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一話:「なんか世界滅亡してる…まあいっか」

 ざく、ざく—――

 地面が見えないほどに積もりに積もった瓦礫の上を歩く。

 不安定な足場に何度もつまずきかける。だが、この瓦礫になんの病気がついているかもわからないため、風魔法で地面につく前に体を起こす。

 こういう時は、あいつらのだれかが体を支えてくれて、しばらく両手を二人につながれてブランコ、なんてしたっけ。

 あの時はやめろ、なんて言ったけど、今となってはあの日常が恋しい。

 いつまで、こんな日常を続ければ良いのだろう。

 そう思いながら、後ろに近づいてきた穢魔獣(あいまじゅう)へ魔方陣を向ける。


 僕、マシュー・グレイは齢十歳世界最年少で大賢者に認められた天才だ。

 この大賢者というものは、数十年に一度、過去一年での功績によって最初数百人が選抜され、その中から試験を受け上位十名のみしかなることのできない、国の頂点に立つ最高実力者である。

 

 世界を包み込んだ核兵器のせいで、もうこの世界に生存している人間は僕みたいな人だけなのに、魔獣の本能か目についた人間を襲うなんて、愚かだな。

 

 現在齢十三歳、もう微動だにしない穢魔獣の上で数時間前までこのレイトニア聖帝国の大賢者としてもてはやされていた僕は思った。


 「寒……」


 ここがレイトニア――いや、()レイトニア聖帝国の比較的北の地だからというのもあるだろうが、核兵器の影響だろうか、核が放たれる前のほうが圧倒的に温度が高かったような気がする。

 

 敵国が核兵器というものを研究しているのは前々から知っていた。だが、実際に使われたのは今回のが最初で最後だ。わからない要素があまりにも多すぎる。故に、あまり迂闊に魔術を使っていざというときに魔力がなくては困る。ただでさえ今はそこら中が穢魔力(あいまりょく)だらけで碌に魔力が補充できないんだから。おかげで自分を温める魔術を使うことができないでいる。


 (みんなは今頃何してるんだろうなぁ)


 あの核兵器は大体の人類の致死量の穢魔力をまき散らした。

 穢魔力に対する耐性は自身の魔力量に依存する。そのため、魔力をあまり持たない一般人のため、穢魔力を発する穢魔獣を退治するのが主な魔術師の仕事だ。


 だが、大賢者のような上位の魔術師は僕のように戦争の前線に立たされることもある。

 他の大賢者たちも、僕と同じタイミングでそれぞれこの広い国の別々の方向へ向かっていった。


 「はぁ」

(これからどうしようか…)


 この環境で生きられる知り合いを、僕は大賢者くらいしか知らない。しかし、その頼みの綱もこの今はただ無駄に広い国にたった十人。しかもいろいろな方向に分散してて、噂などの情報に疎い僕は誰一人の方向も知らない。ほんとに絶望的な状況に思わず頭を抱える。

 「どうしようもないか」

 大丈夫。まだこの核兵器がほんとに世界を包み込んでいるとは限らない(調べた結果ほぼありえない希望だが)それに、大賢者以外にも候補だった人々が生きているかもしれないし(大賢者は魔法の鍛錬に国最高峰の技術をもって集中できるが、それ以外は貴族や専門院生などでも自宅などでの鍛錬や魔術師として出世できるのは少数なので、他教科も頑張らなければならない、故に、候補の人々と大賢者では数年もすれば実力が天と地の差になってしまう)


 うん、きっと大丈夫。希望の裏の現実には見て見ぬふりをして、また人探しの旅を再開させようと一度休めた脚を再び動かす。その途端に、


 「わっ!」

 「おわああぁぁっ!?」


 その数秒後「びゅんっ」という風切り音が耳を掠めた。僕は風切り音に反応する前に驚かされ、思わず大きな声をあげてしまう。

 「わっはっはっは!もう三年目なのに慣れないのはマティぐらいだよ」

 「慣れるほうがおかしいんだよ」

 僕は恥ずかしくてかぶっていたフードを深くかぶった。

  この風切り音とともに登場したこのセンター分け黒髪翠眼で戦闘着でローブを羽織っている男は、大賢者の一人、移動に関する魔術に長けていて、最大マッハ十くらいで動くことができ、最難関科目と呼ばれる転送魔術を自在に使いこなす風音の賢者(シルフィード)のルーク・アルフォードだ。


 「それにしても、ルークはどうしてここに?」

 「そりゃ、愛しのマティくんが心配だからだよ~」


 そう言ってルークは僕の頭をわしゃわしゃと撫でまわしてきた。

 僕と違って噂に聡いルークはみんなの場所を把握しているのだろう。


 「なっ!子ども扱いしないでよ」

 「そんなこと言って~寂しかったんでしょ?」

 「寂しくなんかない! もう十三歳なんだよ! いつまでも小学生扱いしないでよ!」

 「十三歳は子供だよ」

 

 いまだ両手で頭を撫でまわされているが、力量の差で抜け出すことができない。別に魔術を使えば簡単に抜け出すことができるのだが、こんなことに魔術を使うのが馬鹿らしくて、おとなしく撫でまわさされることにした。


 「ほんとに嫌なら魔術使えばいいのにー使わないってことは嫌じゃないってことでしょー?ツンデレめ!」

 「なっ! ツンデレじゃない! 緊急事態なのにこんなことに魔力を消費するのが馬鹿らしいの!」

 「えー、だから防寒魔法すらかけてないの!?俺達大賢者はそうそう魔力切れしないんだから、ていうか、風邪ひく方がダメでしょ~? ね、全能の賢者(ゼウス)さん」

 「…防寒魔法使ったことない」

 「うそでしょ!?」


 事実だ。寒い場所ではいつも勝手に皆が防寒魔法をかけてきたから使ったことがないのである。

 魔法を独学で学んできた僕は、発動方法こそ知ってはいたが、習い、実践を行う学校のように使う機会がなかった。初めて使う魔法を常時発動させるのは慣れた魔法よりも集中力を使うため(まあ僕の場合誤差だけど)、単独行動だと背後の敵に気づかない可能性が高くなる。そのため今回は使わなかった。

 じゃあ二人になった今使うのかって?いいや、だって今だってルークが「しょうがないな~」って言いながら防寒魔法をかけてくれてる。

 

 「…よし、とりあえず、僕たちはみんなを探す旅にでよう」

 「誰~!? マティを甘やかして育てたのは!!!!」


 なにはともあれ、仲間が増えて張り切ってる僕とは裏腹に、ルークは僕になぜか持っていたマフラーを巻き付けながら嘆いていた。


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