30 石原莞爾-2
「これはこれはストレートにおっしゃりますな。」
俺の『戦争宣言』はある意味想定の範囲だったようだが、ここまでストレートに言われるとは流石の石原少将も思わなかったようだ。
やや苦笑いをしながら石原少将は言葉を続ける。
「しかし、戦争に勝ち切るですか・・・。それはいったいどの戦争ですか?」
石原少将はまわりくどい事を省き率直に問いかけてきた。
(まさに本質の質問だな)
『その戦争を戦うつもりなのか』、これは独日の同盟の在り様の本質そのものだ。
これは即ち、どの国といつ矛を交えるつもりなのかという、国家大戦略に関する方向性といえる。
「石原少将。無駄な腹の探り合いに時間をさく気は全くないが、貴殿はどう考えているのかね?押しかけてきた貴殿の為にわざわざこちらは時間を割いているわけだ。忌憚ないところを聞かせてもらいたいものだ」
(答えてもいいが、こちらばかり手の内をさらすのもな)
石原少将のペースにのせられてやってもいいが、俺と石原少将では立場が違い過ぎる。
先に自分の考えを言うのが筋ってもんだろう。
「これは失礼しました。そうですな、貴国と帝国が手を携えるとするならば対ソビエトの戦争でしょうな」
(まったくこの男ときたら・・・)
「それだけですかな?少将」
俺はじっと石原少将の目を見る。
『なんのことですか?』とでも言いたげにしばらく俺の目を無言で見返していた石原少将だが、フッと相好を崩した。
「まったく閣下にはかないませんな、対ソビエトの他にはアジアに権益をもつ欧米諸国との戦争が考えられますな。」
『ほんと頭の中を覗かれているようですな』などと石原少将はむしろ面白そうに笑う。
「こちらがもしや本命ですか?ですが閣下。こちらはかなり茨の道ですぞ?今の貴国や帝国では相手になりますまい」
亜細亜の国々との団結をし、欧米の植民地主義に対抗することを信条としてもつ石原少将としては現状は面白くないものなのだろう。
苦々しさを少し声ににじませつつ石原少将がそう言う。
「だからこそ満州国を建国し、国力の増強につとめるという訳ですかな」
「えぇ、おおむねそんなところです。ですから張学良のクーデターを未然に防がれた点については貴国には感謝しかないです。どうやら張学良は共産党と国民党を抗日でまとめるつもりだったらしいですな。国共合作が成っていれば日中の緊張が危険域になるところでした。大陸での貴国の間接的な支援には深く感謝するところです」
そこまで言うと、石原少将は水を一口ふくみ、言葉を続けた。
「だが、それでも貴国の道連れで欧米と今矛を交えるのは私は賛成できない。もし数年内に欧米と矛を交えるおつもりなら私は貴国と帝国の同盟に断じて反対です」
(ほう・・・そこまで言うか)
流石は天才、石原莞爾。
キチガイと天才は紙一重。
この言葉は彼の為にあるのかもしれない。
どう考えても、わざわざ数万キロ旅して同盟を結びに来た他国の国家元首に言っていい言葉ではない。
それこそ、俺から暗殺者を送り込まれても文句は言えないだろう。
(とはいえ、これは現状を正しく把握しているということでもある)
現状、ライヒと日本とイタリアが手を組んだところで、英米にはまず勝てない。
というか、英米と思っているのは未来を知る俺くらいなもので、石原少将たちこの時代の人間からすると英仏米にはまず勝てないといった認識だろう。
彼の認識は正しい。
この時代の人間としてまさに正鵠を射ている。
さらに言うと、彼はこの時代の人間には珍しい感覚すらも持ち合わせている。
彼が具体的にその思想が世に出るのはもう少し後のはずだが、『次の戦争が最後の戦争』というある意味未来予知じみた『最終戦争論』をすら思いつく男なのだ。
(だが、彼の認識にはズレがある)
彼の認識のズレには二つの原因がある。
一つはこの時代をリアルタイムで生きる人間としてのこの時代への理解の限界。
日本が地力をつけてからなんて、そんなのを時代の流れが待ってはくれないという事。
もう一つはこれから俺が石原少将に伝える情報がある意味、今の世界の前提を覆すという事。
こちらに関しては前者以上に石原少将からしたら『知るかよ!』と言いたくなる事だろう。
(少々予想外となってしまったが、この情報は彼に託すか)
俺は、石原少将の認識のズレを変えることにした。
すいません、なんか中途半端になってしまいました。
これなら前話にくっ付ければ良かったような・・・