6 閣議-3-2
「総統、それは非常に光栄でかつ非常にありがたいことなのですが大丈夫なのでしょうか?」
あっけにとられた様子のシャハトがきいてくる。
「なんだ、シャハト、自信がないのか」
「いえ、そういう訳ではございませんが、ゲーリングが納得するでしょうか?」
ゲーリングに新4か年計画は任せるというのが既定路線になっていただけにかなりの驚きようだ。
来月ごろには一般党員にも公開されるくらいの確度であったのだ、驚くのも無理はない。
「総統、先ほどからどうされたのですか?急激な方針転換ばかりです。いささか混乱いたします」
「なんだクロージク伯爵。不満か?」
「いえ、不満という訳ではございませんが、あまりにも急ではございませんか?」
このクロージク伯爵も爵位が示す通り旧来からのブルジョア階級だ。
いわば、ライヒの中でも保守といった立場だ。
だが、保守ではあるが、というより保守だからかもしれないが産業界に食い込むユダヤ人については複雑な気持ちをもっている。
それだけに、ユダヤ人排斥を一旦中止することについて思うところがありそうだ。
(だが、だからこその使い勝手なんだよな)
シャハトとクロージク伯爵は馬があわない。
経済相と財務相という棲み分け出来ているか微妙な省を各々担当していることもそうだし、ユダヤ人にたいする考え方も二人はあっていない。
例の3人組ほど露骨ではないが、微妙に互いに牽制しあってくれるところが独裁者としては助かるところ。
「伯爵、ユダヤ人問題を解決する方針は何一つ変わっていない。だが物事には優先順位がある。国力を増大させ、然る後にユダヤ人問題を解決する。それが私の方針だ」
そういうと今度はやや不満そうにシャハト。
あちらを立てればこちらがたたず。
(どちらに肩入れする気もないが、いやあえて言うならシャハトか)
経済相としての彼は非常に優秀だ。
市場経済を騙すような形ではあるが第1次4ヵ年計画の成功は間違いなく彼の手柄だ。
「それで総統閣下、第2次4ヵ年計画とは具体的にどのようなものになるのでしょうか?ゲーリングが進めようとしていたものと同じものでしょうか?」
ゲーリングに指示して進めさせようとしていたのは、言わば戦争するための計画経済。
現在ライヒは多くの資源を輸入に頼っている。
自給できるのは石炭くらいというお寒い現状だ。
とても戦争なんてできない。
となると、我々ちょび髭一派は何を考えたのか。
できる限りの資源を経済性度外視で自給しようとしたのだ。
石炭液化(人造石油)・合成ゴムの精製工場を大量建造する。
資源はないが技術は比較的あるのがわがライヒ。
(ドイツの技術は世界イチィぃ!、は、発作が?!)
思わず変な発作が出てしまったが、I・Gファルベンなどの有数の化学メーカーがある。
それ等に依頼してと言ったら響きはいいが、メーカーのある種口車にのせられる形で、経済学の素人集団であるゲーリング一派が場当たり的に実施したのが史実の第2次4ヵ年計画だ。
当然、俺はそんなものにする気はない。
「違うに決まっているだろうシャハト、第2次4カ年計画は根本から作り変える!諸君等には今から言うことを形にしてもらうぞ!一ヶ月だ!一ヶ月以内に具体的に検討して方策を考えよ!」
あいにくエンジン設計も航空機設計もその辺の知識もない俺ではあるが、どんな兵器、兵站システム、戦略が正解かはよく知っている。
さて、内政チートってやつをやってやろうか。