたカフェの店員に案内されてやってきたのは、可愛い幼馴染だった。 


単刀直入に、緋奈菊は早速悩みを打ち明けるのだった。


晴明(はるあき)、急に呼び出してごめんね。

実は悪夢にうなされて全然寝れてなくて。仕事でも、ミスする事が増えたし。とにかく!原因を突き止めて欲しい!

こんな事頼めるのは晴明だけ!幼馴染の(よしみ)で、お願い!」


「……急用だ、深刻な悩みがーって言うから何かと思えば、本職の方を頼ってくるとは思わないだろ……ったく。焦って損した、イタタタ!わ、わかってるって!そりゃ眠れないのは死活問題だよな、悪かったって」


はぁぁぁぁぁ、俺の幼馴染ほんと可愛い。

仕事終わりだったのか、フェミニンな白いブラウスにブラウンのパンツスタイルだった。

あんまり、ジロジロ見てたらこちらの気持ちに勘づかれそうでカフェオレを飲むフリをしながら目を逸らす。


お願い!…だなんて上目遣いで頼まれたら断れる訳ないだろーが!



久しぶりにようやく会えた。

しかも、緋奈菊から会いたいとの連絡があった時は、口から心臓が出るかと思った。

今日は嬉しさが二倍だ。彼女が悩んでいること以外は…。


だって初めて、自分が呪術を専門的に扱う家系で良かったと心から思えたのだから。


これなら、お前は俺にしか頼れないから。


緋奈菊からの相談は、二、三ヶ月も前から悪夢にうなされて満足に眠れないとの内容だった。

…可哀想に。こういった類の相談はうちは専門内。本当に、よかったよ。


だって、俺以外の奴が弱みに漬け込んで良からぬことを緋奈菊にしてきたら。

身体に触れたりなんてしたら、俺は自分が特別であることを良い事に何をしでかすかわからない。

一番最初の相談相手が俺で、ほんとよかったよ。

何食わぬ顔で、彼女へ笑顔を向けた。


「安心しろ?必ずお前がグッスリ眠れるように、俺が何とかしてやるからさ」


緋奈菊を励ますように、肩をポンポンと優しめに叩く。

頭を撫でたい衝動に駆られるが、流石に幼馴染の間柄変に嫌われることはなるべく避けたかった。

下心があるだなんて、毛頭感じさせたくない。


まあ、だからこそそれ以上に発展する事が無いのだが。



* * *


早速俺は今夜、実家の屋敷に緋奈菊を呼んで空き部屋の一室で彼女を寝かし付けるのだ。


「安心していいぞ。俺以外が、この部屋に入って来ることは無いし。別にお前に変な事しない!断じてな?まあ、お前が求めるなら添い寝くらいしてやるけどー?ってイタイ!冗談だよ!拒否られるとそれはそれで、傷つく!」



「…ど!どういう意味よ!」


「………………………。

わざわざ聞き返すってことは、まさか、俺に添い寝して欲しいーの?いいよ、心細いなら体温感じるくらい、くっつこーぜ。

って!!ジョーダン!照れんなよ!!!俺が恥ずいわ!」


あーーーー、なーんでこんなに無防備なんだ。


わざわざ、聞き返すなよ。

期待していいかも、なんて思いたくなる。柄にもなく俺の体温が上がって、頬が熱かった。幸い、そんなカッコ悪い所は部屋が薄暗いお陰でバレてはないだろう。


部屋に灯る明かりは、原始的だが行灯(あんどん)一つ。

横たわって入眠の準備をする緋奈菊を、俺はさぞ怖い目で見ていることだろうな。

こちらの様子がおかしいと思ったのか、服の袖を握って不安そうにこちらの顔を覗く。


「ん〜?どーしたんだ?

大丈夫だよ!俺がずっと側に居る」


「……うん、ありがと。

でもなんか、晴明………。

んーん、おやすみ」


俺は、笑顔を貼り付けた。緋奈菊の前では、俺のエゴなんか見せたく無い。

綺麗なものを汚すなんてこと、したく無い。


でもどうしようもないくらいに触れたい。

その肌を今すぐに暴いて、内に秘められた緋奈菊の淫蜜な(さが)を知らしめて欲しい。


だめだ、絶対に歯止めが効かなくなる。

それくらい、俺は自分のことをよく理解しているつもりだ。

それに、俺の気持ちとお前の気持ちは違うってことも。


だから、この関係に亀裂が入るくらいなら今のままでいい。でも、俺が一番側に居たい。


矛盾していたーー。


密室に、二人きり。

そんなこと意識してないかのように、安心してスヤスヤと眠る緋奈菊の寝顔をじっと見つめた。


俺だって男なんだよ。人並みの抗えない煩悩だってある。

もちろん緋奈菊の傷つくことは、絶対にしない。


だからせめて、その寝顔をこの目に焼き付けたい。

緋奈菊の寝息が顔にかかる。

触れるつもりはない、けれど俺は顔を近づけていた。

毛穴という毛穴すら脳裏に焼き付けるかのように。



あ〜、俺の肌とは違って、緋奈菊の肌は透き通っていて柔らかそう。

唇とかも、乾燥してなくてぷるぷるだしシャンプーの良い香りがする。

これって、俺に心を許しているからここまで無防備なのか。


「……なぁ、何でだよ。俺はこんなヤキモキしてんのに。

何でお前は、平気そうなんだ」


俺がキスしたら、嫌がる?

それとも、喜んで受け入れてくれる?


こうやって、誰にでも近づくことを許すのか?

お前は、優しいから断れなくて受け入れちゃうんじゃないのか。

雰囲気に流されたりなんかして、簡単に誰にでも。


そんなこと俺が許さない。絶対に許さない。

思わず、意のまま肌に触れそうになって静止した。



そうだ、緋奈菊のことになるとこうやっていつも暴走気味になる。

いつも自分に言い聞かせて、事なきを得てきたが本気でそろそろやばい可能性もある。


俺が気狂いになる前に、嫌でも突き放さないと。

だから、悪夢が解決したら………。


………………今は、本題に移らなければ。

悪夢から緋奈菊を救うこと、それが今一番大事な使命なのだから。

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